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[SPIEL’15]大逆転妙手が飛び出した「第10回 カルカソンヌ世界選手権」レポート。2014年優勝の望月選手は惜しくも準優勝
ちなみに昨年2014年は,日本代表の望月隆史選手が2013年優勝のギリシア代表Pantelis Litsardopoulos(パンテリス・リチャルドプロウス)選手を破って優勝。今年は日本から,ディフェンディングチャンピオンである望月選手と,日本選手権優勝の根岸 丈選手の2名が参加することとなった。
ドイツゲーム(またはユーロゲーム)は,勝ち負けはあっても,楽しむためにゲームをするというのが一般的な遊び方だ。だが,それがドイツゲームのすべてではない。本稿では,そんな競技ゲームとしてのカルカソンヌにフォーカスを当てつつ,世界大会の模様をレポートしていこう。
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31か国からカルカソンヌのツワモノが集まる
カルカソンヌ世界選手権は,SPIEL’15の最終日となる4日目(現地時間の10月11日)に開催された。試合会場はカルカソンヌのパブリッシャであるHans im Gluckのブース――ではなく,世界選手権専用のスペースが設けられていた。頭上には,試合経過を実況するためのカメラも用意されており,その映像を見ながら大型ディスプレイで実況解説が行われるなど,さすがは世界選手権という豪華仕様のステージだ。
決勝戦に参加したのは,31か国でそれぞれ行われた予選を勝ち抜いた各国チャンピオンと,昨年チャンピオンの望月選手の合計32名。このうち5名が優勝経験アリという,非常に濃いメンツである。その中には当然のように,昨年望月選手に苦杯を舐めさせられたリチャルドプロウス選手の姿もある。
カルカソンヌは2〜5人でプレイするゲームだが,トーナメントでは1対1形式で対戦が行われた。予選はまず6ラウンドが行われ,勝ち点をもとに準決勝に進出する4名が決定される(いわゆるスイス・ラウンド)。準決勝からはシングルエリミネーション方式のトーナメントとなり,それぞれのテーブルの勝者が決勝戦に,敗者は3位決定戦へとコマを進めることになる。
昨年優勝の望月選手は,ラウンド1でスロバキア代表のMatej Tabak選手に敗北するも,そこからは順調に勝ち続け,見事に準決勝に進出。望月選手以外には,ブラジル代表のHumberto S. Fukuda選手,オランダ代表のEls Bulten選手,そしてギリシア代表のリチャルドプロウス選手が準決勝にコマを進めた。
準決勝もまた白熱した試合となったが,決勝へと勝ち上がったのは望月選手とリチャルドプロウス選手。なんと,2014年大会と同じ顔ぶれによる決勝戦となったわけだ。
望月選手の圧倒的な優勢で進んだ決勝戦
決勝戦の序盤は,静かに進行していった。望月選手は,修道院の支配などを通じて,着実にリードを積み重ねていく。徐々に手が遅れていくリチャルドプロウス選手だったが,逆転の希望は残されている。マップ中央にできつつある,巨大な都市の支配だ。
カルカソンヌでは,都市の支配はその都市に置いた自分のコマの数によって決定される。ゲームが中盤まで進んだところで,大きな勝利得点をもたらしうる巨大都市の支配権は,リチャルドプロウス選手のコマ2に対し,望月選手のコマ1。そしてこの巨大都市から入る得点は,その段階で望月選手が得ていたリードをひっくり返しえた。
ところが中盤戦も終わりに差し掛かろうかというとき,望月選手が状況をひっくり返すタイルを手にした。
これによってそれまで分断されていた小都市が巨大都市に合流,小都市に置かれていた望月選手のコマもまた巨大都市へと合流し,リチャルドプロウス選手による都市の支配は崩れてしまう(コマの数が同数のときは双方に点数が入るので,点差が生まれない)。
