インタビュー
[インタビュー]新体制となるTango Gameworks,これまでのクリエイティビティは変わらない。0から1を生み出し,広い層に届けるための「あがく力」を大切にしていく
そんな新生Tango Gameworksの代表となるコリン・マック氏,クリエイティブディレクターのジョン・ジョハナス氏,ディベロップメントディレクターの江頭和明氏,つまりスタジオとクリエイティブのトップ,そしてクリエイターを管理する3人に話を聞いた。
Tango Gameworksは2010年3月に「バイオハザード」シリーズを手掛けた三上真司氏によって設立され,同年10月にゼニマックス・メディアに買収された開発スタジオだ。
サバイバルホラーである「サイコブレイク」「サイコブレイク2」や,東京を舞台としたオカルト系アドベンチャー「Ghostwire: Tokyo」,音楽と融合したアクションゲーム「Hi-Fi RUSH」などを手掛けてきた。
2023年には創業者である三上真司氏が退職,2024年5月にTango Gameworksのスタジオ閉鎖が発表され,存続の危機に陥っていたのだが,同年8月にKRAFTONが事業継承することが明らかになり,法人化したうえで,「Hi-Fi RUSH」のIP拡大や,新プロジェクトへの着手が発表されていた。
そこでファンが気になるところは,KRAFTONが事業継承することでTango Gameworksにどのような影響を与えるかだろう。今回のインタビューでは事業継承に関わる話と,同社のクリエイティビティについて聞いてきたので,目を通してみてほしい。
「KRAFTON」公式サイト
これまでのクリエイティビティは変わらない。0から1を生み出し,広い層に届けるための「あがく力」を大切にしていく
4Gamer:
よろしくお願いします。今回は事業継承と今後のビジョンについて聞かせてください。
まずは自己紹介をお願いします。
コリン・マック氏(以下,マック氏):
これからTango Gameworksの代表になるコリン・マックです。業界歴は30年で,初代PlayStationの時代から開発とパブリッシングに半々くらいの感じで携わっています。Tango Gameworksとは10年ほどの付き合いです。ベセスダ本社側のエグゼクティブプロデューサーをしていて,2023年にTango Gameworksへ移りました。
ジョン・ジョハナス氏(以下,ジョハナス氏):
ディレクターのジョン・ジョハナスです。2010年にTango Gameworksに入社し,「サイコブレイク」では企画,「サイコブレイク2」と「Hi-Fi RUSH」でディレクターをやっています。これからはクリエイティブディレクターとして全体的にスタジオを見ての仕事をします。
江頭和明氏(以下,江頭氏):
江頭です。2020年からTango Gameworksに参加し,「Hi-Fi RUSH」ではプロジェクトマネージャーをし,現在はディベロップメントディレクターとして従業員に対するケアなどをしています。
4Gamer:
新生Tango Gameworksの代表とクリエイティブのトップ,そしてクリエイターを管理される3人が揃ったわけですね。
今回,KRAFTONによる事業継承が決まった経緯について教えてください。
Tango Gameworksは2010年の設立から14年ほど頑張ってきましたが,やっと自分たちの考える理想のスタジオになったところで閉鎖されることが決まりました。しかし,スタジオが閉鎖されるのはあまりにも惜しい。
このままの形でTango Gameworksを継続したいと考えてパートナーを探したところ,KRAFTONにはゲームの根本的な面白さやクリエイティブ性を大事にする文化があることが分かったんです。
4Gamer:
やっと自分たちの考える理想のスタジオになった時点で閉鎖された……というのはまさに的を射た表現だと思います。2022年に「Ghostwire: Tokyo」,2023年に「Hi-Fi RUSH」といった個性的な作品がハイペースで出てきたところでしたから,閉鎖のニュースを聞いた人も同じように感じたのではないでしょうか。
マック氏:
「サイコブレイク」「サイコブレイク2」とホラーゲームが続きましたが,いろいろなジャンルにチャレンジしたくて「Ghostwire: Tokyo」や「Hi-Fi RUSH」を作りました。オリジナルでいろんなジャンルを作れるチームになったんです。
4Gamer:
今回の事業継承は,現状の体制やTango Gameworksらしさを変えないということなのでしょうか。
マック氏:
そうです。事業継承や買収の後は「はやりのゲームを真似してください」「続編は安全なので,続編を作ってください」なんて言われることもあります。ですが,KRAFTONはクリエイティブ性を重要に考えていて,「Tango Gameworksでやってきたことを,そのまま続けてほしい」「Tango Gameworksでしか作らないゲームを作ってほしい」という考えでしたから,本当にマッチしていると思います。
