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4K×3画面も楽勝なノートPC向けGeForce RTX 40の性能が明らかに。GeForce NOWはローカルPCよりも低遅延に?
そしてCES 2023の期間中にNVIDIAは,会場の周辺ホテルで,オンラインイベントで発表したGeForce関連のデモ展示を披露していたので,その様子をレポートしたい。加えて,オンラインイベントのレポートではフォローできなかった新情報もいくつか入手してきたので,そのあたりもお届けしたい。
GeForce Nowが劇的に進化。実機よりも低遅延に?
会場では,実際にRTX 4080化したGeForce Nowにおいて「Cyberpunk 2077」を,レイトレーシング有効化した状態でも4K/120fpsでプレイできる様子を展示していた。もちろんDLSS 3も有効化しての話ではあるが,クラウドゲーム環境でCyberpunk 2077が4K/120fpsでプレイできるのはすごいことだ。
Ultimate membershipのGeForce Now仮想マシンで新たにサポートされた「32:9」や「21:9」といったウルトラワイドアスペクトの表示モードも体験できた。クラウドゲームが,まさか超横長のウルトラワイドディスプレイに対応するとは思わなかった。これはちょっとしたホットトピックではないか。
続いて体験したのは,Ultimate membershipのGeForce Now仮想マシンで新たにサポートされる「Reflex 240Hz」(以下,Reflex 240Hzモード)だ。
初めにReflex 240Hzモードがどのような技術なのかを,説明する必要があるだろう。
「240Hz」とあることから想像が付くように,Ultimate membershipのGeForce Nowでは,ゲーム映像を240Hzで伝送できるようになる。そして「Reflex」のキーワードがあることからも分かるように,Reflex 240Hzモードでは,NVIDIAの遅延低減技術「NVIDIA Reflex」に対応したゲームが,GeForce Nowで動作できるようになったことも示しているのだ。
一般的なゲームでは,プレイヤーの操作(キーボードやゲームパッド入力など)を検知すると,これをもとに衝突判定やシミュレーション,モーションなどの処理をして,ゲーム世界を更新する。その結果から,グラフィックスで描くべき要素を確定して,描画コマンドの生成を行う。これがGPUに送られて映像を描画したうえで,その結果をディスプレイに表示すわけだ。この繰り返しは「ゲームループ」と呼ばれる。
近代的なゲームプログラムでは,これらの処理は並列化されており,GPUの描画が終わっていないのに,次のフレームを描くためのゲームループが回ってきてしまうことがあり得る。Reflexとは,ゲームループ処理系のうち,最初の操作から最後の映像表示までに要する時間を計測したうえで,このサイクル中で,描画や表示がされていないバックオーダー的な描画をキャンセルして,直近の操作を反映した映像を最短で表示することで,プレイヤーの操作から画面表示までの総遅延を短縮することを狙ったものだ。
なお,ReflexはNVIDIA製GPUの内部タイマー機能を活用するので,「NVIDIA Reflex SDK」で対応する処理を組み込んだゲームでしか利用できない。
今回NVIDIAは,GeForce Now上でReflex対応ゲームを動作させたときに,正しく動作できるようにGeForce Nowの処理系をチューニングしたのだ。
具体的には,クラウドゲームでは,ゲームループのうち操作と描画済み映像の表示がネットワーク越しに行われることに着目して,ゲームループにおける操作と映像表示までの計測時間にネットワーク遅延を加えて,Reflexを動作させるのだ。
Reflex 240Hzモードで面白い点は,ゲーム側がReflexに対応していなくても,ユーザー側のネットワーク環境が十分に高速でディスプレイがリフレッシュレート240Hzに対応していれば,低遅延化の恩恵をそれなりに受けられる点にある。CPUとGPUが十分に高性能な場合――Ultimate membershipのGeForce Now仮想マシンはまさにそれだ――,ハイフレームレートで映像を出力できていれば,60Hz表示でプレイするよりも,相対的にゲームプレイのシステム遅延が短縮できるためだ。
またReflex 240Hzモードでは,60HzのゲームをGeForce Nowから240Hz出力できる。この場合も,描画完了した映像を60Hzよりも速い240Hzのサイクルでネット伝送できるので,60Hzサイクルでゲームループを動かしているときよりも遅延が短くなる。このあたりの理屈について興味のある人は,筆者の別記事を参照してほしい。
