2018年11月29日,エムツーからPS4用ソフト「
ケツイ Deathtiny 〜絆地獄たち〜 」が発売された。
本作は,2003年にリリースされたケイブの開発によるアーケードゲーム
「ケツイ 〜絆地獄たち〜」 をPS4に移植したもの。アーケード版の再現性を追求しているうえに,M2 ShotTriggersブランド恒例のM2ガジェットや“スーパーイージー”モード,新規アレンジの“DEATHTINY”モード,さらにブランド初の機能となる“アーケードチャレンジ”や“絆育成”なども搭載されている。
オリジナル版から
15年目 にして,エムツーによる渾身の家庭機用移植版がリリースされたケツイ。ただ,この15年間,ケツイというタイトルが多彩な展開を見せ続けていたことは,あまり知られていない。
アーケード版「ケツイ 〜絆地獄たち〜」
PS4「ケツイDeathtiny 〜絆地獄たち〜」(左:IKD 2007 SPECIALモード,右:DAETHTINYモード)
そんなわけで,今回はケイブとエムツーのスタッフに集まってもらい,ケツイが駆け抜けた15年を振り返ってもらうことにした。
■参加者
【エムツー】
堀井直樹氏 :
レトロゲームに新要素を追加して復刻したり,レトロゲーム風の完全新作を作ったり,「E-mote」で2D画像を立体的に動かしてみたりする会社・エムツーの社長。当日のTシャツはケツイの真ボスにかけて「Doom」。
久保田和樹氏 :
ケツイDeathtinyのディレクター。M2ガジェットやUIのデザインなどを担当している。
福井将之氏 :
ケツイDeathtinyのプログラマー。解析やM2ガジェットなどの制作と,同作の企画を担当している。
左から堀井氏,久保田氏,福井氏
【ケイブ】
市村崇志氏 :
アーケード版「ケツイ〜絆地獄たち〜」のプログラマー。ケイブファンには「プロギアの嵐」における“竹やりから核兵器”の逸話でも有名。
松本大輔氏 :
ケイブのサウンドスタッフ。ケツイDeathtinyでアレンジBGMを担当したほか,「ゲーセン横丁」で配信されていたアプリ版ケツイシリーズのサウンドなども担当していた。
シュー太郎氏 :
ケイブの自社製非公式Twitch番組「ケイブるてれび 」などで活躍する若手社員。ケツイの腕前を買われてケイブに入社したという逸話を持つ。旧名:新卒,別名:スティーブン・グッジョブズ。
左からシュー太郎氏,松本氏,市村氏
2003年1月:アーケード版「ケツイ 〜絆地獄たち」リリース
4Gamer :
そんなわけで,今回はケツイの歴史について簡単な年表にまとめてきましたので,それを見ながら皆さんと15年間を振り返っていきたいと思います。まずは2003年。オリジナルのアーケード版「ケツイ 〜絆地獄たち〜」がリリースされました。同作はいろいろと“尖った”タイトルでしたが,どのようなコンセプトで開発されていたのでしょうか。
ケイブシューティングの中心人物にして,同社取締役副社長・COOである池田恒基氏(の等身大立像)。IKDというスコアネーム風の愛称でも知られる
市村崇志氏 (以下,市村氏):
池田 (恒基)が「硬派なシューティングを作りたい」と言っていた覚えはありますね。
堀井直樹氏 (以下,堀井氏):
ケイブシューティングのコアな部分は池田さんと市村さんがプログラムを書いていますが,その上下のレイヤーから,つまり
高野 (健一)社長や,イラストのスタッフがゲームの中身に要望を出すことはあるんでしょうか。
市村氏 :
いえ,そのあたりは池田が決めていて,開発全般を引っ張っていくような感じです。
堀井氏 :
その辺は外から見た印象の通りなんですね。
市村氏
ただ,絵的なこと。キャラクターデザインとかタイトルロゴとかは,いろいろ言われてたみたいです。
堀井氏 :
ゲームの第一印象に関する部分ですね。
シュー太郎氏 (以下,シュー氏):
「怒首領蜂大往生」 では女の子を盛り込んでいたのにケツイで男だらけになったのは,どこから出てきたアイデアなんですか?
