企画記事
「メダロット クラシックス プラス」発売記念に,初代「メダロット」の思い出を語る。“背伸びしたい子供”の心を掴んだ人格を持ったメカたち
「メダロット クラシックス プラス」は,初代「メダロット」から「メダロット5」の5作品に加えて,その外伝にあたる「メダロット・ナビ」「メダロットG」「メダロット 弐CORE」の合計8作品を収録したタイトルだ。
初代こと,ゲームボーイ版「メダロット カブト/クワガタ」が発売されたのは1997年の出来事――そう,あの「ポケットモンスター 赤・緑」が発売された1年後である。当時多くの小学生がそうであったように,筆者もポケモンをさんざん遊んだ後,次にゲームボーイのスロットに収めるカートリッジを探していたのだ。
メダロットはそんな時代に生まれた,ポケモンの“次”を狙った作品であることについては,いまさら否定する必要もないだろう。しかし,そんな“ポケモンフォロワー”の中で,今も名を残す数少ない作品であることも確かだ。
本稿では,当時小学生としてメダロットの勃興を垣間見た筆者の視点から,当時のコンテンツ展開を振り返りつつ「なぜ,メダロットは今まで忘れられない存在であり続けたのか」について考えてみたい。
ちなみに,ここで扱うのは“初代”のメダロットに限定したい。ほかの作品も含めてしっかり語るのもいいが,ナンバリングタイトルに外伝作品を含めた全作品について語っていると秋の夜長でも時間が足りないだろう。2作目以降の思い出話は,ぜひ周囲のメダロッターたちと語り合ってみてほしい。
「メダロット クラシックス プラス」公式サイト
ロマンが詰まった「メダロット」は背伸びをしたい小学生たちの“メカ魂の親”になった
まずは,軽くシリーズの始まりを振り返ろう。「メダロット」は,漫画家のほるまりん氏を原作者とするメディアミックス・プロジェクトだ。1997年に小学生向け漫画雑誌「コミックボンボン」で連載が始まり,続いてゲームやアニメなどのコンテンツが展開されていった。
作中におけるメダロットとは,ひとつの人格が封じ込められた“メダル”を核として駆動するホビーロボットを指す言葉だ。フレームにあたる「ティンペット」にメダルをセットし,頭と胸・右腕・左腕・脚部の4パーツを装着することで,1体のメダロットが完成する。
メダロットは所有者と共に生活し,さまざまな形で社会に貢献している。その中でも特に,世界中で人気を博しているのがメダロット同士による競技バトル“ロボトル”であり,主人公たちはロボトルを通じて悪の組織と対峙したり,世界を救ったりするわけだ。
細かい設定はメディアによって異なるが,ここまでの内容がメダロットというコンテンツのベースであり,これだけ知っていればだいたいの作品は楽しめる。
前述の通り,メダロットはマルチメディア展開を前提にしたコンテンツであるため,存在を知るまでの道筋は人それぞれになる。その中でも,筆者はボンボンに連載されていた漫画版「メダロット」から入った人間だ。
ただ,普通の子供向け作品も連載されていて,全部がどうかしていたワケではなかった。実際,文字が読めるようになって間もない頃の筆者にとってのメインコンテンツは「ウルトラ忍法帖」「へろへろくん」などの,割と内容を理解しやすいギャグ漫画だった(ギャグ系漫画も割とブッ飛んでいたなどの議論は,一旦脇に置いておく)。
「王ドロボウJING」などに代表される独創性の強い作品群は,小学生低学年が理解するには少し難しい内容だったが,筆者はそれを読んでいること自体に喜びを感じていた。ボンボンは,そんな“ちょっと背伸びしたい小学生”が買うには丁度いい漫画雑誌だったのだ。
では,漫画版メダロットはどちら側だったかというと,どちらでもない中間的な漫画だったように思う。相棒(メダロット)と共に戦いながら高みを目指す,というホビー系作品の基礎はきちんと押さえつつ,ボンボン作品らしいロマンの発露もそこかしこに見られ,それは当時の小学生にもしっかり届いていた。
