インタビュー
VR脱出ゲーム「Last Labyrinth」試遊レポート&開発者インタビュー。少女とコミュニケーションを取りつつギミックを解いていく新感覚脱出ゲームとは
今回,ほぼ完成バージョンの本作を試遊し,開発スタッフへのインタビューを行う機会を得たので,紹介していきたい。
「Last Labyrinth」公式サイト
テストプレイでは,製品版と同じゲームの序盤を遊ぶことができた。ゲームを開始するとプレイヤーは見知らぬ館の1室で車椅子に拘束されており,なぜか同じ部屋にいて知らない言語を話す謎の少女「カティア」の助けを借りて脱出を試みる。身体を動かせず言葉も通じないため,カティアとのコミュニケーションは視線の移動を用いて行うことになる。
具体的には,ドアノブなど動かしたいオブジェクトに視線を向けてコントローラのボタンを押すと,カティアがとことこと移動し,「これ?」と問いかけるようにオブジェクトを指さす。そこで首を縦に振ってイエスの意を示すと,カティアがプレイヤーに代わってアクションを取る。ノーなら首を横に振ればいい。
そうやってカティアに指示を出し,仕掛けられたギミックを解除して首尾よく扉を開けることができれば次の部屋へ進める。
もしギミックの解除に失敗したら……? こちらは本作の大きな見どころの1つで,例えばある部屋では,カティアがギロチンで斬首されるさまを見届けたのち,プレイヤーも同じ運命を迎え,ゲームオーバーになってしまう。
いくつかの部屋からの脱出に成功すると,視界の開けた崖上に出る。そこでカティアが意味深な行動を見せたりするのだが,そのあとプレイヤーはなぜか再び,館の1室に戻されてしまう。しかし,そこは最初の部屋と同じように見えてオブジェクトが追加されるなどの変化があり,すでにクリアした部屋は消えて,新しい部屋へと続く扉が現われる。
こうしてまた,いくつかの部屋を脱出すると,崖上に出てカティアがさっきとは異なる行動を取り,プレイヤーはまたしても館の1室に戻される。その部屋には,以前はなかった新しいオブジェクトがあり……というループを繰り返す中で,マスクで顔を隠した謎の人物「ファントム」が現われ,ストーリーが進行していくのだ。
なぜ自分が拘束されているのか,なぜ何度も館の1室に戻されるのか,なぜループするごとに部屋のギミックが変わるのか……リアルの世界でこれだけ謎だらけの状況に追い込まれたら,おそらく多くの人はパニックに陥るだろう。
しかし幸いなことに,本作はゲームだ。一見しただけでは何が何やら分からないギミックも,部屋を隅々まで注意深く見渡せば,解除のヒントは必ずどこかにある。
例えば,プレイヤーがカティアにアクションを取らせるためにうなずいたあと,確認するかのようにうなずき返したり,ドアを開けるとき,その先に何があるのか恐る恐るのぞき込んだりと,その可愛い仕草をずっと眺めていたくなってしまう。
本作を一度プレイすれば,この謎めいた館そのものとカティアの存在こそが,冒頭に記した「VRだから実現できる世界観」と「仮想キャラクターとのコミュニケーション」を指していると得心できるのではないだろうか。
パートナーを活躍させるために
プレイヤーに制約を与えた
本作の開発を手がけるのは,「どこでもいっしょ」シリーズのディレクター/プロデューサーを務めた高橋宏典氏,「パペッティア」「人喰いの大鷲トリコ」のゲームデザイナー・渡邉哲也氏,「ICO」「ワンダと巨像」のキャラクターアニメーター・福山敦子氏ら,そうそうたる経歴のスタッフ達だ。
試遊を終えたあと,この3氏に本作を企画した経緯や開発中のエピソードなどを聞かせてもらった。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはあらためて,「Last Labyrinth」のコンセプトや企画の経緯について教えてください。
高橋宏典氏(以下,高橋氏):