市村氏
なんか……
「BL」 とか言ってた気はします。
(一同笑)
久保田和樹氏 (以下,久保田氏):
そこを2003年の時点で狙っていたというのはすごいですね……。
シュー氏 :
未来に生きている(笑)。
松本大輔氏 (以下,松本氏):
“BLな感じ”を狙っていたというのは聞きました。キャラクターもそんな感じで,そしてTYPE-Aのエンディングがあるわけですね。
TYPE-Aのエンディング。エヴァンズマンの目的とは……
4Gamer :
ケイブのキャラクターは
「デススマイルズII」 のレイとか
「ピンクスゥイーツ」 のスーパー=ノヴァとか,たびたび“攻めて”きている雰囲気があります。
福井将之氏 (以下,福井氏):
単に「女の子」というだけではなく,カウンターを当てたキャラクターを出していってる感じですよね。
松本氏 :
レイなんか,今で言う「男の娘」を,その単語が浸透する前にやっていたわけですよ。
シュー氏 :
当時は外から見ていましたが,市場を意識してのことだとは思っていませんでした(笑)。
福井氏 :
ケイブさんの発言だと,キャラクターデザインの意図などは普段ボカされていますからね。
4Gamer :
ケツイに使われたIGSのPGM基板は,どのようなハードウェアだったのでしょうか。
市村氏
それ以前に使っていたアトラスの基板から,グラフィックスの拡縮を使えるようになったのですが,スペックが若干下がった部分もありました。
4Gamer :
巷の話では「表示できる弾数が少なくなった」と聞きます。
市村氏
スプライト表示量が少なくなったんですよ。
堀井氏 :
当時はコストが重要視されていたから,性能を絞ったんでしょうね。
福井氏 :
横448ピクセル(横画面の場合)で,横320ピクセルだったアトラス基板よりも横の解像度だけは高くなっていますよね。でも,縦解像度が224ピクセルと低くなるなど,ほかの性能が弱くて,スプライトもたくさん出せなくなったと。
市村氏
少ない弾数で弾幕を作らないといけないので,そこは苦労しました。
4Gamer :
それで弾速を高める方向にしたという話も,たびたび耳にします。正しいのかは分かりませんが,調べた限りでは32色スプライトが256枚まで表示できたとか。
市村氏
そうですね。そういえば,色数は若干高めでした。
堀井氏 :
ケツイ辺りから,キャラクターグラフィックスをプリレンダリングベースにしていますが,色数の向上もプリレンダを採用する一助になっていたのでしょうか。もちろん作画の省力化もあると思うんですけれども。
市村氏
開発工程を軽減させる工夫は常にやっていましたので,その延長線上でプリレンダを使っていました。ケツイにはヘリコプターが多く出ますが,そうなるとプロペラのアニメーションをいちいち作らないといけないですからね。
福井氏 :
怒首領蜂大往生でプリレンダが割と取り入れられて,ケツイはそれがさらに大きく使われるようになったという印象があります。
市村氏
実は前々から実験をしていて,
「ぐわんげ」 でも結構使っているんですよ。
4Gamer :
ケツイの地味ながら大きな特徴として,ケイブシューティングとしては“撃ち返し弾”が「首領蜂」以来,久々に登場したという部分があります。撃ち返し弾がケツイの2周目に盛り込まれたのは,どういった経緯があったのでしょうか。
市村氏
実際に入れたのは池田なので詳しいところまでは分かりませんが,難度の調整だと思います。
4Gamer :
怒首領蜂大往生に続くタイトルとして,ふさわしい難度にしようということですね。ところでケツイの2周目は当初の予定にはなく,開発中に実装が決まったので突貫で作ったという噂も聞くのですが……。
市村氏
実はそもそも,ケイブは「基本的に2周目は作る」というスタンスでやっています。
福井氏 :
ケツイも,プログラム的には2周目を入れられるような形で作っていたわけですね。
市村氏
そうですね。「どうせ……(2周目を作ることになるだろう)」と。
(一同笑)
4Gamer :
すると
「エスプレイド」 なども,状況によっては2周目が実装されていたかもしれないということですか。
市村氏
エスプレイドは自分が関わってないので分かりませんが,自分が関わっているタイトルは全部2周目が考えられていました。……ああ,でも
「弾銃フィーバロン」 は違いますね(笑)。
