インタビュー
将来的にはマルチプラットフォーム展開を目指す。謎多き新作の一端が語られた「新・消滅都市プロジェクト(仮称)」開発者インタビュー
発表に合わせて公開されたプロモーション映像では,Unreal Engine 4(以下「UE4」)を用いたハイクオリティな映像で来場者を驚かせたが,そのゲーム内容などは謎に包まれている。
そこで今回は,本作の開発を行うWright Flyer Studios(以下,WFS)でプロデューサー兼ディレクターを務める下田翔大氏と,リードアーティストの櫻井慶子氏,ゲームデザイナーの丹波豪人氏へのインタビューを実施。注目を集める「新・消滅都市」の詳細と,今後の展開について聞いた。
「PROJECT消滅都市発足発表会」レポート記事
「PROJECT 消滅都市」ポータルサイト
「新・消滅都市プロジェクト」公式サイト
「新・消滅都市」のテーマは「ドラマ体験」
最終的にはマルチプラットフォーム展開を目指す
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはお三方の,「消滅都市」シリーズにおける役割を教えてください。
下田翔大氏(以下,下田氏):
消滅都市シリーズを作っているWFS第3スタジオの部長をやっています。シリーズディレクターとして,色々な場面での開発に関わりつつ,今回発表した「新・消滅都市」ではプロデューサーとディレクターを兼任する形になります。
櫻井慶子氏(以下,櫻井氏):
消滅都市シリーズのリードアーティストとして,アートワークの部分を統括する仕事をしています。新作では,キャラクターデザインや3D周りの監修などをメインに担当しています。
丹波豪人氏(以下,丹波氏):
新プロジェクトのゲームデザイナーです。メインストーリーのシナリオ制作や世界観設定,およびゲームシステムを含めたレベルデザインなどが主な仕事ですね。今は,下田と「ああでもない,こうでもない」と話し合いながら,色々な要素の着地点を探しているところです。
4Gamer:
消滅都市は今年で4周年を迎えます。5月末にはイベントも実施されましたが,これまでを振り返っての感想などをお聞かせください。
イベントの壇上に立った時には「ああ,ここまで来たんだな」という,なんとも言えない感慨を受けました。
長いようで短い4年間だったなと。
櫻井氏:
消滅都市のナンバリングが“2”になって,初めて単体でのリアルイベントをやった時は「すごいところまで来たな」と思っていたのですが。その翌年にはこの新作の制作ですからね,めまぐるし過ぎて,状況を正しく認識できてるか怪しい瞬間があるくらいです(笑)。
丹波氏:
僕がWFSに入ったのは半年前で,それ以前は外部から消滅都市を眺める立場だったのですが,それでも(作品全体の)盛り上がりは感じていました。そんな作品の新作に携われるということで,身が引き締まる気持ちです。
4Gamer:
丹波さんは,どういった経緯でWFSに参画されたのですか?
丹波氏:
実を言いますと,僕と下田は以前同じ会社に所属していまして。当時は下田と同じ職場で仕事をしていたんです。
下田氏:
自分が(以前の職場に)入社したときは,丹波さんが先輩でしたね。
丹波氏:
同じ釜の飯を食ったクリエイターの作品ということで,消滅都市には以前から注目していたんですよ。そこで,下田から「新しいプロジェクトが動くから来ないか」と誘いを受けて,現在に至るという感じです。
4Gamer:
ありがとうございます。それでは本題に移らせていただきますが,「新・消滅都市」の企画はいつ頃から動き始めていたのでしょうか。
下田氏:
プロジェクトの構想がはじまったのは,去年の4月頃でしょうか。「新しい消滅都市を作りたい」という目標を持ってスタートしたのですが,ビジョンを固める段階でかなりの時間がかかりました。とくに,基礎となる部分を作っては壊す期間が長かったですね。
4Gamer:
となると,丹波さんは「新・消滅都市」が動き出したあとに参加した形になるのですね。
(参画時は)まさに作っては壊し,を続けているタイミングでした。「あ,もう結構できてるじゃん」と思ったら,次に見たときには別のものになっていて。
