インタビュー
「黒い砂漠MOBILE」を運営するパールアビスジャパンは,プレイヤーの生の声を聞きたいし,それを真剣に受け取りたい
関連記事:Pearl Abyss,G-Star 2019開幕に先駆けProject K/V/CDの各タイトル名を発表。次期フラグシップMMORPGは「紅の砂漠」
そのPearl Abyssの日本オフィスが「パールアビスジャパン」だ。「黒い砂漠MOBILE」(iOS / Android)の運営元として知られている。
実質1作品しか持っていない海外のゲーム会社の日本オフィスなので,まぁ要するに運営をする会社なのだろう……というちょっと軽めの認識でしかなかったというのが正直なところだが,G-Starで4作品が突如出てきて「どうも全部日本でやるっぽい」と聞いたところで,俄然興味が湧いてきた。MMOを複数運営するというのはとても大変な作業だし,「ただの日本支社」が出来る芸当ではない。
これを機に1度ちゃんとお話を聞いてみよう……と思ったのが,以下のインタビューだ。あまり表に情報が出てこないパールアビスジャパンという会社(と社長)の雰囲気や考え方などが,若干なりとも伝えられるのではないかと思うので,ぜひお読みいただきたい。
4Gamer:
年の瀬も迫ったこんなタイミングでお時間取っていただいて,ありがとうございます。個人的にご挨拶をさせてもらったことはありましたが,李さんが4Gamerの記事にちゃんと登場されるのは初めて……でしたよね。
李 正攝氏:(以下,李氏)
ええ,初めてですね。
4Gamer:
であればまず,ご本人の経歴からお聞きしたいなと。
李氏:
経歴ですか。ゲーム業界の前に,僕はそもそも大学生のころから,韓国でいろいろな仕事をしていたんですよね。
4Gamer:
今おいくつですか?
李氏:
40歳になります。
仕事経歴の一番最初は,韓流ブームの時代でした。そのころペ・ヨンジュンさん――ドラマ「冬のソナタ」で一躍大ブームを巻き起こした男性俳優――と一緒に仕事をさせていただく機会がありまして。
4Gamer:
いきなり大物の名前が出てきましたね。
李氏:
ええ,そこで1年半ほど働いて貯めた資金で,大学時代に起業したんです。
4Gamer:
いまでこそ珍しくないですが,当時はまだそんなにバンバンみんな学生起業はしてないですよねえ。
まぁ大学時代に2回起業したんですが,どちらも全然ダメで(笑)。
4Gamer:
あらら。ちなみにそれは何をする会社で……?
李氏:
1回目は,仲間と一緒に「外国語を習いたい人たちをつなげるSNS」を作りました。外国語を習いたいという人は今も昔も大勢いますし,習いたい方と外国のネイティブの教えたい方をつなげればいいんじゃないか,という発想でした。Facebookが現れるより,3年ほど先行していたのがちょっとした自慢です。
4Gamer:
確かにずいぶん先進的な。
李氏:
当時の僕たちは,ユーザーに利用してもらったときに手数料をもらい,それを収益としていました。なかなかいい感じに推移してたんですよ。でも大きな失敗をしてしまいまして……。
4Gamer:
といいますと?
李氏:
当時の僕たちには,会社や企業といった概念がなかったんです。
会社の設立にあたっては,創業メンバーがそれぞれ初期投資を行い,それを操業資金としました。間もなく外部の投資家たちも参加する流れができて,資金は増えていきました。しかし,メンバーのひとりがある日,そこから投資額を抜いて出て行ってしまったんです。
彼の母親が,そのころ手術が必要な状態でして,それにかかる費用も必要でした。僕たちはそれを分かっていたので,「仕方ないね」と見送ることになるのですが,これがダメでした。投資家からは「ふざけるな!」という叱責を受け,それがきっかけで瓦解したんです。
4Gamer:
あぁ,確かに投資家からしたらちょっと……。
李氏:
まぁそうなんですよね……。それでも起業を諦めたくなかったので,次に2回めの起業です。大学周辺の飲食店をターゲットにした,コンサルティング会社を立ち上げました。
4Gamer:
SNSの次は飲食コンサルですか!
李氏:
当時はなんでもやってました(笑)。クライアントの飲食店は小さなお店ばかりでしたが,僕を含む創業メンバーの3人は学生という立場を活かして,ほかの学生達にインタビューして,より行きたくなる飲食店の像をあぶり出したんです。それを元にメニュー構成からインテリアの配置まで,全力でやりました。
ただですね……頑張りに対しての報酬があまりに少なかった。
4Gamer:
具体的には,いくらでやってたんですか?
李氏:
コンサル料は,1件あたり月額1万8000円でした。
4Gamer:
そのアクションに対してそのギャランティは,ちょっと安すぎませんか……。
李氏:
今にして思えば本当に……(笑)。当時は28店舗くらい顧客がいたんですが,3人ともそれに対応するだけで精いっぱいで,大学にもほとんど行けず,最終的に成績もよろしくないことになりまして。
通常,大学の4年制は8学期で卒業となりますが,僕の場合は単位が足りず,最終的に9学期まで通って卒業しました。
4Gamer:
まぁそれくらいなら……?