(一同笑)
市村氏
フィーバロンは池田のタイトルじゃないということもありまして。
4Gamer :
2周目と言えば,エヴァッカニア・ドゥームはどの時点で入ったのでしょうか。
市村氏
開発末期です。やっぱり1面から順番に作っていきますので,ラスボスを作るのは最後になります。ただ,デザイナーの方ではエヴァッカニアからドゥームが出てくることは前々から決まっていたと思います。
4Gamer :
サウンドは怒首領蜂大往生に引き続き,
並木 学 さんが担当されています。先日のMEGARAGEのイベントでもおっしゃっていましたが,松本さんはすごい衝撃を受けたとか。
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2018/11/08 15:10
松本氏 :
あちこちで話してはいるんですけれども,ドラムンベースというか,当時はジャングルと呼ばれていた,金物で構成された細かいリズムの上にメロディが乗っている,ああいう曲は「ゲームから遠いものだ」という偏見を持っていたんです。
久保田和樹氏 (以下,久保田氏):
典型的な“ゲームミュージック”の感じじゃないですよね。
松本氏 :
当時,自分の中で“ゲームミュージック”と言えばクロスオーバーとかフュージョンとかですが,ダンスミュージックみたいな曲がキャラクターセレクト画面で流れるじゃないですか。そこで「あっ! これアリなんだ」という衝撃を受けました。
4Gamer :
シュー太郎さんは,プレイヤーとしての思い出はどのようなものがありますか?
福井氏 :
当時は小学生?
シュー氏 :
いえ,中学生です(笑)。思い出は,さっき考えたんですけれども,とくになくて。
「ケツイがそこにあったから,やった」 みたいな感じです。
(爆笑)
シュー氏 :
よく「ケイブの弾幕シューティングは難しい」と言われていて,それに対して「俺にクリアできないゲームなんか無い!」という中学生ならではの驕りがあって,それがケツイや,ケイブのシューティングをやり込むきっかけになりました。それからケイブに入社して,今ここにいるわけですけれども。
4Gamer :
「きっかけは,ケツイ!」というわけですね。
シュー氏 :
そんな中学生の万能感からプレイを始めて,15年目にして最近やっと裏2周が見えてきました。
松本氏 :
山はまだ高い(笑)。
堀井氏 :
僕みたいな下手っぴだと,
「スターフォース」 の100万点も30年かかりましたよ。
久保田氏 :
それはそれで大変ですからね(笑)。
松本氏 :
俺も
「グラディウスII」 をクリアするのに20数年かかりました(笑)。
久保田氏 :
具体的に惹かれたという部分はあるんですか?
シュー氏 :
いえ……無意識的に?
松本氏 :
闘争本能に呼びかけられたんだよ(笑)。
シュー氏 :
そうですね,
闘争本能 なんです!
久保田氏 :
ケツイ以前にもゲーセンは行っていたんですか?
シュー氏 :
昔はアメリカに住んでいたんですが,あのころ日本に帰ってきて,それからゲーセンに行くようになりました。ただ,当時流行っていた格ゲーやガンダム(エゥーゴ vs.ティターンズ)はちょっと入りづらくて,「やれるものはないか……」と探していたらケツイがあって。ケツイをやる,クリアできない,ケツイをやり続ける,そしてケイブにいる……みたいな(笑)。
福井氏 :
いい話ですね。ケツイに何か夢中にさせるものがあったからこそ,シュー太郎さんの今があるっていうことですよ。
シュー氏 :
格ゲーは対戦で台がなかなか空かなかったりしますが,ケツイはだいたいどの時間帯でも遊べましたから,1人でコツコツずーっと15年やり続けて。なんだか「ケツイはすげえな……」って思います。
ケツイは独特な魅力がありますよね。サウンドもそうですけど,あまり言葉にできない
“ケツイ感” があって。ミリタリーものですけど,本格的なミリタリーでもない。ビルから砲台が出てきますが,そんな戦争映画は見たことないんです(笑)。ギャグっぽいんですけど,それがケツイの中では違和感なく成立している。
松本氏 :
「当然,ビルから砲台は出てくるよね」みたいな雰囲気で。
(爆笑)
堀井氏 :
「戦闘ヘリはスタジアムから出てくるよね」とかね。あの背景はおかしいことがてんこ盛りなんですけど,謎の説得力があるんですよ!
