インタビュー
アスナとユウキをまた巡り合わせたかった――「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX IGNITION」を生んだセガゲームスと電撃文庫編集部に聞く,飽くなき原作へのこだわり
発売から間もないことあり,発売されたコンシューマゲーム機版を遊び込んでいる時期だとは思うが,今回は発売に先駆けて収録したインタビューをお届けしよう。取材に応じててくれたのは,ファンにはお馴染みの本作のプロデューサー・野中竜太郎氏と,同じくディレクターの寺田貴治氏。そして今回は,メディアミックスを担当する部署に所属し,本作の立ち上げから深く関わってきたという,電撃文庫編集部の平井啓祐氏にも同席してもらった。
同氏からは,企画の成り立ちから登場キャラクターの選定についてなど,電撃文庫側から見た本作のアレコレについての話も聞いている。飽くなき原作へのこだわりから生まれた「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX」開発の知られざる内側を,このインタビューで明らかにしていこう。
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「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX IGNITION」公式サイト
いちばん熱量があったのが対戦格闘ゲームの企画だった
4Gamer:
今回は「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX IGNITION」(以下,電撃FCI)について,主にキャラクターの面から掘り下げようということで,電撃文庫編集部から平井さんにもご参加いただきました。まずは簡単な自己紹介と,どのような形でこの企画に関わっているのかを教えていただけますか。
はい。私は電撃文庫の文庫プロデュース課という,主にメディアミックスを手がける部門に所属し,ゲームやアニメ,コミカライズといった各種メディアミックスのプロデュースを担当しています。なので,本作とは前作である「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX」(PS3 / PS Vita / AC)(以下,電撃FC)の立ち上げ当初から関わっています。
野中竜太郎氏(以下,野中氏):
セガ側としては,企画を進めるときは,なにごともまず平井さんと相談する体制で開発を進めています。こう,ほとばしる情熱を交えながら3人でいろいろと話し合って,その後に各所との調整を加えながらできあがっていく,という感じですね。
平井氏:
そんな感じです(笑)。ただ,うちの編集部はメディアミックスをプロデュースをしながら,作家さんの担当もしているんですよ。だから自分の業務としては,それと並行して電撃文庫も作ってたりします。
4Gamer:
ということは,平井さんにも担当する作家さんがいらっしゃる?
平井氏:
ええ。電撃FCIに登場するなかでは,「イリヤの空、UFOの夏」(以下,イリヤ)の秋山瑞人先生を担当しています。とはいえ,イリヤが書かれた頃には,まだ入社していなかったので,前任から引き継いだ形なんですが。
4Gamer:
なんと,秋山先生ですか! 「龍盤七朝 DRAGONBUSTER」の続きはいつ……。
平井氏:
……そちらはお楽しみにということで。ちなみに,秋山先生はイリヤが「電撃FCI」に出るのをとても喜んでおられまして。ゲームが出たら,絶対ペンネームでプレイしてくださいとお願いしてあります。なので,そのうちネット対戦に現れるかもしれませんよ(笑)。
4Gamer:
ファンとしては喜んでいいのか,ゲームやってんじゃねえよって言えばいいのか,複雑な心境です(笑)。
ところで,前作「電撃FC」は電撃文庫の20周年企画としてスタートしたわけで,その当時のことはこれまでにも何度か伺っていますが(関連記事),今回は電撃文庫側からみた,本作誕生の経緯をお聞かせ願えればと思っています。企画を持ちかけたのは,確かセガさんからだったんですよね(関連記事)。
そもそもの発端として電撃文庫20周年というのがあり,じゃあどんなゲームにしようかというのを,セガ側から提案したというのが正しいですね。格闘ゲーム,カードゲーム,ノベルゲームの3つのプランを考えて,電撃文庫さん側にプレゼンしたのを覚えています。ただ,明らかに格闘ゲームの企画書だけが,やたら分厚かったという(笑)。
4Gamer:
ああ,格闘ゲームが本命で,ほかは当て馬の企画だったわけですね。
野中氏:
今となっては,そう言ってしまって間違いではないですね。流行に合わせてカードゲーム,ノベルゲームを提案しましたが,でもやっぱり一番やりたかったのが格闘ゲームでしたから。
寺田貴治氏(以下,寺田氏):
やる気というか,企画書に込められた熱量からして全然違っていましたね。カードバトルが悪いわけじゃないですが,格闘ゲームなら実際に主人公を動かして戦えるわけで,そういうなりきり感が大事だと思うんです。主人公同士が集まっての夢の対決って,やっぱり燃えるじゃないですか。
平井氏:
その提案を受けて,格闘ゲームで行こうと決めました。やっぱり自分自身が格闘ゲーム世代ですし,寺田さんの言ったように,夢のようなゲームができると思ったんです。結果的に,今の若い世代の人にも受け入れられて良かったと思っています。
4Gamer:
しかもこの時代に,3Dグラフィックスではなく,2Dドット絵の格闘ゲームですからね。
そこは2Dドット絵で作ることにこだわりがありました。3Dグラフィックスで作ると,演出面で電撃文庫のキャラクターが持っている“かっこいいウソ”がつきにくいと思ったので。
平井氏:
もともと小説のイラストから出てきた二次元世界の住人ですからね。2Dのほうが,やっぱり相性がいいと思います。
4Gamer:
平井さんは,格闘ゲームをプレイされるのですか?