今に至るまで,そのスピード感を維持しながら制作にあたっています。
4Gamer:
具体的な部分についてお聞きしたいのですが,そもそも「新・消滅都市」は,どんな作品なのでしょうか。
下田氏:
何回か作り直しをしていて,現在はゲームの方向性を決定したあとの基礎構築を進めている段階でして……詳しいことをお話できる段階ではないんです。
その上でお話ししますと,本作は現在「最高のドラマ体験を届けよう」という号令のもと,鋭意制作中です。
丹波氏:
「新・消滅都市」における第一のテーマは「ドラマ体験」です。そこから逆算した形で必要なゲーム性とは何かと考えたとき,RPGというジャンルが着地点として適切だろう,と考えています。
4Gamer:
イベントで公開されたPVでは,ユキが巨大な敵から隠れるシーンなど,アクション要素とも取れる映像が確認できました。単なるコマンドバトルRPGとは違う印象を受けたのですが,実際にはどういった形になっているのでしょう。
下田氏:
はい,アクション要素は存在しますが,あくまでゲームとしての“ドラマ”を引き立てる要素として,難しくなりすぎないラインでの導入を考えています。
というのも,現行の消滅都市はリアルタイム性が非常に強く,物語や世界観に興味を持ちながらも,操作のハードルが高いせいで進めないというご意見もお客さまから頂いていたんです。本作では,ドラマ体験に没入するために必要なギリギリのラインを見極めて,アクション要素を入れていきたいと思っています。
丹波氏:
詳細なシステムについては鋭意固めていっている最中ですが,いずれも「ドラマという主目的を引き立たせるためのゲーム体験」という部分は,ブレずに開発を行っていきます。
4Gamer:
ゲーム的には,いわゆる“終わり”が存在するものなのでしょうか。
丹波氏:
キャラクター個々の物語や世界観にゲームが終わったあとどのように触れていただくかは検討中ですが……起承転結やカタルシス,そこから繋がる一連の物語の“終わり”は,しっかりと用意しています。
下田氏:
きちんと「ラスボスのいるゲーム」を作ろうと思っています。
4Gamer:
現状で決まっている範疇で問題ないのですが,本作はどんなストーリーになるのでしょうか。ユキやアキラの姿を見て,詳細が気になっている人は多いと思います。
丹波氏:
そうですね,ストーリーは……。
下田氏:
(咳払い)
丹波氏:
……ええと,ネタバレしないように気をつけますね。先に公開したPVを見て,ファンの皆さんが想像・期待する要素については,しっかりと詰め込まれたストーリーになっています。
4Gamer:
PVの思わせぶりだった部分は,キッチリ回収してくださるということですね。
丹波氏:
ええ,ぜひご期待ください。
4Gamer:
ここは多くのファンが気になっている部分かと思うのですが,展開するプラットフォームは決まっていますか?
下田氏:
現状は中身のコンテンツを作っている段階なので,確実に「このプラットフォームで出します」とはお伝えできません。ただ,幅広い場所で楽しんでいただけるよう,最大限努力をするつもりです。最終的な終着点としては……たとえば「フォートナイト」のような,マルチプラットフォーム展開を目指しています。
4Gamer:
モバイル向けだけでなく,コンシューマやPC向けにも展開する可能性があるわけですね。
下田氏:
はい。モバイル向けとコンシューマ向けの両方で動作テストを行いつつ,それぞれの実現可能性を残す形で開発を進めています。
ただ,先ほどお話ししたとおり,現在は基礎構築段階です。このあたりの展開についてハッキリとお伝えできないのは心苦しいのですが, 詳細については,続報をお待ちいただければと思います。
何にせよ, WFSとしてはハイエンドなゲームを作ることがまずチャレンジです。一緒に作っていく仲間を集いながら,満足のいくクオリティを実現するのが現在の最優先課題。仔細を詰めるのは,そのあとですね。
4Gamer:
PVで見たレベルの3Dモデルも,モバイルに対応可能なのですか?