メダロットの洗練されたディテールや,それを最大限美しく見せる陰影を活用した感情表現,ロボットならではの挑戦的なポーズや構図は,背伸びをしたい小学生の子供心を刺激した。絵の情報密度を意図的に絞ったアーティスティックな表現の数々は,今見ても文句なしにカッコイイと思う。
また,パーツが壊れる瞬間にはメダロットのアイカメラが砂嵐状態になったり,破損したパーツの隙間からオイルが血飛沫のように吹き出したりと,ロボット的なビジュアルを残しながら“痛そう”な表現を使っていたのも印象的だった。まるで人間の血肉のように飛び散るパーツやティンペットは,“感情を持つメカ”という存在のロマンを子供の脳に刻み込み,“背伸びをしたい子供”だった筆者は,自分でも直感的に理解できるロマンの数々を歓迎した。
数年後(1999年)に放映され始めたアニメ版では,もう少しだけ表現がマイルドになっていたが,それでも人格を持ったメカの描写は素晴らしいものだった。これは筆者の勝手な想像だが,そちらも相変わらず“背伸びをしたい小学生”が主なお客さんだったんじゃないかと思う。
生まれたばかりのヒナが,最初に出会った生き物を親と認識して後をついていくように,メダロットは,当時触れた小学生たちの心に生まれた“メカ魂”の親になったのだ。
メダロット世界をプレイアブルにした
ゲームボーイ版「メダロット」
さて,本題のゲーム版「メダロット」の話に戻ろう。ゲーム版の大筋は漫画やアニメのメダロットと同じで,主人公のアガタヒカルが拾った1枚のメダルを中心に物語が展開していく。
いわゆるバージョン違いの2タイトル「カブト/クワガタ」が同時発売されており,バージョンによって獲得できるメダルやパーツが異なる。
ここでカブトとクワガタのどちらを選ぶかは人それぞれだが,筆者は漫画版の影響でクワガタを選んだ。もちろん,名前は漫画版に登場したクワガタ型メダロットと同じ「ロクショウ」だ。
ちなみに補足を入れておくと,当時のゲーム版ではクワガタ型メダロットの正式名称は「ヘッドシザース」で,ロクショウは固有名だった。後のシリーズでは正式名称が「ロクショウ」に変更されている。
ヒカルはゲーム内でもさまざまな相手とロボトルに挑戦するのだが,そのシステムはほかに類を見ない珍しいものだった。
基本のルールは「最大3体のメダロットでパーティを組み,相手のリーダーを撃破したら勝利」というもので,頭部パーツが破損したメダロットは行動不能となる。加えて,それぞれのメダロットを構成する4種類のパーツ(頭胸部,右腕,左腕,脚部)のうち頭胸部,右腕,左腕がそのまま実行できるコマンドの内容を示しており,破損していないパーツを使って行動を行う。
そして最大の特徴は,メダロットに指示を出すシステムにある。まず,体力測定で行うシャトルランを思い出してほしい。味方チームと敵チームのメダロットがシャトルランのスタートラインに立ったら戦闘開始だ。
プレイヤーが各機体に使用するパーツを指示できるのは,メダロットがこのスタートラインに立っている間だけ。指示が完了するとメダロットが奥のライン(仮に実行ラインと呼ぶ)に向けて走り出し,ラインを踏んだら指示された行動を実行する。行動を終えたメダロットはスタートラインまで走って戻り,再度走り出すまでの間に新たな指示を……という具合で戦闘が進行する。
走っている間に指定したパーツが破壊されると,実行ラインに到達しても行動は不発に終わってしまう。採用している脚部パーツによって移動スピードが変化するので,自分と相手のどちらが先に実行ラインに到達するのかを考えて適切な指示を出す必要がある。
最初は不思議に思えたこの仕組みだが,ゲームを進めていくうちにその意図が見えてくる。メダロットは感情を持ったロボットであり,行動を指示するプレイヤーとメダロットは別個体なのだ。つまり,メダロットが指示を受けて実行するまでを表現したのが,あのシャトルランになのだろう。
