プレイレポート
ゲーム,ジオラマ,音楽,ショートムービー。工夫次第で何でも作れるPS4用ソフト「Dreams Universe」インプレッション
本作は「リトルビッグプラネット」などを手がけたMedia Molecule(以下,作中の省略に従い「Mm」)が,7年もの歳月をかけて開発を続けていたクリエイティブソフトだ。公式サイトなどでは「ゲームクリエイティブプラットフォーム」と呼称されているが,実際はゲームにとどまらず,動画やアート,あるいは音楽やジオラマなど,かなり自由にコンテンツを作成できる。
またそうやって作成した作品は,ゲーム内や専用サイトの「Indreams.me」(外部リンク)で公開や共有が可能だ。さらにほかのクリエイターが作った作品をプレイしたりアレンジしたりもできるなど,文字通りの「プラットフォーム」としての機能も有しているのが特徴と言えるだろう。
今回筆者は,製品版の発売に先駆けて提供されていたアーリーアクセス版および,製品版を実際に体験してみたので,そのレポートをお届けしたい。本作は本当にいろいろなことが可能なので,そのすべてを掘り下げることは難しいのだが,どういった全体像のソフトなのか伝われば幸いだ。
なお本作は2月11日付けで,アーリーアクセス版が製品版に自動アップグレードされている。内容やスクリーンショットは,基本的に製品版準拠となっているが,一部アーリーアクセス版の内容も含まれている点はご了承いただきたい。
まずは「ホーム」で基本操作を学ぼう。ゲームを楽しみたいなら,ストーリーモードがオススメ
Dreams Universeには大きく分けて3つのモード(エリア)が存在する。プレイヤーの拠点でメインメニューも兼ねている「ホーム」,ほかのプレイヤーが作成したコンテンツを探して楽しめる「ドリームサーフィン」,そして実際に何かを作成したり,その手法をチュートリアルで学べる「ドリームメイキング」だ。
ほかにも「コミュニティセッション」や自分のプロフィールなどの項目もメニューには並んでいるが,とりあえず最初に挙げた3つがメインになるので,まずはこちらから掘り下げていこう。
「ホーム」は,ゲームを始めたプレイヤーに最初に与えられるエリアで,初期状態だと雲の上にいるような雰囲気のフィールドが広がっているだけの場所だ。本作でプレイヤーの分身となるのは,毛玉のマウスカーソルのような「チップ」というキャラクター。ここで「チップクエスト」というミニクエストをクリアしながら,キャラクターに“宿って”実際にフィールドを動き回ったり,エディタを使ってホームをカスタマイズしたりと,基本的な動作を確認できる。
とくに本作はコントローラのスティックやタッチパッドはもちろん,ジャイロ操作まで駆使するかなり独特な操作が要求されるので,ホームエリアの入手前後に受けられるレクチャーは,ちゃんとこなした方がいい。アーリーアクセス版ではかなりあっさりしていた導入部だが,初心者向けの丁寧なものに変更されているのは,さすが製品版という印象だ。もしアーリーアクセス版を入手したまま放置している人がいたら,再度起動して違いを体験してみてほしい。
ただホームで可能なのはごく限られた変更のみで,後述するクリエイトモードのように,自分やほかのプレイヤーが作成したオブジェクトは自由に設置できない。使えるのは最初から用意されている公式の「Mmのイロイロ」や,クエストクリアなど一定の条件で入手できる「ごほうび」といったオブジェクトだけだ。
またカスタマイズ時も,初期設定では物体の回転方向の一部が制限されていたり,一瞬でホーム自体をデフォルト状態に戻せたりと,自由度こそ低いものの“初心者が試行錯誤しながら慣れる”のに都合のいい環境が整っている。
本作では後述する丁寧なチュートリアルが用意されているし,既存のオブジェクトやゲームもカスタマイズできるのだが,複雑なものはそれだけいじりづらいし,前述のジャイロや多数のボタンを多用する操作は慣れないと結構難しい。ごく基本的な操作を学んだら,まずは公園の砂場のようなこのホームで,いろいろと試してみるといい肩慣らしになるだろう。
「ドリームサーフィン」は,Dreams Universeの中で公開されている作品の中で,プレイや視聴が可能な状態になっているものを検索したり体験できたりするモードだ。
後述する「ドリームメイキング」でも似たようなことはできるが,こちらは基本的にプレイに特化しているので,純粋にコンテンツを楽しみたいときに選ぼう。Mm公式のものはもちろん,アーリーアクセス時点でも,世界中からクオリティの高い作品が投稿されていた。
