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[CEDEC 2022]RTA走者が語る,RTAを使ったプロモーションの活用事例。ポイントはコミュニティ文化の理解にアリ?
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本セッションに登壇したのは,ゲーム配信者でRTA走者でもあるえぬわた氏だ。えぬわた氏は「リングフィットアドベンチャー」のRTA走者として知られる人物で,「RTA in Japan Summer 2021」では最終走者として18万人を超える同時視聴者数を記録。同時にTwitterでもトレンド1位と2位を獲得した実績も持っている。
ちなみに,RTA(リアルタイムアタック)とは,ゲームを人間の手で最初からプレイして,実時間でどれだけ早くクリアできるかを競う遊びのことだ。海外ではSpeedrn(スピードラン)の名称で知られ,多くのゲーマーに親しまれている。
RTA自体は昔からコアなゲーマーの間では知られていた遊び方だが,近年はRTAを楽しむ走者が一堂に会し,次々にRTAを実施していくイベント「RTA in Japan」が開催されるほどに成長した。それがTwitterを中心に広がり,多くのゲーマーが楽しめる一大イベントとして人気を博している。
2020年には非営利を徹底した一般社団法人「RTA in Japan」が設立され,海外でも行われているRTAイベントと同様にチャリティイベントとして実施されている。今年は8月11日から15日にかけて全73タイトルのRTAが行われた「RTA in Japan Summer 2022」が開かれ,連日SNSのトレンドを賑わせていた。
今回えぬわた氏がCEDECでのセッションを行うことにしたのはRTA走者であることと,プロフィールにもあるとおりコンシューマゲームの販売に関わっていた経験から“RTAを用いたプロモーションには今までにない活用法がある”と感じたところが大きいそうだ。両方の立場を理解しているからこそ,伝えたいことがあると氏は述べている。
中でもえぬわた氏がCEDECで話そうと思った大きなテーマの一つが,とあるゲームの四半期ごとの売上本数をグラフにしたスライドに現れている。
このグラフはホリデーシーズンから徐々に売上が落ちるものの,途中からやや上向きに変化し,売上本数が伸びたことを示している。破線が示す予測を覆していた,その要因の一つが,同タイミングで開催されていたRTAイベントにあるとし,RTAがゲームのプロモーションに活用できると氏は主張した。
もちろん,すべてがRTAイベントに起因したものではないだろうが,確かにRTA配信の盛り上がりがゲームの売上に寄与した可能性は考えられる。これは「ゲーム実況でゲームが売れる」という考え方に近いもので,実際「Among Us」や「Fall Guys」といったタイトルがゲーム実況によって売上を伸ばした実例から,RTAも同様のポテンシャルを秘めていることはありうるだろう。
氏はそんな“RTAをプロモーションとして活用したいマーケター”に向けて,気をつけておくべきことをレクチャーした。
RTAの現状と課題,そしてプロモーション利用時に気をつけておくべきこと
セッションはまず,RTAの解説からスタートした。RTAはプレイヤー主導によるゲームの遊び方の一つであり,向き不向きはあれ,基本的にはどんなゲームにも対応できる競技と言える。そうしたRTAを動画配信することを,ここではRTA配信と称し,ゲーム配信の一種であると説明した。
とはいえ実際にRTAがどれだけ盛り上がっているかは,いわゆる外野から見てもよく分からない。そこでえぬわた氏が取り出したのが,Googleトレンドの検索ワードの比較グラフだ。見ればすぐに分かるが,このグラフは一時期だけ極端にグラフが上昇しており,これは「RTA in Japan」の開催時期と重なっている。
続いてYouTubeを含めたゲーム配信の最高同時視聴者数のグラフを示して,同時視聴者数でも上位であると主張した。ちなみに1位は加藤純一氏によるポケモン配信(同時視聴者数約38万人)で,2位がバベル氏の妖怪ウォッチ配信,3位と4位がにじさんじの「にじさんじ甲子園」で,それらに次ぐ5位が「RTA in Japan」(約18万人)だ。