4Gamer :
昔のケイブ公式サイトに掲載されたQ&Aコーナーでは,「1面は強襲だったからあの程度で済んだが,襲撃が察知されていたらもっとすごいことになっていた」みたいなことが書かれていたのを覚えているのですが,そういう裏設定的な下地がたっぷりあるからこそ,表の説得力を演出できている気がします。
福井氏 :
そこはパッケージ版の初回生産特典で付く冊子でも,デザイナーさんに語ってもらっていて,例えば
「ご当地トラファルガ」 概念とか……。
堀井氏 :
ご当地トラファルガって,見出しだけでゲラゲラ笑うよ(笑)。
2003年7月:携帯電話アプリ版「ケツイ〜絆地獄たち〜」リリース
4Gamer :
それでは,そろそろ次に行きまして……アーケードでのリリースから半年後に,ある意味での“初の家庭用移植”である
携帯電話アプリ版「ケツイ 〜絆地獄たち〜」 が
ゲーセン横丁 で配信開始されました! 前後編の分割式で提供されていまして,後に両編をまとめた
「ケツイ 〜絆地獄たち〜DX」 が出たりもしています。
久保田氏 :
これ,やりたかったんですよね……確かケツイはドコモだけだったんですよ。自分はソフトバンクだったので遊べなくて。
松本氏 :
いえ,spfデータ(ヤマハのSMAFフォーマットに準じた着メロ仕様のデータ)をケツイDXで作った覚えがあるので,おそらくソフトバンク向けにも出ていたと思います。ただ容量がデカかったので,使える端末が制限されていた可能性は高いですね。アプリ版ケツイの容量表を探してみたんですけれども,それが見当たらなくてですね……。
堀井氏 :
容量は,単位が今とは全然違うんじゃないかな(笑)。
松本氏 :
ただ,
「怒首領蜂大往生DX」 の容量表は見つかりました。まあ,数字はすごいですよ。1面の曲が約
6KB です。
(爆笑)
松本氏 :
しかも,1バイト単位で計算しています(笑)。ケツイも同じようにやっていました。
堀井氏 :
効果音の「通常爆音」あたりになると,2バイト文字で140字を書いたTwitterの1ツイートと,だいたいサイズが同じだ(笑)。
松本氏 :
最初に「サウンドは今回40KBね」みたいに容量をもらうんですよ。そこで「もうちょっとくれ」とか交渉をして,そこから曲に容量を割り振っていくんです。で,俺のこだわりとして,キャラクターセレクトと1面,ボス,ステージクリアは,フルサイズで入れたくて多めにデータ量を振りました。
堀井氏 :
キャラセレは盛り上がるからね。
松本氏 :
ただキャラセレは短いループの繰り返しなので,割と余裕を稼ぎやすいんです。一番キツいのが1面とボス,あと真ボスです。
久保田氏 :
確かに,大往生DXの曲では「緋蜂」がデカいですね。
松本氏 :
容量を計算するのが毎回大変で。作っていくうち,足りなくなってくるわけです。なのでデザイナーさんのところに行って,「ゴメン,あと5バイトくれ……」ってお願いして。
(爆笑)
松本氏 :
「あと音符1個分なんすよ!」って。
堀井氏 :
立場としては,デザイナーも「くれ」って言いたいほうじゃないですか(笑)
松本氏 :
なので毎回せめぎあいです(笑)。あと,ボスのワーニングボイスはWAVなので重いわけですが,どうしても入れたかったので,セリフの途中をぶった切って,再生も早めたんです。「Approach your target and attack! Your mission starts now. Are you ready?」を,「Approach your target and attack! Are you ready?」にしちゃいました。
堀井氏 :