櫻井氏:
3Dモデル自体は,結構リッチな作りになっているんですよ。作っている側からしても「これがモバイルで動くんだ」と,ちょっと驚いています。
下田氏:
かなりギリギリを攻めています。マルチプラットフォーム展開が可能なように「1キャラクターは1万5000ポリゴン前後でクオリティを出し切ろう」など,今後の展開を見据えてレギュレーションを設計しています。制限の中で一定のクオリティを出せる段階に来たことは,素直に感慨深いですね。
“作って壊して”の繰り返し
「新・消滅都市」が開発力育成の先駆けとなる
4Gamer:
開発にあたり,UE4を採用しているということですが,導入を決定した理由は,どこにあるのでしょうか。
下田氏:
自分がTim Sweeney(ティム・スウィーニー)氏の思想に共感したというのが一番大きな理由かもしれません。モバイルとコンシューマの壁を越えたマルチプラットフォームという目標を達成するにあたり,最も適切なのがUE4だと考えました。
また,スタジオ全体の開発力向上も目的のひとつです。全員がブループリント(視覚的にプログラムを扱えるUE4のビジュアルスクリプティングシステム)を使えるようにするとか,マテリアルをデザイナーが直接触れるようにするだとか。最先端のツールに慣れることで,今後できることも広がると思いますので。
WFSとしてはUnityもかなり使っています。「新・消滅都市」でも,実はプロトタイプをUnityで開発していた時期もありました。
4Gamer:
実際にUE4を開発に導入してみて,感じたことなどはありましたか?
下田氏:
カットシーンのエディタ1個をとっても,ゲームを作るツールとして非常に優れているなと感じます。また, ブループリントの高機能性にはかなりクリエイティビティを刺激されています。デザイナーも自分たちだけでマテリアルをいじり倒して, エンジニアを介さずどんどんクオリティを上げていっていますね。
4Gamer:
開発にあたって気を使っている部分であったり,とくに重視している点があれば教えてください。
下田氏:
UE4を使って作る最初の作品ですから,WFSにとっては重要なモデルケースとなります。ですので,プログラムの組み方も含めたすべての面で「綺麗に作る」ことを意識しています。
我々は,これを「エンジン戦略」と呼んでいます。
4Gamer:
といいますと?
下田氏:
何かを作ったら,その土台をほかのプロジェクトでも使えるように整備するんですよ。なので,見通しの良い設計を意識して,あとから見て分かりやすいソースコードを考える必要があるわけです。
実際の行程としては,プロトタイピングでシステムを構築して「これで行ける」という確信を得たあとに,全部壊して基礎構築からやり直すという流れを取っています。一見すると不合理なのですが,こうしたほうが次につながるんですよ。
4Gamer:
今後,新たなプロジェクトが発足したときのクオリティラインが上がると考えると,確かに重要なポイントと言えそうですね。
下田氏:
WFS内でも最前線の仕事をやって,新しい道を切り開いていくのが消滅都市というプロジェクトの役割なので。このチャレンジを, スタジオ全体の開発力を引き上げるチャレンジにしていきたいと思います。
4Gamer:
デザイナーとしてはいかがでしょう。これまでのプロジェクトとはまったく異なる仕事になるかとは思いますが,とくに難しかった仕事などがあれば教えてください。
櫻井氏:
はじめてのことだらけで,何から話せば良いやらという感じです。そもそも「3Dでやります」と言われた時点で,社内で3Dができる人を探す所から始めていました。
キャラクターの絵柄もバラエティ豊かですので,まずは「デザインが3D的に成立するかどうか」から検討が必要だったんですよ。とくに主役級のキャラクターは解釈が難しくて,主人公のユキなんか何度描き直したか分かりません。
丹波氏:
やっぱりチームの皆にとっても,ユキに関しては長年育んだ愛がありますからね。
櫻井氏:
それぞれ,心の中に「自分のユキはこう!」という解釈があるんですよね。それが融合した形が,今の消滅都市におけるユキなので。その想いをしっかり投影できる形を探して,テイストを揃えつつ個性を出す為にいろいろ工夫をしています。
“これじゃない”は存在するのに,正解は見えないんですよね。4周年の区切りで映像を出すことは決めていたので,そこで“これじゃないユキ”が出てしまったら,期待を裏切ることになってしまいます。
そこは慎重に,本来のキャラクター像をしっかりと捉え治すところから造形にあたっています。
4Gamer:
人員集めからスタートして,あのクオリティが出せるところまで到達したということですね。
櫻井氏:
心強いメンバーが続々と集まってきています。作っていくのは大変ですが,自分が描いた2Dイラストのキャラクターを立体化していくプロセスは最高に楽しいです。
今回は,今までのお客さんにも受け入れてもらえるよう,3Dでのアニメ的な表現に挑戦しています。シルエットや影の見せ方など,まだまだ追求すべきことは多いのですが……最終的に,皆さんの心を動かせるキャラクターたちを送り届けられるよう,妥協せず作っていきたいです。
4Gamer:
制作体制についても伺いたいと思います。現在,チームに所属している人数はどの程度になりますか?
