企画記事
2024年,個人的クィアゲーム大賞。LGBTQ+もそうでない人も楽しめるイカしたクィアゲームたちを,勝手に表彰します
1995年生まれの兼業ライター。肉体労働の傍ら,クィアなゲームを掘ってプレイ・紹介しています。好きなジャンルはビジュアルノベルとイマーシブシム。最近は「魔法使いの約束」のブラッドリーとネロの関係に萌え萌え。
Until Then
ジャンル | アドベンチャー |
メーカー | Polychroma Games |
公式サイト | https://untilthengame.com/ |
2024年6月にリリースされてすぐにSteamで「圧倒的に高評価」を獲得し話題になった「Until Then」は,フィリピンの開発スタジオPolychroma Gamesによる作品である。プレイヤーは10代の青年マークとしてフィリピン(をモチーフにした街)を歩き,友人らと交流し,物語を進めていく。
移動パートやインタラクトの要素があるが,基本的にはセリフを読んでいくビジュアルノベルやインタラクティブフィクションに分類されるゲームだ。2024年11月に日本語ローカライズ対応のアップデートが配信されており,筆者がプレイしたのもその日本語版である。
主人公マークはどこにでもいそうな男子高校生だ。両親とも国外に出稼ぎに出ていて,自宅で一人暮らしをしている。彼は授業のためのプレゼンを始業前に終わらせたり,クラスの気になる女の子に失恋したり,転入生の女子とトラブルを起こしたりするのだが,そういった日常エピソードにはだんだんとうねり,ひねりが加えられていき……というのがストーリーの概要だ。
さて,本作のクィアな要素について。マーク自身はシスヘテロ男性主人公で,ヘテロなロマンスを繰り広げるのだが,彼の親友のひとりであるキャシーが,おそらくバイセクシャルの女性として描かれている。彼女は学校の女の子にときめいてることをまったく隠さず,大っぴらに話す。
マークを含めたキャシーの友人たちは彼女のクィアネスについてはまったく問題なく受け入れていて,キャシーの積極さがジョークになることはあっても,セクシャリティは嘲笑されることがない。彼女の明るさは見ていてとても楽しいもので,彼女はゲームの端っこに存在する「多様性」の言い訳のようなクィアではなく,ゲームの雰囲気を形作る大事な要素なのだと感じることができる。
「Until Then」は基本的に,すてきなクィアな友人が登場するSFジュブナイルストーリーなのだが,本作の根底には現代のフィリピンの政治状況に対する怒りや不信感がある。
本作の世界では各地で大規模な災害が立て続けに発生している。ゲーム内の出来事はそういった災害からようやく復興を始めているような時期を舞台にしているのだが,実際は満足な復興活動はされていない。政府広報は災害復興への素早い対応をオンラインでアピールしているが,実際は病院はパンク状態で行方不明の人々も多い。これは現実のフィリピンが地震が多い国で,それへの政府対応も満足にされていないことと重なっている。
こういうところから思い出すのは,今年ノーベル文学賞を受賞した韓国の作家ハン・ガン氏のことだ。彼女は光州事件を描くことで,政府によって隠蔽され,冒涜されてきた死を語り直したが,このゲームもそういった視点から見ることができるのではないだろうか。
また,このゲームからはクィアコミュニティの地域性を考えることもできる。クィア・LGBTQ+の言葉で世界中のクィアコミュニティが連帯し,ゲーム開発者たちがいっせいにコミュニティの困難に寄り添っているように見えるが,各地の状況はそれぞれでまったく違い,一枚岩ではない。
たとえば,「サイバーパンク2077」(クィアフレンドリーな表現が多数ある)でおなじみのCD Projekt REDが拠点を置くポーランドはLGBTQ+への差別感情が強く,「EUのなかで,人々が最も法的差別にさらされている国」という声もある。日本でも,同性愛を扱ったフィクションは数多く存在しつつも,実際にはクィアコミュニティを取り巻く状況は非常に悪い。
「Until Then」が作られたフィリピンも同様だ。フィリピンのLGBTQコミュニティは非常に活発で,権利回復運動も盛んのようだが,フィリピン政府はかなり保守的で,同性婚の権利も未だに保障されていない。
そういったマイノリティとフィクション作品を取り巻く多様な状況と,各地のクリエイターの抵抗の表現の違いを見ることは,これからのフィクション作品を見ていくうえでかなり重要な姿勢になっていくはずだ。
Hades II
ジャンル | アクション |
メーカー | Supergiant Games |
公式サイト | https://www.supergiantgames.com/blog/hades2-announced |
「Hades II」だ! 現代ゲームのファンならば,特別にインディーゲームのシーンを追っていなくともなんとなく知ってるだろう「Hades」の続編である。前作は良質なアクションゲームのなかでギリシア神話の神々を再解釈し,クィアな関係に焦点を当て,ロマンス関係を描いていたが,続編ではさらに神話のポジティブな再解釈の要素が強まっている。
ギリシア神話の「原典」的な読み物を少し読んでみると分かるのだが,ギリシア神話はかなりミソジニック(女性嫌悪的)だ。女性の扱いがびっくりするほど悪い。後世の物語の元ネタの多くはここにあるのだが,ミソジニーの元ネタにもなっている気がする。
だから今日の文学シーンではそういった要素をフェミニズムの面から見つめ直し,原典では取るに足らない存在として描かれた(あるいは描かれなかった)女性やクィアな存在の声を拾って,彼らの話を語り直すことが行われている。
「Hades」もまたそういった作品の一つなのだが,「Hades II」は前作主人公の妹であるメリノエを主人公にし,協力者たちも女性を中心にすることで神話のフェミニズム読解的な面をパワーアップさせている。もちろんクィアだ。ガタイのいいゲイな雰囲気の女性がたくさん登場して最高である。
ゲームプレイも素晴らしい。基本的には前作のマイナーチェンジ版なのだが,ちょっとしたアクションの変化が思っている以上に味の変化を感じさせてくれるのだ。前作の「魔弾」に変わる設置型アクションの「魔陣」や,新たなメイン武器の存在,新しい拠点,協力者,おなじみの神々の新しいビジュアルなどは,前作ファンも満足させてくれるはずだ。
現在アーリーアクセスでPC版のみ配信だが,正式リリースでコンシューマ機への配信がされたらまたファンダムが盛り上がりそうである。超セクシーでクィアなファンアートをたくさん見るのが今から楽しみだ(すでに山ほど存在するのだが)!
