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[インタビュー]田畑 端氏率いるJP GAMESが目指す,本当のWeb3.0ゲームとは。ピッチコンテストで最優秀賞となった「Gemina Games」の構想を聞く
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印刷2023/07/26 07:00

インタビュー

[インタビュー]田畑 端氏率いるJP GAMESが目指す,本当のWeb3.0ゲームとは。ピッチコンテストで最優秀賞となった「Gemina Games」の構想を聞く

 2023年6月28日,京都で開催されたイベント「IVS Crypto 2023 KYOTO」内で行われたWeb3.0ゲームピッチコンテスト「SHAKE!KYOTO」でJP GAMESの「Gemina Games(ジェミナゲームス)」が,最優秀賞ならびに特別賞3賞(double jump.tokyo賞,SEGA賞,Well-Link賞)を受賞した。

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 JP GAMESは,「Gemina Games(ジェミナゲームス)」が,2023年6月28日に京都で開催されたイベント「IVS Crypto 2023 KYOTO」内で行われたWeb3ゲームピッチコンテスト「SHAKE!KYOTO」にて,最優秀賞ならびに特別賞3賞を受賞したことを発表した。

[2023/06/29 12:01]

 JP GAMESという会社は,古くは「モンスターファーム2」のプランナー,そして「FINAL FANTASY 零式」や「FINAL FANTASY XV」などのディレクターを担当した田畑 端氏が代表を務めている。2018年の会社設立以降,ゲームを作っていなかったわけではないのだろうが,表に聞こえてくるのは,「PEGASUS WORLD KIT」といったミドルウェアや,それを使っての他業種企業との協業などの話題が多く,ゲーム開発からは一歩引いているような印象だった。
 そんなさなか,ピッチコンテストにゲーム企画を持ち込み,最優秀賞を獲得。しかもそのゲームというのは,Web3.0に軸足を置いているという。

 ご存じの方もいるかもしれないが,ピッチコンテストとは,事業計画を投資家にプレゼンして,優秀な計画には賞金が出るだけでなく,出資を検討してもらえるイベントだ。つまり,そこに登場するのはすべて「これから始まるプロジェクト」なわけで,最優秀賞を受賞したGemina Gamesも,むろんその全貌ははっきりしていない。

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 ピッチコンテストの概要を見た感じ,どう見てもMMORPGだし,“あの”田畑氏がWeb3.0の文脈でMMORPGを作るとどうなるのか,気になって仕方がない。そこでピッチコンテストの翌日に無理矢理時間をいただき,「IVS Crypto 2023 KYOTO」の会場内で,JP GAMES CEOの田畑 端氏と,Gemina Gamesのプロデューサーである松本 仁氏に,ゲームの構想を聞くことができたのでそれをお伝えしよう。

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4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは,最優秀賞の受賞おめでとうございます!

JP GAMES 松本 仁氏:(以下,松本氏)
 ありがとうございます。あの場にいたら分かるんですが,コンテストでは最初に特別賞の発表があって,そこでGemina Gamesの名前が出たので,「あぁ最優秀賞じゃなかったのか……」とちょっとテンションが落ちたあとでの最優秀賞受賞の発表だったので,よけいに嬉しかったです(笑)。

JP GAMES CEO 田畑 端氏:(以下,田畑氏)
 最優秀賞ではなかったとしても,何か結果を出さないととは思っていたので,ほっとしたというのが正直なところです。

JP GAMES CEO 田畑 端氏(右),松本 仁氏(左)
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4Gamer:
 ブロックチェーンゲームで,Gemina Gamesのように本格的なMMORPGというのはほとんどないと思うんですよね。昨今だと「Kingdom Under Fire: The Rise」くらいかなと。

田畑氏:
 どうなんでしょう。実は,ブロックチェーンゲームをまだそんなに研究できていないんですよ。もちろん,有名なタイトルは知ってますけど。

松本氏:
 いまはそうかもしれませんが,ブロックチェーンゲームの本格的なMMORPGはこれからは次々と出てくると思いますよ。

4Gamer:
 確かにその気配は感じますね。ところでGemina Gamesは,MMORPGということ以外,よく分からない部分が多いので,改めてその内容を可能な範囲で聞かせてください。

田畑氏:
 Gemina Gamesは,PvPがメインのオンラインゲームです。プレイヤーは4つの国に分かれて,各国代表の戦士としてひたすら大会を戦っていく……ものすごくざっくり言うとそんなゲームです。
 そしてトーナメント大会の戦いがないときは,自国内でクエストをやったり,なにかを生産したり,そういうサイクルで進んでいきます。

