連載
レトロンバーガー Order 79:Amigaの時代が来ている。「1993 シェナンドー」が発売されたし,「The A500 Mini」も発売目前だし編
(The friendship of one wise man is better than the friendship of a host of fools)
古代ギリシャの哲学者・デモクリトスはこう述べました。英文を直訳すれば「一人の賢者との友情は,多くの愚者との友情よりも優れている」なので,「〜とせよ」との訳文はちょっと語調を強めすぎな気がしますし,英文にしても20世紀初頭の英訳だそうなので原文にどれだけ則したものなのかは分かりかねますが,まあだいたい「仲良くする相手は選ぶべきだよなあベイベー!」という話ですね。
友達や仲間,およびそれらによって構成される環境は重要なものです。「勉強しないで当たり前,努力しなくて当たり前」の環境に慣れ親しんでは“無知の知”すら知ることはありませんし,「盗んで当たり前,壊して当たり前」の環境に慣れ親しんでは,お先真っ暗です。
良い友達と言えば,そう,PCですね。いささか極論ですが「PCがあれば人間の友達は要らない」って,どこかの誰かも言ってました。
富士通が唯一リリースしたMSXマシン・FM-Xのキャッチコピーは「友だちづきあいできるパソコン」,ソニーのMSXマシン・Hit Bitのキャッチコピーは「私より、ちょっと賢い。」でしたので,とくにMSXは“賢い友達”と言えるでしょうし,そんなMSXの系譜を継ぐMSX3が楽しみでなりません。ただ,キャリングハンドル付きのポータブル(?)MSXである日立・H1のキャッチコピー「初恋。」まで行くと,セーラー服の工藤夕貴さん(当時12歳)が決して小さくはないH1を持っているイメージフォトも相まって,妙な笑いがジワジワ込み上げてきます。ご存じない人はGoogleイメージ検索などで探してみましょう。初恋て。
1980年代のアメリカでは,まさに“友達”の名を冠したコンピュータが開発されたり,なんと最近ではそれに向けて開発されていたゲームがリリースされたりもしています。そんなわけで今回は,みんな大好きAmigaと「1993 シェナンドー」(PS4 / Nintendo Switch)でやっていきましょう。
セラミックの月 プラスティックの星
1982年。Atari 2600およびAtari 400/800の開発者・Jay Glenn Miner氏や,同氏に同調する一部スタッフは,Atariの経営陣と対立して離反しました。そうしてカリフォルニアに立ち上げたのがHi-Toroという会社,そこで開発を始めたのが「Lorraine」というコードネームの新たなゲーム機です。後にLorraineの正式名称がAmiga,ゲーム機ではなくPCとしての設計になり,Hi-Toroも社名をAmiga Corporationへと改めます。Amigaというのは,スペイン語やポルトガル語で“友達”を意味する女性名詞です。
ただ,Amigaの開発は難航して,フロリダの歯科医から提供された初期資金が枯渇します。また当時の北米ゲーム市場は,いわゆる“アタリショック”でAtariが大打撃を被ったり,PC市場でAtariのライバルだったCommodore Internationalは社長と株主が衝突していたりと,非常にゴタゴタしていた時代でした。
Amigaのリリースを巡る背景はけっこうややこしく,AtariがAmiga Corporationに出資したり,Commodore InternationalがAmiga Corporationを買収したり,Amigaを巡ってAtariがCommodore Internationalを訴訟したり,Miner氏が今度はCommodoreの経営陣と対立したり。下手にまとめても誤謬を生じかねないのでザックリ言いますと,めっちゃ大変だったようです。
とはいえ,それはユーザにはあまり関係のない話。安価なAtari STシリーズとハイエンド志向のMacintoshシリーズが存在する中,言ってしまえば“中途半端”なAmigaは遅れを取りますが,欧州では逆に「そこそこの価格でそこそこのスペック」がウケたらしく,一定の成功を収めました。とくに欧州で盛んだったコンピュータアートのシーンでは重用され,そこで当時10代だったスウェーデンのKrister Karlsson氏とDouglas Kalberg氏はAmiga PCと出会います。
Karlsson氏とKalberg氏は,The Bitmap Brothersが開発した「Xenon II」や,アイレム(旧)が開発した「R-TYPE」などを踏襲した,「究極のシューティングゲーム」を作ろうと思い至ります。初期の構想は壮大すぎたので,ゲーム自体は普通の横スクロール型シューティングゲームとすることになりましたが,それでもグラフィックスとサウンドは可能な限りリッチにする考えでした。
