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「KINGDOM HEARTS Melody of Memory」開発者インタビュー。KHシリーズを振り返りながら名曲の数々が楽しめるリズムアクションに
今回は,インディーズゼロで本作のディレクターを務める鈴井匡伸氏,そしてスクウェア・エニックスからはディレクターの野村哲也氏,プロデューサーの間 一朗氏に参加していただき,本作の開発経緯やシアトリズムシリーズとの差別化などについて聞いた。
鈴井匡伸氏 |
野村哲也氏 |
間 一朗氏 |
ゲームデザインのきっかけとなったのは,15周年のメモリアルサイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,KHシリーズ初のリズムアクションゲームを開発することとなった経緯からお聞かせください。
野村哲也氏(以下,野村氏):
間が作りたいって言ったのが最初かな?
間 一朗氏(以下,間氏):
平たく言えばそうですね(笑)。弊社ではシアトリズムシリーズを展開してきましたが,KHでもそれをやりたいという話をしました。それを野村さんに相談したところに,ちょうどディズニーさんからも,KHでシアトリズムのようなリズムゲームを作ってみてはどうかというオファーがあったんです。
鈴井匡伸氏(以下,鈴井氏):
弊社としても,最初の企画書を実は5年前に書いていました。ゲーム本編のみならず,音楽も素晴らしいタイトルである「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」をそれぞれシアトリズムとして作っていて,それに続くタイトルとしてKHも同じようにできたらいいなと思っていたんですが,当時は実現しなかったんです。
それがみなさんの記憶にも残っていて,ディズニーさんのオファーを受けたことで,実現できそうだと感じたのが,3年ぐらい前です。
4Gamer:
いろいろなタイミングがうまく重なったわけですね。
鈴井氏:
ええ。ただその時点で最初の企画書はもう古かったので,改めて野村さんに内容を相談したり,プロトタイプを何種類か作って見せたりしながら,現在の方向性に固まったという流れです。
4Gamer:
ゲーム画面を見ると,シアトリズムとはまったく違う方向性のようですが,当初からこのデザインを考えていたのでしょうか。
鈴井氏:
いえ,当初は今のゲームデザインにする覚悟はできていませんでした。どちらかといえばシアトリズムに寄せた内容のイメージでしたが,野村さんにその考えはなくて,譜面を直接叩くのではなく,3Dでアクションでエネミーと戦っていくリズムアクションというテーマを明確にいただいて,それを踏まえて我々がデザインを提示していきました。
4Gamer:
野村さん的にはシアトリズムの方向性はナシだったんですか?
野村氏:
シリーズとしてはずっと続いていましたが,「またこれか」と思われてしまうのも避けたいと思って,それまでの平面からもっと立体感のある画面にしたいと考えていたんです。KHはアクションRPGなので,その手触り感が必要だろうということも提案しました。
その形が明確になったのは,「キングダムハーツHD1.5+2.5リミックス」の発売のときに作った,シリーズ15周年のメモリアルサイトなんです。
鈴井氏:
「KINGDOM HEARTS MEMORIAL MUSIC BOX」ですね。五線譜の上をソラが走りながら音楽が流れるメモリアルサイトで,その画面のイメージを見せていただいたのが,本作の方向性を決めるきっかけになりました。
野村氏:
自分がこのイメージはすごく気に入っていて,この雰囲気でできないかと提案したんです。ところが,最初にこの感じで作ってもらったものを見てみたら,吐き気を伴うほど酔ってしまって(笑)。
4Gamer:
リズムゲームで“酔い”があるものなんですか。カメラの挙動とかの問題ですか?