4Gamer:
 プレスリリースには,プレイヤーは自国に貢献することで,より多くのリターンや権利を得る(Contribute to Earn)と書いてありましたが,戦いに勝つことが,この“自国への貢献”になるんでしょうか。

田畑氏:
 はい,戦い以外にも国に貢献できる要素はいろいろとありますよ。

4Gamer:
 例えば……いやこれは釈迦に説法ですが,MMORPGにはギルドがあって,ギルドに何かクエストの結果などを収めるなどしたらもらえる貢献ポイントみたいなのがあるじゃないですか。

田畑氏:
 ええ,Gemina Gamesにもそういった要素はあります。それを基本として,オーブと呼ばれるこの世界の宝物を手に入れるのが一番の貢献になりますね。

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4Gamer:
 そのオーブはどうやって獲得するんでしょうか。その辺に落ちてたり自生したりしてるわけではないですよね。

田畑氏:
 そのオーブを懸けて戦うトーナメントが各国で開かれるという仕組みです。

4Gamer:
 そのトーナメント大会を開催するのは運営ですよね。もしかして,プレイヤーが実施する仕組みなんかもあるんでしょうか。

田畑氏:
 プレイヤーが開催できるような仕組みも設けるかもしれませんが,オーブを懸けたトーナメント大会は,基本的に運営側によってスケジュールされています。

4Gamer:
 では奪い合うオーブの総数はいくつですか? この数によって,ゲームの規模感が見えてきそうな気がします。

田畑氏:
 一応,108個です。

4Gamer:
 一応……?

田畑氏:
 いや(笑),ピッチコンテストでは108個と説明したんですが,松本が説明しているのを聞いていたら,これはちょっと少ないんじゃないかと思い始めまして(笑)。

松本氏:
 じゃあ増やしましょう。

田畑氏:
 よし,増やそうか。

4Gamer:
 そんな軽いノリで!

田畑氏:
 まぁ最初の企画段階では,細かい数字の厳密性よりも,ゲーム全体をどうしたいかということから決めていくので大丈夫です。そこで,開発期間がどれくらいになりそうだから予算がいくらで……と見積もることが大切なので。

4Gamer:
 それもそうですね。

松本氏:
 予算を決めないと何も始められないですからね。

4Gamer:
 では,オーブの数はいったん置いておいて,ほかのことを聞きますね。プレスリリースには「ERC-6551によるトークンバウンドアカウント(TBA)に対応することで,新しいRPG体験を提供する」とも書いてありましたが,これ,正直なところ何がすごいのかよく分かっておらず……。何ができるのか,具体的に説明していただけたりしますか?

松本氏:
 まぁそうですよね(笑)。概念的なところから説明すると,今ではウォレットの中にNFTが入っていますが,ERC-6551に対応することで,NFTがウォレットを持つというイメージになります。

田畑氏:
 一つのNFTにいろいろと格納できるようになるんですよ。

松本氏:
 Gemina Gamesでは,GeminaというNFTがあって,それにくっついているウォレットに武器やオーブなどの情報が記録されて,それが一つのNFTとして機能するんです。たとえば「自分のキャラクターが剣と帽子を持っている」という状態を,一つのNFTとして扱えます。

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4Gamer:
 いままでの……ええとERC721規格のNFTでは,そういうことはできなかったんですか。

松本氏:
 ERC721だと,ダイナミックNFTみたいなもので絵を変えるくらいならできますが,言ってしまえばそこまでです。TBAに対応したことで,Gemina Gamesでは,Geminaにゲーム内のさまざまな情報が格納されます。つまり,プレイすればするほど,自分のGeminaの価値が上がっていくわけです。

4Gamer:
 イメージとしては,いわゆるセーブデータが一つのNFTになっているみたいな感じですか? そこにはゲーム内の履歴がすべて記録されるんでしょうか。

松本氏:
 すべて記録してしまうと,いわゆるガス代が高くつくといった問題も出てくるので,アイテムとかそういう価値のあるものの情報を一つのNFTにしようと思います。

4Gamer:
 アイテムの所持履歴なんかはどうでしょう?