デモ担当者によると,同じ理屈でユーザー側のディスプレイがリフレッシュレート60Hz止まりでも,GeForce Now側のゲームループが240Hz相当で回っていれば,この一連の低遅延化の恩恵は受けられるとのことだ。
簡潔にまとめると,Reflex 240Hzモードは,
- ゲームがReflexに対応していて,なおかつユーザーが240Hzのディスプレイを利用していれば,最高の体験が得られる
- いずれの条件も満たしていない場合も,このモードでゲームを動かすと,相対的には低遅延化の恩恵が得られる
ということになる。
次のスライドは,NVIDIA発表のデータになるが,「Rainbow Six Siege」を各条件下でプレイしたときの遅延計測結果だ。GeForce NowにおけるReflex 240Hzモードの遅延は,Xbox Series Xにおける120fps時の約半分なのが興味深い。フレームレートが違うので対等な性能ではないが,実機でのゲームプレイよりも,クラウドゲームのほうが低遅延というのは非常に興味深い。
GeForce NOWのコーナーでは,「APEX Legends」を用いて,実機PCによるReflex有効化&240Hz環境,GeForce NOWの基本Membership,そしてGeForce NowのReflex 240Hzモードという3種類でプレイして,遅延の違いを体験できた。
筆者も体験してみたが,基本Membershipでのプレイは遅延が大きく,「いかにもクラウドゲーム」という感じだったが,240Hz表示のPCと,Reflex 240Hzモードは,体感できる遅延の差はかなり小さかった。おそらく,多くの人は,Reflex 240Hzモードをプレイしても,クラウドゲームであることを認識できないのでないだろうか。とくに,「クラウドゲームが遅延まみれ」という固定観念が強ければ強いほど,実際のプレイ感覚が信じられないかもしれない。かくいう筆者もその1人。それくらいの低遅延感は実現できていた。大したものである。
GeForce RTX 4070 Tiカード製品の展示と実動デモ
突然の発売中止から,名称変更を経て発売されたいわく付き(?)の「GeForce RTX 4070 Ti」(以下,RTX 4070 Ti)搭載カードも展示されていた。どのメーカーの製品も3ファン構成であり,けっこう大きいことに少し驚く。
ちなみに,すべてグラフィックスカード各社の製品で,NVIDIA製のリファレンスカードは予定がないそうだ。
RTX 4070 Tiは,「高性能のわりに消費電力が小さい」という触れ込みで,その公称TGP(Total Graphics Power,カード全体の最大消費電力)は285Wである。このクラスであれば,「電源供給コネクタはPCI Express補助電源コネクタの8ピン×2構成でも事足りるのでは?」と,担当者に質問してみたが「とてもいい質問だ! しかしNVIDIAは,この16ピンコネクタを推進しているんだ」という回答であった。
たしかに,会場に展示されていたRTX 4070 Tiカードのすべてが,12VHPWRコネクタとなっていたので,NVIDIAからの設計指針がそうなっているのであろう。
実際に展示されていたRTX 4070 Tiデモ機の平均フレームレートは,RTX 3090 Tiデモ機の1.5倍にもかかわらず,消費電力は3分の2に留まっている。RTX 4070 Tiの消費電力当たり性能は,相応に優秀なようである。
ノートPC版GeForce RTX 40シリーズの全貌
NVIDIAの発表における本命であるノートPC向けGeForce RTX 40シリーズは,米国では2月には搭載製品の発売が始まるということで,展示コーナーで披露していたほぼすべての製品が,すでに発売間近の状態にあった。
会場では,発表では明かされなかったノートPC向けRTX 40シリーズの最終仕様を教えてもらえたので,これをもとに,筆者が計算した32bit浮動小数点(FP32)演算時の理論性能値を加えたスペック表を示そう。
こうして見てみると,最下位モデルの「GeForce RTX 4050 Laptop GPU」(※以下 RTX 4050,Laptop GPUは省略)ですら,PlayStation 5を凌駕する12 TFLOPSの性能を有するのは立派だ。ミドルハイクラスの「GeForce RTX 4070」は,20 TFLOPSに達するので,解像度1920×1080ドットに限定すれば,レイトレーシング対応ゲームでも,かなり良好なフレームレートでプレイできると考えられる。逆に「GeForce RTX 4060」の15 TFLOPSは,RTX 4050との性能差が小さいので旨味は薄いかもしれない。