ただKarlsson氏とKalberg氏はコンピュータアートに親しんでいたもののプログラミングはできなかったので,学校の掲示板で開発メンバーを募集します。4人になったチームはゲームを開発しながら,和気藹々と過ごしたそうです。
しかし開発がスタートして1年半が経った頃,「1993 シェナンドー」の公式サイトでは“teenage drama”と表現されている事態によって,チームの活動は停止を余儀なくされます。Polygonのインタビュー記事によると,恋愛問題――それも同性間の,です。現代はセクシャルマイノリティの社会的な理解もいくらか進みましたし,SNSなどでベストな相手を探すこともできますが,1990年代初頭の10代に解決策を見出すことができなかったのは想像に難くありません。
少年達の開発機だったAmiga 1200と2台のAmiga 500は箱に押し込められ……そして約20年を経て,自宅の改装にあたって地下室の収納物を整理していたKarlsson氏に発見されました。
ゲーム自体は開発中止となった時点でほぼ完成していたそうで,それを現行環境で動作するようにしたのはスウェーデンのゲームデベロッパ・Limit Break。2016年に発売されたPC/Mac版「1993 Space Machine」(原題)のSteamストアページでは,「開発元」欄にLimit Breakと並んでExceedという名前が記されていますが,これはKarlsson氏ら4人がかつて結成していたチームです。
そしてBeep Japanによって,日本語化したPS4 / Nintendo Switch版の「1993 シェナンドー」が3月3日に発売されました(Steam版も日本語が追加されています)。先述したように本作はR-TYPEの影響を受けたゲームですので,それが時を経て日本市場向けにリリースされたことには感慨深いものがあります。「R-TYPE FINAL2」や「R-Type Dimensions EX」をお持ちの方は,ホーム画面やSteamライブラリで並べてみましょう。
PS4/Switch向けシューティングゲーム「1993 シェナンドー」が本日リリースに。Amiga時代に制作の始まった作品が現代に甦る
Beep Japanは本日,PS4/Switch向けシューティングゲーム「1993 シェナンドー」の配信を開始したと発表し,ローンチトレイラーを公開した。Amiga 500向けに1993年の発売を目指して開発が進められていたが,途中で中断し「幻のゲーム」となっていた本作が長い歳月を経てついに発売されたのだ。
ゲーム自体はシンプルな2ボタンのシューティングゲームで,特徴的なのが「敵を倒すと出現するクリスタルを集め,それを使って自機や装備の購入・強化を行い,チャレンジごとに少しずつ先へ進めるようになっていく」というゲームサイクルです。買い物システムなら「ファンタジーゾーン」,自機にショットの種類やサイズの大小があるという点では「ゼビウス ファードラウト伝説」,自機の装備選択システムは「ギンガフォース」と,エッセンス的な類例はいろいろあるものの、まるっきり本作と同様のシステムを採用したタイトルは思い浮かびません。約30年前のゲームですが,それでもユニークで「こういうやり方もあったのか」と感心させられます。
ちょっと敵弾の視認性が悪かったり,当たり判定が大きくてギリギリを攻められなかったり,難度調整を高速弾に頼り過ぎたり,オプションメニューが無かったり,翻訳がけっこう怪しかったり……という欠点はありますが,これを10代のチームが作ったと考えると驚くべきクオリティです(翻訳はパブリッシャの担当ですし)。何も知らない状態で「東亜プランがプロトタイプまで作ってたけどボツになったやつ」と言われてプレイしたら,半分くらいは信じるでしょう。
総評的には,「よく出来ている。しかし,いろんな意味で“惜しい”タイトル」といったところ。面白いながらも,これが1993年に出ていたら,これが他のゲームに揉まれてブラッシュアップされていたら,若いエンジニアがセクシャルな悩みをこじらせることのない世の中だったなら……と思わずにはいられないゲームです。
難度は3段階から選択 |
5つまでゲームパッドやキーボードなどを認識し,最大4人プレイが可能です |
エモーションはフォルテッシモ
ソフトだけではありません。Amiga本体も,この2022年に甦ってきます。1年半ほど前に「Amiga 500の復刻か?」という記事を掲載しましたが,それの正体である「The A500 Mini」が,イギリスでは4月8日に発売されるわけです。価格は114.95ポンドで,ついでに北米では5月31日発売で139.99ドルとなっています。