発端は,私自身がVRコンテンツを作ってみたいと考えたことです。それで,せっかく作るならVRならではの体験ができるのものにしようと。そのうえで,「ICO」や「ワンダと巨像」のキャラクターアニメーターを務めた福山のスキルやノウハウを活かせるようなものにしたいと思いました。
4Gamer:
VRならではと言うと,プレイヤーがゲーム内の世界を歩き回るようなゲームを最初に考えそうに思いますが,本作では逆にプレイヤーが拘束されて動けない状態に陥っていますね。
高橋氏:
仮想のキャラクターと一緒にプレイヤーに何かをさせようというのも,初期のコンセプトにありました。以前,「どこでもいっしょ」のプロジェクトで仮想のキャラクターとのコミュニケーションを手がけた経験から,それがVRと親和性が高いことに着目したんです。ただ,プレイヤーが自由に活動できてしまうと,せっかくのパートナーが活かせません。そこでプレイヤーに制約を与えたんです。
4Gamer:
なるほど,よりパートナーを活かすためのゲームデザインであると。
高橋氏:
それともう1つは,多くのVRコンテンツは操作が複雑だと感じていたんです。例えば移動方法だけを見ても,リニアに移動するものもあれば,ワープ形式になっているものもある。コンテンツ間での操作も統一されていないので,「このゲームで歩くには,どのボタンを押すんだっけ?」といったように,没入感を覚えるまでに時間がかかってしまいますよね。
4Gamer:
確かに,プレイヤー自身は動けず,最低限の操作ですぐにこの世界に没入できるというのは,本作ならではの特徴になっています。
高橋氏:
先に似たようなゲームデザインのコンテンツが出るかな,とも思っていたんですが,同じ脱出ゲームや謎解きゲームでも,プレイヤー自身が館内を探索するようなタイプが多いですね。プレイヤーに制約があって,パートナーが活躍するようなコンテンツはまだ少ないので,結果的にはユニークなゲームデザインとなりました。
4Gamer:
それでは世界観についても教えてください。脱出ゲームと言っても,いわゆるファンタジー風だったり,無人島だったりといろんな方向性があると思うのですが,あえてホラー調を選んだ理由は何でしょうか。
私自身,「フェノミナ」や「サスペリア」に代表されるダリオ・アルジェント監督作品など,昔のイタリアンホラー映画の雰囲気が好きなんです。とくに意識していたわけではないのですが,それが自然に出てしまったのかなと。
またゲームデザインを考えるときに,プレイヤーが失敗したことをどうやって伝えるかという課題があります。その点,謎解きに失敗したら死のギミックが起動して,パートナーともども命を落としてしまうというのが,納得感という点でもゲームの仕組みとしてもちょうどいい。最初はホラーにするつもりはなかったのですが,結果的にホラーっぽくなってしまいました。
4Gamer:
実際,ホラーそのものではないですよね。
高橋氏:
ええ,社内でも「ホラーではない」という啓蒙活動をしています(笑)。
渡邉哲也氏(以下,渡邉氏):
「緊張感が強い」という表現のほうが合っていると思います。
高橋氏:
緊張感や不安感が常にある状態を作ろうと考えていたので,そこは意図どおりになりました。おそらく,多くの方はホラーと聞くと,暗がりからいきなりゾンビやピエロみたいなヤツが出てきて,プレイヤーがうわっと驚くようなものを想像すると思うのですが,そういった要素は極力少なめにしています。基本的には,事前のプレイヤーの行動など,すべてに前振りがあって,その結果として残酷な表現が登場し,嫌な感じにつながっていくわけです。
渡邉氏:
嫌な感じというか,不穏な感じがありますよね。
4Gamer:
例えば館ではなく,舞台を古城や神殿のようなもっと広い場所にすることは考えなかったのでしょうか。
渡邉氏:
