インタビュー
[TGS 2019]「シェンムーIII」鈴木 裕氏インタビュー。アプローチは違えど,シェンムーは変わらない
東京ゲームショウ2019の初日(2019年9月12日),セガブースで「シェンムーIII」(PC / PS4)のステージイベントが行われた。イベントには開発を手がけるクリエイター鈴木 裕氏が出演しており,筆者は「ついに発売するんだ」という思いで胸がいっぱいになった。
そんな鈴木氏に短い時間ではあるがインタビューを行う機会を得たので,その内容をお伝えしたい。
[TGS 2019]「シェンムーIII」ステージイベントをレポート。松風雅也さんが涼の革ジャンで登場し,照井春佳さんが引き出しを熱く語った
東京ゲームショウ2019の初日である本日(2019年9月12日),セガゲームス/アトラスブース内において「シェンムーIII」のステージイベントが開催された。ここでは松風雅也さんと照井春佳さん,鈴木 裕氏が登壇。3つのテーマに沿ったトークショーを行った。
[TGS 2019]「シェンムーIII」プレイレポート。ほんのさわりでも,一人旅におけるワンシーンを切り取ったような体験だった
本日開幕した東京ゲームショウ2019に合わせて,「シェンムーIII」を試遊する機会を得た。今回,筆者に与えられた時間は45分。舞台は物語の冒頭にあたる,白鹿村のごく一部に限られていたが,それでも45分はあまりにも短く,まるで一人旅におけるワンシーンを切り取ったような体験だった。
「シェンムーIII」公式サイト
4Gamer:
よろしくお願いします。先ほど,体験版を遊びましたが,45分という制限時間はなかなか厳しいというか,もどかしかったです……。
鈴木氏:
短かったですか(笑)。今回は体験版ということで,オープニングから少し経ったところから始まるようになっていますが,その前には「II」からの流れが分かるところやチュートリアルがあるので,製品版ではもう少し遊びやすくなると思いますよ。
4Gamer:
発売まで約2か月となりました。今回のようなプロモーション活動で忙しい時期かと思いますが,開発作業のほうはだいぶ落ち着いてきたといったところでしょうか。
鈴木氏:
そうですね。開発作業としては,引き続きブラッシュアップとチューニング,パラメータ調整,バグフィックスといったところが中心です。いろいろな人にプレイしてもらって,問題がないかをチェックしています。
4Gamer:
2015年の発表から数えて,ちょうど4年です。ここまでの歩みを振り返ったとき,最も印象深い出来事を教えてください。
鈴木氏:
激動の4年間という感じです(笑)。ご存じのようにKickstarterというのは,最初にゴールを設定する必要があります。シェンムーIIIはそれが200万ドルだったわけですが,それ以上に伸びていくとバジェットが変動するんですね。その後もパブリッシャの協力を受けてバジェットが増えましたが,そうなるとゲームの内容がアップグレードできるわけです。
通常,バジェットの上限は決まっているので,それに合わせて企画を詰めるわけですが,シェンムーIIIはバジェットが変わるたびに企画を変更し,よりよいものになっていきました。しかし,この工程は大変でしたね。
4Gamer:
企画が変更になれば,スケジュールも体制も調整する必要が生じるわけですからね。
鈴木氏:
スケーラブルに作ると言っても,いろいろと限度があります。とくに僕のようにフルカスタムで作る人にとっては,難しいところが多くありまして。
とはいえ,シェンムーIIIは当初の予定より遥かにボリュームが大きくなりました。最初は,「フルスペックのシェンムー」が作れるとは思っていませんでしたから。
4Gamer:
「シェンムーII」(2001年)以来,十数年ぶりにここまでの大規模プロジェクトを率いたわけですが,以前と比べて,ご自身の仕事のやり方に変化はありましたか。
鈴木氏:
コンセプトや考え方,いわゆるポリシーといったものはまったく変わっていません。