鈴井氏:
コースの形状が現在よりももっと激しかったとか,カメラの動きも(抑制はかけているものの)ぶれが大きいとか,そういった原因が重なったのが理由です。キャラクターが奥に進みつつ,リズムゲームとして常に譜面を見ているというルールですので,ほかのタイトルではあり得ない要素が満載だったことが原因でした。
野村氏:
あのメモリアルサイトの見た目のまま操作をすると,ちょっと進んだだけで酔うんですよ。なので,最初はいかに酔わないようにするかをずっと調整していくことが続きましたね。
4Gamer:
そんな調整のもと,具体的なルールとしてはどのような形に決まったのでしょう。
鈴井氏:
PlayStation 4版を例に挙げますと,[○]ボタンと[L1]ボタン,[R1]ボタンの3つを主に使います。エネミーの位置にボタンが割り当てられているわけではなく,タイミングガイドが1つのときはどれか1つ,シンクロラインでつながって2つのときにはどれか2つ,3つなら全部を押すという形になります。
そのほかに[×]ボタンによるジャンプと,そのまま長押しすることで空中で左右に動かす「グライド」をしたり,アビリティを使うときに[△]ボタンを使ったりして,KHらしいアクションとしての操作感覚をリズムに合わせて楽しむというスタイルですね。
4Gamer:
譜面に対してボタンを押すだけではないんですね。確かにシアトリズムとは根本的に違います。
KHシリーズの数々の名曲やディズニーの楽曲を140曲以上収録
4Gamer:
今回の収録曲は140曲以上にもなるそうですが,楽曲は原曲が収録されるんでしょうか。もしくはアレンジ曲になるとか?
鈴井氏:
シアトリズムでもオリジナル音源を大事にしていて,KHMoMでも皆さんの思い出に残っているのはオリジナルの楽曲だと思いますので,基本的にはすべて原曲を採用しています。タイトル画面とスタッフクレジット画面で流れる2曲は,下村陽子さんに新規にアレンジしていただいたき,生演奏を音源化していただいた楽曲です。
4Gamer:
収録される楽曲はどういう基準で選んだんですか?
鈴井氏:
そこは本当に悩みどころでした。KH全シリーズとなると大量に楽曲がありますから,一度すべてのリストを作って,コンサートのセットリストや過去シリーズの人気投票の順位など,楽曲に関するさまざまな情報をまとめてそれを参考に,プレイヤーにとってとくに印象深い曲をチョイスしました。
あとは「ワールドトリップ」という過去シリーズのストーリーを追いかけながら,名場面とともに音楽を楽しむモードがあるんですが,その構成上で必要な楽曲なども選んでいます。
4Gamer:
KHシリーズだけでなく,「Under the Sea」や「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」などの,ディズニー作品の曲も入っていますよね。
鈴井氏:
いわゆる“ディズニー楽曲”ですね。そちらも10曲程度用意しています。
間氏:
せっかくのリズムゲームですからね。KHファンだけでなく,ディズニーのファンにも楽しんでもらえるよう,それらの曲も入れさせていただきました。
とにかくたくさんの曲が入っているタイプのリズムアクションゲームって,調べてみると意外と少なくて,それならうちがやるのがベストだろうと,最終的に野村さんに判断をいただき,収録しています。
4Gamer:
野村さんは楽曲についての提案をもらったときに,どう考えましたか?
野村氏:
特別な基準は設けてないです。全部名曲で,それも相当数ありますけど,「これは入ってないとダメだろ」という曲は外さないだろうという信頼感はあったので,僕からは何か言うことはとくになかったですね。
4Gamer:
皆さんの推しの曲はあったりしますか?