下田氏:
現状は30人弱ですが,人員は毎月増えています。初期の頃は本当に人が少なくて,PV発表の2ヶ月前までは3Dキャラクターのモーションデザイナーがいなかったくらいなんですよ。
4Gamer:
それまで,どうやってキャラクターの動きを作っていたのですか?
下田氏:
ゲームの仕様を固めている段階では,磁気式のモーションキャプチャーシステムを導入して,社内の人間が動いてモーションを付けていました。
櫻井氏:
私もテスト用に一部モーションを演じさせて頂きました(笑)。
下田氏:
モーションデザイナーさんには短い期間で,一気にクオリティを上げてもらいました。その人は入社早々, 突如として画面一杯になったタスクリストと向き合うことになったわけですが……。
4Gamer:
壊して作ってを繰り返していたとのことですが,実現しなかった案にはどういったものがあったのでしょうか。
下田氏:
ゲームとしては,コテコテのターン制コマンドRPGだった頃もありましたね。制作が進む中で,リアルタイム要素を取り込んだ現在の形へと落ち着いていきました。
丹波氏:
僕が参画した頃に作っていたシステムですね。コマンドRPGも,あれはあれで面白かったですよ。
ターン制コマンドRPGから現在の形へと変えた理由は,どこにあるのでしょうか。
下田氏:
そのシステムが単体として面白いかは別にして「消滅都市で届けたいドラマ体験にそぐわない」と思ったんです。元々の消滅都市が持っていた疾走感や,時間に追われるギリギリ感は, ドラマ体験にとってとても重要な要素だったと気づけたんです。そこで思い切って構築したシステムを一度崩し, リアルタイム要素の導入に踏み切りました。
繰り返しになりますが,いちばん重要なのはドラマ体験を作ることです。ゲームを通じてキャラクターに感情移入するためには,やはり時間の感覚は欠かせないかと。
4Gamer:
過去に作ったターン制コマンドRPGも,ちょっと遊んでみたい気がします。過去に作った要素は,完全に廃棄されてしまったのでしょうか。
下田氏:
いえ,ゲームデザインの根元にある思想からはじまり, キャラクターが用いるスキルの性質などの細かいところまで,エッセンスの部分は引き継ぎつつ作っていますので,当時の遺伝子はしっかりと残っています。
4Gamer:
ありがとうございます。ここまで「新・消滅都市」を中心に聞いてきましたが,同時に発表された「消滅都市 ドラマRPG MIX」についてはいかがでしょうか。こちらは,どんな作品になりますか?
下田氏:
ドラマRPG MIXは,消滅都市を運営して蓄積されてきたメインストーリーなど,“ドラマ”部分を中心にストーリー体験を最大化した形でお届けするための作品です。「世界観や物語は気になるけどアクションゲームが苦手だから遊べない」という人にも楽しんでもらおう,というのが大きなコンセプトになっています。
アニメから興味を持っていただいた方や,普段ゲームをあまり遊ばない方の受け皿になれば,と考えています。
4Gamer:
ゲームのジャンルは,どういった形になるのでしょうか。
下田氏:
詳細はまだお話しできませんが,アクション要素を減らしたRPG寄りのゲーム内容になる予定です。ストーリー体験を最大化するため, なるべくシンプルなシステムを目指しています。しっかりと制作は進んでいますので,ぜひ続報を期待してお待ちいただければと思います。
4Gamer:
ちなみに,「新・消滅都市」の話に戻るのですが, ゲームに関するマネタイズについて,すでに決定していることはありますか?
