プレイレポート
「Sa・Ga COLLECTION」をもとに振り返る,「サ・ガ」シリーズ初期3部作。今から31年前,“持ち歩けるRPG”が携帯ゲーム機に新風を吹き込んだ
2019年に初代「魔界塔士サ・ガ」の発売から30周年を迎え,その最後を飾る記念タイトルとして「サガ」シリーズファンから注目を集めている本作。本稿では特別企画として,この「Sa・Ga COLLECTION」を紹介するとともに,携帯ゲーム機に新風を吹き込んだ「魔界塔士サ・ガ」とその続編「サ・ガ2 秘宝伝説」「時空の覇者 サ・ガ3[完結編]」について当時の話題なども交えて振り返ってみたい。
“いつでもどこでも遊べるRPG”の衝撃。「魔界塔士 サ・ガ」
「魔界塔士 サ・ガ」は,今から31年前の1989年12月15日に,スクウェア(現スクウェア・エニックス)から発売された。当時のゲーム市場は,任天堂のファミリーコンピュータをはじめとする8ビット家庭用ゲーム機が次世代機へと移り変わる頃であったが,同年4月に発売された携帯型ゲーム機のゲームボーイは,家庭用ゲーム機とは別の新しいムーブメントを築きつつあった。
本体に液晶画面を備えたカートリッジ交換式のゲーム機は,外出先でもゲームをプレイできるという,家庭用ゲーム機とはベクトルの異なる魅力を持ち,同年6月発売の「テトリス」のヒットにより,一気に浸透した。
その年末のラインナップに登場したのが,ゲームボーイ初のRPG「魔界塔士 サ・ガ」(以下,サ・ガ1)であった。1989年当時,ファミコンでは「ドラゴンクエスト」(以下,DQ)シリーズ3作品,「ファイナルファンタジー」(以下,FF)シリーズ2作品が発売され,RPGは既に人気ジャンルとなっていたが,ゲームボーイにはまだそのラインナップがなく,それまで発売されたタイトルがアクションやパズル,スポーツなどの軽めのジャンルばかりだったため,RPGであるサ・ガ1の発売は当時のゲームボーイユーザーにとってはセンセーショナルな出来事であった。筆者も前年に発売された「ファイナルファンタジーII」(以下,FF II)に熱を入れていたこともあり,本作にも大きな期待をかけていた。
サ・ガ1は,キャラクターのドット絵がファミコン時代のFFを,モンスター達の絵が大きめに表示される戦闘シーンはDQをほうふつとさせる雰囲気があったが,実際にプレイしてみると,その世界観設定やゲームシステムはかなり違っていた。
剣や魔法がある一方で,メカニカルな兵器やプレイヤーキャラクターにエスパーがいるなど,SF的な要素も盛り込まれたハイブリッドな世界観が設定されている。冒険する世界は1本の塔によって結ばれ,階段でフロアを上がるとそこに新たな世界が広がるという構造になっている。スタート地点となる1階からいくつかのフロアごとに雰囲気の異なる大きな世界があり,その途中の階層にも小さな世界が存在している。知識なしでプレイをしていると,ゲームをある程度進めたところでそのことに気づくわけだが,階段を上がるたびにどんな世界があるのかワクワクした。
システム面で特徴的だったのは,キャラクターの成長において,経験値の概念がないということ。前年に同じスクウェアから発売されたFF IIでも経験値が存在しない成長システムが盛り込まれていたが,本作の場合はキャラクターの種族ごとに成長の仕組みが異なる。
例えば「にんげん」なら,「ちからのもと」や「HP200」といった店で購入できるアイテムを使うとパラメータが上がる。装備する武器防具の性能もキャラクターの強さによって変わるので,資金の少ない序盤は我慢の展開となるが,逆にお金さえあればどんどん強くできるのだ。
