プレイレポート
きっとパズルが好きになる。新感覚のオープンワールド探索型パズルアドベンチャー「Islands of Insight」インプレッション&インタビュー
Islands of Insightは,幻想的な世界に散りばめられた1万以上のパズルを解いていく,オープンワールド形式のパズルアドベンチャーだ。2022年8月のBehaviour Beyondで「Project S」として発表され(関連記事),およそ1年半を経てついに発売のときを迎えた。「Dead by Daylight」でおなじみのBehaviour Interactiveがパブリッシングを担当するゲームということで,その内容が気になっていた人もいるのではないだろうか。
そんな本作のインプレッションと,Lunarch StudiosのCEO兼ディレクターであるElyot Grant氏のメールインタビューをお届けしよう。
「Islands of Insight」公式サイト
どこから遊んでもいい,苦手なら避けてもいい。開放感のあるオープンワールド探索型パズルアドベンチャー
Islands of Insightの舞台となるのは,かつて「暁光族」と呼ばれる種族が作り上げたという不思議な世界だ。プレイヤーは,終焉に向かおうとしている世界を救うために呼び寄せられた探索者「シーカー」となり,使命を果たすために天空に浮かぶ島々を渡り歩くことになる。
オープンワールドらしく,プレイヤーが行ける場所はすみずみまで描写されており,始まりの地である島の外に浮かぶ未踏の島々も美しく描かれている。ある島は緑豊かな自然をたたえ,ある島は砂漠と石の建築物が立ち並ぶなど,島によって異なる文化や背景を感じさせてくれるところも面白い。
そんな島々には,多くの個性豊かなパズルが散りばめられている。パネルを用いた穴埋めパズルやブロックを動かすスライドパズルといったなじみあるものから,オブジェクト同士の位置関係が重要になる3D空間を生かした独創的なものまで,その種類はさまざまだ。提示された目標をクリアするとストーリーが進行し,さらに多くのパズルが開放されていく。パズルの総数はなんと1万以上とのことだ。
また,パズルを解くと経験値が手に入り,「二段ジャンプ」や「チャージジャンプ」といったアクションのアップグレードをアンロックできる。確認できた範囲では敵対するエネミーや落下ダメージは存在せず,そうした新たなアクションを覚えることが,パズルを解くうえで重要な要素の1つとして取り入れられている印象を受けた。
美しい景観を楽しみながら歩き,ふと見つけたパズルを解いていく本作は,誤解を恐れずに言うなら“パズルで遊べるウォーキングシミュレーター”のような感覚で楽しめるのが魅力だろう。
1万以上と膨大な数が用意されているため,ちょっと歩けばパズルにぶつかる。各パズルは美しい風景となじむようなデザインがなされており,そこにあるパズルが不自然に浮いて見えるようなことはない。また,いずれのルールも非常にシンプルかつ直感的に理解できるものばかり,かつ難度もさまざまなものが用意されているので,好きなものから自分のペースで解いていける。
気軽に遊べる要素であり,また個人的にも嬉しかったのが,目に入ったすべてのパズルを解く必要はないということ。経験値は解いたパズルの種類や内容にかかわらず取得でき,プレイした範囲では特定のパズルを解かなければ通行できないといった状況にはならなかった。
たとえば,筆者はパネルを正しく埋める「ロジックグリッド」は得意だが,3D空間を利用した「アーミラリーリング」などのパズルは苦手で,一部のパズルはスルーしていたのだが,それでも問題なくゲームを進められた。とりあえず解きたいパズルを優先し,気が向いたときに苦手に向き合う“ゆるい”スタイルが許容されているのは,パズルがあまり得意でないプレイヤーとしては非常にありがたい。
プレイして好印象だったのが,パズルを好きになる工夫がそこかしこにあること。自分が感じたとおりに,やりたい順にゲームを楽しめるという開放感のおかげで,解けないパズルにぶつかってもストレスを感じにくいのだ。
ステージごとの難度の調整も絶妙で,好きなものから段階的に挑める仕組みとも相性がいい。こういった探索型のパズルゲームには硬派なイメージを持っていたが,本作は「膨大なコンテンツ数」と「自由な探索要素」の2点をもって,それを払拭しているように感じられた。パズル好きはもちろん,苦手で避けてきたという人にこそ,ぜひ本作に触れてみてほしい。
プレイヤーを“ひらめきの瞬間”へと導くために,チャレンジより楽しむパズルを。Elyot Grant氏インタビュー
ここからは,Lunarch StudiosのCEO兼ディレクターとして本作の開発に携わっている,Elyot Grant氏へのインタビューをお届けしよう。すべての疑問点を一気に解消するほどの熱量でゲームについて語ってくれたので,いかにして本作が作られたかが気になる人は要チェックだ。
4Gamer:
Islands of Insightの開発に至ったきっかけを教えてください。
Elyot Grant氏(以下,Elyot氏):
アイデアが生まれたのは10年以上前のことで,私がパズルに興味を持ち始めたころに思いついたものです。ちょうど世界パズル選手権に初めて参加したころで,そこで素晴らしいアイデアが詰め込まれた数々の作品に触れたのです。当時は,日本の「ペンシルパズル」もプレイしていましたよ!