意味や雰囲気が通じればいいということですね。やっている内容は高度になっているけれど「アーケードゲームのニュアンスをファミコンで再現する」みたいな話と同じなので,それはすごい分かる。
松本氏 :
レートもギリギリ聞こえるくらいまで低くして4KHzですね。それでも,この音声だけで21KBある。アプリの容量は40KBですから,半分が音声に持っていかれているわけです(笑)。
堀井氏 :
料理人がコース料理を考えて,「ここでこれを出されると食べる側がビックリするだろう!」とやるみたいな力の入れ方だ。
2005年10月:DVD「THE SECOND APOCALYPSE ケツイ 〜絆地獄たち〜」発売
4Gamer :
そんなアプリ版もありつつ,スコアアタックが煮詰められてきた2005年10月にINHから
攻略DVD が発売されました。具体的な収録スコアが見つからなかったのですが,キャッチコピーは「光翼型近接支援(残酷)戦闘機・撃破。黙示録解禁。4億7千万の真実を見届けよ」ということで,当時のハイスコアは
4億7000万点 くらいだったみたいですね。
福井氏 :
すごいDVDでした……。
4Gamer :
パッケージにはDVDのほか,モバイル版を含むサントラや,設定資料などの冊子も同梱されていました。
久保田氏 :
この冊子はケツイDeathtinyの開発でメチャクチャ助けられました。
福井氏 :
解析資料と言っていいくらいに精度の高い情報が記されているんですよね。
久保田氏 :
敵やシステムの細かいデータが載っているので,開発の参考にしていました。
「虎の巻」 みたいな存在ですよ。
2006年12月:携帯電話アプリ「弾幕検定死験-ケツイ編-」リリース
4Gamer :
スコアが出来上がってきた一方で,2006年にはゲーセン横丁に新たなケツイが登場します。それが
「弾幕検定死験 ケツイ編」 ! 難度の異なるボスラッシュに挑戦して,弾幕避けの腕前を競うというものです。
久保田氏 :
これ,俺はかなりプレイしていました。
松本氏 :
実は曲データがケツイDXよりも贅沢な作りになっているんですよ。4曲しかなくて容量を多めに使えたので,4つ打ちのバスドラムを入れられました。
4Gamer :
ケイブのSoundcloudではゲーセン横丁タイトルの一部楽曲が配信されていますが,弾幕検定死験のサウンドはありますか?
松本氏 :
いえ,ケツイからは「ケツイDX」のFM音源版ステージ1だけですね。なので,音源自体は未公開です。
2007年9月:アーケード限定バージョン「ケツイ 〜絆地獄たち〜(2007 CAVE MATSURI VER.)」出現
4Gamer :
なるほど,聞き比べてみたいですね……。さて,2007年9月に秋葉原の「Heyの上」こと廣瀬ビル5階のイベントホールで,
「ケイブ祭りだヨ! 全員集合」 が開催されて,ここで限定バージョン
「ケツイ 〜絆地獄たち〜(2007 CAVE MATSURI VER.)」 がお披露目されました。ちなみに,この回は「EVAC社の入社説明会」という趣向でした。
福井氏 :
このケイブ祭り,僕も行ったんですけれども,限定バージョンのケツイを見て「何だこれ,すげえ!」って驚きました。まず自機の色が違うし,敵弾も急に2周目のものが飛んできたり。
久保田氏 :
絶妙な調整が施されているんです。
堀井氏 :
池田さんの調整だけで,こんなに密度の濃いものができるというのが,端から見ていて驚異ですよ(笑)。しかもケイブ祭りのためだけに作ったという。
シュー氏 :
当時の話を聞いてると愚痴しか出てこないですよ(笑)。軽いノリで「祭り用に何か作ってよ〜」と頼まれて作ったそうです。
4Gamer :
実は無茶振りだったとは!