とはいえ最初に何かをプレイしてみたいなら,本作のストーリーモードと言える「アートの夢」がおすすめだ。これは落ちぶれたミュージシャン「アート」を主人公に,アドベンチャーパートやアクションパート,さらにミュージカルのようなシナリオパートが交互に展開していくモードだ。グラフィックスやサウンド,ゲーム自体のクオリティも高く,純粋にゲームとして楽しめるが,驚くのはこの作品自体も本作のクリエイトモードで作られていること。
もちろん,ソフトの開発自体を手がけるMm公式の作品という“地の利”はあるものの,「作ろうと思えばこのレベルの作品ができる」というインパクトはかなりのものだ。そういう点ではある意味,最初にプレイするより,クリエイトモードで試行錯誤してから触る方が,より凄さを実感できるかもしれない。
またドリームサーフィンでは,「Mmのお墨付き」など誰でも楽しめるような作品が最初から目立つ場所にピックアップされて表示されており,最初はこれらから触っていくと探す手間が省ける。
ジャンルは3Dや2Dを問わず,アクションやシューティングあるいはパズルといった一般的なゲーム作品から,「オーディオビジュアル」のカテゴリーであるショートムービーのような動きと音を鑑賞する作品,または「ショーケース」に分類されるジオラマやプラモデルのようにモデリングやオブジェクトの配置を楽しむものなど,種類は豊富だ。
これらはテキストで直接検索できるが,日本語で登録されている作品は少ないので,前述のゲームやショーケースのようなカテゴリや,アクションやSFといったタグで絞り込むと目的のものを探しやすいだろう。
ドリームサーフィンでは,自分の好みのゲームを探すのはもちろんだが,前述の“非ゲーム”ジャンルも定期的にチェックしておくと,クオリティの高いキャラクターや乗り物,あるいはミュージックビデオのような動画系の作品にも出会えるだろう。
「ドリームメイキング」で実際に何かを作ってみよう。でもまずは「ワークショップ」で基礎を勉強
「ドリームメイキング」は本作のキモとも言える,さまざまなコンテンツを作るためのモードだ。ゼロからオブジェクトやキャラクターなどを作れる「新しくスタート」,チュートリアルモードの「ワークショップ」,そしてMm公式やほかのプレイヤーが作成した作品を探したり保存したりする検索機能が用意されており,自分が作成/保存したものは「あなたの作品」にまとめられる。初心者の場合は,まずはワークショップを選んでおくのが無難だろう。
「ワークショップ」ではキャラクターやロジック,あるいはオーディオなど各ジャンルに分かれたチュートリアルが用意されており,画面に表示される動画をチェックしながら,ステップごとに実際の操作を学べる。基本的には指示されたとおりに動けばいいが,動画自体は何度でも手動で巻き戻しや再生が可能だし,すでに理解している部分は飛ばしてしまっても問題はない。
また,「指示どおりに動かなければクリアできない」といった制限もなく,単にチュートリアル動画を見るだけもいいし,逆にお手本以上のものを作ってしまっても大丈夫。チュートリアル自体も自由度が高く,感覚的には「通常のクリエイトモードに,お手本動画が付いているだけ」といった雰囲気だ。
ワークショップ自体は難度別にイージー,ノーマル,ハードに分かれており,入門としては基礎的なイージーを中心に一通りやっておけば,ある程度のカスタマイズは可能になる。チュートリアルだけを受けていても退屈になってしまうので,必要に応じてそのジャンルの指南を受ける,という感じでもいいだろう。とはいえ本作は本当にやれることが多いので,本腰を入れてコンテンツを作りたい場合は,すべてのワークショップのお世話になるかもしれない。
ある程度チュートリアルで学んだら,さっそく作成の方も試してみよう。コンテンツはゼロから作成してもいいし,検索して気に入ったもの発見したら,「リミックス」でダウンロードしたあと(不可能なものもある)に加工や編集していく手もある。初心者の場合,やはりゼロから作るのはハードルが高いので,既存のコンテンツを調節したり,組み合わせたりして,とりあえず“何か”を一個完成させてみてはどうだろうか。
また作成したりカスタマイズしたコンテンツは,設定次第で公開可能なので,こちらからもDreams Universeの海に放流してみるのもいい。誰かの目にとまって「いいね!」がもらえるかもしれない。
ただし,一度公開したコンテンツは取り消しができず,検索でひっかからないようにすることしかできない。中途半端な状態のものが流通するのが嫌だったり,広まって困るような中身が含まれる可能性があるときは,まずはローカルに保存して修正したり,フレンドのみに公開するなどの手順を取った方がいいだろう。