李氏:
間もなく子供が生まれて(※大学4年生のとき子供が生まれたとのこと),その後卒業して僕自身も「この先どうしよう……」となっていたんですが,ちょうどスカウト会社経由でスポーツマーケティング系の企業にお声がけしてもらったんです。韓国の野球選手の日本進出のお手伝いをする,といった仕事でした。
しかし, 韓国での失敗をリセットしたかったからKOTRA(大韓貿易投資振興公社)というところの紹介で日本のゲームオンを紹介してもらって,そこに行きました。といっても当時はゲームのことはまったく知らず,通訳と翻訳が専門でしたけど。
……シルクロードって知ってますか?
4Gamer:
もちろん。「シルクロードオンライン」※ですね。
※最初の名前は「SiLKROAD ONLINE」だったが,その後ヨーロッパ版(「Fantasy Odyssey」)との関係や運営会社の移管を経て2度改名され,日本国内では現在,「シルクロード レボリューション」となっている。
李氏:
そうです! そのあとは「RED STONE」を担当してました。
4Gamer:
ゲームオンの第一次黄金時代ですね。
李氏:
確かにそうかもしれません。僕がいた当時,ゲームオンは株式上場の準備をしていたので,僕も社長室に入って,そのお手伝いをしました。あのときの勉強と経験は,いまでもとてもいい糧になっています。
4Gamer:
あれ? ということは,当時ゲームオンの契約書を全部チェックしてあれこれ細かい指摘をしてきたのは,ひょっとすると李さん……?
李氏:
いやあ……ISO 27001(情報セキュリティ)とか,ISO 9001(品質)とか,上場に向けてかなり厳しかったもので。ただ,企業としてしっかりとやるべきことでしたので,それについてはなにとぞ(笑)。
4Gamer:
もちろんそうですね(笑)。
李氏:
とはいえ,業界の人であればよくご存じのように,上場が決まった直後に,お客さまの情報に関する漏洩事故が発生してしまいました。それで上場を自主的に撤廃することになってしまったのですが,それでも6か月後に再上場を果たしました。
このときの経験は,僕はもちろんですが,当時の経営陣,とくに代表の大野さん(大野俊朗氏)にとって大きなものになったと思っています。
4Gamer:
大野さん,懐かしいお名前です。
李氏:
それからDeNAに移りました。フィーチャーフォン向けのMobageが盛り上がっていた時代で,中でも有料ゲーム……当時はデラックスゲームと呼んでいましたが,それのチームリーダーを1年ほどやりました。
そして「DeNAが韓国に支社を建てる」といった話を聞いていたのですが,大野さんから「GRAVITYっていうガンホーの子会社の社長になるんだけど,一緒に来ないか」と誘われ,今度はガンホーに行くことに。
4Gamer:
忙しいですね……。
李氏:
ガンホーに入ってからは韓国に駐在員として出向き,3年ほどGRAVITYにいました。決済などに関する手続きや処理なんかも,僕が社長室でやっていて(笑)。
4Gamer:
それは「駐在員」ではなくて,社長の影武者では。
李氏:
そうかもしれません(笑)。そして次はガンホーの関連会社のネオサイオンに行って1年ほど,事業部長や戦略部長,事業総括役員,COOなどをやりました。
4Gamer:
なんでもやりすぎです……というか目まぐるしく変わりますねえ。ここ(パールアビスジャパン)につながる転機はどこなんでしょう?
李氏:
今からがそのお話です(笑)。
ちょうどその頃は,ゲーム市場にスマートフォンゲームが現れて存在感を強め始めたタイミングで,「ここだ! 独立しよう!」と決意しました。まずAZA Games(A to Z At Games:「ゲームのすべて」を意味する。当初Emagine(イメージン)で創業し,後に社名変更)という会社を2011年に立ち上げ,2015年まで活動しました。
この会社は,オルトプラスや投資会社なんかに協力してもらって営業していましたが,最終的には中国の上場企業「三七互娱 Group」(韓国のENP Games)に売却し,同社の日本支社という形で,2015年にブライブを立ち上げたんです。
4Gamer:
あぁ,ブライブってそういう成り立ちだったんですね。
李氏:
そうなんです。ブライブでも約3年ほどCOOやCEOをやっていましたが,去年Pearl Abyssから声をかけてもらったことで,このパールアビスジャパンのCEOとしてジョインしたというわけです。
4Gamer:
経歴をまとめるだけで年表ができそうな勢いですね……。インタビューを行うにあたって失礼のないよう,分かることは事前に調べておくのですが,李さんについては想像よりも情報が出てこなくて。
李氏:
すみません(笑)。ブライブのときも違う人を表に立てていたためかと。たぶん,あまり表には出たくない性分なんでしょうね。
わずか4か月で,日本法人を立ち上げて「黒い砂漠MOBILE」のローンチへ
4Gamer:
話をちょっと戻してしまいますが,そもそもなんで大学時代にそこまで起業にこだわったんでしょう?
李氏:
ずっと決めていたからです。自分で会社を起こそうと。
4Gamer:
それはまた,どうして?