RPGの種族としては異色の「エスパー」は,当時はその存在にギョッとしたが,戦闘後の突然変異によって能力や技が変化する特徴を持ち,現在まで続く「サガ」シリーズの成長システムに通じるものがある。また武器防具も装備できるので即戦力にもなる。男性が「エスパーマン」なのに対し,女性が「エスパーウーマン」でも「エスパーガール」でもなく,「エスパーギャル」なのも魅惑的だった。
さらにはモンスターも仲間としてパーティに加えられる本作だが,彼らの成長システムには,倒した敵が時折落とす「肉」を食べると別のモンスターに変化するという独自の仕組みが設けられていた。変化には独自の法則があり,場合によっては弱くなってしまうこともあるが,ある法則に準じて食べていくことで,最初の世界で強力なモンスターに変化するという,裏技的なレシピが存在したことを覚えている人もいるだろう。
本作の魅力のひとつとして挙げられるのが,思いもしない意外なストーリー展開と,それらを描いていく登場人物達の台詞回しだ。 主人公達の会話は妙に軽いが味わい深く,しかもパーティの組み合わせによってそれをエスパーギャルやモンスターが言っていたりするからさらに面白くなる。「ガルガルやろうと いいおんなと どっちがすきだ?」「きくまでも なかろうよ!」なんてセリフをモンスター同士が話すところを想像すると,思わずニヤニヤしてしまうが,当時は意外とすんなり受け入れていたような気もする。
本作のディレクターである“神”こと河津秋敏氏は,当時はFFやDQシリーズが出ていたとはいえ,まだそれほど浸透していなかったベタなファンタジー世界ではなく,TV番組の冒険もののような世界観をイメージしたと,「サガ30周年フィナーレ生放送」にて述べている。
河津氏は本作のシナリオも手がけていて,独特の言い回しはファンの間で「河津節」と呼ばれ,現在まで続く「サガ」シリーズにも受け継がれている。またこのシナリオの構築には石井浩一氏,伊藤裕之氏,(本作にチョイ役で登場する「たかしくん」こと)時田貴司氏といった,なかなか“クセが強い”クリエイターが関わっていたことにも注目したい。
どこの店に入ってもこんな感じだ。この世界の商人は口が悪いらしい |
「それは いやー おわかい! どこのびじんが おあいてで?」「ここはひとはだ ぬぎやしょう!」。楽しんで作っているのが伝わってくるようなセリフが要所に見られる |
本作のファンの間でネタとして使われることもある「これも いきもののサガか....」という終盤で聞くセリフは,それまでの展開やその前後の会話を体験することにより,受け止めたときの感覚はまったく違うものとなる。実は筆者はこのセリフを聞いた後に,例の「チェーンソー」を特別意識せず試す程度に使ったら効いてしまい,その結末を迎えてしまったので,なんだか複雑な気分になったことを覚えている。
やや荒削りな部分やいくつかのバグなども見受けられた本作だが,破天荒な世界観のおかげでそれらもゲームデザインとして寛容に受け入れられ,後に100万本のセールスを記録し,ゲームボーイのヒットを後押しした。2002年にはワンダースワンカラーでリメイクされ,そこで初めてカラーとなった本作をプレイすることができたが,残念ながらその移植版はリリースされていない。
ROM容量が2倍となり,完成度がグッと高まった「サ・ガ2 秘宝伝説」
サ・ガ1のちょうど1年後に,通常のゲームボーイソフトよりも大きなパッケージでリリースされた「サ・ガ2 秘宝伝説」(以下,サ・ガ2)は,前作の基本システムや味わいを残しつつも,RPGとしての完成度を高めた内容となっていた。唐突に始まる前作と比較すると,“いつも窓から出ていく”父親の背中を追って旅立つオープニングもドラマチックだ。ストーリーも全体的に正統派な印象で,パーティにNPCが加わって戦力となる演出はFFシリーズに近いテイストもあった。