久保田氏 :
でも軽いノリで作られたとは思えない(笑)。
堀井氏 :
聞くところによるとケイブさんのなかで,割と気楽に「こういうのを作れ!」と言って,池田さんが半ば喧嘩腰だけど作るというのがよくあったので,そういうノリだったんでしょうね。
4Gamer :
そして,このモードがなんとケツイDeathtinyにも入っていると。
堀井氏 :
はい! たまたまデータが……というか,基板そのものがあったので。
久保田氏 :
ダメモトで「あったらこれも入れたいんです。我々なら入れられますので!」とお願いしたんですよね。そしたら引き出しの中にあったらしくて。
シュー氏 :
池田さんの机の中に,ROMがそのままあった んです。聞いてみたら「あるよー」って出してくれたので,すごくビクビクしながらエムツーに持っていきました(笑)。
松本氏 :
「紫外線当てると壊れちゃうから」って言われてね(笑)。
久保田氏 :
これまで2日しか稼働していない(※)超レアな基板なので,ケツイDeathtinyに入れられてよかったです。
※インタビュー収録後に開催された「エムツーショットトリガーズ 弩感謝祭」を含めると3日。
久保田氏 :
このケイブ祭り限定バージョンを“いけスペ”(正式名称であるIKD 2007 SPECIALの略)として実装すると,ケイブ祭り2018(アキバ戦線2018 ケイブ隊がにゅ〜隊式 〜あんなところもむちムチ♡MAX〜)で発表したわけです。
シュー氏 :
いけスペって名前はどこから出てきたんですか(笑)。
久保田氏 :
名前を作ったのはエムツーですね。その前にもいくつか候補が……。
福井氏 :
いろいろありましたね。たしかワンナイトエディションとか……。
(爆笑)
シュー氏 :
ああ,「
“IKDワンナイトエディション” にしましょうか」みたいなお話をしましたね(笑)。
堀井氏 :
微妙にオトナな想像が膨らむ辺り,僕はすごい気に入ってたんですけど(笑)。ケツイを知っている人ほど,遊ぶと「これは!?」となる内容なので,すごさが伝わる名前にしなければと思っていました。なので「派手すぎるくらいがちょうどいい」と思っていたのですが,いろいろあって。
久保田氏 :
シュー太郎さんが名前を考案されたとき,その場に池田さんもいたんですよ。池田さんはすごい嫌な顔をしていて,散々「なにとぞ,ご検討ください」「今一度ご検討ください」と念押しもされたので,改めて考えないとマズいな,と。
シュー氏 :
ワンナイトエディションを嫌がる一方で,ずっと「一晩で作ったんだよ」と言ってはいたんですが。
堀井氏 :
あの池田さんのボイスを録りたかったですね。
「なにとぞ!」「なにとぞ!」 と言いながらボスが出てきたらすごく面白いですよ。
「パロディウス」 的なノリのやつを作りたい(笑)。
2008年10月:携帯電話アプリ「SWITCH」リリース
4Gamer :
ケツイのパロディは……というかオマージュ的なタイトルですが,2008年にゲーセン横丁でソーシャルSTG
「Switch」 がサービスインしました。これはEVAC社(本作ではELECTRONIC VIRTUAL AMUSMENT CREATIONの略)のバーチャル空間が舞台になっています。個人的にけっこう好きでよく遊んでいたんですよ。
久保田氏 :
これやりたかったんですよね……。これこそドコモだけだったんです。
松本氏 :
ついさっき,この音源が見つかったんです。Switchは,ゲーム進行に従ってステージがだんだん出来上がって,それに合わせて曲も組み上がっていくんですよ。最初はほとんどリズムだけの曲ですが,メロディがだんだん増えていって……(曲を再生する)。
堀井氏 :
これ知らなかった! これこそ“ビデオゲームの音”じゃないですか!