李氏:
いろんなことを自主的に決めたかったからですね。誰かが用意したミッションをこなすのではなく,自分で決めた目標を果たしたかった。今思うと,あのころはもっと漠然とした考えだったかもしれませんが。
そのせいか,当時はどの会社にいても社長目線で偉ぶっていて,それを先輩からたしなめられたりしてました(笑)。
4Gamer:
割と困った社員です(笑)。
李氏:
本当に(笑)。でも結局のところ,会社の社員はそれが誰であろうと,社内外を問わず「会社を代表してそこにいる」という気持ちを持っていないと,外で変な行動を起こしてしまったりするものですからねえ。
4Gamer:
いやあホントに……よく分かります……。
李氏:
(笑) 僕の場合,DeNAでの経験も大きかったです。あそこの創業者である南場智子さんは「球体の表面積」を例に,「会社の社員はみんな球体の表面積。裏も表のない,みんなが表だから,その気持ちで活動しましょう」といった理念を掲げています。この考えは,個人的にすごくしっくりきましたし,Pearl Abyssに来てからは,より強く思うようになりました。
ここって本当に,全員が「会社の代表である」という意思で全力で動くんです。それを実感したとき,感銘を受けましたよ。
4Gamer:
日本ではあまり知られぬ,Pearl Abyssの一端が。それにしても,李さんがジョインしたのが去年(2018年)の10月ですか。「黒い砂漠MOBILE」って確か,今年2月のローンチではなかったでしたっけ?
李氏:
そのとおりです。なので,4か月でどうにかしました。
4Gamer:
4か月で日本法人を立ち上げてローンチまで……?
李氏:
一般的な感覚だと,ありえないですよね(笑)。
当初は私からも韓国のPearl Abyss(以下,本国)の経営陣に「私一人じゃなくて,既存のチームを使って(買収なり)動かしたほうがいい」と提案してました。
4Gamer:
ということは,それも使わず?
李氏:
ええ。本国には非常に優秀なチームがいくつもあることは知っていましたが,どれだけ優秀でも,文化だったり,熱意だったり,そういうものが合わなければ機能しないので。10月から「黒い砂漠MOBILE」のローンチと並行し,日本チームの発足やそのほかの手続きも行っていました。
だから2018年11月時点ではチーム人数が5名しかおらず,2019年1月にやっと10名,2月にようやく21名……といった状況だったんですよ。
4Gamer:
優秀であってもダメなことはある,というのは同意ですが,それにしたって凄まじいです。
李氏:
超大変でした(笑)。とくに最近,日本では人員不足が謳われていますが,Pearl Abyssって韓国ではとても有名であこがれの会社なので,人材募集をすると一職種に何百人と応募が殺到するので,そもそも「人材を採れない」という苦悩を理解できないんですよ。
だから人選が辛かったです。一人や二人ならまだしも20名近くですから。手っ取り早くエージェント系も試しましたが,どうにもピンとこず。結局こういうのって,最後は「関係者の推薦」が一番安心なんですよね。
4Gamer:
分かります……。
李氏:
パールアビスジャパンの本格稼働を早めなければいけないし,慎重にやらなければいけない。あのころは本当に厳しかったです。
とはいえ開発人数は,ちょうどローンチ時に掲載していただいた秋山とハムのインタビュー(運営プロデューサーの秋山隆利氏,事業統括プロデューサーのハム・ヨンチョル氏)にもあるとおり,本国からスタッフが出張してきてくれたので,実際の人数はもっと多かったです。
関連記事:MMORPGの黒船「黒い砂漠MOBILE」を支える2人のキーマン――縦社会のない,剥き出しのゲームバカだけで作ったから,本物になる
4Gamer:
それでも大変なことには変わりなさそうです。というか,韓国スタッフと日本スタッフの意思疎通は問題なかったんですか。
李氏:
本国の人たちは先ほど言ったように,常に全力で物事に取り組みます。中にはまったく日本語が話せない人もいましたが,本国のスタッフたちには「出張だし〜」といった意識はなく,日本ローンチのため,ものすごい意気込みをもって仕事してくれました。
正直に言いますが,僕も当初は,2月のローンチはさすがに無理だと思っていました。ですが,本国はもとより日本スタッフも含め,現場の熱量が無理を可能にしたことで,無事ローンチできたんです。どれだけ困難でも成し遂げてしまう,そういうパワーがこの会社にはあるんです。
4Gamer:
よっぽど条件が整ってないと厳しそうに思えますが。
李氏:
僕自身にも,最初は環境に対する不満なんかがあったんです。「あそこはもっとこうだろう」とか「それは違うんじゃないか」とか。でも,現場の人たちと一緒に仕事していると,なんて言うんでしょう。信仰というか,信用というか,Pearl Abyssの人が持っている魅力にすぐあてられました。
本国の社内外におけるイメージというのは「仕事を貪欲にやりきる人たち」なんですが,それを直に感じた出来事でした。おかげさまで,今では僕がPearl Abyssの信者です(笑)。
4Gamer:
なるほど,そういう人たちが「黒い砂漠」を作っているから,目標どおりの2月ローンチを無事迎えられた,と。
李氏:
あ,当初は1月末ローンチの目標だったんです。
4Gamer:
あら,じゃあさすがに少し伸びちゃった?
いえ違うんです。実は,PRに協力してもらった乃木坂46の元メンバー,西野七瀬さんの卒業時期の問題とか,事前登録期間などのマーケティング的な側面を考えて「遅らせた」というのが,たぶん正確ですね。
4Gamer:
延期させてそのタイミングでしたか……。
しかし,李さんのように「僕は日本でこうしたい」と立ち回るには,なんらかのコネクションでもないと難しいのではと思いましたが。最初からなにか,そういうツテがあったんですか。
李氏:
たしかにそういうのもあります。実は大学のころですが,企業へのインターンも多数経験していて,そのころにオンネットという会社に行ったんです。日本的には「ShotOnline」の名前が有名ですかね?