最初に挙がったさまざまなアイデアから,本作を表現するうえで必要ではない要素を引いていき,残ったものだけを見せたいという考えのもとで館を選択しました。館に決まったあとも,中庭や食堂があったりしてもいいんじゃないかというアイデアが出ましたが,そこはこだわって削ぎ落としています。
高橋氏:
パートナーとの関係性や謎解きに集中してもらうため,ひたすら削ぎ落としたものを出しましょうと。またプレイがループするときのインターバルで崖の上のシーンが登場しますが,それと館内の対比を際立たせたいという意図もあります。館の中では屋外を感じさせる要素をとにかく少なくして,閉じ込められている感覚を表現し,崖の上の開けた風景とのコントラストを強調しました。
ギミックの使い回しはなし
さらにヒントも最小限に
4Gamer:
各部屋のギミックのアイデア出しは,どのように行ったのでしょうか。
高橋から,こういうことがやりたいと言われたケースもありますし,チーム内で各自のアイデアをプレゼンして,その中から選んでいくというケースもありました。
4Gamer:
プレイヤーが失敗して,カティアと共に命を落とすシーンもバリエーションが多いですが,これもギミックと同じようにアイデアを出し合っていったんですか。
渡邉氏:
そのとおりです。
福山敦子氏(以下,福山氏):
謎解きの内容から考えたものもあるし,その逆もありましたよね。
渡邉氏:
先に死因を決めてから,謎解きのギミックを逆算して作った部屋もありますね。基本的にゲームが進行するほど,作る側としてはギミックや死因の制限がキツくなって……。
高橋氏:
これは前に使ったヤツに似てるからダメ,というケースが出てくるんです。
渡邉氏:
大雑把に言ってしまうと,謎解きで必要なカティアの行動は「スイッチを押すこと」と「パネルを動かすこと」ぐらいしかないので,ゲーム後半で彼女にそれ以外のアクションをさせる謎解きを作らなければならないという縛りが出てきたときは,かなりしんどかったですね。
高橋氏:
そういえば,モーションを作っている福山が「またパネル!?」とキレたときもありました(笑)。
福山氏:
パネルを動かすアクション自体には,そんなに特徴がないんですよ。それなのに,数を作らなければならないので……。
渡邉氏:
カティアの可愛らしさを表現できるわけでもないのに,数だけは多くて労力がかかりますから。あのときはチーム内がちょっとギスギスしました(笑)。
福山氏:
いや,ギスギスはしてなかったですよ!
高橋氏:
あと,死因については,まずプレイヤーにゲームオーバーだと明確に伝えられることが重要でした。このゲームでは,カティアとプレイヤーの死亡原因は同じです。カティアの死は客観的に見るものですが,プレイヤー自身の死は主観視点ですから,その2つの視点で描ける死因であるかどうかも重視しています。そうやって,たくさんのアイデアから,カティアの死因としても,プレイヤーの死因としても納得できるものを選び出していったんです。
4Gamer:
例えばギロチンで斬首されるシーンは,主観視点で見るとかなりのショックを受けますよね。
渡邉氏:
実際テストプレイでは,手に汗をかいたり震えたりしている人もいました。あれくらいがギリギリですね。
高橋氏:
人間は視覚の優位性が高いんですよね。カティアの死を先に見せるのもそれが理由で,これからプレイヤーに起きることを想像しやすくしているんです。カティアが迎えた死を,これから自分も迎えるんだぞと。
4Gamer:
ゲーム全体の難度付けにも苦労したかと思うのですが,いかがですか。
高橋氏:
テストプレイを重ねて分かったんですが,この手のゲームの場合,難度の段階を作るのが難しいんです。
渡邉氏:
人によって,得意不得意があるんですよね。
高橋氏:
序盤の謎解きでも,サクサク進める人もいれば,何分考えても解けない人もいて,個人差が大きいんです。比較的詰まる人が多い部屋もいくつかありますが,それ以外は「簡単だった」「全然分からなかった」と大きく評価が割れるんですよね。結論として,万人が納得する難度付けは不可能だなと。
