企画記事
「JUDGE EYES:死神の遺言」で木村拓哉さんが演じる探偵ってどんな仕事? 現役の探偵にあれこれ教えてもらった
4Gamer:
先ほどはいろいろな調査機材を見せていただき,ありがとうございます。
ここからは実際の探偵について詳しく聞かせていただきたいと思いますので,よろしくお願いします。
まず,おふたりが探偵になったきっかけを教えていただけますか。失礼ながら,「探偵」という職業に興味を持つきっかけがあまり想像できないのですが。
私は求人チラシを見て応募しました。
今年で入社20年目になるんですが,20年前は「探偵」という職業自体の認知があまりなくて,本当に存在するのかも定かではないぐらいだったんです。なので,そのチラシを見たときは「探偵って本当にいるんだ!」と衝撃を受けましたね。
4Gamer:
入社前に持っていた探偵のイメージと,現実の探偵にギャップはありましたか。
若梅氏:
それはありましたね。20年前に持っていたのは,それこそ「薄暗い事務所で,荒くれものが集まっているところ」みたいなイメージでした。ところが,入社してみるとそんなことはなくて「ちゃんとした会社なんだな」と思いました。
4Gamer:
前職は何をなさっていたんですか。
若梅氏:
警備の仕事に就いていました。ほかにも,バイク便の仕事をやっていたこともあります。
弊社には元刑事や元レーサーという職歴を持っている人間もいますし,各々が経歴を生かして調査にあたっています。
4Gamer:
高野さんはいかがですか。
私は不動産会社の営業だったんですが,そこが最大で45連勤もあるぐらい,かなりブラックな会社でした。
4Gamer:
それはなかなかですね……。
高野氏:
それを見ていた妻に「そろそろ子供も生まれるし,仕事や働き方を考え直したらどうか」と言われて,転職を考えるようになったんです。
4Gamer:
そこに探偵の求人があったわけですか。
高野氏:
はい。まず川越に探偵事務所があったことに驚きましたし,自分の知っているテレビ番組に多く協力実績があるなど,日本でも指折りの探偵事務所だということが分かりました。それで興味を持って,求人に応募した形になります。
4Gamer:
高野さんは調査員ではなく,相談員ということですが,もともと営業マンだった経験を生かそうと思って相談員を志望されたのですか。
高野氏:
いえ,実は私も調査員だったんです。今は配属転換で相談員になりましたが。
4Gamer:
え,そうなんですか。
高野氏:
私って,すごくお節介焼きなんですよね。
不動産の営業をやっていたときも,お客さんが抱えてる悩みを解決するために,ご両親を呼んで一緒に食事しながら話をしたり,居酒屋で知り合った夫婦の悩みを聞いたりしたこともありました。営業マンとしてはかなり変わってる人間だったのかもしれませんが,そういうことが好きだったんです。
そんな気質を見抜かれたのか,社長の一声で調査員から引き抜かれて相談員になったんですよ。前職のことは伝えてないので,不思議なものですが。
4Gamer:
なるほど。
それでは,ここでおふたりにジャッジアイズのトレイラーを見ていただき,現役の探偵目線から率直な感想をお聞かせください。
若梅氏:
映像には尾行や写真撮影,対象者の顔確認という要素が入っていますが,我々も本当にやっていることなので「よくぞ取り入れてくれたな」と思いました。さすがにピッキングは犯罪なのでやりませんけど(笑)。
探偵モノのゲームというと,大半が推理小説のような「謎解き」にウエイトを占めるものが多いですよね。そういうゲームと比べると,かなり「リアルな探偵」に近いと思います。
4Gamer:
実際の探偵の調査は,やはり対象者の尾行が大部分を占めるのでしょうか。
若梅氏:
はい。尾行と張りこみ,兎にも角にもこの2つの繰り返しです。
例えば浮気調査なら,変装をして気づかれないように張りこみや尾行をして,決定的な証拠となる写真を押さえます。
4Gamer:
ジャッジアイズでは身体的特徴から尾行対象を探すシーンがありますが,実際には人ごみのなかから対象者を探さなければいけないときもあると思います。
若梅氏:
はい。例えば尾行対象の勤務先が大きい会社だった場合は,帰宅ラッシュでスタスタと帰っていく何千人という従業員の中から1人を見つけなければいけないこともあります。ゲームでは,身体的特徴が分かりやすくクローズアップされていましたが,実際は特徴がない人の方が多いですから「あればラッキー」ぐらいの感覚ですね。
4Gamer:
そういった場合に尾行対象を見分けるコツはあるのでしょうか。
若梅氏:
基本的には依頼者からいただいた対象者の写真を頭に叩き込んだ状態で,身長や体格,情報があるなら当日の服装から見つけていきます。
見分けるコツは「耳を見る」ことですね。よく我々は「耳確をしろ」なんて言いますが,耳と目の形は人によってみんな違っていて,年を取っても変わらないんです。逆に顔のふくらみやヒゲ,髪形といった変わることのある特徴は信用できません。
4Gamer:
その特徴をもとに,大勢の人の中から一瞬で見極めていくわけですか。