そのときに代表とお話しをする機会があって,そこで日本のゲーム市場に関する知識を培いました。それからもちょくちょく連絡を取ったりしていて。肝心のゲームは詳しくありませんでしたが(笑)。
4Gamer:
その方とのコネクションが生きた?
李氏:
実のところ,本国の経営陣の中には元オンネットの方々が,数名在籍しているんです。
4Gamer:
なるほど,そういうことでしたか。いやでも,李さんの場合は大学時代の活動によるところが大きいので,どれがどう影響してるのかちょっと分かりづらいですが……。
だとしても,よく「4か月で」を引き受けましたよね。僕ならさすがに躊躇します(笑)。
李氏:
経営陣も確信を持っていたわけではないと思いますが,「お前ならできる」という謎の信頼をいただいてしまったので,じゃあやるか……と。
あと,コンサル面で運営プロデューサーとして入ってきて,今は自分の会社に戻った秋山には,当時からたくさんのアドバイスをもらいました。ほかにも,元DeNAのマーケティングの佐藤 基さん(現在はMottoの社長)にお話を聞けたりと,周囲の人たちの協力あってのことです。
4Gamer:
だいぶ激動の1年でしたね。
李氏:
もう3年くらいの密度に感じてます(笑)。
現場を信頼して大事にすること。「現場でしっかりと議論して決めたことこそ正しい」
4Gamer:
「黒い砂漠MOBILE」のローンチ前後に関しては,まだまだいろいろありそうですけど,「これは困ったな」ということってどんなことがありました?
李氏:
うーん……そういう話ですと,プレイヤーの皆さんに「いかにコミュニティを形成してもらうか」の懸念でしょうか。ゲーム内で直接的に,ゲーム外で間接的にも含めて。日本のゲーム関連のWebでは,プレイ済みの人たちが集う場所はあれど,配信前からコミュニティを作れる専門的なところがほとんどないんですよね。
4Gamer:
韓国のオンラインゲーム文化では盛んですもんねえ。
李氏:
日本もないわけではないんです。ただ,メジャーどころがないというか,それ専門じゃないというか,ファン作りにリーチするのは難題でした。それに「黒い砂漠」は知っていても,「Pearl Abyss」は知らない人が多いんです。日本でのPC版の運営元はゲームオンさんなので。
ですからローンチ時は,MMORPGでもなく,Pearl Abyssでもなく,“黒い砂漠”というワードを前面に押し出すことを目的に,渋谷周辺をジャックしました。ここらへんの準備も,日本では本来なら3か月前くらいから進めるべきなんですが,ウチの担当は約1か月でやってくれてしまって。
4Gamer:
あのときのプロモ施策って1か月で出来るものなんですね……。
李氏:
オフィスにしても,昨年の4Gamerさんのインタビューのときは,確かレンタルオフィスにお越しいただきましたよね。あの場所ですらどうにかやっと確保できたという有り様で,当時は10人部屋に10数人が詰めていたり(笑)。
4Gamer:
でも今はこんなに立派な環境で。
李氏:
このオフィスも6か月前からの交渉だったので,契約を進めたのもローンチ当時でしたね。とにかく先回り,先回りで。
4Gamer:
ちなみに,本国サイドとしては,そうまでして急ぐ理由が何かあったんですか? 聞いてるだけだと「もうちょっと時間をかけて,さらにキチンとやればよかったのでは……?」という気もしてきますし。
李氏:
確かに,時間を取ることもおそらくできました。しかし,数回にわたるCBTの実施,単なる翻訳に留まらないローカライズ,座談会でお客さんの意見を聞いたりもしましたし,日本で主導する前から実は韓国でずっと作業が進められていたので,ゲームの完成度がすでに高まっている状態でした。
なんでしょう……言うならば「鮮度」でしょうか。
4Gamer:
なるほど。では実際のところ,本国との関係はどんな感じなんでしょうか。こういうのは慣例的に「本国が出張ってきて締めつける」「なんでも本国の許諾がないと動けない」「日本の商慣習を無視したオーダーが飛んできて死ぬほど困る」といったケースがよく耳に入ってくるものですが。
李氏:
まず始めに伝えておきたいのですが,Pearl Abyssには本社も支社もありません。韓国であればアンヤン・オフィス,台湾であればタイペイ・オフィス,アメリカであればLAオフィス,そして日本の東京オフィスという感じです。どこも物理的に離れているだけで,皆同じ「オフィス」であるという考えをもっています。パールアビスジャパンは,Pearl Abyssが日本に来ている概念ですね。
4Gamer:
ワンカンパニー。
李氏:
はい,そういう意識でやってます。
当然,最初からすべてがスムーズなわけはありませんが,1か月くらい一緒に仕事してると,ちゃんと分かっちゃうものですよ。本国開発との強いパイプを持つ,頼もしいメンバーも何人もいるので,そういうところは信頼すればいい。
意思決定の面でも,本国にはローンチを専門とする役員がいましたが,こちらに1か月ほど常駐してもらい,日夜議論を重ねた結果,やるやらないの話は日本で済ませられる形式になりました。彼が帰国しても「日本で十分に議論したんで,本国には結論だけで十分」で進められるんです。