間氏:
僕は「Under the Sea」が気に入ってます。ディズニーさんの楽曲でゲームをプレイできるということを代表するシンボリックな曲で,個人的にも「KINGDOM HEARTS II」のこの曲の収録にたまたまスタジオで立ち会ったという思い入れもあって,懐かしい気持ちになります。実際に遊んでもすごく気持ちがいい曲ですし。
鈴井氏:
僕としてはまず,「光」という宇多田ヒカルさんの曲をリズムアクションとして初めて遊べることを推します。
そして現場全体の意見として,本作一番の目玉曲に挙げたいのが,「KINGDOM HEARTS 358/2 Days」のトワイライトタウンでシオンと戦う時のバトル曲「Vector to the Heavens」です。ファンの方にとっても思い入れの強い曲でしょうし,ピアノに合わせた演奏感の高い譜面を,愛のある開発陣が必死に作り上げているので,ぜひ注目して楽しんでいただきたいです。
野村氏:
僕も「光」ですね。「光」といえばKHというぐらい印象深い曲ですから。あとはタイトルの曲とか。
間氏:
「Dearly Beloved」ですね。
野村氏:
曲のタイトルが覚えられないんだよね(笑)。
鈴井氏:
今回ゲームを遊んでいただければ,そういった曲名もきっと覚えていただけると思いますよ(笑)。
シリーズのストーリーとともに,KH III「Re Mind」の先の物語も描かれる
4Gamer:
先ほどお話に出た「ワールドトリップ」のストーリーは,野村さんが脚本を書き下ろされたものなんですか。
野村氏:
そうです。実は最初,新規のストーリーがないまま開発が進んでいて,途中で「(ストーリーが)ないのはおかしくない?」というこが気になったんですが,自分の中でストーリーは「KINGDOM HEARTS III」(以下,KH III)の「Re Mind」で終わっていて,次への構想もあるにはあるけどそれを入れるわけにもいかないので,どうしようか悩んでいたんです。
開発中にゲームの中に“語り部”的な役割が欲しいという話も出ていたので,それをカイリにしようと思いつきました。
野村氏:
これは余談なんですけど,昔携帯電話のコンテンツでやっていた「キングダム ハーツ モバイル」の中に,ミニゲームでトランプの「大富豪」があったんです。登場キャラクターが大富豪を遊ぶという内容だったんですが,ディズニーから「ストーリーを付けてほしい」という要望がありましてね。キャラクター達が大富豪をやるにあたり,その理由付けがほしいと。
そのストーリーも書いていたんですが,大富豪にストーリーがあるくらいなら今作にもストーリーはあって然るべきと考え,語り部にカイリを据えて,次に向かうための物語を書き下ろしたんです。
鈴井氏:
開発初期の段階で,映像と音楽で過去作を振り返るというワールドトリップの骨格部分はある程度できていて,開発の過程で語り部をカイリにすることが野村さんの提案で決まりました。内容的には,彼女がみんなから聞いた冒険の話を振り返っていく流れですね。
4Gamer:
時系列としては,KH IIIのRe Mind後のストーリーという認識で合っていますか?
鈴井氏:
そうですね,ダイジェストで振り返る部分がKH IIIに向かって続いていて,その先が野村さんに書き下ろしていただいたシナリオに続いていきます。
野村氏:
具体的にはRe Mindよりも先の出来事を,ちょっとしたエピソードとして追加してます。
4Gamer:
タイトルの「Melody of Memory」にはどんな意味が込められているのでしょう。
野村氏:
直訳の「記憶の旋律」という,そのままの意味です。カイリが振り返るストーリーにしたので,音楽をモチーフに振り返っていくということで,このタイトルにしました。「チェイン オブ メモリーズ」と被るので悩んだんですが,語呂もいいのでこれでいいかなと。
KHシリーズを知らない人でも,物語と音楽を一気に楽しめる
4Gamer:
開発において苦労された点はありましたか?
鈴井氏:
我々としては,マルチプラットフォームのタイトルを初めて手がけたことによる苦労はありました。あっちでは動くのにこっちでは動かないとか,ボタンのアサインが違うとか。
それとは別に,本作はリズムアクションゲームなので,少しでも安定した描画をするための最適化作業を,約2年半の開発期間のうち1年近くかけて綿密に行っています。とにかく軽くしようとしてがんばっていたんですが,後から野村さんに「エフェクトを増やそう」と言われましてね(笑)。
野村氏:
あったあった(笑)。
鈴井氏:
それを受け入れて,さらにがんばってエフェクトを増やしたら,今度は「上級者向けの難しいモードを入れよう」と提案をいただいて……そうなると必然的に表示物が増えて重くなってしまうんです。
そんなやりとりが何度かありましたが,乗り越えることができました。
野村氏:
初期段階の酔わないように調整をしていく過程で,ゲーム全体がかなりシンプルになってしまっていたので,エフェクトをもっと派手にしないと見た目が地味だなと思ったんです。
シアトリズムと比べても,ゲームが少し簡単な印象を受けたので,もっと手数を増やすとか,難しくできないかということも提案しました。
鈴井氏:
結果的に,やってよかったと思っています。本作は,どちらかというとKHシリーズやディズニーのファンに向けて,アクションが得意じゃなくても幅広く遊べることに注力していたんです。ところが上級者目線で遊んでみると,パーフェクトを取るのは大変ぐらいの手応えはあるけど,テクニックを誰かに見せつけたくなるような,カタルシスを感じるところまでは至っていないことに野村さんの指摘で気づきました。
そこから全譜面,全難易度に「パフォーマースタイル」という,たくさんのボタンを使った“魅せる”ための遊びを追加しています。
4Gamer:
本作にはオンラインモードも入っているそうですね。
鈴井氏:
はい,オンラインは開発当初から企画していたものです。リズムゲームでフレーム単位のやりとりをするのは現実的ではないので,「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」で導入した,お互いに対戦しているように感じられる手法を発展させ,「バーサスモード」を用意しました。オンラインでなくても,NPCを相手にする「COMバーサス」もありますので,いろんな形で遊んでいただけると思います。
4Gamer:
どんなルールになるんでしょうか?
