企画記事
「アーマード・コア」の何にそんなに熱狂したのか。10年ぶりの最新作発売前に初期3部作で振り返る
筆者を含めた長年のファンたちは「ACの新作は欲しいけれど,可能性は低いかもなあ」「ACの続編が出るなら,そのハードごと買うよ」などと夢を語り合うのが常だった。
しかし,昔はさまざまなメカゲームを作っていたフロム・ソフトウェアは,今や「DARK SOULS」や「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」「ELDEN RING」などで大ヒットを連発している,高難度アクションを得意とする世界的なメーカーだ。近年,同社に求められているタイトルを考えれば,もうACの新作は難しいのではないか。その開発ラインがあるのなら,新たなアクションを作るのではないか。きっと,この餓えが満たされることはもうない……などと,後ろ向きの覚悟をしていたのは,筆者だけではないだろう。
そんな最中に,噂一つない状態から,AC6のサプライズ発表である。筆者自身,4Gamerの「アーマード・コアの新作が本当に来た!」という見出しを読んでも誤報の類だと思ったし,続編が出るなんて今もまだ信じられない。
……とはいえ,冷静に考えれば,この新作に熱狂している人は,相当年季の入った歴戦のプレイヤーが多いのではないだろうか。なにせ前作から10年経っているうえに,そもそもシリーズタイトルが多く発売されたのはPlayStation,PlayStation 2時代。当時から遊んでいて強い思い入れがあるという人は,どう考えてもアラフォー以上だろう。となると,今の若いゲーマーにとっては,「ACのネタはネットで見ているけど,触ったことのない昔のゲーム」になってしまうのではないか。せっかく新作が出るのに!
そこで今回は,そもそもACシリーズは何が楽しくて,我々は何に魅了されたのかを,AC6発売前に改めて振り返りたいと思う。本稿では,今でもPlayStation 3のゲームアーカイブスでダウンロード購入が可能な,PlayStationの初期3部作を中心に扱っている。
自分だけのメカを組み上げる喜び
ACシリーズがどのようなゲームかを端的に述べてしまうと,概ね,巨大企業が支配する未来世界で「レイヴン」や「リンクス」(タイトルによって異なる)と呼ばれる傭兵となり,自らパーツを選んでアセンブル(構築)した人型兵器に乗って戦うメカアクションである。
メカ好きの心をここまで掴んだ理由は,間違いなくアセンブルだ。さまざまなミッションに挑むにあたり,自分だけのメカを組み上げ,さまざまな武装を搭載して出撃する。そうしていくうちに,愛機に愛着が湧くし,対戦などもアツくなれる。そもそも,オリジナルメカを作るという遊びが,それだけでもう楽しい。
メカモノの発展を改めて振り返ると,重要なポイントの1つに「登場する機体のバラエティを増すこと」があるのではないだろうか。思えばメカを題材にしたゲームは,1980年代からカスタマイズ要素を追及してきた。合体メカの左右の手にどの武器を装備させられるかを選べる「ファイナライザー」(1985)。「胴」「腕」「脚」のパーツを自由に組み替えてオリジナルのメカを作れる「ウルフファング」(1991)。メカの「アーム」「レッグ」「サブウェポン」を敵から奪って自機を組み替える「パワード ギア」(1994)。「胴体」「右腕」「左腕」「脚部」を組み替えて様々な機体を構築する「フロントミッション」(1995)。ソフトに付属するフィギュアの「上半身」「下半身」「右手」「左手」を組み替えると,ゲーム内でオリジナル機体が誕生する「ゼクシード」(1996)……などなど,AC誕生以前の時代に限っても,組み替えやカスタマイズの遊びを取り入れたタイトルは少なくない。
そして1997年に登場したのが,初代ACである「ARMORED CORE」だ。本作では「頭部」「コア」「腕部」「脚部」「ジェネレータ」「ブースタ」「FCS」「オプション」「右手武装」「左手武装」「右肩装備」「左肩装備」といった多数のパーツを組み合わせたうえで,塗装を施し名前を付けることにより,自分だけの機体を作り出せる。