4Gamer:
それはすごい。良くも悪くも過度な干渉がないと。
李氏:
これも本国の持ち味のひとつですけどね。例えば韓国では,あらかじめ調整はしているのでしょうが,二桁億の案件を十数名で一晩で議論し,その場で決断するという,とてもスピーディな文化があるんです。
だからこの1年も,僕と秋山と事業統括プロデューサーで役員でもあるハムとで決めて,「決めたらやる」のスタンスでやりました。
4Gamer:
そして本国もそれを受け入れた,と。
李氏:
はい。そうです。
4Gamer:
素直に素晴らしいですね。普通なら長く揉めそうなところですが(笑)。
李氏:
意思決定の速さは,僕らもありがたく思っています(笑)。
4Gamer:
そこまで信頼されていることにも,素直に感銘を受けます。
李氏:
どの会社もそうだと思いますが,「疑人不用,用人不疑(信頼できない人は採用するな。採用したら疑うな)」。これを地でいっているのが,Pearl Abyssという会社なんだと思います。そこが厳格に守られているんです。
僕にしたって,日本の開発や運営やマーケティングによる決定は,情報こそ共有するものの,報告はさせていません。「現場でしっかりと議論して決めたことこそ正しい」のですから。異論があれば口をはさみますが,CEOが口を出したからといって,いきなり物事が変わることもない。そういう形で現場を信頼し,大事に考えてきました。
4Gamer:
結局のところトップダウンって,それを受け入れる側がなかなか大変で,あんまりちゃんと機能しないこともありますしね。現場がそれくらいとしっかり物事を精査し,正しい道筋を挙げてくれて,それを上が尊重できるのはホントにすごいです。
李氏:
そもそも,Pearl Abyssの創業者Daeil KimやCEOのKyung-In Jungからして,現場に向けた素晴らしい考えを持っているのが大きいです。「必要分以上のお金をちゃんと稼げて,生活に関するケアも会社が用意すれば,人は仕事で素晴らしい成果を出す」という理念です。
実は,Pearl Abyssの「スタッフの福利厚生の充実さ」は有名な話です。本国では本人のみならず配偶者の保険,両者のご両親が老人ホームに入るための費用,子供手当から家賃手当まで出しますし,生活面でも美容室との連携や,銀行の窓口出張なども行っています。
4Gamer:
それ……めちゃくちゃすごくないですか。地味ですが窓口出張ってすごく便利な気がします(笑)。
李氏:
銀行での借り入れも,会社が保証人になります。
4Gamer:
はい……?
李氏:
韓国には結婚時に「チョンセ」という賃貸システムでマンションを借りるのが通例ですが,それにかかる大きな頭金の数千万円分も,会社が保証します。単純な給料だって,ほかの会社より少なくとも1.5倍も出しているんです。
だからそのぶん,ポリシーをもって全力で働いてね,と。
4Gamer:
そういう福利厚生は,もしや日本でも?
李氏:
法律が異なるので全く同じにできない部分はありますが,大半は「同じようなもの」を採用しています。本国からも承認をもらっています。
4Gamer:
派手にやると給与扱いになって税金が掛かってしまうのでいろいろ面倒くさいですよね……。
李氏:
もちろんそのあたりはキッチリやってます!
4Gamer:
今後人を集めるときは,その部分こそプッシュしたほうがいいのでは。
李氏:
ああ! そうかもしれません(笑)。
マネタイズの違いは“コミュニケーションエラー”に起因するものだった
4Gamer:
では困りごとに対し,1年で一番うまくいったことはなんでしょう。
李氏:
ローンチ時に大きな盛り上がりを作れたことですかね。PC向けMMORPGを知っている層以外にも,スマホゲームだったから触ってもらえたことで,「黒い砂漠」というものの認知度を大きく上げられました。
あっ,もう1つあるんですが,いいですか?
4Gamer:
どうぞどうぞ。
李氏:
「黒い砂漠MOBILE」は元々,グローバルワンビルドのプロダクト※です。ただし,それだと日本向けに最適な遊びを提供できないと考え,これまた本国と長く議論を重ね,最終的に日本独自の仕様を取り入ることになりました。それが「大討伐祭」というコンテンツです。
※国別にクライアントソフトが作られず,1つのバイナリ(アプリ)が全世界で使えるようになっていること。バージョン管理の手間が大きく省けてミスが起きづらいというメリットがある。
4Gamer:
ワンビルドのポリシーを変えさせる交渉となると,それは相当なエネルギーが必要だったんじゃないでしょうか……。普通あり得ないと思いますし。
李氏:
もう相当プッシュしました。マネタイズ的な側面だけではないコンテンツとしての必要性から「これは日本でやるべきだ!」とひたすらに推しました。開発の期間もありましたので,同時に仕様を固めて,調整も施していましたが,5月に交渉を開始して9月の実施まで延々と話し合いをしていましたね。
こういうやり方は今後も予定していて,毎日すごい電話して議論しているので,これからは毎週大きい変化を提供できるよう頑張ります。
4Gamer:
それって,ワンビルドからの脱却ですか?
