レビュー
えぐすぎる病気にかかる女の子をなんとしても助けたい。ローグライクRPG「void tRrLM(); //ボイド・テラリウム」レビュー
本稿ではそのPlayStation 4版のレビューをお届けしていく。
本作の舞台となるのは,有毒な菌類が蔓延し,文明も人々も滅びてしまった世界だ。そこに1体の小さなロボット(正式名はなし。“お世話ロボット”とされている)が目覚める。ロボットは廃墟の中で眠っていた少女・トリコと出会うが,菌類によって汚染されているこの世界で,彼女は長くは生きられない。そこでロボットは,彼女が生きられる環境を作り,お世話をするために必要な物資を探しに,廃墟と化したダンジョンへと向かっていく。
可憐な少女と,人間ではない特殊な存在が物語を構築していく古谷氏の作品らしい設定を持たせつつも,本作に登場する少女トリコは,プレイヤーが直接動かす対象ではないというのも特徴の1つとなっている。
弱々しく,今にも死んでしまいそうなトリコのために,スクラップ場に放置されていた人工知能・ファクトリーAIの助言を経て,ロボットは廃墟の奥深くへと入っていくわけだが,この部分がダンジョン探索型のローグライクRPGとなる。
ゲームのメインは見下ろし型のダンジョンRPGであり,基本的なルールは同ジャンルのそれを踏襲している。入るたびに形が変わるダンジョンは,細い通路と部屋で構成され,移動することでその構造がマップでわかるようになる。その足元には行く手を阻むトラップがランダムで隠されていて,踏めば何かしらのアクシデントが発生,自分で踏むかトラップがありそうな場所を攻撃する,またはアイテムを使うといった手段でその場所が判明するという具合だ。
トラップは普段は見えず,踏むと発動する。ワープトラップなど,使い方によって役立つものもある |
ダンジョン内のゴミの山には,トリコの食料がある。重要なので見逃さないように |
移動は方向キーで,[○]ボタンで攻撃,[×]ボタンで高速移動(+[○]ボタンで時間経過),[□]ボタンで敵のほうを向く(+方向キーでその場での方向転換),[R1]ボタンで斜め移動など,2Dグラフィックス時代のローグライクRPGの操作感覚を継承している。この手のタイトルのプレイ経験があった筆者は直感的に動かすことができたが,複雑ではないので,初めて触るという人もすぐにコツは掴めるかと思う。
主人公はロボットなので空腹になることはないが,行動するとエネルギーが減少していく。このエネルギーはダンジョンで拾える「バッテリー」で回復させることが可能だが,0になると急激にHPが減少して倒れてしまうので,HPと共に気を配っておく必要がある。
アイテムは持てる数に限界があるが,ゲームを進めると上限が増えていく |
ダンジョン内に落ちているガラクタがロボットの装備品になるのが面白い。モノによって性質も異なる |
ダンジョン内には無数の敵が現れ,こちらが動いた後に敵が動くというターン制のバトルが展開。遭遇する敵は大きく分けて2種類が存在し,1つは人類が滅びた後に自己進化を続けた「機械」達,もう1つは汚染により突然変異を遂げた「異常生物」達である。見た目はもちろん行動もそれぞれ個性的で,ダンジョンを進めるほどロボットに対して厄介な動きをしてくるものが増えてくる。意外な行動を起こすものも存在するので,初見の敵に対しては注意が必要だ。
敵を知るには,まず戦ってみること。危なければ逃げてもいい |
ダンジョンによって出現する敵の系統が変わることも |
敵以外に気を配らなければならないのが,ダンジョンの天気である。普段の晴れに対して,曇りや雨などの悪天候になることがあり,このときは一部の敵が強くなったり,落ちているアイテムが腐食してロボットに悪影響を与えたりと,ロボットに不利なことが重なっていく状態となる。
その一方で,悪天候によって腐食が進んだアイテムは持ち帰ることで「汚染資源」となり,該当する資源を得るための貴重なチャンスでもあるので,細心の注意を払いながら探索することをオススメする。
もちろんロボットにはレベルの概念もあり,敵を倒すことでレベルが上がってスキルを習得でき,より強い敵と戦えるようになっていく。
スキルにはアクティブとパッシブの2カテゴリが存在。前者は主に攻撃に使用するもので,[L1]ボタンと習得時に割り当てたボタンで発動させられる。使用にはエネルギーを消費し,次に使うまでにクールタイムが必要なものもある。後者はパラメータの上昇や特定状況の回避といった,身に付けるだけで発揮されるものだ。
とくにアクティブスキルは,組み合わせてよってかなり戦略的に使える。攻撃した敵の後ろに回り込んだり,攻撃後に1マス分離れたりと,うまく使えば敵に対して有利になれるのだ。複数を使ったコンビネーションを考えるのもまた楽しい。
また,このスキルの習得システムが面白いので紹介しておきたい。ロボットはレベルアップ時に,ランダムで提示される2つのスキルのいずれかを選んで習得するのだが,これらにはレア度のようなものが設定されていて,表示される★マークの数が多いものほど総合的に強いという性質を持っている。★が多いものが出たときは画面がきらきら光る演出が入り,実際にかなり有効なものなのでかなり嬉しい。
レベルアップ時のスキル選択。好みで選んでいい |