4Gamer:
では,事業継承が行われても,Tango Gameworksらしいゲームを作り続けていくということなんですね。
どんなプロジェクトを進めるにしても,そこにモチベーションがないと面白いものは作れない。こうした部分はユーザーさんに伝わるんじゃないかと思います。
「サイコブレイク」を作り,「Ghostwire: Tokyo」を作り,「Hi-Fi RUSH」を作ったところが,次に何を作るんだろう……と楽しみにしてくださっているなら,それが一番うれしいですね。
江頭氏:
Tango GameworksはIPの創出を目標としているんです。0から1を生める力や思考は一朝一夕で養えるものではないけれど,それができるメンバーやノウハウがあるし,拡大してもいきたい。こうした点がKRAFTONと合致したわけです。
4Gamer:
しっかりとオリジナルを作れるというところがTango Gameworksの魅力ということですね。0から1を生める力はどのようにして養われるのでしょうか。
ジョハナス氏:
その力の源は,クリエイター個人の「こんなゲームが欲しい」というワガママです。ここから形にした後「ユーザーさんに受けるにはどうしたらいいか」というブラッシュアップが始まるわけです。
例えば「Hi-Fi RUSH」は僕が音楽好きであることからスタートしたプロジェクトです。でも,プロトタイプを一緒に作っていたプログラマーさんは音楽についての知識はありませんでした。
4Gamer:
音楽が重要なフィーチャーなのに,それは大変ですね。
ジョハナス氏:
制作を進めるうえで,音楽にまつわるいろいろな要素を入れようとしても理解してもらえませんし,彼にとってのプレイは全然快適なものにはならなかった……といったことがありました。こうした体験を通し「誰でも遊べるためにはどうすればいいか」ということを考えるようになったんです。
つまり,ゲームを作ることを仕事にはしているけれど,自分の好きなことだけをできるわけではなく,ユーザーさんが喜ぶものにしなければならないということです。0から1を生み出した新規IPでは特に大事になる部分ですね。
4Gamer:
確かに「Hi-Fi RUSH」は音楽の知識がなくても問題なく楽しめる辺りがポイントだと思います。こうした配慮があるからこそ,プレイヤー層も広がって評価も高まったんじゃないでしょうか。
ジョハナス氏:
自分がプレイしたいものを作ったなら,遊びたいと思ってくれる人がほかにもいるんじゃないか……と信じるしかないと思います。こうした情熱から新しいアイデアは生まれるんですが,ゲームは一人で作るものではありません。
みんなで話をしていろいろな面白い案が出てくることもあるけれど,コアとなるコンセプトがユニークな体験で,開発チームの中で共通認識が完成されていれば,他の会社では作れないようなゲームになると思いますね。
4Gamer:
そうした意味では「Hi-Fi RUSH」はTango Gameworksらしい物づくりといえますね。ユニークな内容だけに,制作も大変だったのではないでしょうか。
ジョハナス氏:
どうやっても作りやすくする方法はありませんでしたね。でも「今まで見たことがないものだから作る価値がある」ということを信じて作り続けました。音楽のことを知らない人でも遊べて,音楽について分かったような気持ちになれるなら,今まで体験したことのない楽しさを感じられるんじゃないかということですね。
4Gamer:
今まで見たことがないものを一緒に作ろうというのが,Tango Gameworksの文化なんですね。
マック氏:
クリエイターの心を持つ人を探して仲間にしてきましたから。クリエイターとして「これが面白い」と思っているものがないと,面白いものは作れません。とはいえ,クリエイターとして面白いけれど,お客さんが理解できないものを作っても意味がないんです。
ジョハナス氏:
クリエイターとしてのアイデアが重要なのは確かですが,プレイヤーの立場からも考えないといけません。
「Hi-Fi RUSH」を例にしましょう。このゲームは,説明を聞いた時「リズムゲームか……ちょっと苦手だな」っていう反応をする人が多いんですよ。確かに,ただアクションと音楽を合わせるだけだと,ほとんどの人が楽しくプレイできないと思います。でも,「Hi-Fi RUSH」では,音楽に詳しくない人やリズムゲームが苦手な人でも楽しめるように頑張ったんですね。
音楽の知識やスキルがある人だけが求めるゲームを作ったのでは,すそ野が広がらない単なる自己満足になってしまう。けれど「Hi-Fi RUSH」では上手くハードルを下げつつ,皆さんが楽しめるものにできました。