若梅氏:
そうですね。あとは本当にレベルの高い探偵になってくると,対象者の写真がなかったとしても見た感じで何となく分かるんですよ。発見した状況と特徴と雰囲気,そして行動範囲で推理して当ててしまうんですよね。
4Gamer:
なるほど。そうやって巧みに見つけた対象者を尾行していくと。
若梅氏:
ゲームでは物陰にコソコソと隠れていましたが,ああいうことはしないです(笑)。八神くんは革ジャン姿で尾行してましたが,あれはちょっとないですね。ウチの探偵がやってたら怒鳴りつけるぐらいですよ(笑)。
4Gamer:
確かに素人目線でもあの格好は怪しまれると思います(笑)。
若梅氏:
尾行対象に気づかれるということが,一番やってはいけないことです。いかに一般人と溶け込んで,自然なふるまいで尾行できるかが重要です。
あと,ゲーム中では1人で尾行していましたが,実際はチームを組んで行います。尾行対象が急にタクシーに乗ってしまった場合は,車に乗っている者が追跡をしたり,小道に入ってしまった場合は,バイクが尾行を続けたりします。そうやって複数人が無線で連携を取りながら追いかけていくんです。
また,弊社は全国に18か所の拠点がありますので,たとえ対象が遠方に行った場合でも,調査員を交代して尾行を続けます。
4Gamer:
尾行対象の発見や尾行,張りこみなどを一人前にこなせる探偵になるにはどのくらいかかるのでしょう。
若梅氏:
およそ3年ですね。
さらに,これが10年以上の経験を積むと先ほど申し上げた「人探しのカン」が働いてきたり,尾行対象が降りた駅の最寄りには何があるかが瞬時に分かるようになったりします。対象の行動がある予測できるようにもなりますね。
4Gamer:
相当な経験が必要なんですね。
ジャッジアイズではそういった尾行のほかにも,撮影した証拠写真の内容によって評価が変わるシステムが導入されています。
実際の浮気調査でも,いわゆる「浮気の証拠」が依頼者から求められることが大半だと思いますが,裁判で証拠となる写真というのは具体的にどのようなものが要求されるのでしょうか。
若梅氏:
まず対象者の顔が写っていることは絶対です。さらに,接触した愛人の顔もしっかり撮らなければいけません。そしてその2人が一緒にホテルに入るところ,一緒に出ていく瞬間の写真,浮気の証拠であればここが重要になってきます。
私たちが作る報告書には相手方の素性,接触した時間,場所,何時間滞在したのかなどを事細かく書きます。裁判で「言い逃れができない」と判断されるような証拠を撮るのが我々の仕事です。
依頼で一番多いのはやっぱり浮気調査。ゲームの交流関係から発展するケースも
4Gamer:
一番多い依頼というのは,やはり浮気調査なのでしょうか。
若梅氏:
そうですね。全体の約7割が浮気調査です。
4Gamer:
残りの3割はどのような依頼があるのでしょうか。
若梅氏:
次に多いのが人探しですね。弊社は家出や失踪の発見率が非常に高く,テレビなどでもたびたび取り上げていただいています。
そのほかにも結婚前の素性調査や,ストーカー対策,故人のお墓探しといったものなど,違法性のない内容なら何でも引き受けています。
4Gamer:
例えば,浮気調査の相場はおよそいくらでしょうか。
高野氏:
浮気調査にも何段階かあるのですが,最も依頼が多い「浮気の証拠を押さえる調査」になると40万円から90万円ぐらいが相場になります。分かっている情報や時間によってもだいぶ変わりますが,きちんと証拠を押さえるために必要な調査日数は3日から4日が多いですね。
4Gamer:
え,そんなに短いんですか。1か月間ぐらいを想像していたのでびっくりしました。
高野氏:
必ずしもずっと張りこみをしているわけではなく,1週間の中で金・土・日と張り込みするケースや,毎週土曜日に計4日間の張りこみをする場合もあります。
また,弊社は依頼料にガソリン代や交通費などの諸経費もすべて含まれているので,追加の依頼料が発生しません。
若梅氏:
急に遠出されて追跡することになると赤字になってしまうこともあるんですけどね(笑)。その場合でも追加で調査料金を請求することはありません。
3日,4日で済む調査というのは,依頼者から対象者の服装や勤務先などの情報を十分にもらっているものになります。手がかりゼロの人探しなどになってくると,もっと時間がかかるので,そのあたりはケースバイケースですね。
4Gamer:
浮気調査の依頼者は,男女どちらが多いのでしょうか。
高野氏:
今は女性6,男性4ぐらいの比率ですね。昔は女性の比率がもっと高くて8:2ぐらいのときもあったんですが,ここ10年でどんどん女性の浮気も増えてきています。
また,最近ではSNSが浮気に発展する場合もあり,ゲームを通じて不倫関係になったというケースも少なくありません。
4Gamer:
ゲームを通じてというと,ゲーム内のチャットなどを通じてですか。
高野氏:
はい。オンラインゲームで一緒にモンスターを倒したり,コミュニケーションをしているうちに,浮気に発展するケースがあります。
