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「VALORANT」の世界大会に日本のeスポーツ観戦の未来を見た
日本ではなかなか“公式の世界大会”が行われることが少なく,筆者の記憶が正しければ2018年に開催したストラテジーゲーム「クラッシュ・ロワイヤル」の世界大会「クラロワリーグ世界一決定戦2018」以来ではないかと思われる。先日のDreamHack Japanで「ブロスタ」の世界大会も行われているが,厳密に言えばメーカー主導の公式大会ではない。それだけ,世界大会が日本で開催されることは希有なことだと言える。2022年12月に開催したイベント「Riot Games One」のエンディングセレモニーで,Masters TOKYOの開催が発表され,その驚きにキャスターのOooDa氏が涙を見せたほどだ。
「VALORANT」はグローバルで人気のタイトルではあるが,日本での人気は突出しており,競技シーンでも「2022 VALORANT Championship Tour Stage 1-Masters Reykjavik-」で,日本のZETA DIVISIONが3位を獲得したことをきっかけに,ファンも急増している。その勢いと日本に対するご褒美的な要素も含め,日本でMastersが開催されたわけだ。
「VALORANT」の競技シーンは2023年から大幅に変更され,アジア圏のVCT Pacific,ユーロ圏と中東,アフリカのVCT EMEA,北南米とラテンアメリカのVCT Americasという3つの地域リーグをインターナショナルリーグとして,その下部リーグとして各国のローカルリーグを位置づけることになった。
MastersやChampionsなどの世界大会は,基本的にインターナショナルリーグに参加したチームにしか出場権がない。各インターナショナルリーグで3位以上を獲得することで,それらの世界大会へ出場できるのだ。今回のMastersでは日本チームが出場していない。それはVCT Pacificで日本チームが3位以内に入れなかった結果だ。VCT Pacificには,ZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMeの2チームが参加していた。
2022年までであれば,日本のリーグであるVALORANT Challengers Japanに参加枠がひと枠あり,国内大会で優勝すれば世界大会への参加権を得られたので,ZETA DIVISIONやNORTHEPTIONが出場を果たした。2023年はその国内枠がなくなり,インターナショナルリーグからの枠しかなくなったため,日本開催ながら日本チーム不在という事態になってしまったわけだ。
自国チームの出場がないことで,Masters TOKYOの盛り上がりに影を落とすのではないかと心配されたが,実際に開催してみれば,連日超満員となり,その心配は杞憂に終わった。世界レベルのスーパープレイに一喜一憂し,世界のスーパースターを目の当たりにすることで,多くの観客は興奮の渦に巻き込まれていた。
先に紹介した「Riot Games ONE」でもFnaticやPaper Rexなど海外チームを招聘したエキシビションマッチを行った過去があるが,その時に多くに海外チームが「日本チームと対戦しながらも我々に応援してくれることが他の国にはなく,すごく嬉しかった」と述べている。
そういった意味では,自国のチームの出場が叶わなくても,十分に盛り上がる要素は含まれていたと言えるだろう。日本人の観客は大人しく観戦するという評価もある。これは良い意味でもあるが,盛り上がりに欠けると言う部分もなくはない。ただ,今回の大会では試合をこなしていくうちに,観客のボルテージも上がっていき,ローワーファイナルとグランドファイナルが開催された幕張メッセではその頂点に達した。
会場には選手が入場する花道が用意されていた。これまでは,花道に近づけないようになっていたのだが,今回は観客席からかなり近い場所に設けられていた。最初は入場時に恐る恐るの様子だったが,次第に試合の終了,選手の入場のタイミングで多くの観客が集まってきた。選手もそれに呼応するように集まった観客にハイタッチしながら入場する選手も出てきて,日本のeスポーツ観戦の箍がひとつ外れたような印象を受けた。
優勝を決めたFnaticが優勝セレモニー後,ステージ近くの柵前に集まったファンにサインを書いたり,写真撮影に応じたりしてファンサービスに努めていた。2023年始めにブラジルで開催した世界大会LOCK//INで優勝した時,半分の客が優勝セレモニー中に帰るという事態を経験したからこそ,最後まで応援してくれた日本のファンに呼応した結果ともいえるのではないだろうか。
ZETA DIVISIONが3位入賞を除けば,日本チームが活躍した場面はほとんどなく,世界の強豪チームの後塵を拝している状態が続いている。そうした状況の中でも,Masters TOKYOを見る限りでは観戦する文化に関しては世界レベルに達した,もしくは追い越しているかもしれない。
自国のチームであろうと,他国のチームであろうと,スーパープレイに対してリスペクトし,賞賛できるのは大いに誇れる部分だ。そこを世界に,Riot Gamesにアピールできたのは,日本開催の一番の収穫といえるだろう。
また,この状況は熱狂的な箱推しのファンがいないという表れでもある。いわゆるアイドルの推しのDD(誰でも大好き)状態で,推し文化としてはあまり良い状態とは言い難いのかも知れない。Jリーグのさいたまダービーしかり,プロ野球の巨人阪神戦しかり,相手チームのファンと相容れないほどに,推しのチームを愛せるからこそ,熱狂的な人気につながるとも言えるのだから。
もちろん両手放しでMasters TOKYOが大成功を収めたかというと,それは少し違う。出場チームが決定しない状態で高額なチケットを買った人たちの多くはコアなファンで,一般的なファン,新規ファンであるとは言い難い。会場では盛り上がった感はあるものの,配信では2022 VCT Masters Reykjavikの時の視聴者数には届いていない。その点では日本チーム,とくにZETA DIVISIONの不在は大きく影響したと言える。
コアなファンだけが満足したイベントであれば,今後ファンの拡大は望めず,先細りになる可能性はある。
なんにせよ,世界大会が日本で開催された意義は日本のファンにとっても,Riot Gamesにとっても大いにあったと感じる大会だった。今後は課題に向き合い,日本での開催の利点を考慮できれば,近い将来,日本での世界大会開催が再び行われるのではないだろうか。
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