ただ,今回はチームもないところからスタートしているので,チーム作りや人探しから始まっています。僕はエンジンをイチから作っていくタイプでしたが,もちろんゲームのエンジンもなかったので,既存のエンジンをどうやって使いこなすかというアプローチが必要でした。先ほども言いましたが,企画がどんどん変更されるということにも苦労しました。何十年もゲームを作っていますが,今回はいろいろと新しい経験を積みました。
4Gamer:
以前にはなかった工程が多くなったということですね。
鈴木氏:
「何を大事にして,何に決めるのか」といったところは変わっていないので,シェンムーIIIはアプローチがまったく違っていますが,やっぱりシェンムーの世界になっていると思います。
4Gamer:
鈴木 裕さんといえば,創作活動で「自身の信念を曲げない,貫き通す人」というイメージがあるのですが,そのあたりご自身ではいかがでしょうか。
鈴木氏:
僕の考えていることとして,「なるべく何も混ぜない,ピュアな世界観を保とう」というものがありますね。「何を守っていくのか,どこを変更してもいいのか」というのは,ゲームによって違うんですが,それぞれのコンセプチュアルな部分や信念といったものは絶対に守ろうとしますね。
当然,変えていいところは変えていきますよ。ビジネスですから期限はありますし,無尽蔵に資金があるわけでもないですから,不本意ながらも企画変更を余儀なくされる部分はたくさんあります。
4Gamer:
なるほど。ちなみに,シェンムーIIIではどういうところでしょうか。
鈴木氏:
今回,「食べる」という要素を追加しているんですが,これは体力を補給するためのものになっています。ただ,当初は「食と拳法」の関係をゲームに採り入れることも考えていました。
たとえば,ある技を練習して鍛えるためには豚ではなく,羊を食べたほうがいいとか,硬気功でも特定の食べ物を摂りながら練習するとか。これは実際に拳法の師匠に言われることなんですよ。
実は「食と拳法」には深い関係があって,それをシェンムーIIIでは表現したかったんですが,今回は「お腹が減ったら,走れなくなる」というものになっています。こういう細かいところを言い出すとキリがないですよ(笑)。
4Gamer:
非常に細かい部分のリアリティを考えていたんですね。
ところで,シェンムーIIIは経済の要素が重要になっていますが,体験版では分からないところもありました。あらためてコンセプトを説明していただけますか。
鈴木氏:
はい。たとえば物を買うためにお金が必要だったとして,お金を得るプロセスは何種類も用意しています。工夫して楽にお金を得る人もいるし,地道な手段を選ぶ人もいる。ギャンブルを選ぶ人だっているでしょう。
目的は同じであっても,そのプロセスは自分で探して,その中から選ぶことになります。だから,あえてチュートリアルを少なくして,自分で見つけてもらう形になっています。何かを教えてしまうとワンウェイになってしまいますから。いまどき珍しいくらいの,自分で発見してもらうゲームだと思います。
4Gamer:
最後の質問になります。少々気が早いかもしれませんが,シェンムーIIIが無事に発売された暁には,今後のどのような展開を考えていますか。現在,注目しているテーマや分野を教えてください。
鈴木氏:
もちろん,今回のシェンムーIIIでは物語が完結していないので,さまざまな環境が整うのであれば,次のステップとして「IV」は考えています。ファンの皆さんの声がある限り,それは諦めないで進めようと考えています。
それとは別に,昔からファンタジーもののゲームに興味があるので,機会があればと思っています。
あと,VRにも興味があるんですが,僕のように映像のクオリティを求める人には,まだ処理能力が足りないですね。いずれ,希望が実現するようになったら,VRのゲームを作ってみたいと思っています。
4Gamer:
今後の活躍が楽しみです。本日はどうもありがとうございました。
「東京ゲームショウ2019」公式サイト
4Gamer「東京ゲームショウ2019」特設ページ
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Original Game(C)SEGA (C)Ys Net
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