インタビュー
“タガタメ”のメインストーリー終了後を描いた「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」が6月14日公開。マクロスシリーズの河森正治氏がファンタジーに挑む
これは,「マクロス」や「アクエリオン」などのシリーズで広く知られる河森正治氏が総監督・ストーリー構成を務め,サテライトが制作を行っている映像作品である。河森総監督は40年もの長きにわたり第一線で活躍しているが,今回の劇場版タガタメは,自身にとって初となる“ゲーム原作”の映画化とのことだ。
今回はサテライトの本社にて,メディア向けにスタジオ見学の機会が設けられたので,その模様をフォトレポートで紹介しよう。また,河森総監督と高橋正典監督への合同インタビューの内容もお届けするので,劇場版に興味のある人は,ぜひ目を通してほしい。
―――劇場版タガタメについて,河森総監督から概要の説明をお願いします。
河森総監督:
今回の映画は,スマートフォン向けアプリ「誰ガ為のアルケミスト」をもとに制作しています。
このゲーム内にはいくつもの世界があり,また,メインストーリーの章ごとに主人公が変わるなど,大勢のキャラクターが登場します。そのため,たとえば特定のストーリーを抜き出して映画化を行うと,紹介しきれない(ゲーム内の)主要キャラクターが出てきてしまうんです。
また,ゲームを遊び込んでいる人だけでなく,まったく知らない人でも楽しめるようにするため,映画をどのような構成にするか非常に悩みました。
主なあらすじとしては,ゲームのメインストーリーの終了後,その舞台となるバベル大陸がピンチに陥ります。これをなんとかするためには,最強の幻影兵(ファントム)を召喚しなければならない。ところが召喚術を使うと,いったいどういうわけか,普通の女子高生として暮らすカスミがやってきてしまうんです。
そしてカスミが,タガタメの戦士たちとともに冒険劇を繰り広げるという内容になっています。
―――河森総監督は過去の作品において,オリジナル作品を中心に手がけています。今回は“原作付き”の作品ですが,これはどのような経緯があったのでしょうか。
河森総監督:
実は,これまでも“原作付き”の作品を担当しかけたことはあったんですよ。
最初に「けっこう変わっちゃいますよ?」と伝えて,そのときは「どんなに変えても構いません!」と太鼓判を押されるんですが。だいたい,シナリオや絵コンテを伝えたあたりで,「こんなに変えるとは思わなかった!」と企画が見送りになることも多々ありました(苦笑)。
ちなみに私はタガタメの正式サービスが始まる前に,オープニング映像の制作に携わった経験があります。当時から今泉プロデューサー(今泉 潤氏)は,私のことをクリエイターとして尊重してくだっていて,こちらが用意したアイデアを,逆にゲームに反映してくれたこともありました。
そういった経緯もあり,劇場版タガタメについて今泉プロデューサーや,ゲーム開発チームの方々と話し合ったところ,「タガタメの世界をちゃんと表現し,なおかつ一本の独立した映画」としてチャレンジできる手応えが得られました。今泉プロデューサーはとても懐の深い方だと思いましたね。
―――実際にアニメーションの制作作業を進められて,手応えはいかがですか。
河森総監督:
私はもともと,タガタメの世界観で扱われている錬金術に興味がありました。でも,錬金術をテーマにした作品はほかにもありますよね。また,私はオリジナルの作品が好きですが,新たな作品を自ら立ち上げるという意味での“錬金術”はできないと思っています。
一方で,タガタメはゲームとしてプレイヤーの皆さんのあいだに立派に定着しており,また,私自身もオープニング映像で関わらせていただいた経験もあります。今回の映画化では,自分がやりたいことに近い形で,テーマを実現する手応えを得られています。
高橋監督:
今泉プロデューサーをはじめ,gumiおよびFgGのスタッフの皆さんは,河森総監督のアイデアや世界観を尊重してくれています。また,自分から見ても今回の映画では,ゲームであるタガタメと河森総監督の作り上げる世界観が融合できていると思います。
ゲームと映画という違うメディアではありますが,今回の映画はゲームから離れすぎておらず,面白い形でバランスが取れていると思いますね。