渡邉氏:
その意味では逆に,苦労はなかったとも言えます。
高橋氏:
その代わり,ゲームの後半では脳のいろんな部分を使うような謎解きが多いです。これも人によって感じ方が異なるとは思いますが,歯応えのある内容になっています。また序盤のうちは分かりやすくヒントを出している部屋もありますが,後半になるとそういう部屋はほとんどないので,その意味では難しくなっていると思います。
渡邉氏:
あと,難度とは直接関係ありませんが,順番を入れ替えた部屋もあります。例えばギロチンの部屋は,当初はもっとあとに登場するはずだったんですが,先に見せたほうが「このゲームは,ここまでやるんだ」という覚悟ができて,そのあとの緊張感が高まるだろうと。
高橋氏:
本作では,ギミックの使い回しをしていません。通常は,最初のステージで使ったギミックの応用を次のステージに用意して,その積み重ねによって難度の段階を作っていくわけですね。しかし今回はそれがほとんどなく,謎ごとに新たにギミックを作っています。それでまた福山が「作っても作っても新しいモーションが出てくる!」とキレて(笑)。
4Gamer:
何でまた,そんな大変なことを。
高橋氏:
ギミックの使い回しをしないことが,VRコンテンツとして重要なんです。たくさんのVRコンテンツを体験して分かったんですが,普通のゲームのような積み重ねを作ってしまうと,プレイしていて飽きてきます。次のステップに進んだときに,まったく新しいものが見たいという欲求が生じるんですよ。だから先に進んだら,謎も新しくしようと。これには脳の使う部分を切り替えるという意味もあります。
4Gamer:
ゲームの中で,プレイヤーにもう少しヒントを与えようという意見は出なかったのでしょうか。
高橋氏:
結構ありましたが,私がすべて封殺しました(笑)。
渡邉氏:
例えば,壁にパネルを動かす順番のヒントが書かれていても,右から見るか左から見るかで順番が変わりますから,親切に矢印を入れようかという議論もあったんです。
高橋氏:
それを私が「そんなの,いらないから」と,ことごとく却下していったと。
4Gamer:
このゲームがこんなに難しくなったのは,高橋さんのせいなんですね……。
高橋氏:
そこは,何かと優しくなった今のゲームへのアンチテーゼでもあるんです。本作は脳をフル回転させて謎を解き,カティアと一緒に閉じ込められた部屋から脱出するというシチュエーションに没入してほしいと考えて企画・開発を進めました。あまり親切すぎるとその没入感を得られないので,やや歯応えがあるくらいがいいだろうと。
4Gamer:
自分で何度も失敗して,そのたびにカティアが死ぬのを見ていると,申し訳なくなってくるんですよね……。
高橋氏:
テストプレイでも,そういう人が少なくなかったです。参加してくれるのはゲーマーが多いはずなので,仕組みがある程度分かってきたら,どんどん死んでリトライするようになるだろうと予想していたんですが,実際には長考するようになっていって。終わったあとに聞いてみたら,カティアが死ぬと心が痛むので,リトライしなくて済むようによく考えるようになったと言っていました。このカティアに対する感情も,ほかのVRコンテンツとは違う本作ならではの特徴的な体験なのかなと思います。
4Gamer:
このゲームで体験してほしいのは,やはりそうしたカティアとの触れ合いの部分でしょうか。
渡邉氏:
そうですね。あとはマルチエンディングになっていて,それなりの数のエンディングがあるので,ぜひ全部見ていただきたいです。綺麗な景色もあるので,ぜひ楽しんでいただければと。
高橋氏:
まあ,全部バッドエンドなんですけどね(笑)。
渡邉氏:
いやいや,中には解釈次第でバッドエンドじゃないと思えるケースもありますよ!
