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印刷2017/09/09 00:00

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[CEDEC 2017]一周年で驚異的な伸びを見せた「逆転オセロニア」における,データアナリストの働き方とは

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 ソーシャルゲームの運営にあたって統計を利用するというのは,それこそ「怪盗ロワイヤル」の時代から変わらない技法の一つだ。実際,一時期のソーシャルゲーム関係の講演は,より高い利益を産むためにいかにして(あるいはどのような)統計を活用していくかという話題が中心にあったとすらいえる。
 しかしながらスマートフォン時代に入り,この手の話題が技術カンファレンスの中心にくることは,明らかに減った。むしろ「統計は大事だけれど,ゲームの面白さを大事に」といった言葉のほうが,メディアにも露出する機会が増えていったように思う。
 この一方でデータ分析を行う側は,次のステップに入っている。しかもそれは必ずしも最近はやりのビッグデータがどうこう,という話とは抜本的に異なる。
 CEDEC 2017で行われた「一周年で爆発した『逆転オセロニア』における,ゲーム分析の貢献事例」は,まさにその点を抑えたものだった。以下,簡単にレポートしたい。


狙うは継続率改善


写真6456:DeNA Japanリージョンゲーム事業部 分析部 マネージャー 藤江清隆氏
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 最初に登壇したのは,DeNA Japanリージョンゲーム事業部 分析部 マネージャーの藤江清隆氏である。藤江氏がDeNAに入社したのは2014年だが,それまでも大手家庭用ゲーム開発会社でデータ分析を行っており,都合14年,数千タイトルにわたるゲームのデータ分析をしてきた人物だ。それだけに「ゲームのデータ分析において,うまくいったことも,うまくいかなかったことも」経験を積んできており,今回の講演もそれを踏まえた挑戦の結果といえる。

写真6472:DeNA AIシステム部 AI研究開発グループ エンジニア 奥村 エルネスト 純氏
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 さて,その藤江氏がマイクを託したのは,奥村 エルネスト 純氏だ。奥村氏もDeNAへの入社は2014年で,2016年からデータアナリストとして分析部で働いている(2017年からはAIシステム部に異動し,ゲームAI開発チームリーダーに就任)。
 奥村氏は理学博士であり,大学院時代は観測的宇宙論を専門にしていたが,「宇宙よりも人間の行動に興味が湧いた」ことからDeNAのアナリストに就任したという,ちょっと変わった経歴の持ち主である。

 そんな奥村氏がアナリストとしてサポートしたのが,「逆転オセロニア」である。

 「逆転オセロニア」は,言葉は悪いがリリース以後,これといって爆発的なヒットとはならなかったタイトルだ。しかし,2016年末〜2017年初頭にかけて行ったイベントを通じ,DAU(Daily Active User)が5倍という驚異的な成長を果たしている。
 しかもこのDAUはイベント後に雲散霧消することなく,「逆転オセロニア」の固定プレイヤーとして定着している(事実「逆転オセロニア」はGoogle Playで2017年8月期における無料ゲームランキングで平均11位。AppStoreでも同じく無料ゲームランキングで23位と,高順位を維持している)。2017年8月には1600万ダウンロードも達成しており,新規プレイヤーの獲得も順調に進んでいるといえるだろう。

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 この大成功を引き起こす起爆剤となったのは,年末に打たれたテレビCMだ。
 しかしながら,ただCMを流しただけでは,このような成果は得られなかったと奥村氏は指摘する。
 というのも,DAUは原則として集客規模と継続率に強く影響を受ける。CMによって大きな集客を得たとしても,継続率が低ければDAUの上昇にはつながらないというわけだ。
 このため奥村氏はアナリストとして,「継続率が非常に重要」という方針を立てていた。継続率が低ければ,アナリストが何かを提案し,それに基いて施策を打ったとしても,その効果は限定的なものにならざるをえない,というわけである(いわば「穴の空いたバケツに水を入れても仕方ない」状態)。