本作のクリエイトモードは自由度が高く,技術さえあればほぼゼロからキャラクターを作成したり,ゲーム用のフィールドやキャラの動き,さらに音楽なども好きに作り込んだりできる。ただ,「世界中のプレイヤーが投稿したコンテンツを,自分で使える」のも非常に大きい。例えば完成度の高いキャラクターや乗り物などをスタンプ感覚で設置すれば,それだけで“それっぽく”見えるし,何より筆者のような「絵を描くのも造形物を作るのも苦手」という人でも,ゲームや動画作りを諦めなくて済むのだ。
また個人的には,クリエイトモードがプレイモードとほぼシームレスでつながっている点が便利だと感じた。例えば新しいキャラクターを設置したり,地形などにロジックを設定して動きを付けたりと新しい要素を加えたとき,「OPTIONS」ボタンからプレイモードに入ることで,操作しながら「実際のプレイ時にどうなるか」をすぐに確認できる。
これは大きい変更はもちろん,微調節でも随時可能。ロード時間もないので試行錯誤しやすい。クリエイトとプレイのモード切替は,ワークシップのチュートリアルでも繰り返し説明されるので,自然にこれらが身に付くはずだ。
また,あまり目立たないが音楽の作成もかなり簡単で,作曲の才能などまるでない筆者でも,サンプルのコードを組み合わせるだけで“かなりゲームぽい”曲が作れたのはちょっと驚いてしまった。最初は「自分で音符を並べるのは絶対に無理だぞ……」などと身構えていたのだが,チュートリアルをクリアするだけでも,BGMとして普通に使えそうな感じの曲があっさり完成した。もちろん知識や腕がある場合は,ゼロから思った通りの作曲をすることも可能だろう。
ゲームにしろ動画にしろ,ある程度のクオリティの音楽が付いているかどうかは作品の印象に大きな影響を与えるので,そういったものがお手軽に作れるのは嬉しいところだ。
何かを作るのはもちろんのこと,もっぱらプレイ目的で始めてみるのもあり。今後の発展が楽しみなプラットフォームになりそう
後回しになってしまったが「コミュニティセッション」に触れておくと,これは期間限定のテーマに投稿された作品の中から,優秀作を選ぶためのコンテストモードだ。例えば筆者がプレイしたタイミングでは「中世ファンタジー」というテーマの作品が集められていて,プレイヤーはランダムで選ばれたものをプレイしたり閲覧してから,それぞれに一票投票するかしないかを決めていく。
単純に人気の順番のみで露出度が決まってしまうと,新しい作品に出会う機会も少なくなってしまうので,こういったイベント的な試みは面白い。実際に上位の作品は「殿堂入り」という形で発表されるのだが,さすがにこれに選ばれる作品のクオリティはかなり高いので,一見の価値はある。
ドリームサーフィンで検索してみれば分かるのだが,本作はゲームだけでも本当にいろいろなジャンルの作品を作れる。アクション,シューティング,パズル,レーシング,アドベンチャーなど,いずれも言わなければ“同じソフト”で作ったようには思えないくらいにアレンジが効かせられる。それだけ応用の利くクリエイトエンジンを作ったのだから,長年の開発期間は伊達ではない,ということなのだろう。
ただその反面,やはり取っつきづらさは否めない。3次元の物体を作成したり配置したりする関係上しかたないところもあるが,操作はかなり独特で,慣れるまで時間が必要だと思う。
また,できることが多いことの裏返しでもあるのだが,クリエイトモードのメニューが多く,いくつかチュートリアルを受けた程度では,何に使うのか見当も付かないものばかり。凝ったことをやろうとすれば当然,覚えなければいけないことも増えていく。
余談になるが,クオリティの高いキャラやオブジェクトが簡単にダウンロードできる故に,自分が作ったものと比べてしまってその出来の差に愕然としてしまう……なんてこともあるかもしれない(筆者のことだ)。
さらに公開されている作品の多くはアマチュア作成なので,それぞれのゲームに関してはボリューム不足を感じることが多く,一発ネタ的な雰囲気の作品も少なくない。この辺りはやっぱり,製品として流通する作品とは違いがあるのでしょうがないところだろう。
ただ,大概の人には得手・不得手がある。例えば「ゲームを作りたいが,デザイン系の作業が非常に苦手」という人は少なくないだろうし,逆に「とにかく自作のキャラを何かで動かしたい!」といったシチュエーションも大いにあるだろう。そういった人が本格的なゲームのような作品を作りたかったら,得意分野が違う人の協力を仰ぐしかないが,ネット時代とはいえ,それをするのはなかなかハードルが高いはず。