思い返せばゲーム版のメダロットには,プレイヤーにメダロットの世界を“そのまま”楽しませようとする工夫に満ちていた。漫画版の紹介で挙げた破損表現などに関しても,容量や演出面といった厳しい制限の中で,可能な限り残そうという努力の形跡が見られる。
当時はさすがにここまでハッキリと言語化できていたワケではないが,漫画の中に登場したパーツの組み合わせを再現してみたり,いろいろなパーツを組み替えながら敵と戦ったり,試行錯誤する中でメダロットの世界に身を置いている感覚を楽しんでいたのは間違いない。
そして,もう1つの大きな特徴として,ロボトルにおける「負けた者はパーツを1つ相手に渡さなければならない」という驚がくのルールがある。これは,いじめっ子とか野良メダロッターばかりではなく,商店街にいるおばちゃんといった大人,そして,保健の先生や校長先生などの教育者ですらその権利を行使してくる。当然だが,入手機会が限られているパーツが奪われた場合,そのパーツは二度と入手できない。
要するにメダロットの世界は,「遊☆戯☆王」のバトル・シティ編のような,負けるとレアカードを差し出さなければならないルールが日常なのだ。下手に初心者が経験者に挑もうものなら「半端な気持ちで入ってくるなよ,ロボトルの世界によぉ!」と身ぐるみを剥がされてしまうに違いない。恐ろしい世界だ……。
小学生の筆者はというと,ゲーム開始から数時間でロクショウのヘッドパーツとレッグパーツを略奪され,涙目になりながらゲームを進めていた。まさかもう二度と奪われたパーツを取り返せないとは知らず,「いつか入手できる!」と信じて戦い続けたのだ。自分のことながらなんと哀れなことか。
今の基準からすればかなりヤバい仕組みだと思うが,これはこれでメダロットの世界を楽しむ一助にはなっていたと思う。よくよく考えればセーブ&ロードで解決する問題ではあるのだが,つい「取られたら自力でなんとかするしかない」と考えてしまったのは,よりメダロット世界を楽しむためにゲームに取り組んでいたからだろう。このゲームを遊んでいる間,筆者はメダロット世界の住人だった。
武装ごとの特性の説明が不十分だったり,メチャクチャ苦労して集めた女性型ティンペットと女性型メダロット(女性型パーツは女性型ティンペットにしか装着できない)がやたら弱くて扱いに困ったりと,初代ならではの問題も少なくはなかった。しかし,それらの問題点の多くは後のシリーズで解消されている。
これから「メダロット クラシックス プラス」でシリーズを履修する人は,ゲームとメダロットの世界を楽しむ中で,そういった細かな部分の進化にも目を向けてみてほしい。
まとめると,筆者にとってのゲーム版「メダロット」は“メダロットがいる世界”を表現するコンテンツだった。システムやアクションがそれを直感的に表現しており,それゆえに“メダロット世界”は忘れがたい世界になったのだ。
ほかのメダロッターたちが,筆者と同じ理屈でメダロットを好きになったのかは分からないが,メダロットは世界そのもの,構造そのものが愛されるに値するクオリティを有していたのは間違いない。今でも新作がリリースされ続けているのがその証拠だろう。
せっかくなので筆者もこの機会に,小学生の気持ちに戻って「メダロット クラシックス プラス」でシリーズを遊んでみたいと思う。もちろん,セーブ&ロード縛りは継続で,今度はフルセットのロクショウと共にビーストマスター撃破を目指すぞ!
「メダロット クラシックス プラス」公式サイト
- 関連タイトル:
メダロット クラシックス プラス カブトVer.
- 関連タイトル:
メダロット クラシックス プラス クワガタVer.
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