 そしてオセロニアの開発チームも,継続率に対しては強いこだわりを持っていたという。
 オセロニアチームは運営の基本として「プレイヤーファーストであること」を掲げている。「すべてのプレイヤーにゲームを長く楽しんでもらいたい」「ゲームの継続を妨げるような苦痛は早く取り除きたい」という目標は,まさに継続率へのこだわりといえる。

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 かくして「継続率」という点において,奥村氏とオセロニア・チームの目標は一致していた。そして事実,年末年始イベントを挟んでオセロニアの30日継続率は2倍に跳ね上がっている。
 とはいえ「継続率を上げましょう」というスローガンのもとに開発・運営チームが動いたから継続率が上がりました,なんてことが起こるならゲーム開発・運営会社は苦労しない。ここで狙い通りに継続率が改善した背景には,理由があるのだ。

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継続率を改善する銀の弾丸は存在しない


 年末年始イベントにおいてオセロニアチームが行った継続率改善のための施策は,以下のようなものになる。

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 ざっと見て「なるほど」と思える内容ではあるが,ではどのようにして「これらを修正すべきだ」という絞り込みが可能になったのだろうか?

 奥村氏は,こういった課題を解決していくにあたっては,そもそも論として幾多の困難がある,と指摘する。
(1)運営チームはどうしてもオセロニアのヘビープレイヤーにならざるをえないため,ライト層の感覚を把握しにくくなってしまう。これは「ゲームを始めてすぐ離脱してしまう」層が何を不満に思ってるのかを理解するにあたって,大きな障壁となりえる。
(2)「こういう問題がある」と把握するだけなら可能であっても,そこで出て来る問題は膨大な数になるのが普通だ。そのなかで何を優先すればいいのかを判断するにあたっては,「気持ちがいい」「面白い」といった,直接数値にならない要素が強く影響する。
(3)すでに述べたように,課題の数はとにかく多い。優先度を決めたとしても,なお多い。また継続率という問題になると,継続率を悪くしていると推定される要因が多岐にわたる。これらの問題を解決すべく,実際の施策に落とし込んでいくためには,仮説検証の量も莫大なものになってしまう。

 これらの問題に対し,奥村氏(およびDeNAのデータ分析部)は,それぞれ異なる手法で対応することにしたという。

(1)ライトプレイヤー対応:
 実際にプレイヤーを社内に呼び,オセロニアを遊んでもらい,どこに不満を感じたかをインタビューすることで,ヘビープレイヤー化してしまっている運営側では把握できていない意見を聞く。
 ここでは「対人戦が面白いけれど,時間もかかるし心理的にも『やるぞ』という決断が必要なため,『対人戦を始める』という選択そのものにハードルを感じる」といった意見が重要な指摘として上がってきたという。

(2)優先度策定:
 こちらではゲーム内でのアンケートを利用している。
 アンケートで得られたデータをもとに,ゲーム内のそれぞれの要素が,「現状でのプレイヤーの満足度」「プレイヤーの継続率」にそれぞれどれくらい影響しているかを測定し,グラフにプロットする。

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 このうち「継続率に大きな影響を与えており」「現状でのプレイヤー満足度が低い」領域にあるゲーム要素は,優先的に対応すべき案件として浮き上がってくる。
 またこの手の「改善」をするときにやりがちな「プレイヤーは現状に満足しているところを『修正』して反発を呼ぶ」という失敗も,「プレイヤー満足度が高い領域にある要素は現状を維持していく」という方針で回避可能となるわけだ。

(3)課題の数が多すぎる:「課題を解決する」といっても,実際には「課題を発見し」「課題解決のための仮説を立て」「仮説を検証し」「これで行くと決断し」「決断を実装に落とす」という,多段階のプロセスが必要になる。ここにおいて奥村氏は,「仮説検証」と「決断」の効率化によって,より多くの課題解決が行えるようになると指摘する。
 そして,ここにおいて奥村氏が目指したのは「小さなアウトプットを高頻度で出し続ける」ことであり,そのために最も重視したのは「チームを巻き込む」「チームの共通認識を作る」ことであったという。