この段階で,勝負あった。解説者は望月選手の有利を語り,観客からは強烈な一手にどよめきがあがった。そしてもはや盤面のどこを見渡しても,リチャルドプロウス選手が大きな得点を単独で獲得できそうな場所はない。本作において,もう一つゲーム終了時に巨大な得点となりうる平原の支配にしても,最も得点の高い平原は望月選手が単独支配している。
本作では,一度支配が決まった都市や平原を後から乗っ取るのはかなり難しい。仮に平原の支配がひっくり返えったところで,引き分けの状況になることはあっても,リチャルドプロウス選手が逆転して支配するのはほぼ不可能な状況だ。
ゲームも終盤に入り,残るタイルも終わりが見えてきた。カルカソンヌでは,すべてのタイルを使い切ったら,そこでゲームは終了。つまり,リチャルドプロウス選手に残された時間は,そう長くない。
望月選手は着実にリードを広げ続けており,逃げ切りはほぼ確定と思われた。これがオンライン対戦のカジュアルマッチなら,ほとんどのプレイヤーが「GG」と言う,そんな局面である。
リチャルドプロウス選手の妙手
だがリチャルドプロウス選手は1枚のタイルを手に取ると,長考を始めた。
カルカソンヌ世界選手権ではチェスクロックを使って試合時間をコントロールしている。決勝までは持ち時間1人15分だが,決勝は30分。かなり長考できる。
悩みに悩んだ末,リチャルドプロウス選手が打ったのは,とてつもない妙手だった。それ単体では大きな点数を生むことの少ない,何もない平原に直線道路が1本通っているだけの,ありふれたタイル。このタイルを,置いただけでは点数にならない場所に置いたのである。
一見すると意図の見えにくい手だが,決勝の会場に詰めかけたカルカソンヌファン達からは,一斉にため息と感嘆の声が漏れた。この手は,それなりに良いドローが2回あれば,望月選手が単独支配している平原の支配をタイに持ち込めるだけでなく,逆転支配できる。その礎になる一手であった。筆者の隣で観戦していたギリシアの老紳士も,がぜん興奮しはじめた。
もちろん望月選手もその意図を素早く見抜き,逆転されないようなケアを始めた。
だがここで,幸運の女神は双方の選手に意地悪をする。望月選手は,リチャルドプロウス選手の計画を完全に潰すタイルが引けない。リチャルドプロウス選手は,野心的な計画を実現できるタイルを引けない。互いに膠着した状況のまま,激しいつばぜり合いが続いた。
ゲームが大きく動いたのは,残りタイルが数枚になったときだ。リチャルドプロウス選手がついに,「最も必要だったタイル」を引き当てたのである。観客が小さくどよめいた。
リチャルドプロウス選手はそれ以外の手の可能性を十分に考えた後,分離していた彼の平原を,望月選手が支配する巨大平原に連結。これによって,平原からの得点は双方に与えられることになった。
だが,これではまだ,全体を見れば望月選手の有利は覆らない。あと1枚,先ほどの「妙手」で配置した平原と巨大平原を連結し,リチャルドプロウス選手が巨大平原の支配を奪い取らない限り,望月選手の2年連続優勝は動かないのだ。
しかして,リチャルドプロウス選手は大型タイルの山に手を伸ばし――必要なタイルをつかみ取った! 巨大平原の支配は覆り,リチャルドプロウス選手は一気に望月選手を追い上げる。そしてその直後,ゲームは終了した。
トーナメントスタッフにより,得点計算が行われる。道路,都市と得点計算は続くが,望月選手のリードはなお覆らない。だが最後に,平原の得点が計算され,その得点が合計されると……リチャルドプロウス選手101点,望月選手97点。
奇跡の大逆転で昨年のリベンジを果たしたリチャルドプロウス選手は,記念すべき第10回大会の優勝者となると同時に,世界大会で複数回優勝した初めてのプレイヤーとなった。
なお本大会は,10週年を記念したチャリティーイベントでもあり,参加選手が勝利得点1を獲得するごとに,50セントが寄付金となる仕組みになっていた。最終的には5000ユーロを軽く越えたようで,キリの良い数字として6000ユーロが寄付されることとなった。
※初出時,賞金6000ユーロと書いておりましたが,関係者からの指摘により,表記を改めました。
1つ1つの勝負をちゃんと悔しがることが強さの秘訣――準優勝・望月隆史選手ミニインタビュー
