レビュー
全長300mm級の大型オリジナルモデルは,ゲーマーの期待に応えてくれるか
PowerColor Red Devil RX 480 8GB GDDR5
(AXRX 480 8GBD5-3DH/OC)
PowerColorのミドルクラス〜ハイクラスグラフィックスカード製品シリーズであるRed Devilは,独自のGPUクーラーと,メーカーレベルのクロックアップ設定が特徴という,市場でよくあるタイプだが,Red Devil RX 480はそのなかで個性を発揮できているだろうか。「RX 480のクロックアップ効果」も裏テーマとしつつ,その実力を明らかにしてみたい。
OC ModeとSilent Modeの2つのVBIOSを搭載
OC Modeではブースト最大クロックが約5%上昇
Red Devil RX 480の搭載するRX 480がどんなGPUかという話はGPUレビューを確認してもらうとして,さっそく,カードの仕様を見ていこう。
「Radeon HD 7970」以降のRadeon搭載グラフィックスカードでしばしば見られる「Dual BIOS Toggle Switch」を,Red Devil RX 480も採用しているという理解でいいだろう。
なお,メモリクロックはいずれの動作モードでも,リファレンスと同じ8000MHz相当(実クロック2000MHz)だった。
カード長はリファレンス比で56mmも長い約300mm。クーラーは80mm角相当のファン3連仕様
リファレンスカードの6ピン
そのGPUクーラーは2スロット仕様で,80mm角相当のファンを3基搭載するタイプだ。Red Devil RX 470で搭載するクーラーは90mm角相当のファンを2基搭載したタイプだったので,こちらは,似て非なる仕様ということになる。
もっとも,ファンの羽は2枚が先端部で結合したような「Double Blade III」(※Webサイト上の表記では「Double Blades Fan」)となり,GPU温度が60℃を下回る条件ではファンの回転を自動的に止める「Mute Fan Technology」を採用する点は,Red Devil RX 470と同じ。このあたりが今世代におけるRed Devilシリーズの特徴ということなのだろう。
GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為であり,クーラーを取り外した時点でメーカー保証は失効する。その点をお断りしつつ,今回はレビューのために特別に取り外して,GPUクーラーと基板を確認していこう。
すると分かるのは,GPUの熱を銅製の枕で受け,8mm径が2本,6mm径が2本で計4本のヒートパイプが,2か所あるヒートスプレッダ部へ運ぶ構造になっていることだ。また,メモリチップと電源部の熱はヒートシンクで受けて,これも3連ファンのエアフローで冷却する仕様になっていることも見て取れる。
RX 480 GPU。パッケージのすぐ近くにある,Tulが内部で扱っている基板の型番と見られるシルク印刷「LF P10F V10」は,Red Devil RX 470と同じものだった |
メモリチップはSamsung Electronics製の「K4G80325FB-HC25」(8Gbit,8Gbps品)。動作マージンはない |
ちなみに,搭載する電源部品はTulが「Gold PowerKIT」と呼ぶ,高品位なものとのことだが,アルミ固体コンデンサやチョークコイルはよくあるもので,それほど特別なもののようには見受けられない点や,ON SemiconductorのN-Channel MOSFET「4C03N」と「4C10N」がずらっと並んでいる点,搭載するデジタルPWMコントローラがInternational Rectifierの「IR3567」である点も,Red Devil RX 470と同じだった。
OverclockとSilentの両モードでテストを実施。比較対象はRX 480とGTX 1060 3GBに
主役となるRed Devil RX 480では,OverclockとSilentの両モードでテストを行う。スペースの都合上,グラフ中では順に「Red Devil RX 480(OC)」「Red Devil RX 480(Silent)」と表記するので,この点もお断りしておきたい。
テストに用いたグラフィックスドライバは,Radeonが「Radeon Software Crimson Edition 16.9.1 Hotfix」,GTX 1060 3GBが「GeForce 372.70 Driver」で,いずれもテスト時に最新バージョンとなるものだ。そのほかテスト環境は表のとおりである。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション18.0準拠。ただし,「3DMark」(Version 2.1.2973)においては,DirectX 12のテストである「Time Spy」も実施する。テスト方法はレギュレーションで規定する「Fire Strike」と同じで,2回実行し,高いほうの総合スコアを採用するというものとなる。
テスト解像度は,AMDがRX 480を「Beyond HD Gaming」用と位置づけていることもあり,1920
なお,テストに用いたCPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除する目的で,マザーボードのUEFIから無効化している。
メーカーレベルのクロックアップ効果は極めて限定的
では,順にテスト結果を見ていこう。
グラフ1は3DMarkにおけるDirectX 11版テストであるFire Strikeの総合スコアをまとめたものだ。Red Devil RX 480の標準設定であるOverclockモードはRX 480比でスコアを約2%伸ばしているものの,ブースト最大クロックで約5%の違いがあることを考えると,大人しめの結果と言える。
Silentモードで動作するRed Devil RX 480だと,スコアはリファレンスとほぼ同じである。
続いてグラフ2はTime Spyの結果となる。Time Spyでも,Overclockモードで動作するRed Devil RX 480とRX 480のスコア差は約2%に留まった。
対GTX 1060 3GBで約6%のスコア差を付けているのは,DirectX 12に強いPolarisマクロアーキテクチャのGPUらしいところと言えるだろうか。