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 そのために実際に行ったこととしてはSlackの活用や朝会での報告,あるいは物理的な座席配置の変更(プロデューサーやディレクターの近くにアナリストの席を置く)といったことが挙げられる。
 詳細はさまざまに異なるが,「アナリストもまたオセロニアチームの一員として,今回はとくにオセロニアの継続率を高めるために,その技術と知見を最大限に駆使してチームに寄与する」「継続率改善のための努力に対し,チームの全員が関与し,その関与の結果を見て分かるように表示する」といったところがキーポイントであるといえるだろう。

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 つまりこれは,継続率改善のような複雑なタスクとなると,「これ一つで一発解決」のような銀の弾丸は存在しないのだ,ということもできる。奥村氏が指摘するように,「小さな改善を徹底的に積み上げていく」ことが重要だ,というわけだ。
 そしてこのように「小さな改善を徹底的に積み上げていく」ためには,チーム全体の協力が必要だ。チーム内部から出てきた「これって問題では?」という指摘に対し,アナリストがそれを分析する。そして実際にデータから見ても問題であることが判明したら,何をどのように改善するかを検討し,実際に改善してみる――この繰り返しの効率を高めるには,チームの意識が統一されていなくてはならないのである。

 そのうえで,継続率以外の点,つまり集客規模に関しても,奥村氏は何が効率的かを探索している。

 現状,あるゲームをどういう理由で知り,そしてそのゲームをインストールしようと決意するかというルートは,無数に存在する。そしてまた,プレイヤー層ごとにその「一般的なルート」は異なっている。
 なかでも近年,若年層にとって大きな流入経路となっているのが,有名YouTuberによる実況配信だ。しかし,ここにおいても問題は残る――仮にYouTuberに広告を依頼するとしても,誰に,どんな内容で発注すれば,ちゃんと若年層に刺さるのだろうか?

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 この問題については,実際に若年層へのインタビューなどを通じ,どういう時間帯にどのような動画を見るのか,という調査を行ったという。結果,「結局は有名YouTuberによる配信が一番効く」という,ある意味で当たり前の結論のほかに,「コンテンツとしては『勝ったら◯◯,負けたら◯◯』のような企画が人気」という知見が得られたという。

 こういった調査を全プレイヤー層に対して行うことで,集客規模の効率化も果たせたと奥村氏は語った。

 ちなみに,「逆転オセロニア」のテレビCMが年末年始に打たれることが決まったのは,けしてこれらの各種改革によって数値が改善したから,ではない。あくまでテレビCMの計画が先にあって,オセロニアにとっては「このテレビCMが最後のチャンス」という意識はチーム全体にあったという。
 それゆえにオセロニアの躍進は,年末年始における「最後の勝負」に向けチームが一丸となって戦った成果でもあると,後に奥村氏は語ってくれた。


誰にとっても,データ分析を「他人事」にしないために


 さて,以上がオセロニアにおいてDeNAのデータ分析部が寄与した事例となる。
 ここからは再びマイクは藤江氏に戻り,DeNAのデータ分析部が一般にどのような仕事をしているか,またそこで何に気をつけているかを紹介した。

 DeNAではデータ分析を「行動ログ分析」「プレイヤー調査」「マーケティング分析」「パラメータ設計」の4領域に区分している。そしてあるゲームの開発が始まり,またリリースされてからも,それぞれの領域ごとに異なる仕事が発生する。
 現状このような4領域に分かれているのは,「それぞれの領域に対して必要となるスキルが異なり,それぞれにスペシャリストがいるため」と藤江氏は語るが,今後は複数領域を一人でカバーできるハイブリッド型のアナリストも増やしていきたいそうだ。

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 さて,それぞれの領域で実際に何をするかという各論はさておき,藤江氏はこれらデータ分析が陥りがちな失敗パターンがあると指摘する。