武装や基本フレームのパーツのカテゴリが多いだけでなく,ジェネレータやFCSといった内部パーツまでもカスタマイズ可能で,多彩な個性を表現できるのが,大きな魅力だった。ここまでできるからこそ,ACの「オリジナルメカを作る」魅力は,強烈に輝いていたのだ。
100円を入れて戦うアーケードゲームと違って,ACは家庭用ゲームであるので,組み立てたメカが多少欠点のあるものであっても,長期的に付き合っていけるのも魅力だった。
筆者などは,自分の機体には困らされれば困らされるほど嬉しい。動きが遅い,装弾数が少ない,被弾面積が広いなど,ネタはなんだっていい。そこにリアリティを感じ,作品世界により深く没入できるからだ。
現実世界においても,車やバイク,カメラにスマホといった機械が持つクセに困らされる機会は意外に多い。そして,いつの間にかそのクセを愛するようになっており,機種変更の後に物足りなく感じた,なんてことも起こる。クセのある機械と付き合い続けるのは,個性を尊重することでもある。個性を尊重できるのは,愛があるからなのだ。
「人型戦闘メカ」なんてものは,2023年現在でも空想の中にしか存在しない,いわば嘘っぱちである。だが,嘘っぱちだからこそ魂を惹かれるし,その世界に自分が暮らす妄想をしたくなる。「人型戦闘メカに困らされる自分」なんてディテールを加えられるなら,妄想はより深く豊かになっていくのだ。そして,ACはそれを叶えてくれた。組み替え方によっては,欠点のある機体もできてくる。なので,筆者にとっての初代ACは,存分に困ることができる良いメカゲーだった。ミッションに行き詰まってアセンブルとテストを繰り返しつつ,自分がレイヴンになった妄想を存分に楽しめたのだ。
当時はネットもそこまで発達していなかったので,ほかのレイヴンの愛機を見るには同人誌を手に入れたり,AC好きが対戦をする集まりに赴かなければならなかった。AC好きの集まりといっても,強さを追求するものから,同好の士の社交場的な色が強い場までさまざまだったが,筆者がお邪魔するのは後者であった。筆者は弱く,対戦でも勝ち星を献上する側だ。だから,ACのディープで熱い対戦の側面については軽々しく語ることができないのだが。そんな筆者であっても,AC好きの集まりは楽しかった。自分がミッションでうまく使えなかった四脚で巧みに戦う人がいた。自分と同じゲームをプレイしているとは思えないほどに軽やかに舞う人がいた。弾切れが怖くて弾数の多い武器を選びがちな自分とは違い,一撃に賭ける人がいた。自分に絵心はないが,格好いいエンブレムやカラーリングを追及する人がいた。そこには個性の発露と愛があり,自分と考え方が違う相手だからこそ,機体を見るのが楽しかった。
ACの世界は,優れた腕前を持つゲーマーでなくとも楽しむことができる,懐の深いもののはずだ。ネットとSNSの発達により,あの頃とは世界のありようも変わっているが,AC6発売を期に,お互いの個性を楽しむ世界がまた盛り上がることを期待したい。
「フロムゲー」は1997年からフロムゲーだった
今は「フロムゲー」というスラングがある。甘えを許さない高難度だったり,世界観は練り込まれているが言葉少なだったりといった特徴を指すことが多い。今回が,改めて初代「ARMORED CORE」「ARMORED CORE PROJECT PHANTASMA」「ARMORED CORE MASTER OF ARENA」の初期3部作を見返してみたが,今のフロム・ソフトウェアらしいエッセンスが,1997年の時点で濃厚に漂っていたように感じられた。
「レイヴンを目指す者に対し,我々は唯一の試験を行わせてもらう。与えられた機体で戦闘を行い,生き残る事。その瞬間から君はレイヴンとなる」
ゲームを開始し,初めて見るセリフがこれだ。そして,プレイヤーは操作も理解していないままに性能低めな初期機体に押し込まれ,逃げ場のないフィールドに放り出され,銃弾を雨あられと浴びせかけられる。必死に機体を動かして攻撃から逃れ,無様にあがいて生き残るという体験を通し,本作のハードな世界観を骨の髄までたたき込まれ,プレイヤーからレイヴンとなる。