Amiga 500を模した外観ながら,それだけでなくAmiga 600/1200向けソフトや,Amiga 1200のAdvanced Graphics Architectureにも対応。それでいて付属のゲームパッドはAmiga CD32用ゲームパッドをオマージュしたU字デザインという遊び心。しかも価格は699ドルだったAmiga 500に対して約1/5! と言うか当時の699ドルは2020年の1592ドル相当だそうなので,それで換算すると約1/11! さらに25本のゲームをプリインストール! 収録タイトル一覧は以下の通り。
- Alien Breed 3D
- Alien Breed: Special Edition 92
- Another World
- Arcade Pool
- ATR: All Terrain Racing
- Battle Chess
- Cadaver
- California Games
- Dragon’s Breath
- F-16 Combat Pilot
- Kick Off 2
- Paradroid 90
- Pinball Dreams
- Project-X: Special Edition 93
- Qwak
- Simon the Sorcerer
- Speedball 2: Brutal Deluxe
- Stunt Car Racer
- Super Cars II
- The Chaos Engine
- The Lost Patrol
- The Sentinel
- Titus the Fox
- Worms: The Director’s Cut
- Zool: Ninja Of The ”Nth” Dimension
……うーん,「Another World」や「California Games」はSteamで買っているけど,ほとんどのタイトルに馴染みがない。まだCinemawareのタイトルなら少しは分かるんですが……Amazon Prime Videoで「アンツ・パニック 巨大蟻襲来」を観てみたら,「It Came from the Desert」というゲームが原作とのことで,収録されている「Cinemaware Anthology: 1986-1991」をSteamで買ってみたので……。
ただ「The A500 Mini」は,USBメモリ経由で外部からゲームを追加できるそうです。そうなるとU.S. Goldから発売されたAmiga版「ストリートファイターII」をやってみたいという気持ちが首をもたげてきます。欲を言えば,それを使ってストリートファイターシリーズで活躍するプロゲーマーに対戦してもらいたいですね。
また,The Edgeから発売されたAmiga版「ダライアス」(DARIUS+)の“シルバーホークがプレイヤーに上面見せつけ”っぷりも体感してみたいところ。ただebay等を探しても現物が売られていないので少し残念です。
哲学者でもカサノバでも
さらにKickstarterでは,Bluetoothマウス「Tank Mouse」がキャンペーンを実施中。カラーはホワイト/ブラックの2種類があり,出資コースは単品36ユーロから各15個の899ユーロまで。単品31ユーロのEarly Birdコースもありましたが,筆者が確認した時点でホワイトは既に受付終了,ブラックは残1でした。「今知った」という人には申し訳ないのですが,そのラスイチは筆者が買いました。メンゴメンゴ。
「Tank Mouse」はAmiga用のマウスをオマージュした2ボタンマウスで,ボタン間に配したタッチセンサーでマウスホイール操作にも対応するという優れもの。しかもPCやMacはもちろん,Amiga PC実機でも使えるそうです。うーん,クレイジー。
ビートギャーザ! ビートギャーザ!
そんな感じで,初代機・Amiga 1000の発売から36年を経てもなお,じわじわとした人気があるAmiga。日本ではフジテレビ「ウゴウゴルーガ」のCG制作に用いられたことで知られていますが,これから「The A500 Mini」を買って,「Deluxe Paint」をインストールして「ウゴウゴルーガ」風アートを目指してみるのも面白いかもしれません。
……とかテキトーなことを思いつつ,何となしに「ウゴウゴルーガ」に関して調べてみたら、1993年にリリースされた“荻野目洋子 with ウゴウゴ・ルーガ”の「DE-LUXE」がAmazon Musicで配信されていることを知りました。ビクターさん最高です。即ポチ。
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1993 シェナンドー is published by Beep. Copyright(C)2021 Aurora Punks. All rights reserved.
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