そういった経験から,どうやったらパズルの奥深さをより多くの皆さんにアピール出来るかを何年もかけて考え,オープンワールドアドベンチャーとマルチプレイの要素を取り入れたパズルゲームとして作り始めました。
試作品の制作を始めた2019年に,妻が共同ディレクターとして加わりました。それからさまざなゲーム関連のイベントに出展しつつ,2020年の大半を費やして新しいデモを作りました。この時期はオンラインでイベントが開催されていたので,たくさんのイベントに参加できましたね。そのなかでBehaviour Interactiveと出会いました。
Behaviourにはすぐにデモを気に入っていただけただけではなく,同時に作品のビジョンも理解いただけました。Behaviourのモットーである「ユニークな瞬間を,共に,永遠に」は,まさにIslands of Insightで表現したいことそのものだったので,相性の良さを感じましたね。
4Gamer:
作品世界やパズルはなにから着想を得たのでしょうか。影響を受けた作品などがあれば教えてください。
Elyot氏:
Islands of Insightの世界は,数学,哲学,神経科学,宇宙論,物理学,ファンタジーなどさまざまな分野から着想を得ています。私たちにとって,パズルは美しく感動を与えてくるものであり,それを本作の世界観にも反映しました。
また,パズルが主役として登場するファンタジー作品がこれまであまりないように感じていたので,何よりもまずはパズルに焦点を当てたうえで,親しみやすくするため最先端の技術を駆使した作品を制作しました。
世界観では,「ゼルダの伝説」や「ファイナルファンタジー」のような日本のゲームにはつねに影響を受けています。Islands of Insightの浮遊する島々は「クロノ・トリガー」に登場するジール王国がインスピレーション元となりました。
4Gamer:
本作には膨大な数のパズルが収録されていますが,これらはどのようにして作っているのですか。
Elyot氏:
私たちがパズルを考案する際には,2段階のプロセスを経ることになります。まず,何かを紐解く際に起こる“ひらめきの瞬間”を見つけ出すこと,そしてプレイヤーを満足のいく形でその瞬間に導くことです。その後,多様性と創造性を最大限に意識しながら,最適なパズルをデザインします。
Islands of Insightでは,パズルを解き進めていくうちに,秘密のテーマやパターン,巧妙な仕掛けに気づいていただけると思います。良いパズルとは,制作者と解き手による高度なコミュニケーションを実現したものであり,解き手に喜びを与えられるものです。
本作のパズルは多くのパズルデザイナーが手掛けているのですが,ぜひプレイを通じてパズルの制作者とのつながりを感じてほしいです。
4Gamer:
アクション要素があることで,より幅広い発想のパズルを生み出しているように感じました。これを取り入れた理由を教えてください。
Elyot氏:
アクション要素を取り入れることで,ゲームプレイの幅が広がり,適度なペース配分を作り出せると考えました。高難度のパズルを解き明かすのに疲れたら,光り輝くオーブを追いかけてみたり,隠れたオブジェを探しに出かけたり,迷路を駆け抜けるなどして気分転換をしていただこうと。ちょっと違った部分の脳を使うと,エネルギー補充ができますよね?