「…なるほど,それなりの力はあるようだ。認めよう,君の力を。今この瞬間から君はレイヴンだ」
言葉を削りに削ったうえで世界観を表現するセンスには,もう脱帽するほかない。先のセリフにしても,わずか65文字と43文字に過ぎないが,荒涼たる世界とそこに生きる人の矜恃が伝わってくるではないか。今回久しぶりにダウンロード版を遊んでみて,近年のフロム・ソフトウェアのイメージが強く根付いている筆者であっても「完全にフロムだわ」と思うしかなかった。
ゲーム本編でも,ハードボイルドな世界観と贅肉のないテキストを楽しめる。レイヴンたちの組織「レイヴンズ・ネスト」でプレイヤーを担当する「R」を始めとした人々との交流は,eメールやACの無線を通した間接的なもの。こう書くと無機的な世界のようだが,そこにはAC世界の広がりと,人間たちの息づかいが感じられる。
特に印象深いのが,レイヴンたちの「ランキング」である。世界にはプレイヤーのほかに無数のレイヴンたちがいて,それぞれの機体でさまざまな任務に挑んでいる。彼らを格付けしたのがランキングで,彼らの機体と寸評を確認できるのだが,まあ実にさまざまなレイヴンが並んでいる。大暴れはするが任務の成功率は低い者,近接戦闘を得意とするネットチェスのチャンピオン,普段は紳士的だが任務中は冷酷な行動を取る者,困難な任務を完璧に成功させるナンバー1レイヴンなど,いずれもキャラが立ちまくっている。最初は仰ぎ見るだけだったランキングだが,腕前が上がると自分が割って入れるのだからたまらないものがある。自分についた「逸材」とか「有望株」といった寸評にニヤニヤした人も多いのではないだろうか。
そして,ハードボイルドなAC世界では主人公といえどもあっさり裏切られる。「要人が乗った飛行機を命がけで守っていたら,実はこれがオトリ。本物の要人が脱出した後はオトリが自爆し,下手をすると巻き込まれる」「ほかのレイヴンが遂行不可能なミッションに困っていたので助けたら,実は自分を殺すための罠だった」なんてことが当たり前に起こる。プレイを続けるうちに,どんどん猜疑心が深くなっていく自分に気づくのだ。
ミッションも「やっぱりこの頃からフロムだわ」と思える要素が多々ある。あるミッションでは小型の作業機械ばかりがいる発電施設に送り込まれる。「こんな小さいけど何をしてくるか分からねえ,やられる前に皆殺しだ!」とデカイ武器をぶっ放すと,周囲の発電機を壊してしまい,爆発に巻き込まれて任務失敗となる。憤慨しつつもよくよくミッション概要を読むと,発電機が壊れることも,作業機械には攻撃性能がないこともちゃんと書いてある。読み飛ばすようなうっかり者は失敗して当然,死ねるがフェアであるというわけだ。
ある遺跡では,床が壊れて奈落の底へ落とされてしまう。配された足場も小さく,元のコースに戻るには結構苦労させられる。しかし,ここで慌てて脱出してはならない。穴の底には最強のブレード「LS-99-MOONLIGHT」が置かれているからだ。なんとか狭い足場を飛び渡り,穴を脱出できたと思ったらその先で死ぬようなこともあり,深い絶望を味わう。当時は「もうこのゲーム諦めるか……」なんて思いつつ,翌日プレイしたらすんなりと脱出できたりもした。こちらも現在のフロムゲーに通じる感覚だ。
本作の厳しい世界観を象徴するのが,「弾薬精算」と「機体修理」の概念である。ミッションで弾薬は撃ち尽くし,機体もボロボロにされながらなんとか帰還した。あとは報酬をもらってめでたしとなるはずが,弾薬費と修理費をさっ引かれ,手元には雀の涙ほどの金額しか残らずに愕然とする。誰もが一度は通る傭兵の洗礼だ。
どこの企業にも属さない一匹狼が人型兵器でドンパチやるのだから,弾薬や修理もタダじゃない。ミッションを失敗した場合は,報酬がないのでそのまま赤字である。慣れてくると「経費はこれくらいだから,手元に残るのは報酬の半額くらいかな……」なんてミッション中に計算するようになったり,弾薬費節約のためにエネルギー系武器を好んで使ったりするようになる。