松本氏 :
最終的には豪華なメロディになります。ただ,今流しているのはシンセに起こしたものなので,実際のアプリはもうちょっと音色が違うんですけど。ちなみに曲を書いたのは,当時のケイブスタッフの
内藤 (那津子)お姉さんで,曲のフレーズにケツイのものが入っていたりもします。
【ケイブのうた特別特典DVD】げーむせんたーCaveX 那津子の挑戦
VIDEO
松本氏 :
ちなみに,これも容量表が見つかりました。ボイスがいっぱいあって,熾烈な戦いになっていた覚えがあります。(容量表を探し始める)
シュー氏 :
キャラクターを推してたみたいですね。
久保田氏 :
元がケツイとは思えないくらいの女の子っぷりです。
4Gamer :
イラストは,最近だと「ウルトラ怪獣擬人化計画」や「装甲娘」を手がけられているPOPさんが担当されています。
松本氏 :
(探していた容量表が見つかって)……ああ,それでもけっこう贅沢に容量を使ってたなあ。BGMだけで
60KB も使ってます!
(一同笑)
堀井氏 :
今のCPUの1次キャッシュ,多いものだとその倍くらいありますよ!(笑)
松本氏 :
Switchには
「TACTIC SWITCH」 という派生タイトルもあって,それは自分がサウンドを担当しました。これはSWITCHのキャラクターを使ったタワーディフェンスで,もうケツイは関係ないので,BGMも好きに作らせてもらいました。
【防衛シューティング】STGは守る物 タクティクスイッチ【ケイブ】
VIDEO
シュー氏 :
それにしても,「SWITCH」って商標を取っときゃよかったですね。
松本氏 :
後になって任天堂さんからSwitchというゲーム機が出るとは(笑)。
シュー氏 :
やっぱりケイブは未来に生きてますよ。
久保田氏 :
名前的には
「Switch版SWITCH」 なんて面白そうですよね(笑)。
堀井氏 :
それだ!
シュー氏 :
じゃあM2 Shot Triggers第6弾で!
久保田氏 :
うちがやるの!?
堀井氏 :
でも実際,そういうところは我々にとって面白ネタであり,商機でもある気はします。
2008年10月:ニンテンドーDS用ソフト「ケツイ デスレーベル」発売
4Gamer :
ゲーセン横丁はオリジナルタイトルも数多くリリースされていたものの,いずれも今はプレイできないので,移植には期待したいですね。さて,2008年10月にはアリカから発売されたニンテンドーDS用ソフト「
ケツイ デスレーベル 」で,初めて家庭用ゲーム機にケツイが登場しました。
堀井氏 :
今でも僕はこれをアーケードスティックで遊びたいと思っています。先日,アリカの
三原 (一郎)さんと食事をしたときに働きかけて,「ケツイDeathtinyが3万本売れたら,アリカ社内を引っ掻き回して資料を出す」と言ってもらいました。
久保田氏 :
当時,僕は普通にプレイヤーとして遊んでいました。Twitterが流行り始めたちょっと後で,“シューター部”というコミュニティも広まったんです。デスレーベルには,アドホック通信を使った最大8人で交代プレイをしていくモードがあって,それをオフ会でよくやっていましたよ。
シュー氏 :
ニコニコ動画でも,当時の三原さんが「
ケツイの会 」ってコミュニティを立てていて,それが今でも残ってるんです。そこに三原さんと池田さんが対戦モードをプレイしている1分くらいの動画があるんですが……つまらないんです! そもそもゲーム画面が映っていないんですよ! 池田さんの扱いとしてはメチャクチャ面白いんですけど,ゲームのプロモーション的には謎な動画でしたね。
堀井氏 :
デスレーベルで池田さんといえば,
「おしえてIKDさん!」 (※)ですよ。上場企業の副社長が,この扱いですよ! これもハイレゾの写真データがあるそうなので,もらえたら高解像度版を作りたいと思っています。
※ケツイメンズ4人からの質問に池田氏(実写)が回答するという趣旨のオマケ機能。“空ロック”や“ケツイボム”などの紹介や,容量の都合で同梱DVDに収まらなかったTYPE-Bのスーパープレイ動画,池田氏がユウマを「一緒に絆を深めようか?」と誘うシーンなどが収録されている。
松本氏 :
「おしえてIKDさん!」のタイトル画面(※)は,隠しコマンドを入れると池田さんバージョンになりますしね。
※通常はエヴァッカニアが両腕を持ち上げた怪獣的なポーズを取っているが,低確率で同ポーズの池田氏に変わる。隠しコマンドを入力すると,確定で池田氏バージョンを呼び出せる。
シュー氏 :
さんざんな使われ方ですよね……。このゲーム,僕もいちプレイヤーとして遊んでいて,基本的にボスラッシュなのに,ヴィノグラドフだけザコが出てくるところが印象的でした。
松本氏 :
あのザコは重要だからね(笑)。あと,倍率チップの音が気持ちよかった。敵に接近して撃ち込んでいると5箱が常に湧くんですが,あんなに5箱の音を鳴らせるのは,デスレーベルだけなんですよ。
4Gamer :
デスレーベルには「over 500,000,000の軌跡」というタイトルのスーパープレイDVDが同梱されていまして,そのスコアは
約5億1千万点 (512,010,888 pts)。アーケード版から5年目にして,5億の大台に乗りました!