サ・ガ2のNPCというと,忘れることができないのが「せんせい」の存在である。プレイヤーが通っていた学校の先生で,旅に出るプレイヤーを気遣って仲間になり,序盤の道中にてその強さを発揮。「ひほうをよこせ! おれはかみに なるんだ!」と仰々しく襲ってくる最初のボス「ラムフォリンクス」を「とかす」の一撃で葬るという,非常に頼りになる存在であったが,その人物像と目玉に手足が付いたスライム系モンスターという姿のギャップにはとにかくインパクトがあった。
ラムフォリンクスを倒した後に離脱してしまうのが本当に名残惜しいのだが,最初の町周辺や洞窟でせんせいの能力がなくなる寸前(せんせいと別れるまで,能力の回復手段がない)まで戦って稼いでおくといったスタート直後の進行手段も成立した。
ちなみに,前作から登場しているこのキャラクターのデザインは時田貴司氏が手がけていたそうで,既にほかのRPG作品でその姿が完成しつつあったスライムのキャラクターをどうデザインするか悩んだ末,手足を生やして擬人化することで他と差別化したと,「サガ30周年フィナーレ生放送」にて語られている。
また本作ではプレイヤーキャラクターに「メカ」が新たに加わっている。メカは装備品によって能力が上昇し,使用回数制限のある装備品を身に付けると,その回数が半分になる代わりに,エスパーの特殊能力などと同様に宿屋に泊まると回数が復活するという特性を持っている。装備品は取り外すとさらに回数が半分になってしまうので,どれを装備させるかよく考える必要があるという設計もよくできている。仲間にメカが入ることで,世界観のハイブリッド具合が前作以上に増し,戦闘で「ミサイル」が飛び交う様子も違和感がなくなった(ような気がする)。
またキャラクターの成長システムも見直されたことで,全体的に遊びやすくなった印象もあった。
最初に選んだキャラクターを主人公とし,仲間3人を選ぶ。メカはキャラクターとしてもオススメで,1人は入れておきたい。もちろん主人公としても選べる |
バトルで遭遇する敵は最大3種までだが,同種が複数現れて結構な合計数になることも。全体攻撃を身に付けておきたい |
前作と比較して,ROMの容量が2倍になったことで,より深いところまで作り込まれていて,秘宝を求めて訪れる世界もバラエティに富み,次の展開に対するワクワク感も高まっている。シナリオは河津氏が大まかなプロットを担当し,田中弘道氏が執筆,それを河津氏に戻して,河津節を加えてもらうという手順で完成したという。
さらには本作では,前作から引き続きサウンドを担当した植松伸夫氏とともに,現在までサガシリーズのサウンドを手がける伊藤賢治氏が加わったことも大きな出来事だったといえる。
総合的な完成度は非常に高く,本作をシリーズ3部作の中では最高傑作とする人も多いだろう。その後2009年にはニンテンドーDSで,「サガ2秘宝伝説 GODDESS OF DESTINY」としてリメイクされた。
スクウェア大阪開発部によって製作された,新しいスタイルの「時空の覇者 サ・ガ3[完結編]」
ゲームボーイでの最後のシリーズとなった「時空の覇者 サ・ガ3[完結編]」は,これまでの2作品とはひと味違った作品としてファンの間では語り継がれている。
プロローグが終わると前置きもなくFF IIのようなバトルから物語が始まる。その画面もそれまでのシリーズ作品とは一線を画していた。当時のFFシリーズのように,遭遇したすべてのモンスターが画面に並び,さらにプレイヤーキャラクター全員の後ろ姿が画面に映っている。キャラクターは固定で,デフォルトの名前も用意されていた。
筆者も恐らく発売前の雑誌記事などで見ていた画面だとは思うのだが,目の当たりにするとやはり違和感を覚えて,「これが新しいサ・ガか……」というのが正直な感想だった。
キャラクターの成長や装備品に関するシステムも,一部を除きオーソドックスなRPGのそれに近くなり,キャラクターにはレベルの概念が導入され,敵を倒すと経験値が入り,それが規定数になるとレベルアップしてパラメータが上がるという仕組みだ。また武器の使用回数なども原則として廃止となった。