李氏:
いえ,今回の場合は「“まず”日本で大討伐祭を実装した」という捉え方ですので,ほかの地域に同じものが実装される流れもあるかもしれません。重要なのはこれが日本初だった,ということです。
これにより「日本のプレイヤーの皆さんに最初にオリジナル要素を楽しんでもらえる」ことができるようになったので。
4Gamer:
たとえばですが,“特殊だ”と言われている日本のゲーム市場向けにコンテンツ作りを進めることで,それをグローバルビルドに還元するときに,逆にカルチャー的な足枷になったりしませんか。とくにMMORPGは。
李氏:
まさにそれに直面しています。ほかの地域で求められているものとの調整を,うまくコントロールすることが求められるでしょうね。
それにこれは一例ですが――手元にあるノートPCの画面をこちらに向けて――,韓国のスマホゲーム市場のトップセールスは,MMORPGが数多く存在します。しかし,日本の2018年などは「リネレボだけ」といった状態で,上位のほとんどが有名IPもので埋まっています。
4Gamer:
ですよね。良いか悪いではなくて,日本人としては違和感ありません。
李氏:
これはこれで対策をするため,我々はこの現状を「馴染み」と分析し,そこの開拓をするために「THE KING OF FIGHTERS」とコラボしました。単独だと限界はあるので,知名度のあるIPと展開する施策です。
4Gamer:
王道のコラボ施策ですね。まぁ,黒い砂漠MOBILEはそれほど複雑ではないので,パッと触っても混乱することはなさそうですが。
李氏:
ええ。実はゲーム内もそこまで「強いMMORPG感」がないので,誰でも遊べる作りになっていると思います。それに今も僕たちはMMORPGとして推すつもりはないので,今後も黒い砂漠で馴染んでいただくつもりです。
4Gamer:
MMORPGは日本でも一時代を築きましたが,そこから止まっちゃいましたからね……。
李氏:
「MMOってなに?」という人が多いですよね。韓国の人は大半が「リネージュ」からゲーム体験をはじめた,MMORPG大国だったので。
4Gamer:
昨今も「あの有名MMORPGがモバイルに」が韓国発でびっくりするほど出てきますからね。もちろん黒い砂漠も。
李氏:
はい(笑)。ですから,黒い砂漠アピールでいこうと。
4Gamer:
あとこの「黒い砂漠」という言葉,日本人的にはちょっと「ん?」となる並びだと思います。「Black Desert」だと聞こえはいいんですが,耳には残らないですし,この違和感のある音を残してきたところは,さすがだなぁって思いました。
李氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
さて……黒い砂漠MOBILEはこれまで一波乱もありましたが,基本的には堅調そうに見えます。そのうえでパールアビスジャパンには今後,なにか達成すべきミッションはあるのでしょうか。
李氏:
我々は真剣に「我々のゲームが面白い」と考え,それをさらに追及すべく,研究と改善を推し進めています。そのうえでミッションとなるのは,「日本のお客さんが望んでいることをしっかりやる」ということです。
具体的な方法論としては,ほかの会社さんもやっていることだと思いますが,「プレイヤーの皆さんの動向を毎日チェックする」です。それも,どんなに小さな意見でもです。本国にも共有します。
4Gamer:
たしかにKPIの確認などでよく聞く話ですが,Pearl Abyssはその力の入れようが違う,という話ですか?
李氏:
はい。ほとんど力技ですが,あらゆる媒体やコミュニティを羅列し,見なければいけないと決めた場所のコメントを毎日1つ1つチェックし,意見要望は大小関わらずリストに書き込み,それを世界中の全オフィスと共有します。とはいえすべてのコメントをすべての言語に訳すとなると大変なので,翻訳については重要なものだけとしていますが,最近はGoogle スプレッドシートの一括翻訳を活用するようになったりと,労力は多少軽減されています。
4Gamer:
それでも,全体の労力から見ればまだまだでしょう。
そうですね。でも,これがなによりも大切なんです。ちなみに本国で最近,黒い砂漠MOBILEのリアルイベントが行われたのですが,会場で開発陣と来場者が「10時間くらい熱く議論し続けた」らしいんですよ。
4Gamer:
リアルのface-to-faceで?
李氏:
はい。
4Gamer:
どっちも大変そうだ……。
李氏:
それくらいのことを日本でもやりたいんです。僕らはそれくらい,プレイヤーの皆さんの生の声を聞きたいと思っていますし,それらを真剣に受け取りたいという信念で,ゲームを運営しています。
4Gamer:
そういうことであれば悪意なく聞いておきたいんですが,日本版はほかの国と比べてマネタイズが違いますよね。これを「日本の多くのユーザーが望んだ」とは正直考えづらいですし,なぜこういうことになったんでしょう。
李氏:
この機会にしっかりとお話しておきたいことの1つが,それです。今週ちょうど韓国の開発チームとも話しました。
4Gamer:
それはどのような内容で……?
李氏:
ご存じのとり,「黒い砂漠」はガチャがないゲームでした。しかし,日本版の「黒い砂漠MOBILE」のスタート地点では「日本のゲームにはガチャがなければ」という固定観念で,本国であらかじめそのシステムが制作されていたんです。そのため,日本チーム発足後に考えた「日本向けの最適解」を反映するのが難しい状況にあり,先ほど話したように残された時間もわずかでしたので,ガチャシステムを抜いてゲームをマネタイズ的にも成立させる,といった決断を取れなかったんです。
今からでも謝らなければいけないのは,ローンチ前に「ガチャに最強武器は入れません」と主張していたのに,ローンチ後にそれに近いものを実装しなければいけないスケジュールになってしまったことです。この相反する状況に,お客さんからも多くの叱責をいただきました。
4Gamer:
つまり,そうならないための日本独自のやり方を練っていたのに,本国が「ありき」で作ってしまったものを出すしかなかった?