このように瞬間風速的な勢いのあるRTAだが,通常のゲーム実況などとは異なる事情もある。その主な例として挙げられたのが,意図的なバク技の利用や練習でのModツールなどの使用で,ほかにもメーカーとしては公に認めがたい事例が,事実存在しているのだとか。
今でこそガイドラインの整備が進んだが,かつてのゲーム実況がグレーゾーンの文化であったことを考えれば,RTAの文化はまだ未整備であるとし,メーカー側が積極的にプロモーションに活用するにはハードルがあることも理解しているという。
だが,少しずつ変化が見られる部分もある。セガの「たべごろ!スーパーモンキーボール1&2リメイク」(PS5 / PS4 / Nintendo Switch / PC)の公式生放送で,公式RTAプレイヤーとしてゆとりん氏が起用された事例や,にじさんじ所属のVTuberがフロムソフトウェア作品のRTA実況を行った事例,またニコニコ超会議におけるRTA披露といった事例を挙げながら,RTAを用いたプロモーション企画が実現し始めてると紹介した。
ただ,企業がRTAをプロモーションに利用するには,タイトルとの相性の善し悪しを考慮する必要もある。
相性が良いのは過去作やリメイク,リマスターなど発売からある程度時間が経過した作品で,かつタイムアタックがしやすい,クリアの概念があるものだ。一方,相性が悪いものとしてはシナリオに重きが置かれたタイトルやクリアの概念がないゲーム,アップデートでのルールが変更されかねないオンラインゲームやスマホゲームが挙げられた。
続いては,えぬわた氏がセッションのタイトルにも使用している二つのキーワード「瞬間風速」と「熱量の保温」について,その意図を説明した。
「瞬間風速」とは瞬間的な感情の高まりによってゲームへの興味関心が喚起され,それがタイトルの購入につながる流れを象徴している。そして「熱量の保温」はゲームへの興味関心を維持してもらうことで,次回作や関連作を購入するモチベーションや,ゲームを手放さなくなる効果を意味している。
とくに「熱量の保温」の観点では,RTA動画やRTAのワードはSEOの側面から見ても効果が高い。とくにYouTubeでは,実際のコンテンツ以上にSEOが重要といっても過言ではない時代だという。動画のタイトルに「RTA」のワードを入っているかどうかで動画の再生数が変わることもあるそうで,タイトルやタグのワードチョイスはとくに重要だそうだ。
またRTA走者はゲームのプレイスキルが高く,その技術へのコメントが多く投稿されるため,コメント欄が賑やかで,結果的に高評価を得やすい傾向があるそうだ。
最後にえぬわた氏は,実際に公式配信などでRTA企画を行うときに気をつけるべき注意として,「公式配信時の課題」「RTA文化の課題」の二つを挙げた。
一つめの「公式配信時の課題」は,ゲームのネタバレになってしまうこと,そしてバグが利用される可能性があることで,これが公の目に触れてほしくない場合に問題となる。
二つめの「RTA文化の課題」は,古いゲームにも人気であることで,これは最新ゲームの販促につなげたいメーカーにとっては,デメリットになる可能性があると言及された。またRTAの練習配信は地味で同時接続数も少ない。なのでイベント的な盛り上げが必要になることも,アドバイスとして挙げられた。
えぬわた氏は「RTA走者もメーカーもゲームが大好きなことには変わりがない。上手に歩み寄り,業界の発展に貢献しあえたらいいなと思っています」と語り,また資料提供などで協力してくれた多くの企業に感謝を述べつつ,セッションを締めくくった。
レトロゲームから最新ゲームまで,ハードやジャンル,タイトルを問わず,またゲームの腕前にも関係なく楽しめるエンターテイメントして,RTAは一つのエコシステムを形成しつつある。そしてそれを支えるRTAコミュニティの存在が,今後ゲーム業界に与える影響は決して無視できないものとなるだろう。まだ決して多くはないRTAを使ったプロモーションだが,今後は検討する価値が大いにありそうだ。
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