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「FFVII EVER CRISIS」の演出方法などが解説されたセッションをレポート。ゲーム世界を分かりやすく表現し,キャラの魅力を引き出す秘訣とは
2023年9月にリリースされた「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」(iOS / Android / PC。以下,FF7EC)における空間演出やスキル演出,ホーム画面背景のワークフローが紹介されたセッションの模様をレポートしよう。
最初に登壇した香取氏は,まずFF7ECの概要を紹介した。同作は,原作となる「FINAL FANTASY VII」の世界を舞台にしたRPGだが,単純に舞台設定を引き継いでいるだけではなく,俯瞰視点が多かったり,ちびキャラとリアル頭身キャラという2種類のキャラクターモデルを使い分けたりと,システム面でも類似点がある。
そんなFF7ECの空間演出を担当した香取氏は,特に背景において「わかりやすさ」に重点を置いたという。
それを実現するために注意を払ったのが,「俯瞰カメラ」「キャプチャ」「ちびキャラ」という3つのポイントだ。
俯瞰視点の場合,カメラが被写体から離れて遠近感が少なくなり,オブジェクトの前後関係が分かりづらくなる。分かりやすさのためには,その対策が必要だ。
キャプチャとは,FF7ECの背景が,3Dモデルではなく,それをキャプチャした画像によって表現されていることを指している。これはポリゴン数などを抑えるためだが,つまり背景は静止画なので,それに合わせた演出が求められる。
ちびキャラは,デフォルメされたキャラクターのため,背景制作にあたっては,そのキャラが歩き回っても違和感のないものが必要になる。
この3つのポイントを踏まえて,香取氏が実際に取り入れた演出手法の数々が解説された。
●オブジェクトの前後関係を明確にする
俯瞰視点による遠近感減少の対策として,同じモデルでも,カメラから遠い位置にあるものを縮小したり,重ねて置いたりして遠近感を強調したという。
●道(地面)をわかりやすく
岩場のような場所では,道(地面)も壁も同じ素材で形成されるため,その境界が分かりづらくなってしまう。そこで,地面には砂や土の要素を若干増やし,境界部分には2つの領域をなじませるために,小石や小さめの岩を置いた。
●大自然の中の自然な道
「人の手が入っていない自然」といった舞台設定の場合,あまりに分かりやすい道は違和感の原因になってしまう。それを避けるため,キャラクターが歩けない場所にも,歩ける場所と同じような構造を入れた。
●障害物をわかりやすく
FF7ECでは背景がキャプチャ画像で構成されるため,オブジェクト同士の位置関係で障害物を認識させる手法が使えない。そこで,オブジェクトの彩度や明度を強調して,通行不可であることを示すようにした。
●空気遠近,ライティングによる工夫
エリアごとに明度を変えるだけでも遠近感を出すことでき,遠景にフォグを追加すれば,さらに効果が高まる。明度の差を付けることで,“眠たい絵”になることを防ぐ効果も。
●行けない場所は暗く
俯瞰視点の場合,キャラクターが行けない場所も画面に入ってしまい,それがプレイヤーの混乱を生む可能性もある。それを防ぐためには,入れない部屋の照明を落とすという手も。
●地面の間延び対策
上と同様に,俯瞰視点は広い場所を捉えられるため,「何もない地面」によって間延びした印象になることが多い。それを防ぐために,意図的に影を落とすこともあるとのこと。
●進行方向の明示
プレイヤーが進むべき方向を,それとなく示すことも必要になる。壁を登るためのツタの近くに,緑の補色である紫を入れたり,通路に赤いロープを張り巡らせたり,さらには床に散らばった剣の切っ先を進行方向を向けたりといったことも。
●画が静止しない工夫
背景が静止画であっても,プレイヤーに「ゲームがフリーズしている?」と感じさせないため,常に動きのあるエフェクトが画面内に入るようにしている。
●ちびキャラとの調和
前述のように,FF7ECではちびキャラとリアル頭身キャラの2種類が使用されているのだが,スケールはほぼ同じ。そのため,リアル頭身キャラに合わせて作られた背景であっても,違和感は少ない。ただ,場所によってはちびキャラに合わせて修正することもあるという。
また,FF7ECの背景はリアルテイストだが,フォトグラメトリーは使われていない。リアルさを追求しつつ,コストを下げるには有効な手法ではあるが,ちびキャラが動き回る場所としてはリアルすぎるからとのこと。
●汎用性の高いモデル作成
大きな崖のような場所を作る際は,一体成形ではなく,いくつかのパーツを組み合わせる形にしている。また,それぞれのパーツは角度によって表情が変わるようなものにして,既視感を抑えているそうだ。
以上のような手法を解説したうえで,香取氏は「ユーザーがどう感じているか,どう見ているかを,制作者も俯瞰して向き合うことが重要」と,プレイヤー目線で考えることの重要性を語った。
続いて登壇した緒方氏は,FF7ECのバトルで使用される3種類のスキル「コマンドアビリティ」「リミットブレイク」「召喚獣スキル」の演出手法を解説した。