河森総監督:
そういえば,ゲーム内の異世界であるバベル大陸に,何も知らないカスミが入っていくという構造が,映画を制作している自分たちと似ているのかなとも感じました。自分たちはタガタメの近くにいるけど,アニメーション制作という,ちょっと離れたポジションにいましたから。
高橋監督:
確かに,現実世界から異世界のバベル大陸に召喚されるカスミというキャラクターは,アニメ側のスタッフにとって,自分自身を投影できる存在でしたね。カスミという存在のお陰で,タガタメの世界に入りひとつになっていくという一体感がより深く得られました。
河森総監督:
こうやってカスミの視点が盛り込まれることで,ゲームを知らない人が見ても楽しめるというのが,この映画の見どころのひとつです。それでいて,ゲームを知っている人は「あのキャラがこういった風に活躍するんだ!」と楽しめるわけです。この試みは大きな手応えを感じています。
―――河森総監督と高橋監督の役割分担は,どのようになっていますか。
河森総監督:
自分は主に,プロジェクトとしてのプランニングや主人公であるカスミのキャラクター設定,それからストーリー構成,絵コンテなどをまずは担当しています。そして美術監督,撮影監督,作画監督らと打ち合わせたあとは,基本的に現場は高橋監督に任せています。そのあと,編集やアフレコ,そしてダビングなど,高橋監督と一緒に参加して,お互いをカバーすることも多いですね。
実際のアニメーション制作もサテライトで行っています。ちなみに脚本は,「マクロスΔ」で一緒にやってきた根元さん(脚本家:根元歳三氏)にお願いしています。
高橋監督:
映画の企画段階は河森総監督が中心に進めていて,自分は本読み(※プロットや脚本を読みながら行う会議)が始まってからの参加になります。あとは絵コンテやメカのCG,主な打ち合わせなども,河森総監督に随時監修してもらいつつ,自分も参加しています。そのほか,絵を紙に描くような実作業は,自分がメインで担当をさせていただいてます。
―――今回の映画はファンタジーものですが,河森総監督にとって,この世界観だからこそ行えたアプローチや演出などはありましたか。
河森総監督:
私にとってファンタジーの世界観を採用した作品は,「天空のエスカフローネ」以来となります。
これまでの作品では,ミリタリー系のロボットなどを手がけることが多かったですが,どうしても空気抵抗とか,どうやって弾を避けるのかとか,現実の戦いがベースになってしまいがちなんです。
それがファンタジーになると,理屈の制約が少ないというか,キャラクターの感情を表に出すようなアクションが行いやすかったですね。生身の人間と巨大な敵が戦うような構造が作りやすいのもファンタジーの魅力的な部分のひとつですし。カスミとエドガー,リズたちの感情ドラマを描くのもやりがいがありました。あとは,単純に描いていて新鮮で楽しかったですね(笑)。
高橋監督:
作り手にとっての自由度が高いのがファンタジーの良いところだと思います。ただ,そのうえで説得力のある映像を作るには,リアリティをもたせた動きなどをしっかり考える必要があり,制作中はこの部分に注力しました。
メカに関しては,河森総監督が素晴らしいアイデアを出してくれているので,自分はそれに乗っかる形で,さらにブラッシュアップを重ねていきました。
河森総監督:
リアリティという意味においては,「マクロス」のシリーズをずっと担当しているチームやメンバーも,今回の映画制作に参加しています。メカが得意な彼らといっしょに作業しながら,「どう? ファンタジーだったら,よりデフォルメして見せられるよね」といったやりとりを交わすことも多いですね。
―――主人公のカスミに関して,どのようにキャラクターやストーリーを作り上げましたか。
河森総監督:
私の場合,ファンタジーものの企画は,メカものの企画とは違って,なかなか実現には至らなかったんです。そんなときに今泉プロデューサーから映画制作の話をもちかけられて,「こういったプランがあるんですけど」と,カスミの構想を伝えたら,乗り気になってくれまして。タガタメ向けにアレンジを加えて,カスミを作り上げていきました。
―――実際にカスミを手がけるとき,どういった部分にこだわりましたか。
河森総監督:
自分たちが若い頃って,たとえ「やるな!」と言われても,勝手にやってしまう人達がすごく多かったんです。それが,いつしか「こういうことをやったほうがいいよ」と言われたことだけをやる時代になり。最近になると,余程強く言ってあげないと,自分を出せない人も増えているようにも思えます。こうやってひとくくりに語るのは良くないし,あくまで大枠としての印象ですけれど……。
SNSがこれだけ流行っていて,「空気読め」と言われ続けるこの社会では,思いっきり表現することが難しくなっているのかな? と考えることもあります。表現できる媒体はこんなにたくさんあるのに,他の人にどう見られるかを意識してから表現しなければいけない,みたいな。
そんな時代に生きていて,自分を出し切れていない子がいたら,どんな感じなんだろう? というのは,カスミのキャラクターを設定するときに,すごく考えた部分ですね。
自分を出し切れていないけど別に根暗なわけでもなく,何かに閉じこもっているわけでもない。いまの時代によくいそうな……という風にくくりたくはないのですが(笑),これくらいのバランスのキャラクターを目指しました。
高橋監督:
たとえば,現代世界でカスミがお母さんと会話するシーンがあるのですが,そういったときは大人しく,きちんと話を聞きます。しかし,自分の興味があるものにはグイグイいく一面もあります。
そういった“現代っ子”が,バベル大陸での冒険を通じてキャラクターとして成長する過程を,しっかり描きたいと思いました。彼女がもともといた世界とバベル大陸とで,表情などもメリハリを利かせているので,映画を鑑賞するときはその辺りにも注目してほしいですね。
―――お二方にとって,今回の映画作りにおけるテーマのようなものがあれば教えてください。
高橋監督:
過去の偉人たちを“幻影兵”という形で召喚できるのは,タガタメにおける大きな要素です。しかし,それが具体的にどういったものかというのは,ゲーム内ではそこまで深くは掘り下げられていませんでした。
今回の映画では,幻影兵が実際に,どこからどうやって来るのかなど,描写などを含め深く掘り下げています。この部分には,ぜひ注目してほしいですね。
河森総監督:
錬金術に関しては,単にスキルとして召喚を行うだけでなく,人間が成長するときに必ず通るであろう“魂の錬金術”を,サブテーマとして個人的に考えています。
あとは,キャラクターひとりひとりの個性ですね。タガタメのゲーム本編でも,各章に登場するエドガーやリズ,ロギたちの主要キャラクターらがしっかり描かれています。そこにヒロインであるカスミが入っていくなかで,どうやってその感情や個性を生かすのか。その部分をしっかり描きたいと思いました。
―――ゲームの熱心なファンに向けて,映画の見どころをあらためて紹介していただけますか。
高橋監督:
ゲームのファンならPVなどを見て分かると思いますが,ザインやセツナをはじめとした人気キャラがたくさん出てきます。それぞれの描写にもこだわっており,さきほど申し上げた幻影兵としての描写も含め,ファンにとって喜んでいただけるのではと思います。
河森総監督:
映画の時系列としては,ゲームのメインストーリーが終了してからの話になります。たとえばエドガーがそうなんですが,ゲームの経験者にとってはなじみのあるキャラクターも,映画ではすこし性格などが違って見えるかもしれません。そういった,ゲームとの違いも楽しんでいただけるかと。
あとは,クライマックスで各キャラが活躍するシーンは,やっぱり燃えますね(笑)。gumiやFgGのスタッフさんたちも,ラッシュ(※編集前の映像チェック)を見たときは大変盛り上がっていましたが,ゲームの熱心なファンならきっと分かってくれると思います。
ゲームのタガタメは,小さなスマホの画面で長時間遊びます。しかし映画のタガタメは凝縮された時間で,巨大なスクリーンで縦横無尽に活躍するキャラクターなどをたっぷり楽しめます。同じタガタメでも,ゲームとは違った体験ができますので,ぜひ劇場まで足を運んでいただきたいですね。
「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」特設サイト
「誰ガ為のアルケミスト」公式サイト
「誰ガ為のアルケミスト」ダウンロードページ
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