「Far Cry Primal」のスコアをまとめたグラフ3,4だと,Red Devil RX 480のスコアは,3DMark以上にRX 480との違いがなくなってしまった。ほぼ横並びと述べてまったく問題のない結果であって,メーカーレベルのクロックアップ効果はまったく感じられない。
グラフ5,6の「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)だと,Red Devil RX 480のOverclockモードはRX 480比で2〜6%程度高いスコアを示した。もっともここでは,Radeon Software Crimson EditionはARKへの最適化が足りていないこともあり,RX 480の3条件がGTX 1060 3GBのスコアに届いてないことのほうが目を引く。
「Tom Clancy’s The Division」(以下,The Division)のスコアがグラフ7,8だが,ここでのスコアは3DMarkやFar Cry Primalと同じ傾向だ。Red Devil RX 480はOverclockモードで,RX 480に対して最大でも約2%高いスコアを示すのみである。
続いて「Fallout 4」の結果がグラフ9,10だが,もう,「Radeonの3条件でスコアが完全に横並び」と言っていいほどだ。
なお,1920
グラフ11,12にスコアをまとめた「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)でも,見事なまでにRed Devil RX 480のOverclockモードとSilentモード,RX 480のスコアが並んでいる。グラフを見る限り,クロックアップの効果はないと言わざるを得ないだろう。
グラフ13,14の「Project CARS」でも,これまでの傾向と同様に,Red Devil RX 480のOverclockモードはRX 480に対して有意なスコアを示すことができていない。
Project CARSに向けたRadeon Software Crimson Editionの最適化が進んでいないため,GTX 1060 3GBに総じて一歩及ばない感じなのは,Fallout 4やFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチと同じだ。
Overclockモードの消費電力はRX 480比で4〜14%程度高い。静音性はまずまずか
クロックアップモデルで気になる消費電力も確認しておこう。ここでは,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用して,システム全体での消費電力を比較してみたい。
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値が記録された時点を,タイトルごとの実行時とした。
その結果はグラフ15のとおり。アイドル時の消費電力はRX 480比で数%高いが,これは基板上の部品点数がリファレンスカードより増えているということで,納得できるレベルだろう。
一方のアプリケーション実行時だが,Silentモードで動作するRed Devil RX 480の消費電力は,RX 480のリファレンスカードとほぼ同じながら,標準のOverclockモードだと,消費電力は11〜36W程度高くなった。パーセンテージで言えば4〜14%程度高い。ゲーム性能にはほとんど影響がないにも関わらず,最悪,1割以上も消費電力が上がってしまうのは,正直,いただけないと言わざるを得ない感じである。
「GPU-Z」(Version 1.10.0)を用いて,GPUクーラーの冷却性能も見ておきたい。ここでは,温度24℃の室内で,テストシステムをPCケースに組み込まず,いわゆるバラックに置いた状態から,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」とし,アイドル時ともども,GPU温度を計測することにした。
その結果がグラフ16だ。取り上げているグラフィックスカードはGPUクーラーが異なり,温度センサーの位置や取得タイミングも異なるため,あくまでもOverclockおよびSilentモードにおけるRed Devil RX 480のスコアを見るに留めたいが,アイドル時はファン回転が停止するものの,50℃台前半で収まっており,なかなか優秀。高負荷時は,カード長を300mm級とする3連ファン仕様のクーラーを搭載する割には拍子抜けという気がしなくもないが,しかし75℃前後と,十分に低い温度を実現できてはいる。
最後に,その動作音も確認しておこう。今回は,カードと正対する形で30cm離した地点にカメラを置き,カードの様子を音声付きのビデオとして撮影し,それを下のとおりムービーにまとめてみることにした。
テストにあたっては,デフォルトのOverclockモードを選択のうえ,まずはPCをアイドル状態で1分間放置し,その後,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを「最高品質」の2560
というわけで実際に再生してもらえればと思うが,テスト開始後1分間は,ファンが停止しているため,聞こえてくる音は周囲の環境音だ。1分後にベンチマークを実行すると,その8秒後ぐらいにはファンが回転を始め,しだいに動作音が大きくなっていく。
そして,ベンチマーク実行後3分経過したあたり(=ムービーの冒頭から約4分経過時点)になると,その動作音は相応に大きくなった。もっとも,「静音性が極めて高いとは言わないが,PCケース内に入れてしまえば,まったく気にならないレベル」の動作音なので,目くじらを立てる必要はないだろう。
大型クーラー搭載のクロックアップモデルとしては期待外れ。十分に静かなRX 480カードと評価すべきか
Tulとしては,メーカー保証外となる自己責任でのオーバークロックを試してもらいたいということなのかもしれないが,そのデモンストレーションとしては,「5%高い動作クロック設定で,その効果がほぼない」というのは弱すぎるだろう。今回の結果だけ見ると,むしろSilent Modeで「確実に冷えるRX 480カード」として使うほうが有意義であるようにすら感じられる。
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PowerColorのRed Devil RX 480製品情報ページ(英語)
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