李氏:
本国が悪いわけでもないんです。すべては双方の単純なコミュニケーションエラーと……。そうですね,こうやってあらためて振り返ると,4か月という短い期間で日本ローンチに漕ぎ着けられた裏には,こういう課題があったんだと思えます。「日本ならこうだろう」の意識が先行してしまった。そうなる前にすり合わせる時間も足りなかった。
現在は「最高の武器はガチャでは手に入らない」の当時の方針を徹底しています。もし制限を緩めるときがあるなら,それはお客さんがインゲームプレイで相当する強さの武器を先に手に入れられる環境が整った場合ですね。お金だけでは最強にはれない。これはMMORPGの鉄則としてこれからも徹底していきます。
4Gamer:
そういう事情でしたか。コミュニケーションエラーが原因だった,と。
李氏:
それでも言い訳にすぎません。綿密に話すべき労力,その時間を確保できなかったことこそが問題だったので。こういう失敗の経験を踏まえて1年間の運営をレビューし,がっつり議論したのが,ちょうど今週だったんです。
4Gamer:
ただ思うんですが,これもMMORPGのジレンマですが,大概の人は「お金か時間のどちらかしか使えない」と思うんです。つまりガチャがないことが正解かというと,そういうわけでもないと思いますし。
李氏:
なるほど。「黒い砂漠MOBILE」は,負担が少ない,最適化した遊びを提供するというコンセプトがありますが,やはりというか,どちらかというと「時間をかけて遊ぶしかないMMORPG」ではあります。なので我々の最大の課題は,そのジレンマも含めた比重のバランシングにあります。
日本のプレイヤーの皆さんに関しては,まず前提としてMMORPGに慣れてない人が多い。お金と時間,さらに遊ぶのに疲れるというところの配慮も来年から進めていきたいです。具体的にどうするかはまだ決まっていませんが,それも2月までにできる範囲でやりたいと思っています。
4Gamer:
そのお話の空気感的に,あくまでも可能性の話ではありますが,マネタイズの変更すらあり得る……?
李氏:
可能性の1つです。まずは1周年までに,あらためて「黒い砂漠MOBILEは本当に面白いゲームだ」という気持ちを,我々も自信をもって送れるようにと準備を進めていきます。
4Gamer:
いや,1周年ってもうすぐでは。
李氏:
2020年2月ですからね(笑)。でもPearl Abyssにとっての3か月は,ゲームに対して全面的なテコ入れをするに足る期間です。年内は議論に費やし,スピーディな決断をもって,目標に向かいます。
それに,プレイヤーの皆さんにご迷惑をおかけしてしまったのは確かですが,これまでの僕たちの躓きは無駄じゃなかったと思っています。どれだけ良い悪いの意見を吸い上げても,人は自身で経験し,実感しないと,分からないことのほうが多いんです。だから僕はこの1年を大きな財産として,1周年以降により良いものにしていきます。
4Gamer:
実際,日本での売上はどうですか。
李氏:
いい感じです。一定水準を保てています。
4Gamer:
少し気になっていたんですが,本国のIRを見ていても,Pearl Abyssって各国での売り上げを個別に分けていないんですよね。
李氏:
分けていないですね。そのうえで言えるのは,日本の売り上げの比重は「かなり大きい」ということくらいですが。
4Gamer:
となるとです。本国としては「好成績な日本の現状」を強引に変えるのは,あまりよろしくないことなのでは。
李氏:
普通に考えたらそうですね。でも,僕たちPearl Abyssが目指す理想はそうじゃありません。僕たちは理想と現実でやれなくなりそうなことを,成し遂げてしまえる。そのパワーを持っている。
だから目指しているのも,もっと根本のところです。プレイヤーの皆さんが遊んでいて楽しい,喜べる,納得できる,とことん愛せる最高のゲームを作ること。これを売り上げが上がる下がるの次元で語ることがナンセンスです。売り上げはついてくるものですから。それに“そっち”を提供できたほうが,ゲームメーカーとしてはより賢い選択に決まっています。そういう信念で決断できるのがPearl Abyssです。
4Gamer:
なるほど。先日のG-Star 2019で発表された新作群も,きっとそういう意気込みで作られているんでしょうね。
李氏:
Pearl Abyssの次世代フラッグシップ「紅の砂漠」ですね!
関連記事:[G-Star 2019]「紅の砂漠」開発者インタビュー。Pearl Abyssが次期フラグシップMMORPGで目指すビジョンを聞いた
4Gamer:
全部MMOですよね。
李氏:
ジャンル的にはMMORPGです。ただし,いずれも軽い重い,浅い深いなどのテイストが違うので,プレイ感覚は一辺倒ではありません。
4Gamer:
うちでも「シャドウアリーナ」は担当者がとても気に入っていたようで,念入りに記事を出していた記憶があります。
李氏:
シャドウアリーナはファンタジー系の世界観で戦う,バトルロイヤルゲームです。ジャンルはMMORPGに分類されますが,一番のキモは“3Dアクション系のバトロワ”であることです。「黒い砂漠」に出てきたNPCがプレイアブルキャラクターとして登場したりもするんです。
4Gamer:
お,そういうのはちょっと面白そうですね。
李氏:
こちらは韓国などでCBTを重ねつつ,2020年上半期を目指しています。日本でもできるだけ早く皆様にお披露目できるよう,準備したいと思います。
関連記事:[G-Star 2019]バトルロイヤルゲームとアクションRPGの融合。新たなジャンルの到来を感じさせる「シャドウアリーナ」のプレイレポート
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4Gamer:
新作の中では,シャドウアリーナが一番早いんですね。
李氏:
そうです。僕は個人的には「プランエイト」が楽しみですが。
4Gamer:
あれも確かにすごそうです。あとは……「ドケビ」?