決勝戦の終了後,激戦の興奮も冷めやらぬ望月選手に話を聞く機会を得たので,その模様を最後に掲載する。2014年の優勝,そして今年2015年の準優勝と,日本代表としてその実力を示し続ける同選手に,その強さの秘訣を聞いてみた。
4Gamer:
決勝戦,お疲れ様でした。まさかあの道タイルが逆転にまでつながるとは……。あれだけのリードが覆されることがあるんですね。
望月選手:
いやあ,分かってたんですけどね。こっちにも余裕がなくて,ダメでした。カルカソンヌはあるんですよ,ああいうことが。油断できないんです。悔しいですね。
4Gamer:
優勝は惜しくも逃しましたが,素晴らしい試合でした。決勝戦はもちろんだと思いますが,それ以外でもっとも印象に残った試合というと,どれになるでしょうか。
望月選手:
第1回戦ですね。スロバキアのMatej Tabak選手は強豪でして,世界大会の常連なんです。彼は早指ししてくるタイプの打ち手で,彼の早指しに飲まれてしまって,初戦を落としてしました。それから,6回戦も印象深かったです。ものすごく伯仲した勝負で,お互いに綱渡りの展開になって。お互いなんとか綱を渡りきった結果,勝ったのは僕という試合でしたね。
4Gamer:
カジュアルに遊んでいると,カルカソンヌは運の要素が強いゲームのように感じていましたが,やはり世界大会常連レベルになると,実力がハッキリあらわれるものなのですね。強豪選手は72枚のタイルをすべて覚えていると聞きましたが,やはりそういうものなのですか。
望月選手:
そうですね。日本の国内予選でも,皆覚えていると思いますよ。というか,プレイしてれば自然に覚えますから。
4Gamer:
ということは,それがもうスタートラインなのですね。ライトなプレイヤーには,それだけでもう驚異なんですが,望月さんは普段はどれくらいプレイされているのでしょうか。
望月選手:
実は,最近はそこまでプレイできていないんです。練習日には1日10時間,20時間とプレイしますが……そうですね,週平均で5時間〜20時間くらいというところです。
4Gamer:
対戦相手はどのように確保しているのでしょう?
望月選手:
僕は名古屋で活動しているのですが,カルカソンヌの大会を意識したゲーム会を立ち上げていまして,そこでチェスクロックを使った勝負を定期的に行っています。3か月で2回くらいのペースですね。名古屋以外にも,こういう「競技カルカソンヌ会」みたいなのが全国あちこちで育っていますよ。
4Gamer:
おお,そういった場で選手が育っていくわけですね。
ところで,一つのゲームを長く楽しみ続ける秘訣のようなものって,なにかあるのでしょうか。カルカソンヌは2000年発売のゲームですし,今となっては枯れたゲームといって過言ではないと思うのですが。
望月選手:
周囲に仲間がいるというのが,一番大事ですね。もちろん,ネットを介してプレイしたり,スマートフォンアプリで1人で練習したりもできますが,一緒に遊べる人がいるかいないかは,大きな差になると思います。それから,1つ1つの勝負をちゃんと悔しがること。「勝ったね」「負けたね「じゃあ別のゲームをしようか」ではなく,「負けた,悔しい,もう1ゲームだ!」と思えることが大事です。
4Gamer:
それが強くなるコツでもあると?
望月選手:
ええ。その「もう1ゲーム」を繰り返していくなかで,反省点を活かして技術を磨いていくわけですから。ただ,こういう繰り返しに耐えうるゲームって,実はそんなに多くないんですよね。カルカソンヌは,まさにそんなゲームの一つだと,僕は感じています。
4Gamer:
分かりました。また来年,この場でお話が聞けるのを楽しみにさせていただきます。そのときは,ぜひ優勝者へのインタビューとして掲載できると嬉しいですね。
望月選手:
頑張ります(笑)
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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