34 TFLOPSの「GeForce RTX 4080」や,40 TFLOPSの「GeForce RTX 4090」になると,もはや一昔前のグラフィックスワークステーション並といえ,性能面では文句の付けようがない。一方,発熱量や冷却ファンノイズの大小が製品選びのキーポイントとなるかもしれない。
展示をひととおり見た感じでは,ノートPC版GeForce RTX 40シリーズのアピールポイントは「先代比で圧倒的に消費電力が小さくなった」ことと,「妥協なしにデスクトップPC向けGPU並みの性能」の2点にあるようだ。
ある展示コーナーでは,「GeForce RTX 3080」(DLSS 2オン)とRTX 4080(DLSS 3オン)とでレイトレーシング有効のCyberpunk 2077で同一シーン実行して,フレームレートと消費電力のリアルタイム計測を披露していた。次の写真がその様子だ。
RTX 3080では66fpsで143.5Wを消費しているのに対して,RTX 4080では73fpsでも47.7Wしか消費していない。先代比で圧倒的に省電力というNVIDIAのアピールを証明しているわけだ。もっとも,このデモも異なるバージョンのDLSSを適用しているので,まったく同一条件での比較ではないが,実際のプレイでも,こうした体験が得られるというデモとしては意味がある。
なお,デモ担当者によれば「GeForce RTX 30世代の同一消費電力を許容すれば,GeForce RTX 40シリーズのフレームレートはさらに向上させられる」とのことだった。
そのうちの1台は,ASUSの14インチ級ノートPCである「ROG Zephyrus G14」2023年モデル(関連記事)で,4K解像度の大画面テレビと接続した状態でデモを披露している。
デモ担当者によると,「ノートPC向けGeForce RTX 4090では,ほとんどのゲームタイトルを4K/60fpsでプレイできる。ただ,14インチの画面サイズは,シネマティックなゲームを堪能するには,ちょっと小さすぎる。しかし,このようにHDMI経由で大画面テレビにつなげば,何の問題もない。こんな美しいゲーム画面を14インチのノートPCが出力しているなんてすごいと思わないか」と,興奮気味に話していた。筆者も予算があればこんな高性能な14型ノートPCが欲しいところである。
こちらは,なんと4K/60Hzの32インチディスプレイ3台をBlade 16に接続して,サラウンド画面でのゲームプレイをノートPC 1台で実現させるという,見どころのあるデモであった。
プレイできたのは「Assetto Corsa Competizione」で,Logitech製のステアリングホイール「PRO Racing Wheel」と,Next Level Racing製のコクピット筐体「Next Level Racing GTtrack」を使用していた。
筆者がプレイしている様子を以下の動画で示すが,何の不自然さもなく3画面でのレーシング体験が楽しめた。この環境をノートPC 1台で実現しているとは,にわかには信じられないことだろう。
これら2台のゲーマー向け体験デモで使われていたRTX 4090ノートPCは,かなりGPUを酷使していたため,冷却ファンの音はそれなりに大きかった。発熱に関しても,2台とも筐体のディスプレイに近い部分,ファンクションキーの上あたりから奥にかけてはかなり熱く,長時間触り続けるのは厳しいほどであった。とはいえ,常用時に指が触れるキーボード面やパームレスト部は生暖かい程度で,触れないほどの熱さはなかった。PCの使い勝手を悪化させないための放熱設計に,多くの工夫が盛り込まれているのだろう。
これ以外にもブースには,さまざまなノートPC向けGeForce RTX 40シリーズ搭載ノートPCが展示されていたので,一部の写真で紹介しておこう。
Acerの「Predator Helios 16」(RTX 4080) |
HPの「OMEN 17」(RTX 4090) |
ASUSの「Zenbook Pro 14 OLED」(RTX 4070) |
GIGABYTEの「AERO 16 OLED」(RTX 4070) |
動画勢が待ち望んでいたAV1エンコード機能がノートPCでも
オンラインイベントでも述べていたが,NVIDIAは,ノートPC向けGeForce RTX 40シリーズをゲームファンだけでなく,クリエイター向けにも訴求していこうとしている。NVIDIAの展示では,そうしたクリエイター向け製品やデモを披露するコーナーもあったので,ゲーマーも気になりそうな話題を紹介しておこう。
ひとつは,GeForce RTX 40シリーズのデュアルビデオプロセッサ(NVENC,NVDEC)についてのデモだ。