オンラインゲームで知り合った大人に誘われて,子供が家出してしまうという事件もありました。特にゲーム関係の家出は夏休みや春休みなどの長期休暇に増える傾向にありますね。
4Gamer:
なるほど。依頼者はまず,最初に警察に行くと思うんですが,どうにもならなかったので御社に依頼されたということなのでしょうか。
高野氏:
警察も電話してみたり,自宅に行って手がかりを探してくれたり,全国に尋ね人として写真を交番に貼ってくれたりはするらしいのですが,「実際に足を使っての捜査やPCの中身を見て情報を得るようなことはやってくれなかった」と,私たち探偵に相談に来る方が多いです。
家出などは解釈としては民事になるので,最終的に我々が動いている形です。
若梅氏:
やはりインターネットがあり,ボイスチャットで会話もできる時代なので,親密になりやすく浮気などのトラブルになるケースが多いですね。
浮気相手と住んでいる地域は違うし,仕事も関係ないし,年齢も違う。「この2人はどうして知り合ったんだろう?」なんて思っていると,インターネットを通じて知り合ったというケースがよくあります。
4Gamer:
確かに今はスマートフォンが普及しているので,昔以上にそういった事例は多いかもしれないですね。
若梅氏:
尾行中にスマホゲームを利用することもあるんですよ。例えば,GPSを使った位置情報ゲームがありますよね。住宅街などで張りこむときにああいったゲームを夢中でプレイしているふりをすることで,一般人を装えるんです。
4Gamer:
なるほど。ゲーム関連の調査のためにゲームをプレイすることはありますか。
若梅氏:
はい。我々も実際にゲームをプレイすることは結構あります。ゲームに限らず,いろいろな趣味を覚えることは調査上,必要になりますので。
4Gamer:
やはり知識があるとないとでは,まったく違うんですよね。
若梅氏:
はい。例えば,尾行対象がパチンコに行くことが多く,パチンコ未経験の新人には研修としてやらせています。知識があれば対象の行動も予測できますし,自然に尾行することができますから。
ゲームに関しては高野が詳しいですが,彼はプレイしているうちにどんどん腕が上がってしまって,子供たちに「師匠」と呼ばれているそうです(笑)。
高野氏:
最初は家出の相談を受けて勉強のつもりで遊んでみたのですが,自分のプレイを見た小学生たちがなぜか寄ってくるんですよね。結果40人くらいのコミュニティができあがっちゃって,挙句の果てには私が彼らの宿題管理までしてました(笑)。
「コラ! 宿題が終わるまでログインしちゃだめだって言ったでしょ!」「宿題が終わったらSkypeで見せなさい! 終わったらログインしていいよ」みたいな(笑)。
(一同笑)
現実はドラマ以上のドラマがある。ゲームに関する取材依頼も喜んで協力します
4Gamer:
本日はありがとうございました。インタビューだけでなく,機材や車両なども見せていただきまして。
若梅氏:
いえ,こちらもゲームメディアの取材というのは初めてだったので,いろいろと刺激になりました。
今回拝見したジャッジアイズは,探偵から見ても本当に面白そうだなと思いました。写真撮影や顔確認というのは,実際にやっていることですし,神室町のモデルになっている歌舞伎町にも頻繁に行きますので。
4Gamer:
リアルな探偵の目線をゲームに取り入れるのも面白いかもしれませんね。
若梅氏:
そうですね。探偵から見る歌舞伎町と一般人が見る歌舞伎町の景色は全然違うものだと思いますし,あそこの調査で気をつけなければいけないことや特徴なども言えます。張りこみをしているとホストと関わり合うことも多いんですよ。そういうものがゲームとして出せたら面白いですね。
ちなみに,弊社では尾行訓練の様子を公開していて,実際にメディアの方や一般の方に同乗してもらって尾行を体験していただいています。
高野氏:
現実では本当にドラマ以上にいろいろなことが起きます。私は,リーガル系のドラマをよく見るのですが,お涙頂戴のために話が歪んでしまっているなあと感じることがあるんですよね。現実の依頼者のなかには本当にボロボロになってやってこられる方がいらっしゃいますし,私も相談を受けながら泣いてしまうことも恥ずかしながらあります。
最近スマホアプリで「浮気体験ゲーム」みたいなものをよく見かけますが,やっぱり「ゲーム」なんですよね。もっと被害者側の目線に立ったリアルなゲームもあればいいのになあと,この仕事をしていて思います。
4Gamer:
事実は小説よりも奇なりということですか。
若梅氏:
はい。我々の仕事は浮気調査だけではないですし,実際にものすごい経験をすることが沢山あります。そのあたりをゲームに盛り込めたら,よりリアルなものになると思いますね。もし興味のあるゲーム会社さんがいらっしゃれば,ぜひお声がけください。喜んで協力いたしますよ。
4Gamer:
なるほど。しっかり記事に書いておきます!
本日はありがとうございました。
「JUDGE EYES:死神の遺言」公式サイト
原一探偵事務所 公式サイト
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