システム自体はしっかりと作り込まれていて,例えばバトル時の行動をAIに任せる「おまかせ」が用意されていたり,コマンド入力時に敵味方を指定できたり,「かわす」という防御コマンドが追加されたりと,ほかのRPGタイトルをプレイしていれば直感的に分かるようなポイントも多く,遊びやすい仕様となっている。
こうしたゲームシステムの変更は,開発当時河津氏がスーパーファミコンの「ロマンシング サ・ガ」の開発に携わっていたことにより,本作に直接関わることができず,スクウェア大阪開発部に開発のすべてを任せ,同部署が比較的自由に作ったことに由来する。プロデューサーの藤岡千尋氏は,それまでの2作が非常に尖ったゲームシステムだったので,オーソドックスでわかりやすいRPG的なシステムで新作を作ることを考えたそうだ。
とはいえ,本作ならではのシステムもあり,倒した敵が「肉」のほかに「パーツ」を落とし,それらを食べる,もしくは装着することで,種族を変化させることができるようになった。最初は「にんげん」と「エスパー」の男女2人ずつのパーティだが,肉では「獣人」「モンスター」,パーツでは「サイボーグ」「ロボット」に変化。さらにゲームを進めると使えるようになる「浄化マシン」(和式トイレ風)を使えば,変化前の姿に戻れる。
パーツはサイボーグやロボットが落とす。装着するとその種族に変化する |
比較的手軽に変化が行えるのもポイント。パーティ編成も楽しみの1つだ |
また当時話題となったステルス戦闘機をモチーフとした「ステスロス」の存在も見逃せない。神が作った時空を超える戦闘機ステスロスは,過去の神々の戦いによって封印されていて,そのパーツが世界中に散らばっている。ゲーム序盤はそれを集めるストーリーが展開し,パーツを集めるたびにその機能が充実していく流れは楽しかった。ちなみに前述の浄化マシンもそのパーツの1つである。
旧来のファンにとっては,前2作品までのシステムのほとんどが変更となり,河津節も鳴りを潜めたという印象を受ける作品であったが,本作ならではの尖った要素もあり,広い意味でのサ・ガシリーズの自由さも引き継いだタイトルとも言える。実は筆者は当時本作を途中で止めてしまい,エンディングを見ていないので,この「Sa・Ga COLLECTION」で改めて進めてみようかと思っている。
高速モードや本体の縦持ちプレイなどのさまざまな機能で初期3部作をプレイできる
最後に本題である「Sa・Ga COLLECTION」について紹介しよう。ここまで述べたゲームボーイのサ・ガ3作品が当時のままの形で収録されている。プレイ中は[L]を押すことで,ゲーム速度が上がるモードに切り替えが可能だ。なお,高速モード時にBGMのテンポが速くなることはないのでご安心を。
そのほか,背景や画面サイズの切り替えや,Joy-Conを使用せず本体の仮想パッドのみを使ったゲームプレイ,本体をゲームボーイ風に縦持ちしてプレイする縦画面モードなど,プレイ環境の変更も可能だ。
セーブは各タイトルのセーブ機能を使用する形になっており,任意の中断機能などはないが,各タイトルともどこでもセーブができるので,不便に感じることはないかと思う。
[L]を押すと,画面を拡大表示できる。これは通常表示だが,ほかのスクリーンショットはすべて拡大表示で行っている |
各種設定は[R2]でいつでも開くメニューで行える |
ゲームボーイを代表するRPG3部作を,当時に近いプレイフィールで楽しめる「Sa・Ga COLLECTION」。この年末年始にでも,その歴史をじっくり堪能してみてほしい。
「Sa・Ga COLLECTION」公式サイト
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