平井氏:
「サムライスピリッツ」や「ヴァンパイアハンター」の頃は,それこそ毎日のようにゲームセンターに入り浸っていましたね。最近は,さすがにそこまではできないですけど。
野中氏:
最初に企画を出したときに僕らが気にしていたのは,電撃文庫のキャラクター同士が,果たして殴ったり殴られたりしていいものだろうか,ということでした。ファンが多い作品ばかりなので,それが許されるのだろうかって。
平井氏:
企画書を見たときには,「これ面白いじゃん」というだけで,そんなことはまったく考えませんでしたね。女子中学生が素手で殴っちゃうとか,バスケットボールで戦っちゃうとか,面白すぎるでしょう。電撃文庫編集部はもともと「面白ければ何でもあり」という考え方がありますから。あ,これは電撃文庫の基本的な考え方であり,最近ウチの編集長が出した本のタイトルでもあるんですけど(笑)。
野中氏:
ほかの2つの企画は,プレゼンでも反応が薄かったですしね。それに比べて格闘ゲームは飛び道具的な案でしたし,僕らとしてもやりたいと思っていた。それだけの熱量が違ったのは確かです。
平井氏:
読者の側からも,「自分の好きなキャラが殴られて嫌だ」というような反応は聞いたことがありません。企画立ち上げ当初の電撃文庫編集部からも,そういう意見は上がってきませんでした。
寺田氏:
とはいえ制作にあたっては,この部分にはとくに気を使っています。プレイヤーが不快に思うことがないように。なにせ,登場キャラクターは基本的に皆正義の側のキャラですから,どちらかが負けて決着がついても,お互いいい勝負だった,と言えるような形にしたいんですよ。
野中氏:
ファンの皆さんももちろんですが,作家の方々がどう思われるかは,すごく気になっていましたね。自分のキャラクターが格闘ゲームに登場することをどう思っているのか。
平井氏:
いや,やっぱり作家も格闘ゲーム世代が多いですし,皆さん喜んでましたよ。むしろ,こだわりがありすぎりる作家がいるくらいで。伏見つかさ先生なんか,「中段技はこういう技にしてください!」なんて細かい部分まで要望を出してくるくらいでしたから(笑)。
原作キャラをいかにしてドット絵で表現するか
4Gamer:
電撃文庫のキャラクターを格闘ゲームに落とし込むうえで,苦労したのはどのあたりでしょうか。バトルデザイン周りについては,前回のインタビューで詳しく伺っているので,今回は主にグラフィックス周りについて聞いてみたいのですが。
寺田氏:
どのくらいの等身サイズにするかは,最初に綿密な打ち合わせをしましたね。原作どおりのサイズにしてしまうと,ゲームとしてはどうしてもバランスが悪くなってしまうので。例えば「ロウきゅーぶ!」の智花なんか,とても頭身が低くなっちゃう(笑)。
平井氏:
キャラクター表を作って,統一感が出るように調整していきました。設定のままだと,大きすぎるキャラクターもいましたね。
野中氏:
そもそも本作以外だと,別の作品のキャラクターが一堂に会する機会もそうそうないでしょうし。
4Gamer:
まず最初にキャラクター表を作って,それを元にドット絵に起こしていったと。では,インゲームキャラクターとして,最初に作ったキャラクターは?