下田氏:
実は, あんまり考えていないんです。まずは,ゲーム体験, ドラマ体験をキッチリ作り込むことに注力して,細かいことはあとから考えれば良いかなという感じです。
それなりに時間のかかるプロジェクトですし,ここから数年は世の中の時流なども大きく変わっていくタイミングだと思っています。今から流通や収益について頭を悩ませるくらいなら, きっちりゲームと向き合おうという感じですね。
4Gamer:
まだその段階にない,ということですね。
下田氏:
もちろん「いつまでも考えません,行き当たりばったりです」という話ではありません。内部でバーティカルスライス(ゲーム開発において,一部分だけ製品版とほぼ同等のクオリティを持った区画を完成させ,品質の判断基準とする手法)を作って,届けたいドラマ体験が実現できているかをみんなで検証して,そこからようやく外郭を考える段階に移れるのかなと思っています。
シナリオの基礎は「FINAL FANTASY X」にあり
体験がストーリーを作るゲームはどう作られるのか
4Gamer:
皆さんの,クリエイターとしてのパーソナリティについてもうかがいたいと思います。皆さんが目標にしている作品や,心に残っている作品があれば教えてください。
櫻井氏:
アートワークで言えば,やっぱりアークシステムワークスさんの「GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」や「ドラゴンボール ファイターズ」ですね。あれほど違和感のないアニメ的3D表現をもってオリジナルのドラマが作れたら,それほど素晴らしいことはないだろうと。
4Gamer:
同業者の目から見ても,あの表現はやはりハイレベルなものなのでしょうか。
下田氏:
作る労力を想像するだけで昼飯をもどしちゃいそうです。
丹波氏:
そうなんですよね。すごいゲームを見ると,感想云々より先に「投入された労力」に目が行って,ウッとなっちゃう(笑)。
想像するに恐ろしく手間がかかっているかと。ひとつひとつのカットすべてにデザイナーが細部までこだわらないと,あそこまで迫力のある映像表現は作れないと思います。
キャラクターが活き活きと動き,見ていて飽きない絵作りである事は,より感動な物語を伝える為に大切にしたい部分ですね。
4Gamer:
丹波さんはいかがでしょう。これまで触れてきた作品で,目標となる作品はありますか?
丹波氏:
本作の目的は,ゲームを通じてドラマを体験してもらうことですので,そういった意味で目標にしている作品は「ゼルダの伝説」です。
ゲームのドラマ体験というのは,文字だけで伝えられるものではないですよね。ゲームプレイを通して,キャラクターを動かすことでストーリーを体感する作品としては,最高峰なんじゃないかなと。
下田氏:
丹波さんと話していると「FINAL FANTASY X」は,丹波さんの中に刻まれた大きな楔としてあるのかなと思うんですが。そのあたりはどうですか?
4Gamer:
多くのゲーマーが認める名作ですね。何か思い入れがあるタイトルなのでしょうか。
丹波氏:
そうですね。実は僕はかつて,前職で「FINAL FANTASY X」の制作に参加していたんです。あの頃は入社して間もない若手だったのですが,当時,ディレクターの北瀬さんや,シナリオライターの野島さんがゲームに関して話されていた言葉や考え方は,今の自分に大きな影響を与えていると思います。
「ゼルダの伝説」はゲームの方向性としての目標ですが,「FINAL FANTASY X」はクリエイターの端くれとして僕がいつか超えたい作品なのかもしれません。
4Gamer:
スクウェア・エニックス時代に学んだ,記憶に残っている出来事などはありますか?