ハードルを下げるといっても,ここでユーザーさんに寄りすぎるとチープになってしまい,結果としてユーザーさんの不利益になる……というラインは存在しています。ここをズラすことなくしっかりポリッシュしていけたのが「Hi-Fi RUSH」チームでした。
「このタイミングは必ず守って,音楽を感じさせるようにしよう」「ここは動きで音楽を感じてもらおう」とずっと改良を繰り返していましたから。
4Gamer:
音楽知識がある人だけがプレイできるものではいけないけれど,そうでない人のことを考えるあまり,音楽要素が薄くなってもいけない。音楽を取り入れ,音楽的な楽しさをもたらすというコンセプトからズレることなく,ちょうど良いバランスを見出さなければならない。難しい仕事ですね。
江頭氏:
こうした感覚は数式のようにしっかりとした答えがあるものではありません。日々あがきながら形作っていき,トライしていかなければいけません。それは,答えが見えないところへ手を伸ばす胆力「あがく力」です。
Tango Gameworksが「あがく力」を持っていることは,とても頼もしいと感じられます。これから作る作品にこのマインドを加えていけば,必ず「このスタジオが作るのは良い作品である」というところを担保できるでしょう。
4Gamer:
プレイヤーからの立場を考えるうえで,今のゲーム業界にはマーケティング主導やデータドリブンといった考え方もあります。Tango Gameworksとしてはデータをどのように扱うのでしょうか。
ジョハナス氏:
個人的にはデータ=道具として見ています。自分が理想的な目標へ進めているかどうかをデータでチェックはしますが,データがあるからこういうものを作ろう,では少し違う気がします。
4Gamer:
事業継承と同時にスタッフも募集されるそうですが,どんな人に来てほしいですか。
まずはゲームが好きであること。そして,クリエイターの心を持っていて,自分からアイデアを提案でき,チームとコミュニケーションできる人であることですね。
自分に与えられたタスクだけを効率よくこなし,責任を果たしたと考える人はちょっと合わないんじゃないかと思います。
ジョハナス氏:
手掛けている仕事のことをタスクではなく,自分の赤ちゃんのように感じてもらえるようなスタジオを作っていきたいです。仕事を仕上げるまでの責任者ではなく,どこまでベストを尽くせるかを追求する。これはずっとTango GameworksのDNAに刻まれてきたポリシーでもあります。
江頭氏:
Tango Gameworksが目指す作品は「ユニークであること」が大事です。ジャンルや作風問わず,触ったユーザーさんに「これはTango Gameworksらしいよね,こだわりを感じるよね」と感じていただきたいんですね。
実際にこうした目標を目指していく上では,明確な答えが示しづらく,「あがく力」が必要になると思います。「あがいた上では失敗も成功もするかも知れないけれど,ユーザーさんのためにトライしてみたい」という心意気がある人とチームを組みたいです。
こうした中で生まれる化学反応をゲームとして落とし込める流れが,今のTango Gameworksにはできていますので,ご興味のあるクリエイターさんに出会えたら本当にうれしいですね。
ジョハナス氏:
作品を作る上では,たまにぶつかり合ったり,喧嘩をしたりもするかもしれません。でも「僕はこれを面白いと思ってるので,やりましょう!」といえるチーム,メンバーを仲間として感じられるチームを作りたいんです。
僕なんかは「ジョン,それ止めた方がいいんじゃないの?」ってダメ出しされることもしょっちゅうです。でも,そうした発言ができる自由が必要じゃないですか。
ダメなアイデアをダメ出しされないまま実装されてしまい,発売後の評判が悪かった時に「ずっとダメだと思ってたよ……」ではいけないわけです。
江頭氏:
ユーザーさんの心や印象を一番大事にしなければいけない,とは思っています。上の言うことだけを実装して,世に出て評判が悪いと見るや「ほら,そう思ってたんだよ」なんて言うようなら,その人は開発者ではなくて批評家なんですよ。
こうならないよう,チームの仲間には建設的に意見ができる人が欲しいです。僕のようにプロジェクトマネジメントに携わり,予定通りに物事を進めたい人間であっても,後で絶対に直さなければならないであろう部分というのは分かります。
建設的な意見が出るなら間に合ううちに対処することが可能ですが,そうでないと「手直ししたいけれど,時間がないからそのままリリースする」なんてことになってしまいますから。言い換えれば,我々が「あがく力」でしっかりあがいた結果をユーザーさんにお届けしようというのが最大の目標なわけです。
4Gamer:
確かに「手直ししたいけれど,時間がない」というのは陥りがちなところですが,クリエイターとユーザーのどちらにも残念な結果になる,最も避けるべきところでもあると思います。
ところで,スタジオでの日本人と海外の方の比率はどれくらいなのでしょうか?