赤字を繰り返して負債を抱えた状態になっても,出撃自体はできる。ただし,あまりに負債が増えると,見込み無しと判断されたのか,強化人間手術の実験体とされてしまうなんてタイトルもある。手術の際の「夢破れたりか……。だが,この実験で生まれ変わるさ」「生きていれば,ですが」という台詞が重い。
そして主人公は,強化人間手術を生き抜き,ブレードから光波を出したり,レーダー無しで敵を捉えたり,ブーストの消費が減少したりといった力を手に入れるのだ。強化人間手術の発生条件は,言わばミッション失敗を何度も経験することであり,これ自体が初心者救済要素になっている。イージーモードや操作補助ではなく,こうした世界観に合わせた救済要素を用意しているあたり,PlayStation時代からフロム・ソフトウェアの作り込みの細かがうかがえる。
ちなみに,筆者は大喜びで強化手術を受けてプレイを進めていたのだが,とあるミッションで現実を突きつけられた。任務は,実験で精神が錯乱した強化人間を撃破するというもの。倒された強化人間は「お前も気を付けろ」という警告を残して爆発。ミッション終了後にはRから「強化人間技術は非常に不安定な一面を持っている」というメールが届く。「気を付けろ」なんていわれても,もう既に手術された後で引き返せない。力を得る代償について何も考えていなかった自分がバカだった……と,ヘコんだ記憶がある。
ロボットアニメにおいて,人為的な強化を受けて強大な力を得た末に破滅する,というのは定番の筋書き。「ゲームでもこんな要素があればいいのに」とは思ったものだが,自分がその立場になるとなかなかに重い。語られることは少なくても,プレイしていて感情を揺さぶられる要素をしっかりと盛り込んでくるのだ。
ところで,AC6では主人公が強化人間であることが分かっている。これまでのシリーズとは違う世界観のタイトルではありそうだが,どういった状況に置かれていて,傭兵稼業に勤しむことになるのか気になるところだ。
現在,ACシリーズを遊ぼうと思ったら,一番手に入りやすいのはゲームアーカイブスのPlayStation時代の3作品だ。シリーズとしては初期シリーズ以降,PlayStation 3時代まで(新作が10年出なくなるまで)ハードを変えながら進化を続けてきた。方向性としては,PlayStation 2の「ARMORED CORE 2」「ARMORED CORE 3」の系列は,概ね初期シリーズのグラフィックスがそのまま進化したようなプレイ感だ。
「ARMORED CORE 4」系列はジャンル名として「ハイスピードメカアクション」を謳い,スピード感が大幅にアップした。「ARMORED CORE V」系列は逆に,空中戦闘が制限され,建物や壁を蹴って飛び上がるアクションを導入。オンラインプレイにもフィーチャーし,プレイヤーがチームを組んで領地や拠点を争うこととなった。いずれもそれまでのシリーズとは違った方向性を目指したタイトルと言える。
こうした転換点を経た後でのAC6だけに,どのような方向性の作品となるかに期待が高まるところだ。バランスとしては,AC4系列のようなハイスピードアクションではなく,それ以前のシリーズと,ACV系列の中間的なスピード感になることが明かされているが,公開されているゲームプレイ動画を見ると,空中戦での挙動はAC4に近い雰囲気を感じる部分もある。
10年間待った新作の発売日まであとわずか。これからAC世界に入門する人も多いと思うが,手に入れやすい(といってもPlayStation 3向けだが)初期3部作で,荒涼たる世界で傭兵として生きるための心構えを予習しておくのもいいだろう。
「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」公式サイト
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ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON
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- ライター:箭本進一
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