丹波氏:
「FINAL FANTASY X」の開発当時,シナリオを作った野島さんに,どうしてあんなドラマチックなストーリーや世界観を思いついたのか,その理由を聞いたことがあるんです。
僕はてっきり熱いシナリオ論が聞けると思っていました。しかし,教えてもらった答えは全然違うものだったんです。
あの頃はPS2になってマシンスペックは上がったものの,グラフィックスのレベルが向上して,限られたスタッフの人数で世界中の街をひとつひとつ作り込むのは,物量的に難しくなっていたんですね。そこで考案されたのが,「世界を破壊して回る強大な敵(シン)」という存在だったんだそうです。「街を作れないなら(物語上で)壊してしまえばいい」という。
4Gamer:
逆転の発想ですね。
丹波氏:
正直,目から鱗が落ちました。表現やリソースの制約を,世界観を構築することで補い,しかもそれを利用して魅力的なストーリーに仕立て上げているんです。ゲームのシナリオを作るというのは,こういうことなんだと思いましたね。
4Gamer:
ゲーム開発というのは,外部からはなかなか構造が見えない世界ですから,こういったお話は貴重だと感じます。ゲームを作るにも様々な手法があるかと思いますが,とくに重視している点があれば教えてください。
丹波氏:
もう業界に20年以上いますが,ゲームの作り方という意味では未だに答えが出ませんね。
たとえば「仕様書の書き方を教えてくれ」って言われることがあるんですが,実のところ自分でも未だに正解が分からないんですよ。ゲームといえど,やはり人が作るものですから。
相手がすごく優秀なエンジニアさんなら,口頭で必要な内容を伝えれば仕様書がなくても形にしてくれるでしょうし,逆に相手が新人さんであれば,自分の意図を理解してもらえるよう,ことこまかに説明しなければいけません。
なので結局は,チームメンバーたちとコミュニケーションをしっかりとって,その場にあった判断を下すのが一番大切なんだと思います。
4Gamer:
新たなプロジェクトが始まったWFSで,一緒に働きたいという人は少なくないと思います。会社の雰囲気や印象などの部分についてお聞きしたいのですが,いかがでしょうか。
丹波氏:
面白いコンテンツを作ることに対して,とても真摯な会社ですね。最近はゲームを作るにしても,純粋なゲーム性以外の要素を考える機会が増えてきています。しかしWFSはまず“ゲームが面白いかどうか”が最優先で,そうして出た意見を尊重してくれる会社なんです。クリエイターにとって,すごくありがたい環境だと思います。
櫻井氏:
「やりたい」と言ったら,どこまでも挑戦させてくれる会社です。まだ若手の頃, 女性向けプロダクトに参加していたのですが,私が「男性向けもやりたい」と言い続けていたら,配属を調整してもらえたということもありました。
仕事内容自体も,最初はUI等イラスト系ではない業務が中心だったのですが,1〜2年ほどでキャラクターデザインに関わるようになり,現在は3Dにも関わっています。「こういうことをやりたい」という気持ちを汲んでくれるので,明確な目標がある方には良い組織だと思います。
下田氏:
現状,WFSは深刻なリード不足状態です。リード◯◯プランナーとか,リード◯◯デザイナーとか,そうした席が今まさに空いております。すでにそうした役職の経験者さんももちろん大歓迎なのですが,「まだやったことはないけど自分ならできると思う」「チャレンジしてみたい」という方も,ぜひご相談ください。
WFSの先頭に立って, 新しい一歩を作る仲間として,ご一緒してくれる方がいれば幸いです。
4Gamer:
では最後に,新作タイトルを楽しみに待っているファンの皆さんにメッセージをお願いします。
櫻井氏:
楽しみにしてくださっている皆さんがいる,ということ自体が毎日の励みになっています。まだ具体的な話を出せる段階ではなく心苦しいのですが,皆さんが最大限楽しめる世界を作れるよう努力しております。しばらく待ってもらうことになってしまいますが,見守っていただければ嬉しいです。
丹波氏:
先日のイベントでもそうでしたが,消滅都市のファンの皆さんは熱量が凄いんですよね。しかも作り手が伝えたいメッセージを正確に,かつ健全に受け取ってくれる方が多くて,本当に恵まれたコンテンツだと感じます。
僕も皆さんの熱量に負けないくらいのエネルギーをもって取り組んでいきます。皆さんの期待を上回り,良い意味で予想を裏切るものを作っていきますので,ぜひ期待してください。
下田氏:
今は「がんばります」とお伝えしつつ,まだ色々とお出しできる段階ではありませんが,とても良いものを作れるんじゃないかという予感がしています。集まってくる仲間のエネルギーであるとか,出来上がってくるモノを見ていて,とても良い流れが生まれはじめているように感じるんです。
WFSとしての大きなチャレンジに, はじめは不安な気持ちもありましたが, 今は”この作品は生まれることを望まれているのかもしれない”と思えるようになりました。最高のドラマ体験をお届けするために,この流れを絶やさないよう, 旗を高く掲げ続けていきたいと思っています。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
―――2018年6月6日収録
- 関連タイトル:
新・消滅都市プロジェクト(仮称)
- 関連タイトル:
消滅都市
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消滅都市
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(C) Wright Flyer Studios, Inc.
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