世界観や遊びを成立させるため
少し頼りない少女をパートナーに
それでは,パートナーのカティアがどのように作られていったのか教えてください。
高橋氏:
まず2016年の東京ゲームショウに出展するためにゲームデザインやキャラクターを決めていきました。そのとき,カティアはこういうキャラクターにしたいというイメージを私がテキストにまとめて,社内のアーティスト(CGデザイナー)にイメージイラストを描いてもらい,さらにメインキャラクターアーティストにブラッシュアップしてもらったんです。
4Gamer:
当初からカティアは小さい女の子という設定だったのでしょうか。
高橋氏:
それは最初から決めていて,福山のアニメーションを活かすために,リアルな頭身のデザインがいいだろうと考えていました。プレイヤーが拘束されているというアイデアも初期からあり,あまり万能なパートナーだと世界観や遊びを成立させるのが難しいので,プレイヤーの指示を何とかやり遂げられるくらいの存在として,大人になりきっていない少女を選んだわけです。
渡邉氏:
実は,今のバージョンのカティアはかなり洗練されているんですよ。2016年バージョンはデザインこそ同じですが全然違うモデルで,もっとずんぐりした感じでした。個人的には,そっちのほうが好きですね(笑)。
高橋氏:
プロトタイプから本制作に入るときに,ブラッシュアップしてリニューアルしようということになって。
福山氏:
髪がツヤツヤになりましたよね。
高橋氏:
カティアが幼く見えるのは,福山のこだわりの成果でもあります。カティアは,止まっている絵よりも動いている姿の印象が強いんです。そこは福山のアニメーションの良さがすごく出ている部分だなと。
4Gamer:
福山さんは本作でリードアニメーターを務めていますが,具体的にどんなことをする職種なのでしょうか。
キャラクターの動き全般を作っています。また,ゲーム中でキャラクターがどういう行動をするか,どんな仕草をするか,それがどのように見えるのかなどを監修しています。
高橋氏:
カティアの女優兼演出家みたいな存在ですね。「カティアはこう動くべき」という部分を一からすべて決めてもらっています。
福山氏:
実は今回,絵コンテが一切なかったんです。高橋から「こういうものがあって,こういうことが起こる」と,部屋のギミックや演出を口頭で伝えられて,その中でカティアの行動や仕草を直接作っていきました。
渡邉氏:
「舞台劇と同じように,基本的にプレイヤーにお尻を向けない」「死ぬ間際の表情は見せない」といった,簡単なガイドラインだけはありましたね。
高橋氏:
私から「こんな行動を取る」という指示は出しましたが,カティアの1つ1つの動きまでは指定しなかったので,彼女の可愛らしい動きはすべて福山によるものです。
福山氏:
「カティアにそんなことさせちゃダメ!」って,カティアの動き全般に口を挟みました(笑)。
高橋氏:
最初に私がやったディレクションと,福山の中で徐々に固まっていったカティア像にズレが生じていったんですが,福山のカティアのほうが良かったので,これで行こうと決めたんです。
渡邉氏:
ああ,福山が開発中によく口にしていた「イノセント感」というアレですね。
高橋氏:
そう,なんか謎のキーワードが出てきて。
福山氏:
言葉にするのは難しいけれど,「首の角度はそうじゃない」「肩の位置がちょっと違う」というのが,自分の中にあるんです。それを素朴とかイノセント感と言ってしまうので,みんな「うーん?」ってなってしまう。
高橋氏:
でも開発の終盤には,みんな何となく共有できたんですよ。「はいはい,イノセント感ね」みたいな感じで(笑)。
最後のほうは自分から「“首警察”が来ました。首をもうちょっと,こう」とか言っていました(笑)。
高橋氏:
あとは今回,ほとんどのシーンでモーションキャプチャを使っていないんです。カティアの動きは全部手付けなんですよ。
渡邉氏:
長尺のシーンはモーションキャプチャをベースにしているんですが,ほぼ原形を留めていないですね。モーションキャプチャで,カティアが部屋の中をどう動くのか当たりを付けて,それを手付けで清書していくようなイメージです。
福山氏:
絵コンテがなく,自分でもうまく伝えられないので,長いシーンでは私自身をモーションキャプチャしたんです。それをベースにブラッシュアップしていきました。
基本のアニメーションをしっかり作り
演出的な動きを付けて可愛らしさを表現
4Gamer:
モーションを手付けで作る際に,キャラクターの動きを自然に見せるための工夫はありますか。
福山氏:
それも説明が難しいところなんですが,特別なことは何もしていなくて,地道なものを積み重ねているだけなんです。アニメーションだけで言うなら,重心が取れているか,速度が合っているか,リズムがいいかといった,本当に基本的な部分をベースにしています。そのうえで演出的な動き,例えばドアを開けるときにはこういう仕草,ジャンプならこういう動きが入ると可愛いだろうということは考えています。
4Gamer:
重いものを持ち上げるときに,一度膝に乗せる動作も可愛いですよね。
福山氏:
ありがとうございます。でもあれは演出的なものではなく,重さや動きを考えた結果なんです。重くて大きい鉄板を持ち上げて動かすには,一度手を持ち替えなければならない。そのとき,カティアは片手で支えられないだろう……と。
演出的な部分を作るときは「こうすると可愛いだろう」と想像を巡らせますが,ベースになる部分は,経験則に基づいた表現をしています。
渡邉氏:
よくアニメーターの方がモーションのネタを出すときに,実際に自分で動いてみるという話を聞きますが,福山はやらないんですよ。
福山氏:
私も昔はやっていましたよ。ただ,今言われて最近やらなくなったと気づきました。最近はモニターの中だけで完結しているんですよね。でも,たまに「髪をかき上げるときの肘は,どこを向いているんだっけ」みたいなことを確認することはあります。
渡邉氏:
余談ですが,カティアが崖からずり落ちるシーンの動きが何度作っても納得のいく出来にならず,苦労していたときに,みんなで食事に行ったんです。そのとき,福山がたまたま座敷からずり落ちて。その瞬間,担当のスタッフが「参考になりました!」と(笑)。
福山氏:
私が痛い思いをしているのに,第一声がそれだったんですよ!