久保田氏 :
着実に上がってますね。
2009年4月:携帯電話アプリ「ケツイッチ〜乙女地獄たち〜」リリース
4Gamer :
続いて2009年,ゲーセン横丁で
「ケツイッチ〜乙女地獄たち〜」 がリリースされました。これはSwitchの自機でケツイDXをプレイできるというリミックス系のタイトルです。
久保田氏 :
これもドコモだけでした……。
堀井氏 :
当時は,どこのキャリアの,どこ製の端末を持っているかで,遊べるゲームとか利用できるサービスとかが全部決まっちゃったよね。
久保田氏 :
シャープは無難でした。ソフトバンクは過半数以上がシャープユーザーだったんじゃないでしょうか。
松本氏 :
個人的には,シャープ製端末が一番音を作りにくかったですね。スピーカーがピーキーで,音がすぐ割れた記憶が。
久保田氏 :
だいたいマナーモードでやっていたので,あまり音は聞けなかったです(笑)。
松本氏 :
ちなみに一番作りやすかったのはNECでした。ただ,着メロでは使えたFM音源用のテクニックが,容量の都合で使えなかった。
堀井氏 :
当時,周りの音屋さんが「携帯電話だと曲を書いても聞いてもらえないから俺達は商売あがったりだ」と言ってたけど,今はまた環境が変わって,いい時代になりましたね。
久保田氏 :
あのころはヘッドフォンを挿すにも平型ジャックを着けなきゃいけないし,電車の中とかで音を出すわけにもいかないから,音無しでプレイしている人が多かった。それが,今は普通にヘッドフォンで聞けますから。
松本氏 :
俺は全然そういうことを考えてなかったですね。「聞くもんだろう」と思って,スピーカーで鳴らすように作っていました(笑)。着メロの技術を可能な限り投入して,「怒首領蜂」はけっこう頑張ったんです。
松本氏 :
とくにステージクリアはスラップベースを作り込みました! ゲーセン横丁には
「エスプガルーダII」 もあったし,
「対戦!ローズシスターズオンライン〜ピンクスゥイーツ外伝〜」 とか,複数のタイトルから女の子を集めた
「恋愛すごろく怒きゅ〜ん」 とかもありましたね。
4Gamer :
個人的には,これもリミックス系の
「スターソルジャー vs 怒首領鉢 大往生 CARAVAN'06」 が印象深いです。
堀井氏 :
今出そうとすると,KONAMIさんと相談しなきゃならない(笑)。
松本氏 :
このときは
「スターソルジャー」 のBGMを完コピしましたよ。当時,監修の人に「すげえ!」と驚いてもらえました。
シュー氏 :
それにしても発想が「フレディ vs.ジェイソン」ですよね……。
(一同笑)
4Gamer :
先ほどのSwitchもそうなんですが,この辺りのゲーセン横丁オリジナルタイトルが埋もれちゃってる現状は,個人的に「惜しいな」と思っています。
堀井氏 :
同意見です。何か考えられたらいいなと思ってます。営業的観点から言えば「単発でいけるか」は微妙なところですが,出し方はいろいろあると思いますし。