松本氏:
 そのアイテムを前に誰が持っていたかみたいなことは,全部ブロックチェーンに記録されます。ただ,バトルの履歴みたいなものは,このNFTには記録せず,別の仕組みを考えたほうがよさそうですけどね。

4Gamer:
 MMORPGをプレイしてると「こないだまでどんな武器使ってたっけ?」となることも多いので,そういうのが見られるとちょっと嬉しいです。

松本氏:
 それは可能ですよ。

田畑氏:
 つまり,手に入れた武器は,実は前に持ち主がいた……みたいなものも分かります。ちゃんとつながってる気がして面白いですよね。

4Gamer:
 Ultima Onlineの銘入れを思い出しました。あれの2023年版みたいな感じですね。

田畑氏:
 どんなやつでしたっけ?

4Gamer:
 スキル値が100になってGrandmasterになると,作ったアイテムに自分の名前を入れられるんですよ。

田畑氏:
 あぁ,感覚としてはそれを見たときの感覚に近いかもしれません。

4Gamer:
 同じ武器でも前に誰が持っていたかで,ゲーム内での価値が変わってきそうな気もします。

田畑氏:
 プレイしてない人には分からないんですが,プレイヤーにとって,その世界での出来事というのは本当に大切なものです。なので,それが記録されているセーブデータに価値を見いだす人も多いわけで。

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4Gamer:
 でもセーブデータは基本的に“その瞬間”の最新状態しから見られませんが,この仕組みだとプレイヤーの過去も記録されているわけですよね。

田畑氏:
 そうです,そのプレイヤーの歴史が見られるわけです。

松本氏:
 しかも,そういった情報はパブリックチェーンにのるので,誰でも見られます。「田畑さんの前にあの武器を持っていたのは○○さんだったのか!」みたいに。

4Gamer:
 おお……なんかちょっと楽しそうですね。「あいつ,今はランキングTop10だけど,ちょっと前までこんなショボい武器を使っていたのか」みたいな発見もあるわけですね。

田畑氏:
 そうです。そうなってくると,情報自体がコンテンツになって,いろいろなプレイヤーを知ることそのものが,ゲームプレイにもなるわけです。

4Gamer:
 うーん,MMO向きの仕様ですし,かなり期待してしまいます。

田畑氏:
 従来のゲーム……といいますか,便宜上Web2.0ゲームと呼びますが,その開発経験はしっかりあるわけで,そこにブロックチェーンなどWeb3.0の要素を盛り込めば,面白くなりそうだという気はしていました。でもこうしてあらためて外の人に向けて言語化すると,それが確信に変わりますね。インタビューを受けてよかったです(笑)。

松本氏:
 ERC-6551自体の発表は少し前でしたが,ホワイトペーパーが公開されたのが2023年5月だったので,私たちも具体的に何ができるのかを模索している最中なんですよね。

田畑氏:
 そうそう。IVS Crypto 2023 KYOTOでピッチコンテストがあるとYGG Japanの椎野さんから春くらいに聞いて,ゲーム企画は用意したのですが,Web3.0要素をどうしようかなと思っているときに松本と一緒に仕事をすることになって,TBAを使えばこういう面白いことができると教えてもらったんです。

※YGG JapanのCo-FounderにしてFornの取締役でもある,椎野真光氏。いつもギリギリのタイミングで何か大事なことを投げ込んでくる人だ。

松本氏:
 確か朝の4時だか5時だかに,「全部見えた」って連絡したんですよね。

田畑氏:
 そう(笑)。これなら自分たちが作りたいと思えるものができそうだとなって,ピッチコンテストに出ようと。

4Gamer:
 想像以上にフットワークが軽かったです(笑)。学生ベンチャー的な勢いがあるといいますか。でも,結果として最優秀ですから,すごいです。

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田畑氏:
 無理して出てよかったです(笑)。
 JP GAMESは,開発中だったコンソールゲームがコロナ禍中にペンディングになるなど、計画が大きく変わってしまいました。それでこういう時期は、今後のために技術を蓄積しようと考えて、ミドルウェア「PEGASUS WORLD KIT」の開発を集中してやってたんです。それをさらに機能拡張するとなると,やっぱりWeb3.0の機能が欲しいよねという話になって。YGG Japanさんのサポートや松本の加入があったので,Web3.0の要素を入れたゲームをまずは自分たちで作ってみよう,となったんです。