その点,本作なら不得手な部分は,ほかの人が作成したコンテンツの力を借りられるので,自分の得意なことに注力して,作品をある程度の形にできる可能性がある。少なくとも,独学で全部やるよりかは,ずっとハードルが低くなるだろう。
「ゲームが作れるゲームソフト」といったクリエイト系のソフトは昔からあり,それ自体は決して珍しいものではないが,特定のジャンルしか作れなかったり,用意されたサンプル数が少なかったりと,思うような形にできないことも珍しくない。収録されているサンプルゲームだって,大概は数もボリュームも限られたものだ。
筆者も昔に,シューティングゲームが作れるソフトでゲームの自作を試みたものの,「格好いい自機」や「強そうな敵キャラ」がまったく作れず,挫折してしまった苦い思い出がある。
だがDreams Universeなら,まずはMm公式やすでに高評価を得ているゲームをプレイするだけも楽しめるし,製品版がリリースされた今後は,さらに投稿作品も増えていくことだろう。また作品が増えるということは,それだけクリエイト時に使える素材も増えるわけで,こういった“創作物のゆるいつながり”がコミュニティ内でさらに活発になれば,また新しい“何か”が生まれるからもしれない。
コンテンツを完成させるまでのハードルが高いことは否定できないが,「一見すると市販のゲームと見分けが付かないぐらいの作品」に出会えることは,創作魂に燃える人にとっては大きな刺激になるだろう。
近年はUnityのような高度な汎用エンジンもあるが,PS4本体とソフトだけでコンテンツの作成や共有,プレイが完結するというお手軽さは,本作の魅力の1つだろう。
最後にDreams Universeのドリームサーフィンの中でプレイできたもので,著者の印象に強く残ったものをいくつか紹介しよう。興味ある人は本作を手にとって,タイトル名などで検索して実際に体験してみてほしい。
■「Comic Sands」
Mm公式の作品。ごく短いデモ的な2Dアクションなのだが,ステージの途中でボックス型のキャラクターに足が“外から”書き加えられてアクションが変わったり,ラストは3Dのステージで次元が変わったりと,インパクトのある変化が短時間で起こるのが面白い。
特徴は手書き風のグラフィックスなのだが,それすらもラストにはシームレスに変わる(変えられる)という,本作ならではのクリエイトの自由度の高さも実感できる。また同時に,ポップな音楽も魅力的なポイントだ。
■「Vecta Majoris」
こちらもMm公式の作品。戦闘機を操って敵から宇宙基地を守るという,360度移動可能なタイプの3Dシューティングゲーム。ゲームとしては,機銃で敵を撃ち落とすだけとシンプルすぎるくらいなのだが,公式作品だけあってグラフィックスのクオリティが高く,個人的には「機体や武器や敵の種類をもっと増やした,アップグレード版をプレイしたい」と思ってしまった。
■「Ommy Kart」
名前のとおりにカート乗り込んでレースをし,1位を目指すという作品。ゲーム自体はそこまで目新しくはないが,レースゲームという難度の高そうなコンテンツをしっかりと遊べるところまで完成させている部分に感動してしまった。
コースも適度に広く,順位表示もUIに含まれていたりと,全体的にプレイヤーへの配慮がみられる点もポイントだ。
■「Vanguard」
SFジャンルのコミュニティセッションで1位を取ったミニムービー。戦艦をバックにロボットが飛び立つという「ロボットゲームのオープニング」的な作品で,まさにゲームがこれから始まりそうな雰囲気だ。とにかくかっこよく,実際はない“本編”の内容を妄想してしまう。Dreams Universeはこういった動画作品も結構多い。
■「Food for a date」
ハンバーガーやヌードルなど,食べ物がセットになったショーケース(ジオラマ)。眺めるだけなのだが,ジオラマのクオリティが高く,食材だけでなく皿などの小物の質感も大したもの。フリーカメラで動かせるので,中身がどうなっているか確認してみるのも一興だ。
■「GALAXY CADET 2020」
良くある,レトロなインベーダータイプのお手軽シューティングと思いきや実は……という作品。一発ネタ的ではあるが,「2Dと3Dの両方の作品が作れて,かつシームレスに切り替えも可能」という,本作ならではの特徴を踏まえたアイデアの勝利,といった感じだ。
「Dreams Universe」公式サイト
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