高橋氏:
結果としてそのシーンは良くなったので,ゲーム中で見たときは福山が座敷からずり落ちるところが活きているシーンだと思ってください(笑)。
4Gamer:
しっかり見ておきます(笑)。
ところで,VRコンテンツと普通のゲームでは,モーションの作り方や見せ方に違いはあるのでしょうか。
福山氏:
VRだと,細かい部分まできちんと作らないと,すぐにばれますね。キャラクターが至近距離にいるので,モーションとモーションがつながっていないとすぐに分かってしまいます。これがモニターで見る普通のゲームだったら,モーション同士のつながりや,それこそ首の角度なんて,そこまで気にならなかったかもしれません。
高橋氏:
歩くときの足の滑りもそうですね。モニターで見るとあまり気にならなくても,VRだと滑ってるのがはっきり分かる。
福山氏:
やっぱり現実と比較してしまうんだと思います。プレイヤーは,VR内のキャラクターが見慣れている人間の動作をするはずだと思っているので,不自然なモーションだとすぐに違和感を覚えるんです。あと,カットシーンでカメラの切り替えがなく,プレイヤーに全部見られているので,カメラ的な演出で迫力を出すのが難しいことに気づきました。
4Gamer:
そんな中,福山さんがモーション作りで最もこだわったのはどこでしょうか。
福山氏:
移動のモーションです。画面の中でキャラクターが移動するとき,どこを見て,どういう雰囲気で動き,どんな止まり方をするのか……。何かに対するアクションではなく,つなぎの部分をしっかり作りたいという思いがもともとあって,これには昔からこだわりがあります。でもVRだとごまかしが利かないぶん苦労してしまい,かなり時間がかかりました。
高橋氏:
福山の理想を実現しようとすると,プログラマーやレベルデザイナーなど,いろんな人の協力を得なければなりません。「これは何とかならないの?」と,福山が圧をかけている姿が社内の至るところで見られました(笑)。
4Gamer:
プレイヤーはカティアの動きにも要注目ですね。
福山氏:
もし自然に見えたら成功で,「アレッ?」となったら,ごめんなさい(笑)。
VRコンテンツのポテンシャル
そして今後の課題とは
4Gamer:
本作の開発を通じて得たものや,課題として残されたものはありましたか。
高橋氏:
VRのポテンシャルを確信しました。今でも「VRってこんなものでしょ」と思われているところがありますが,VRに最適化されたゲームにはまだまだ開拓の余地があります。本作も古いタイプのゲームだと思われるかと予想していたんですが,むしろ「今までにない体験ですごく驚いた」という評価をいただくことが多いんです。
渡邉氏:
VRは最初こそ没入するものの,いったん見慣れてしまうとモニターを使うゲームのほうが楽でいいということになりかねません。常に新しい刺激を提供して没入感をリセットしていかないとしんどくなる,ということは手応えとして感じています。
福山氏:
実を言うと,私はキャラクターと目を合わせて心を通じ合わせるという部分は,最初はあまり意識していなかったんですよ(笑)。
高橋氏:
そこ,一番のコンセプトなんだけど(笑)。
福山氏:
どちらかというと,さっき言ったみたいにキャラクターの動きばかりを意識していました。でも,カティアと至近距離で目が合ったときにグッと来る瞬間があるんです。その「グッ」をもっと活かすことができるんじゃないか,と感じています。
渡邉氏:
カティアが近づいてきてプレイヤーに話しかけるシーンがあるんですが,バグが発生して近づいてくるだけで何もしゃべらないことがあったんです。それを福山が見て,可愛い可愛いと大騒ぎして。
高橋氏:
こちらをのぞき込んでくるだけなんですが,確かにそれだけで可愛い。
福山氏:
そのときは,セリフがないという意外性があったところに,目が合ってのぞき込まれて,「この子はなんて可愛いんだろう」と。それをまた違う形でほかのゲームに活かせそうだと思いましたね。
4Gamer:
それでは課題はどうでしょう。
高橋氏:
やはりプレイのハードルの高さですね。ハードの普及数もそうですし,プレイするためにVRゴーグルを被るのも手間です。またVR酔いを最初に体験してしまい,それ以降,苦手意識を持たれる方もいます。そういったネガティブな感想にどう向き合っていくのかが課題ですね。大きく普及しているPlayStation VRや,VRゴーグルだけで完結するOculus Quest向けにコンテンツを提供していくことで,ギャップを埋めていきたいです。
渡邉氏:
VRは触ってみないと面白さが伝わらないという点が,普通のゲームよりも強く表れます。どうやってプロモーションすればいいんだろう,ということには今も悩まされています。
高橋氏:
結局,本作のプロモーションでは,北は北海道から南は九州まで,ここまで広範囲に店頭体験会をやったVRゲームはないんじゃないかというくらい,いろんなところに行きました。それで「このゲームのために,PS4本体とPSVRを揃えました」「もともとゲームPCを持っていたので,VRセットを一式買って待っています」という方が結構いらっしゃったのは嬉しいです。
福山氏:
2人の話を聞いて思ったんですが,もっとアイマスクくらいのサイズで,軽いVRゴーグルが出てほしいですよね。そうなると,寝っ転がってプレイできる。あとVRゴーグルを被っていると,薄暗くて目元がほんのり温かくなってくるから眠くなるんですよね。スピンオフでカティアに見守られながら眠りにつくVRコンテンツを作るといいかも(笑)。
4Gamer:
それはいいですね(笑)。高橋さんと渡邉さんにも,今後VRコンテンツでチャレンジしてみたいことはありますか。
高橋氏:
仮想キャラクターとVR空間でコミュニケーションを取ることにはポテンシャルがある。今回あらためてそのことを感じたので,そこは今後も取り組んでいきます。
渡邉氏:
まずはPhysXを使ったゲームですね。VRだと,普通のゲームよりも物理シミュレーションの効果が強く,本当にそこに物があるかのような感じになるんです。もう1つはプロシージャルで何かが自動生成され,VRゴーグルをのぞくたびに違うことが起きるようなゲームだと期待感が高まるだろうと考えています。
4Gamer:
では最後に,本作に注目している人に向けてメッセージをお願いします。
渡邉氏:
あまり前面に打ち出していないのですが,実は対応機種がものすごく多いです。現行のVRデバイスはほぼカバーしているので,VRゲームのスタンダードの1つに加えていただけると嬉しいです。あとは詰まったところをみんなで教え合うようなコミュニティができるといいですね。
福山氏:
VRゴーグルを被ったらカティアに会える,と思わず嬉しくなるくらい,カティアのことを好きになってくださったら本望です。
高橋氏:
「Last Labyrinth」は脱出ゲームやパズルといったジャンルに分類されますが,体験としてはカティアとのコミュニケーションが独特です。ぜひ,カティアと心を通わせながら謎を解いていくという,本作ならではの部分を楽しんでください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「Last Labyrinth」公式サイト
(2019年10月30日収録)
- 関連タイトル:
Last Labyrinth
- 関連タイトル:
Last Labyrinth
- この記事のURL:
キーワード
(C)2016 AMATA K.K. / LL Project
(C)2016 AMATA K.K. / LL Project