(1)分析自体の目的化:
 データを分析するというのは,実のところそれ自体が楽しい。しかもそこで新技術を使って新しい発見があったとなれば,さらに楽しい。結果,「分かった」「見えた」で終わってしまう。

(2)意思決定する人と視点や意識がズレる:
 「ゲームを作っている人」と『ゲームの分析をする人」で,目的がズレてしまう。これまでもしばしば「数字ばかりを議論していたって面白いゲームになるはずがない!」的な声は上がってきたが,こういった声が出る理由の一つと考えられる。

(3)分析が請け仕事化する:
 (2)とは逆に,「この分析やっておいて」という開発・運営側からの要求に対応するだけに始終してしまい,「その目標達成のためにはこうしたら良いのでは?」という提案を行えない人間になってしまう。

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 これらの失敗パターンに落ち込むと,アナリストから分析は上がってきても,開発・運営側の意思決定の役には立たないアウトプットでしかない,という状況が発生すると藤江氏は指摘した。
 また,「制作チームの外から入ってくるアナリスト」は,チームにとってみれば「お客様」感が否めない。結果として,そういうアナリストはゲーム制作・運営の現場からは「数字だけ見ている人」「評論家」といった,かなりネガティブな印象を持たれがちでもあるそうだ。このような信頼関係では,アナリストが何かを提言したとしても,意思決定する人に聞き入れられないといったことも起こってしまう。

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 この問題への処方箋として,藤江氏は「コミット」というキーワードを提示する。

 コミットとは,「積極的に関わる」といった意味だが,データ分析部ではこれを「担当するゲームを『自分のこと』化して取り組む」「ゲームを作るチームと一体になる」ということだと考えているという。
 要は「なんだかよく分からないけど,とりあえずあなたが作ってるゲームのデータ分析をすることになりました」という関わり方ではなく,「アナリスト自身もゲームを作り運営するチームの一員となる」という,より深い関わり方の推奨と言えるだろう。

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 さて,とはいえ「コミットだ!」とお題目を唱えていても,それで何かが変わるわけではない。
 そこで藤江氏は「考え方の指針や体制づくりでコミットをサポートする」という姿勢を示した。

 このうち「体制づくり」のうち最も分かりやすいのは,各アナリストを,それぞれのタイトル専属のスタッフとする,という方針だ。先に登壇した奥村氏であれば,彼はオセロニア専属のアナリストということになる。
 また分析に対する責任も,そのタイトルを深く理解しているアナリストが負う。タスク管理やクオリティコントロールを行うのは,それぞれのタイトルに所属するアナリストチームということになる。

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 また,奥村氏の発表でも「プロデューサーやディレクターとアナリストの席が近くになるように配置する」という「改善」があったが,チームの定例会議や飲み会にもアナリストが参加することで,アナリストが「どこかから来たお手伝いさん」ではなく「同じ釜の飯を食う仲間」として認識されるようにするというのも重要だと藤江氏は指摘する。
 事実,オセロニアにおいては公式Wikiに登場するキャラクターとして「星博士レオ」が存在するが,これは奥村氏がモデルとなっているという。奥村氏がここまでチームの内側に溶け込めたこと(コミットできたこと)は,オセロニアを大きく飛躍させた基盤となっていると言えよう。


ゲーム制作はチームがあってこそ


 CEDEC 2017ではこれ以外にもデータ分析に関する講演が複数存在したが,「開発・運営スタッフが活用できるデータが提示できねばならない」「アナリスト自身がちゃんとゲームを遊び,ゲームを知っていなくてはならない」という点においては,いずれも共通していたように思う。
 そのうえで,どうしても「お客様」という立場になりがちでありながら,ゲーム制作・運営のクリティカルな階層にタッチしてくる「外部アナリスト」が,きちんとチームの中で機能するためには何が必要なのか。本講演はデータ分析という範囲を越えて,チーム運営という側面も分厚くカバーした,内容の濃いものであったと言えるのではないだろうか。

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