マック氏:
このインタビューを見ると,海外の人が多いスタジオというイメージになるかもしれません。実際には日本人スタッフがほとんどですし,現場のコミュニケーションも日本語を使っています。世界中のユーザーさんに喜んでもらえるゲームを作ってはいますが,基本的に日本のスタジオなんですね。
4Gamer:
職場の雰囲気はどんな感じなのでしょう?
江頭氏:
このインタビューの雰囲気そのままですね(笑)。ジョン(ジョハナス氏)がつまらないギャグをいって,拾ってあげる人とそうでない人がいるわけです(笑)。
ジョハナス氏:
仕事は真面目にやってるんですけど,それ以外の雑談はアイデアのネタ混じりで笑いながらしてる感じですね。僕の目標は「プロジェクトが終わるまでに,滑っていないギャグを言うこと」です(笑)。
江頭氏:
彼のギャグは滑り続けてますからね(笑)。英語で考えたギャグをそのまま日本語にすると,ギャグどころか何を言ってるか分からないようなことも起こるんですよ。
「サイコブレイク」を作ってるときもこのノリは同じでした。雑談からいろいろなアイデアは出ても,ホラーなので入れられないなんてこともあったんです。でも,「Hi-Fi RUSH」なら,ユーモラスなアイデアをゲームに反映することができましたね(笑)。
4Gamer:
いろいろな意味で「Hi-Fi RUSH」が転換点だったわけですね。
江頭氏:
「Hi-Fi RUSH」では僕が「小ネタ的なものを入れよう」とタスク化したわけでもないのに,こうした部分が多かったです。テストプレイで面白い場所を見つけると,作ったスタッフがニヤっとしてくれるんですよ。
こうした悪ふざけや企みみたいなエッセンスが作品に落とし込まれることで,質がアップするというケースは多いです。ユーザーさんもゲームを周回プレイされたり,細かいところまで見てくれるようになりますし。
これはプロジェクト管理をしっかりしてもたどり着けない領域で,クリエイターがクリエイターとして頑張れるからこそできることだと思います。僕はリスペクトしますし,自発的にいろいろな作り込みをしてくれる社風を維持していきたいです。
4Gamer:
事業継承と同時に「Hi-Fi RUSH」のIP確保についても発表されています。現時点でお話しいただけることはありますか?
ジョハナス氏:
具体的にお話しできることはまだありません。我々も「Hi-Fi RUSH」のIPは重要だと思っていますから,ファンの皆さんが喜んでくださるものを作りたいです。
江頭氏:
「Hi-Fi RUSH」のIPを使ったものも一つの選択肢ですし,クリエイターから出てくるアイデアも実現していきたい。今は可能性が広がるタイミングなので,狭めるようなことはしたくないということですね。
4Gamer:
なるほど。オリジナリティを重視するスタジオだけに,今後が楽しみです。では最後に,ファンへメッセージをお願いできますか。
マック氏:
現時点で発表できることはまだありませんが,これまでTango Gameworksを応援してくださった方々のために,ユニークで面白いゲームを作っていきたいと思いますので,ご期待ください。
ジョハナス氏:
今年はいろいろとありましたが,Tango Gameworks自体は変わっていません。事業継承が今後のゲームに影響することはありませんので,ご安心ください。
江頭氏:
開発者たちはファンの皆様のお声をしっかりと読んでいます。皆さんの思いや愛にお返しできるよう,これからもユニークなゲームや面白いゲームを作っていきます。
4Gamer:
ありがとうございました。
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