寺田氏:
アスナとシャナでしたね。この2人が電撃FCにおけるスタンダードキャラになると思ったので,まず最初に作ることにしたんです。
平井氏:
自分も開発中のゲーム画面として最初に見せてもらったのが,この2人が戦ってるシーンでした。その後,ちょうど今インタビューを受けているこの会議室で,電撃文庫編集部のメンバーにお披露目をして。みんな驚いていましたね。これで全部のキャラクターが登場したら,なかなかすごいことになるんじゃないかって。
寺田氏:
実はその後になって,「シャナの足をもう少し細くしてください」って言われて,あのときはかなり焦りましたね。ドット絵に起こす作業は,まずノーマル立ちの状態で一度チェックしてもらい,その後にモーションを作っていくんですが,シャナは最初のキャラクターだったから,モーション制作を先行して進めていたんです。全部描き終わったところで入った指摘だったので,愕然としました。なんとか対応しましたけれど。
平井氏:
僕らは結構,気軽にリクエストしてしまうんですよね(苦笑)。
4Gamer:
ドット絵のことで気になったのですが,2D格闘ゲームのキャラクターって,1P側と2P側でグラフィックスを反転することで表現するじゃないですか。これって原作を再現するうで,問題が発生しうる部分だと思うのですが。
寺田氏:
そうなんです。しかも電撃FCの場合,元々が格闘ゲーム用にデザインされたキャラクターではないですから,左右非対称のギミックがあるキャラクターも多い。
平井氏:
分りやすいのが上条当麻ですね。彼は右手に“幻想殺し(イマジンブレイカー)”の異能を秘めているという設定のキャラクターですから,これを左手を使っていたらやっぱりおかしいわけで。
4Gamer:
しかし格闘ゲーマーの視点で言ってしまえば,2D格闘ゲームでの左右反転はもはや暗黙の了解でもある。1Pと2Pで技のモーションが変わっていたら,プレイヤーも混乱するでしょうし。
寺田氏:
そこはやっぱり,「原作を大事にしよう」ということで,上条当麻のニュートラル技に関しては,1P側と2P側で異なるドット絵を用意しています。ドット絵を起こすフランスパンさんには,申し訳なかったのですけど。
寺田氏:
フランスパンさんは,幸いにもキャラ愛にはものすごくこだわりのあるデベロッパだったので,快諾してくれました。
4Gamer:
上条当麻についていうと,そもそもこれ,レバー入れ攻撃の方は,1P側と2P側で性能が違うんですよね。すごく芸が細かいです。
寺田氏:
レバー入れのパンチ攻撃のほうは,ドット絵を反転してることもあって,1P側と2P側で攻撃時の手が異なるんですよ。なので,“幻想殺し”で攻撃する1P側だと,相手の攻撃を相殺しつつ,ダウン確定の強烈な一撃を加える技になります。一方で,左手で攻撃する2P側になると,相手は受身が取れてしまう。
野中氏:
でも,2P側も一瞬だけ相殺判定があるんだよね?
寺田氏:
そうそう。左手を振りかぶったときに,一瞬だけ右手が前に出るタイミングがあって,その瞬間だけ相殺判定があります。この辺は,左右反転にせざるを得ないところから,逆に生まれてきた仕様ですね。
平井氏:
こだわりがさらに深いこだわりを生むという,無限スパイラル(笑)。
寺田氏:
でも,そういうこだわりこそが,良い作品を作っていく秘訣じゃないですか。馴れ合いからは,決して良い作品は生まれませんからね。
新たなプレイアブルキャラクターとなる黒子とユウキ
4Gamer:
ゲームに登場するキャラクターですが,これはどのようにして選ばれていくのでしょうか。今回のコンシューマゲーム機版では,プレイアブルキャラクターとして「とある魔術の禁書目録」から白井黒子の参戦が決定していますが。
野中氏:
セガ側から出したいキャラクターのリストを作り,平井さんと相談するという流れです。でも最近では,平井さんのほうでもリストを作っていて,お互いに見せ合う形になってきましたね。
平井氏:
そうしたキャラクターのリストは,セガ側と電撃文庫側で一致しているものもあれば,当然ながら食い違うところもある。先ほども少し触れましたが,電撃文庫側としてはゲーム制作のことはあまり考えず,実際にできるかどうかは別として,とりあえず無邪気に提案してみるというスタンスです。
寺田氏:
ゲーム制作側としては,本当は出したいけれど,どうしても難しいキャラクターというのが出てくるんです。原作のイメージをそのままに再現すると,ゲームとして破綻してしまったりとか。もちろん無理にやろうと思えばできないことはないんですが,それだと面白くないじゃないですか。
4Gamer:
一方通行(アクセラレータ)なんかは,その典型と言えそうですね。
寺田氏:
アクセラレータの能力はベクトル操作なので,それをそのまま格闘ゲームで再現すると,殴られたことが全部なかったことになってしまいます。彼がダメージを受けるとしたら,一体どんな理由が考えられるのか,それを考えなくてはならなくて,結局彼をプレイアブルキャラクターにすることができていません。そこを解決せずに登場させても,きっとファンの皆さんが考えるアクセラレータとは違ってきてしまうので。
野中氏:
そもそも,格闘ゲームとはいえ,アクセラレータが小足(払い)を連打しているようなイメージは湧いてこないですからね(笑)。
4Gamer:
たとえばボス専用キャラとしてなら,アクセラレータもありなのでは?