鈴井氏:
自分と相手が楽曲を選択して,どちらか選ばれた楽曲で一緒にプレイするんですが,単にスコアを競うだけでなく,「トリック」という相手を邪魔する要素があって,ミスを誘発させたりHPを減らしたりしながら,最終的にスコアが高かったほうが勝ちとなります。 また,Nintendo Switchでは,ローカル通信を使って最大8人で「フレンドバトルロイヤル」という対戦モードが楽しめます。お邪魔要素はなく,純粋にリズムゲームを正しくプレイして,規定の回数ミスをすると脱落するといったルールのもとで,最終的にハイスコアを出した人が勝利となります。
4Gamer:
協力プレイ用のモードはあるのでしょうか。
鈴井氏:
「ダブルプレイモード」という,1つのディスプレイで,1Pはソラ,2Pはリクになって2人で遊ぶモードがあります。一応それぞれのスコアも出るので競争的な要素もありますが,メインは合計したハイスコアの値ですので,一緒にハイスコアを目指すような遊びですね。
野村氏:
ダブルプレイモードは,必ずしも2人で遊ぶ必要はなくて,1人でやってもいいんですよ。うまい人は1人でコントローラを2個使って遊んでもいいので。
4Gamer:
発売が2020年11月11日に決定しましたが,そこに向けて皆さんから最後に一言いただけますか。
間氏:
シアトリズムとはタイトル自体も違いますが,インディーズゼロさんがこれまで培ったノウハウをKHの世界観にうまく活用していただきました。シアトリズムにもあった,イベントのムービーを音楽とともに楽しむMEMORY DIVEもいくつか用意していますので,KHシリーズを振り返りながらお楽しみいただけたらと思います。
鈴井氏:
開発に長い時間をかけて,1人でも多くのファンの方に楽しんでいただけるように,ねちねちとこだわり抜いて内容を詰め込みました。楽曲やモードもたくさんありますし,誰かと一緒に楽しめる要素も用意して,1年2年3年とお付き合いいただけるタイトルに仕上げましたので,長く遊んでいただければ幸いです。
野村氏:
これまでお話したとおり,KH IIIのRe Mindでこれまでの物語は終わっていますので,本作はそこまでの総集編として,すべてを振り返る作りにしました。これまでKHを遊んだことがないという方も,本作だけでシリーズ全体のストーリーを知ってもらえるのではないかと思います。音楽についてもそうですね。ファンの方にはもちろん,初めて聴くという方にも,いい曲が多いなと感じていただけるのではないでしょうか。
突然現れたタイトルなので,ファンの方は少し驚いているかもしれませんが,現在の情勢下にありながら,僕自身も想像する以上に早く出すことができました。これまでシリーズを楽しんでくれた方にも,これから触れてみようという方にも,気軽にしっかりと楽しめる内容に仕上がっていますので,ぜひこの機会に遊んでいただければと思います。
4Gamer:
発売を楽しみにしています。ありがとうございました。
「KINGDOM HEARTS Melody of Memory」公式サイト
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(C) Disney. (C) Disney/Pixar. Developed by SQUARE ENIX
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