李氏:
ドケビはカジュアル系のMMORPGですね。ドケビは韓国語で“おばけ”の意味で,日本でいう妖怪ウォッチ的なものだと思っていただければ。
4Gamer:
デザインもポップアートな感じで。
本国のIRを見ても完全に「黒い砂漠」だけに頼り切ったビジネスモデルだったので,さすがにそろそろ「次」がないと大変そうだなと思ってましたが,4本いっぺんとは。
李氏:
これまで裏で着実に準備してきたので,一気にお披露目したかったんですよ。ただ,G-Starにもちょっとしたエピソードがあって。
4Gamer:
どのような?
李氏:
4つの新作タイトルを発表するときに披露したトレイラーって,実のところすべてインゲームの映像で制作しているんです。専用の映像を作るのは時間も手間ももったいない,ということで。
ただですね。前日になっても動画ができてないんですよ(笑)。
4Gamer:
突貫作業だったと。
李氏:
いえ,どちらかというと開発陣が「会場前日のリハーサルでも,ほかのメーカーの人たちが目にするから,ちゃんと作り込まないと許せない!」とクオリティを追求した結果,完成したのが当日の朝7時で。
当然,そういうクリエイターのエゴに,会場準備の担当者らの中には腹を立てていた人もいたんですが,みな完成トレイラーを見た瞬間,「あぁこれなら仕方ないね!」って納得してました(笑)。
4Gamer:
あぁ確かに全部インゲームって書いてあった気がします。
関連記事:[G-Star 2019]Pearl AbyssがG-Starに初出展し,新作の4タイトルを一挙発表。次期フラッグシップRPGは「紅の砂漠」
李氏:
「黒い砂漠MOBILE」も,広告用のクリエイティブはすべてインゲームでしたしね。それに映像スタジオなどに依頼し,トレイラーで過剰な専用映像を別途制作しても,そこに期待したお客さんが「中身全然違うじゃん!」となってしまったら,それは裏切りです。誠実ではありません。
だからPearl Abyssではなるべく,実際に遊べるものを伝えたいという方針で映像を制作しています。
4Gamer:
素晴らしいです。トレイラー専用映像はホントやめたほうがいいと思うんですよね……。
しかしそうなると,映像を作っているのもすべてゲームの開発陣なんですか。
李氏:
開発には一応,映像専門のチームもいますので。ただインゲームの撮影の場合,開発機で動かして,手動で頑張って作っています。今どきはかなり特殊な部類になってきたかと(笑)。
ベタです(笑)。Pearl Abyssって今は全体でどれくらいの人数がいるのでしょう。
李氏:
Pearl Abyssの全スタッフは約1000名ほどです。ゲーム以外の事業系もほとんどない会社ですので,内訳もほとんど開発です。そのうちモバイルは全世界で200人弱くらいです。数が多いわけではないです。
4Gamer:
それでも新作4本を韓国で出して,日本でも出すんですよね。
李氏:
全部出します。
4Gamer:
ここもまた手狭になりそうですね……。
李氏:
そうですね……(笑)。このオフィスじゃ早くも収まりそうにないので,さっそく引っ越し先を見つけなければなりません。
4Gamer:
そこに収める新たな人材も。
李氏:
ええ。パールアビスジャパンでは絶賛人材募集中です。クオリティに妥協しない,プライドを持って仕事できる環境,モバイルはもちろんPCやコンソールまで,AAAに携わりたい人にはうってつけ。さらに福利厚生もしっかりしています! ゲーム好きなクリエイターや運営の方々には,かなり満足していただけるかなと思っています。
4Gamer:
パールアビスジャパンの情報はこれまであんまり表に出てこなかったので,これで知ってくれる人たちが増えたらいいですね。
李氏:
会社よりモノをお届けする,というタームでしたから。でもそれだけだと「黒い砂漠MOBILE」の名がIPコラボで世間に広まっても,より良い仲間を受け入れられる環境にはつながらないので,来年からもうちょっと「僕たちがパールアビスジャパンです!」と言えるように力を入れようかと。
会社的にも今までいなかったPR専門職の方々をお迎えできればと,来年に向けて動きはじめています。
4Gamer:
2020年はさっそく忙しくなりそうですね。
李氏:
ここんところ毎年激しいです。
4Gamer:
しかも難題を押しつけられて。
李氏:
(笑) でも,当たり前のようにやります。
4Gamer:
できちゃいそうな気がします……。
李氏:
できないのは,できない理由を探しているからです。やりたいことがあるならまず,できる方法を探します。それでもできなければ,それは根本がおかしいということなので,立ち返ってからどうにかします。
専門家ほどあれはできない,これできないって言いますしね。
4Gamer:
すごくよく分かります。出来ないっていう人は,まぁたいてい「出来ない理由」を一生懸命探してるだけです。
李氏:
まずはあらゆる手段でできる方法を見つける。それが僕のやり方ですし,きっとPearl Abyssらしいってことなんだと思います。
4Gamer:
「黒い砂漠MOBILE」のアップデートなど含め,来年の動きにも期待しています。本日はありがとうございました!
「黒い砂漠MOBILE」公式サイト
―――2019年12月18日収録
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