野中氏:
それはアリかもしれません。でもボスキャラとして登場させると,結局はプレイアブル化してって言われてしまうので(笑)。
寺田氏:
で,いざプレイアブルになると,「こいつこんなに弱かったっけ?」って言われしまうという(笑)。
4Gamer:
ストリートファイターの豪鬼や,KING OF FIGHTERSのルガールみたいに。ある意味格闘ゲームの“あるあるネタ”ですね(笑)。
寺田氏:
主人公クラスのキャラクターは,みな最強を名乗っているので,ゲームとしては作りづらいというのはあります。それに比べると,白井黒子はイメージが湧きやすかったですね。テレポートしながら戦うという大きな特徴がありますから。
野中氏:
既存キャラクターとの絡みがあるほうが,追加したときに面白いんですよ。黒子の場合は御坂美琴とどんなやり取りをするのか,やっぱり楽しみじゃないですか。
寺田氏:
黒子はロケテストなんかのアンケートでも,常に上位に入ってくるキャラクターですし,登場キャラクターのバリエーションを考えると,とても出しやすかったキャラクターです。
4Gamer:
なるほど。コンシューマゲーム機版では,さらに「ソードアート・オンライン」からユウキの参戦が発表されています。期間限定の無料DLCになるとのことですが,これについてはいかがですか。
野中氏:
実は「ソードアート・オンライン」からは,シノンを出そうかという案もあったんです。ただ,彼女はスナイパーじゃないですか。格闘ゲームでそれをどう表現すればいいのかが難しくて。
寺田氏:
銃を使うキャラクターは,飛び道具主体のキャラクターになりがちなので,格闘ゲームとしてどう戦わせるのかが課題になります。とくに,シノンが使う「へカートII」はすごく大きな狙撃銃なので,忠実に再現しようとすれば,普通に伏せて構えただけで画面の半分くらいの長さになってしまう。
4Gamer:
ああ,確かに(笑)。
野中氏:
それに比べると,ユウキは作りやすかったです。無敗を誇る“絶剣”の二つ名を持ってますし,強い相手を探しているという設定も,格闘ゲームにぴったり合っている。
寺田氏:
なにより,アスナやキリトと戦わせてみたいじゃないですか! 実際,どれだけ強いのかって。
4Gamer:
作中でも,ユウキとアスナとの対決は決着をつけずに終わってしまいましたしね。キリトに至っては最後まで二刀流を使わなかったので,本当はどちらが強いのか,分らずじまいでした。格闘ゲーム的には,ユウキはどんなスタイルで戦うキャラクターなんですか?
寺田氏:
同じ「ソードアート・オンライン」出身のアスナやキリトと同じく,基本は片手剣で小気味よく戦うキャラクターですが,スタイルはかなり異なります。なにより,空を飛べる《ALO》(アルヴヘイム・オンライン)をベースにした戦闘スタイルなので,飛行しながら戦えるのが大きな特徴ですね。クライマックスアーツでは,アスナと同じくマザーズ・ロザリオを使いますが,そもそもこの技のオリジナルはユウキですからね。そこの演出の違いにも注目してほしいです。
野中氏:
演出面でいえば,ユウキは対戦前後のセリフにも注目ですね。
寺田氏:
原作での別れ際のアスナのセリフに,「わたしは,必ず,もう一度あなたと出会う。どこか違う場所,違う世界で」というのがあるんですが,アスナとユウキの掛け合いは,その想いを反映したものになっています。そもそもこのセリフがあったからこそ,ユウキの参戦を決めたようなものですから。
4Gamer:
どうしても,二人がまた出会う場を用意したかった?
寺田氏:
ええ。それを電撃FCIでかなえさせてもらって,個人的にもすごくうれしかったです。
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