★5のスキル「ビットくんII」は,ロボットに隣接する敵すべてに毎ターンダメージを与えるというもの |
そんなダンジョン探索と並行して,プレイヤーが気を配るべき点が,少女トリコのお世話だ。拠点で待っているトリコは汚染菌糸により弱っているため,生命維持のための「テラリウム」を作ってあげなければならず,その後も食事やテラリウムの清掃などのお世話が必要となる,その内容は育成シミュレーション的だ。
トリコの生態はロボットのダンジョンでの行動とリンクしていて,ダンジョンに入って行動することでトリコの時間も経過。その様子をダンジョン内で確認できるシステムが,画面左下に表示された「おせわっち(O.S.E.Watch)」である。
ちょっと懐かしさを感じる名前のこのシステムは,ゲーム序盤で入手できるトリコの見守りアプリだ。そこにはシンプルなグラフィックスでトリコの様子が映し出されていて,彼女の空腹度や状態,テラリウムの汚染度,ダンジョンの天気などが一目でわかるようになっている。
エネルギーを消費すればダンジョン内からの掃除を遠隔操作で行える |
トリコが病気になったときは,薬や流動食などを用意しなければならない |
ロボットは何よりもトリコのことが優先。たとえ探索の途中でも,おせわっちに映っているトリコの様子がおかしいようなら,帰還してお世話しなければならない。探索の途中に,自身の生存とは別のところで帰還が必要になるというのは,同ジャンルのタイトルにはない本作独自の要素と言える。
最初のうちは「えっ,帰らないといけないの?」と思うかもしれないが,ダンジョンで手に入れたトリコの食料やアイテムは持ち帰ることが可能で,重要アイテム以外は資源へと変換されてクラフトで使用できるので,探索が無駄になることはない。
探索はあくまで,トリコのお世話の延長線上にある行動だ。テラリウムの内装を充実させてトリコの生活が豊かになればお世話の手間も少しずつ減っていくし,何より,トリコに対する愛着が強くなるほどに,帰還することへのためらいが薄まっていくだろう。
本作における最大の特徴……というか問題は,「htoL#NiQ −ホタルノニッキ−」「ロゼと黄昏の古城」といった古谷氏のゲームらしく,女の子が容赦なくヒドイ目にあうことだ。
トリコは,空腹や汚染などの環境が悪くなった状態が続くと病気になり,さらにそれを放置すると死んでしまい,その場でゲームオーバーになってしまう。しかも,その病気の症状がえげつない。筆者もいくつか体験したが,例えば「寄生状態」になると,寝ているトリコの脚の付け根あたりからニョロニョロとした寄生生物が顔を出してくる。
筆者はすべてを確認できたわけではないが,ほかにも関連記事で紹介されているように,骨折や針のような羽で痛い思いをしたり,体が液状化したり,虫にたかられてしまったりと,「どうして日本一ソフトウェアは,こんなに女の子に厳しいの!?」と思えるような症状が山盛りだ。
逆に言えば,こんなひどい目には絶対に合わせたくないという思いも強くなり,お世話と探索のモチベーションが上がっていく。
トリコが病気になると,ロボットは治療薬を作るための資源調達に行かなければならず,さらに保存してある食料をあまり腹持ちのしない「流動食」に変換して与えなければならない。治癒までに手間はかかるが,薬を作る資源調達のための新たなダンジョンが出てくるなど,ゲームシステムの一部として作り込んでいる部分もあり,あえて体験することでトリコへの愛はさらに深まるかも……しれない……いや,健康でいてほしい……。
拠点では集めた資源を消費して,イベントやダンジョン内で入手する「レシピ」から,テラリウムの設備やロボットのアップグレードをクラフトできる。前者はトリコの生活を快適にし,後者はダンジョンの探索を楽にしてくれるものとなるわけだが,前者も作ったときにロボットに対して「クラフトボーナス」が与えられるので,クラフト自体がロボットの強化に直結している。
ローグライクRPGの原則として,レベルや習得するスキルなどは挑むたびに最初からとなるものの,クラフトによって得たアップグレードはロボットに実装され,後にプレイヤー好みにカスタマイズも可能となる。積極的に探索をして厳選したアイテムを持ち帰ることが,後の展開にも大きく影響してくるのだ。
拠点とダンジョンの行き来が主なので,見た目にはやや地味な印象は受ける。また,言葉を話すキャラクターが実質ファクトリーAIしかいないため,説明的なところが多い序盤の展開は少し退屈に感じるかもしれない。
しかし,始めてしまえばお世話に探索にと熱中できる内容なので,細かなところを気にしている場合ではなくなるだろう。
個人的には,ロボットやトリコが無口なことにより,これはこれで感情移入してしまう部分もあった。何も言わずに苦しむトリコを助けねばと,使命感に駆られてしまうのだ。
古谷氏のセンスが遺憾なく発揮された,新しいスタイルのローグライクRPGをじっくり楽しんでみてほしい。
今回はPS4でプレイしたが,持ち歩きたい人はNintendo Switch版もおすすめだ。
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(C)2020 Nippon Ichi Software, Inc.
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