コマンドアビリティは,「ATBゲージ」を消費して使用するもので,敵味方の複数キャラクターが戦闘を繰り広げる中での演出となる。緒方氏は,キャラクターが格好良く見えるカットを入れ込みつつ,プレイを阻害しないものを目指したと解説した。
クラウドが使用するコマンドアビリティ「ブレイバー」の場合,開発初期のカメラワークはキャラクターを後ろから捉えるものだったが,よりキャラクターを印象づけるため,発動時にいったんカメラがキャラクターの前に回り込むように修正が加えられた。また,攻撃が敵に当たるタイミングで画面を揺らすなどして,迫力を高めたという。
カメラワークを修正する際には,環境光の設定などからキャラクターの顔が暗く映ってしまうことが分かったため,ポイントライトを追加。顔を明るく照らすだけでなく,目にハイライトが入るようにして,キャラの魅力を高めた。
また,仕上げとしてポストフィルタを加え,被写界深度や色収差などを設定している。環境が変化しても,キャラクターが一定の品質で見えることを心がけたそうだ。
次のリミットブレイクは,各キャラクターの必殺技のようなもので,演出はコマンドアビリティを踏襲しつつ,キャラクターの個性を強調するユニークな表現を取り入れ,より豪華なものを目指した。
コマンドアビリティとの大きな違いとしては,ゲーム内の時間が止まり,スキル発動者と対象者以外のキャラクターが表示されなくなる点が挙げられる。
これにより,発動者によりフォーカスするカメラ設定が可能になり,負荷が軽減された分,エフェクトやポストフィルタをリッチに使っているとのこと。
このため,開発作業では負荷計測ツールが使用された。これは,パーティクルやポリゴンの瞬間最大数をワンボタンで計測できるもの。このツールの採用によって,スキルのカテゴリごとに負荷の制限を設け,プレイ品質を担保することが可能になったそうだ。
召喚獣スキルは,ファイナルファンタジーシリーズを通しておなじみの,強大な力を持つ精霊や魔物を呼び出して繰り出す技で,演出面でも超次元的なものを目指したという。
リミットブレイクよりもさらにリッチな表現が求められるため,ここでは負荷の制限が大幅に減少するプリレンダリング映像に,リアルタイムエフェクトを合成する形が採用された。
映像制作にあたっては,インゲームシーンとの間をスムーズにつなぐため,召喚獣の特徴に合わせたトランジションが用意された。
緒方氏は,この3つの演出方法を開発するにあたって,プレイを阻害せずにゲーム世界へ没入させる「軽量化を考慮した最高の演出」を目指したと語った。
最後に登壇した伊東氏は,ホーム画面の背景に流れる動画の制作過程を紹介した。
ホーム背景動画には,大きく分けて「特定武器収集報酬」「シーズンパス」「イベント報酬」の3つがある。
「特定武器収集報酬」は,レア武器を入手した際の報酬となっており,武器に紐付けられているウェアを魅力的に見せるもの。「シーズンパス」は,シーズンパス購入でプレイできるミッションのポイントを獲得すると手に入るもので,通常では見られない夢のシチュエーションが描かれる。「イベント報酬」は,シーズンのイベントに合わせて用意されるもので,そのイベントのひとコマを切り取ったようなものになる。
具体的な流れとしては,まずウェアのデザインや,イメージボード制作といった2Dでの作業が行われる。その後3Dの作業となり,まずキャラやオブジェクトの配置,簡易的なライティングを設定。続いてモーションを付け,細かなライティングやエフェクトなどの調整を行うといったものになっている。
イメージボードは3案ほどが出されるそうだが,制作にあたっては,どこを見せ場にするかの「コンセプト」,具体的な「ライティングのイメージ」,ウェアを魅力的に見せる「ポージング」,火の粉や水しぶきといった「エフェクト」まで,この段階でしっかりと練り込まれるとのこと。
構図はキャラクターが目を惹くようなものを目指すが,プレイヤーが持っている端末によって画面のアスペクト比が違うため,それに対応できることも必要になる。
モーションの作業では,イメージボードを再現することと,ユーザーインタフェースを邪魔しないことが意識される。ホーム背景動画は10秒ほどの時間となっているが,大きな動きは2〜3秒程度に抑え,イメージボードで意図した絵をしっかりと見せるようにしているという。また,あくまで背景であるため,モーションはメニューなどの目線誘導を邪魔しないものにしているとのことだ。
ライティングでも,イメージボードの再現に重点が置かれ,モーションやキャラクターの顔が映えるような調整が行われる。
さらにポストエフェクトやカラーグレーディングを追加して,完成したものが下の画像。雪が降ったり,エアリスの息が白くなったりといった効果も加えられている。
伊東氏は,どのセクションでも「キャラクターの魅力を引き出す」ことに重点を置いていることを紹介し,セクション間の密な連携がクオリティをさらに高めると語って,セッションをまとめた。
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CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA / CHARACTER ILLUSTRATION: LISA FUJISE
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