多くのアクションアドベンチャーゲームやRPGにとっての成功の鍵は,ゲーム内でのアクティビティが多様で,やりたいことを自由に選べることだと思います。パズルゲームというジャンルでも,それと同じことが言えると考えました。パズルを解くだけではなく,発見,思考,計画,戦略が必要なアクションチャレンジも用意していますが,それらからもパズルデザイナーによるちょっとした遊び心を感じていただけるでしょう。
4Gamer:
探索とパズルを融合させた作品として「The Witness」や「Myst」に近い印象を受けましたが,同時に言語による説明やアクション要素といった違いも感じました。先行作品に対する印象や,そこから意図的に変えた部分などがあれば教えてください。
Elyot氏:
そのような名作と比較していただき,とても嬉しいです。Islands of Insightの特徴は,奥深さ,テンポの良さ,規模の大きさにあります。高難度パズルを置くことに躊躇はありませんが,プレイヤーがパズルの仕組みやアイデアを理解しやすいように,とても穏やかに設計された導入部分と,手助けとなる要素もたくさん用意しています。
そうした仕組みが,パズルを一度解いて終わりにするのではなく,プレイヤーには同じ種類のパズルに愛着を持っていただき,何度も挑戦できる,奥深さにつながると考えています。上達していく過程でパズルの仕組みをより深く理解し,デザイナーが無限のアイデアを描くことのできるキャンバスであることを感じていただければ嬉しいですね。
4Gamer:
単に難度が上がるだけでなく,同じ場所でも難度に波があるように設計されているように感じました。こうした配置は意図的に行われているのですか。
Elyot氏:
マップ内のパズル配置はテンポ良くゲームが進められるように工夫されており,難度が高めなパズルに加え,バランスを取るためにシンプルなパズルも多く設置しています。そのため,プレイヤーは自分の好きな強度のレベルを選びながら旅を進められます。熱狂的なパズルファンであれば高難度パズルに直行しても良いですし,カジュアルに楽しみたいという方はご自身の好きなタイプのパズルを選び,無理なく解き進めれば大丈夫です。
難しいチャレンジが延々と続いていくパズルゲームも多々ありますが,そうするとパズル好きというよりもチャレンジ好きな人向けのものになってしまうので,Islands of Insightではパズルが好きな人たちに広く楽しんでもらえるよう設計しています。
規模感もパズルゲームとしては最大級で,5つのユニークな世界に26名のパズルデザイナーたちによって編み出された1万点以上のパズルが散りばめられています。オープンワールドのパズルにはデイリーリスポーンタイマーというシステムがあり,マップ内に登場するパズルには出現する期間が設けられているので,毎日異なるパズルに挑戦していただけます。
4Gamer:
パズルゲームはシングルプレイ形式が一般的ですが,オンライン要素を取り入れた理由を教えてください。
Elyot氏:
オンライン要素は,本作をよりユニークなものにしてくれたと思っています。プレイヤー同士がシームレスに交流でき,ちょっとしたことをアドバイスし合えるのがシェアードワールドの良さです。
オプションにあるショートメッセージやマーカー機能を使ってほかのプレイヤーと関わりをもってみたり,感情を表したいときには絵文字を送ってみたりとコミュニケーションが可能です。コミュニティドリブンなゲーム体験を実現できれば,プレイいただく皆さんにある種の「つながり」を実感していただけます。ゲームは誰かと一緒に楽しむのが好き,という方は多いと思うので,インタラクションがある方がより一層楽しめるのではと考えました。
4Gamer:
作品の世界は「シェアードワールド」として説明されていますが,何かしらリンクする作品や世界などが存在するのでしょうか。
Elyot氏:
本作におけるシェアードワールドという用語は,単純に“オンラインゲームの世界”に近い意味合いで使用しています。英語圏では,複数のプレイヤーが同じ世界の中で一緒に冒険していく世界そのものや,オンライン要素のあるサバイバルゲームやクラフトゲームなどを指すことが多いんです。本作ではパズルの謎解きにこの要素をうまく取り入れました。
4Gamer:
具体的にどういったスタイルでの遊び方を想定していますか。
Elyot氏:
ショートメッセージやグループのメンバーとの連携など,ほかプレイヤーにヒントをもらいながら解けるパズルもあります。ただ,最終的にはIslands of Insightでの旅はご自身だけのものなので,協力プレイを強制されることはありません。他者からの影響で,自身の旅の進行状況やゲームの楽しみ方が変わることはないので,安心して楽しんでください!
パズルのなかには高難度のものもあるので,ゲームの外で答えを探すより,ほかのプレイヤーと協力した方が楽しめるものもありますが,もちろんご自身の力だけでクリアしていくこともできるのです。
4Gamer:
このインタビューを読んでいる日本のゲームファンにメッセージをお願いします。
Elyot氏:
私は日本のパズル文化に非常に大きな影響を受けてきました。パズル作家の芦ヶ原伸之さんや「数独」の父である鍜治真起さんといった日本の伝説的なパズルクリエイターをはじめ,ニコリ,HANAYAMAなどの制作会社,からくり箱などの各種作品と,それはほんとうに数えきれないほどあります。
マッチ3パズルをやりこんでいた際は「パネルでポン」を全ステージ制覇しましたし,スピード対決のパズルについては「ペーパーマリオ オリガミキング」に刺激を受けたのを覚えています。スーパーファミコンでプレイした「ピクロス」では,コントローラを使用したクロスワードパズルのプレイ方法を学びましたね。
日本のインディーパズルクリエイターの皆さん,そして私のお気に入りのパズル本「トケタ?」(外部リンク)に関わっていらっしゃる制作者の皆さんを心から尊敬しています!
日本のゲームファンの皆さんには,たくさんの日本のパズルゲームにインスパイアを受けたIslands of Insightもぜひ楽しんでほしいです。
「Islands of Insight」公式サイト
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