魔法使いの約束
ジャンル | 育成 |
メーカー | coly |
公式サイト | https://mahoyaku.com |
筆者はずっと基本無料のアプリゲーム――いわゆる「ソシャゲ」を避けてきたのだが,「魔法使いの約束」を5周年記念キャンペーンをきっかけにプレイしてみたら,その仕様にびっくりした。「ソシャゲ」的ゲームプレイとメインストーリーがほぼ完全に分離しているのだ。
戦闘を挟んだ短いエピソードの積み重ねの形ではなく,完全な長編ビジュアルノベルなのである。本作のストーリーは,スタミナやパーティ編成を考えなくとも100%楽しめる。
数百年間の関係を引きずりつつ,魔法使いたちが交流し,協力し,たまに仲違いしながら共通の目的のために戦うというストーリーには,非常にオリジナリティを感じる。
そして,本作のそういった数百年の関係の描写はクィアネスに肉薄している。移ろいやすい気質だと言われる「西の魔法使い」のひとりシャイロックは,同じく西の魔法使いであるムルに対し,数百年のあいだずっと複雑な愛情と憎悪を抱えている。
ファンのあいだで傑作と呼ばれるイベントストーリー「雨宿りのカエルのエチュード」では,ある魔法使いと友達のカエルとのあいだの強い感情的つながりが描かれる(個人的に,世界のクィアの愛読書「がまくんとかえるくん」を重ねてしまう)。結局はクィアリーディングに収まってしまうのだが,その根拠となるような描写が潤沢に存在するのである。
個人の力を信じる孤高の存在である北の魔法使いたちも,他人と積極的に交流する気はなさそうだ。彼らは「大いなる厄災」の撃退という共通の目的や,魔法使いという共通の被差別属性だけで素直に仲良くなることがないのだ。
そういった「つながれなさ」は,現実の世界でマイノリティとして生きる自分の感覚と強くリンクする。筆者はクィア・フェミニズムのコミュニティに属していて,同じような属性を持つ人々の安全な暮らしを願っているが,それはコミュニティの中なら誰とでも仲良くやれるということを意味しない。
同じ属性,同じ目標を共有している人間に対して,なんとなく気に入らないと思うことはしょっちゅうだ。しかし,やっていくしかないのだ。好きになれない相手と,積極的につながりたくない相手と力を合わせて,共に歩んでいくしかないのだ。
総括
2023年の記事のなかで,日本でクィアなゲーマーでいることは難しい,と書いた。残念ながらその状況はまったく変わっていない。それどころかさらにひどくなっている。もともと存在したマイノリティ描写に対するバックラッシュ(※)は,複数の大作ゲームの商業的失敗,オンラインサービスの腐敗,ナショナリズムやミソジニーと複雑に混ざり合い,過激化してしまった。
※バックラッシュ:ある思想の潮流に対して発生する反動的な反応のこと。
「ゲームにマイノリティ描写は必要なのか?」という議論のふりをした排除が国外でも国内でもひんぱんに行われ,ビデオゲームの商業的失敗もマイノリティやLGBTQ+の存在のせいにされている。
こうしたバックラッシュは過去には「ゲームの面白さと関係ない部分に気を使うな」という言葉とともに行われたものだが,今は排除者がゲームシステムやアクションの手触りでなく,ゲームキャラクターの代名詞(「they/them」の存在はしばしば攻撃の対象にされてしまう)や声優のセクシャリティなど,「ゲームの面白さ」とはあまり関係ないことをずっとビデオゲームの没落の原因として挙げながら激怒していて,とてもではないが議論できる状況にはない。
そんなひどい状況のなかで,世界中のゲームクリエイター――特にインディー開発者たちは,作品を使って抵抗している。彼らの多くは,バックラッシュ勢力が言う「外部からの圧力」のようなものや,マーケティング目的ではなく,純粋にマイノリティに寄り添い,マイノリティの生を表現したいという気持ちでゲームを作っている(はずだ)。
バックラッシュ勢力が何を言っていようと関係なく,今のゲームシーンにはめちゃくちゃクィアな作品が多くあり,クィアな人々によって多くの面白いゲームが作られていて,クィアな開発者たちはクィアなプレイヤーのことを考えているのだ。ゲームはあなたの味方である。
2025年以降も,クィアなゲームファンにとっては本当にしんどい時間になるかもしれない。だが,ゲームがクィアな人々に寄り添った存在であることは確かだ。そんなゲームたちを救いにして,あるいは抵抗の道具として使って,このひどい状況を乗り越えていきたいものである。
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- ライター:ラブムー
- ライター:まきちゃん
- 編集部:町田
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