このデモは,Razerのゲーマー向けノートPC「Razer Blade 18」を使って,同一の動画をAV1コーデックへトランスコードするときに,RTX 4090のビデオプロセッサをシングルモードで使用したときと,デュアルモードで使用したときの処理時間を比較できるというもの。
結果は,シングルでは1分59秒だったのに対し,デュアルではこれが55秒に短縮された。これは大きな成果だ。
なおAV1とは,H.265よりも圧縮効率が良いとされるコーデックで,ライセンスフリーという利点もあって,YouTubeを初めとした大手動画配信サービスも積極的に採用を進めているところだ。ただ,デコード時はそうでもないが,エンコード時の演算負荷が非常に高いため,ハードウェアエンコーダの登場が待ち望まれていた背景がある。
AV1コーデックがらみでは,もうひとつ,興味深いデモがあった。それは,8Mbps上限で4K/60fpsのゲーム映像を,GeForce RTX 40シリーズのビデオプロセッサを使ってリアルタイムエンコードしたら,画質はどのように変化するかというものだ。
8Mbpsは,フルHD/60fps映像に適当な程度のビットレートなので,4K/60fpsには力不足なのは明白だ。実際,H.264の8Mbpsでは,視点の動きが激しい場面では,モザイク画のようなブロックノイズまみれの映像となってしまい,目も当てられない品質となっていた。それがAV1の8Mbpsになると,ややフォーカスが甘くなる程度で,映像全体の見栄えはかなり良好であった。
また,視点の動きがない静止状態に近い映像では,AV1/8MbpsはH.264/8Mbpsよりも格段に解像感が高いことにも気付いた。AV1コーデックは,「さすが業界に広く採用が進むだけはあるぜ……」といったところか。
DLSS相当機能をYouTube動画に適用できる「RTX Video Super Resolution」。RTX 20シリーズも追って対応
CES 2023では,NVIDIAは,Webブラウザ内で再生した動画に対して,DLSS的な超解像処理を適用する技術「RTX Video Super Resolution」を発表した。展示会場では,その効果を確認できるデモ機も展示されていたのだ。
次の写真を見てほしい。画面左上にある壁の模様が,茶色い紅葉のようなブロックノイズになっているのが見てとれよう。
ここで,RTX Video Super Resolutionを適用するとあら不思議。モザイク画のように見えていたブロックノイズが,淡いグラデーション表現へと変貌した。
デモ担当者によると,「低ビットレートなMPEG映像の輪郭付近に目立つモスキートノイズなども低減できる」とのこと。RTX Video Super Resolutionは超解像処理機能である以上に,MPEG映像に対するデノイザ(ノイズ除去機能)の効果も大きそうで面白い。
もうひとつ,効果の分かりやすいシーンを写真で示しておこう。
RTX Video Super Resolutionは,Webブラウザの「Google Chrome」と「Microsoft Edge」上で再生したあらゆる動画に対して,リアルタイムにオン/オフができるようになる。今後は,この機能がGeForce RTXにおける大きな魅力となるかもしれない。
話は変わるが,デモ担当者が興味深い発言を2つほどしていたので記しておこう。
ひとつは,先日の発表段階では,RTX Video Super ResolutionはGeForce RTX 40シリーズとRTX 30シリーズ向けに提供するとなっていたが,GeForce RTX 20シリーズへの提供も準備が進められているそうだ。まだ相当数存在するGeForce RTX 20シリーズのユーザーには朗報だろう。
もうひとつの朗報は,動画再生ソフトに関する話題だ。今のところRTX Video Super Resolutionが適用できるのは,WebブラウザのGoogle ChromeとMicrosoft Edgeに限定されているが,NVIDIAは,RTX Video Super ResolutionのSDKを著名な動画再生ソフトの開発元に提供しているとのこと。つまり,DVDやBlu-rayなどの映像ソフト再生にも,この機能を適用できるようになるかもしれないわけだ。
ちなみにNVIDIAは,「VLC Media Player」や「FFMpeg」などのフリーソフト開発者にもアプローチをしているそうで,今後のRTX Video Super Resolutionの展開には要注目である。
NVIDIAのCES 2023特別講演Webページ
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