4Gamer:
 そんなノリで作るには規模が大きい気が……? まずはもうちょっと小規模なものを作るプランはなかったんでしょうか。

田畑氏:
 これまでの経験から,ゲーム部分の開発は想像がつきますから。PEGASUS WORLD KITにRPGのツールセットを入れていたので,今から作り始めるといっても,基本的なバトルシステムは動かせますし。あと,ChatGPTのような生成AIでNPCの管理もできるなど,いろいろな機能も入っていますので,ちょうど良い挑戦になるかなと。
 これまでPEGASUS WORLD KITはメタバース用に提供していたので,我々でもちゃんとゲームを作って,その先ではゲーム開発向けにも提供しようとなったわけです。

松本氏:
 おかげさまで,Web3.0界隈ではちょっと話題になっています。「早く遊びたい」と。

田畑氏:
 そのようですね。まあ,これから作るんですけどね(笑)。



ただのAIに終わらせず,キャラクターにまで昇華。田畑氏が考えるAIの使い方


4Gamer:
 いまChatGPTという言葉がさらりと出てきましたが,Gemina Gamesにも取り入れられてるんですね。

2019年5月に発売された「FINAL FANTASY XV の人工知能 - ゲームAIから見える未来」(関連記事
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田畑氏:
 ええ,生成系AIはすごく面白い技術なので,思いっきり使います。実は私は,スクウェア・エニックスにいたころからゲームに先進的なAIを組み込むのが好きだったんですよ。例えば「FINAL FANTASY XV」のときも,主人公のノクトの仲間はかなり凝ったAIで動かしてましたし。

4Gamer:
 書籍にもなってますもんね。

田畑氏:
 その世界のどこにアイテムがあるとか,どこにモンスターがいるのかなどを管理する「メタAI」も用意してあって,キャラクターのAIは,そこから情報を引っ張れるようにしていたんです。そうすると,プレイヤーが行こうとしている先にアイテムがあるのかとか,強敵がいるのかなどが分かるので,それに合わせたセリフをしゃべらせるんですよ。そうやって,仲間たちがプレイヤーを楽しくゲーム世界にナビゲーションするみたいなことをやっていました。

4Gamer:
 しかしFF15のときにそこまでやっていたんですね……。
 最近は何かとAIが話題で,いろいろな会社が生成AIを使いだして,NPCにしゃべらせたり,なんならAIでNPCを全部作ったりみたいなことをやろうとしていますが,なんか巷の評判はそこまでよくないですね。

田畑氏:
 ダメなんですか?

4Gamer:
 ダメ……というより,あんまり記憶に残らないというか,全然世界に馴染んでないというか。我々が世界に入り込めないんですかね。

田畑氏:
 それは“キャラクター”ではなくて,“ただのAI”なのかもですね。
 じゃあオマエはどうなんだっていう話ですが,Gemina Gamesの場合はAIを魔女に使います。

4Gamer:
 魔女……?

田畑氏:
 Gemina Gamesの世界には,魔女が4人いるんですよ。それぞれが国を統治していて互いに戦い合うんですが,これをAIでやります。それぞれ個性的なAIが,戦士(プレイヤー)を集めたり,自国を強くするための命令を出したりするんです。
 つまり,プレイヤーたちが国の治めるAI魔女とコミュニケーションを取るというのをやろうかなと計画しているわけです。

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4Gamer:
 それ,ものすごく楽しそうなんですけど。

田畑氏:
 プレイヤーの引き抜きとかもやりますよ,AIが。AIも成長しますし,キャラクター性を重視しているので,成長の仕方にも個性を持たせます。
 ……とはいっても,これから作るので,どれくらいこのイメージに近づけられるか分からないですが,面白くなりそうな予感はあります。

4Gamer:
 PvPがメインのMMORPGというと,「Dark Age of Camelot」に始まって,「三國志 Online」とか「Warhammer Online:Age of Reckoning」なんかは遊んでましたけど,プレイヤーの自治に任せるとちょっとダレちゃうんですよね。ギルドのキーパーソンがいなくなったら,なんとなく自然消滅してしまったり。
 そういった部分をAIが担ってくれると常に緊張感を持てますし,話を聞いているだけで久々にワクワクしてきます。

田畑氏:
ええ,AIの魔女同士がプレイヤーを巻き込んでやり合いますからね。なかなか面白そうでしょ?

4Gamer:
 かなり。僕は小心者なので,ロールプレイだと分かっていても,プレイヤー同士で相手を煽るような発言はできないんですが,AI相手なら盛り上がれそうです。……にしても,すごい発想です。

田畑氏:
 コーエー(コーエーテクモゲームス)の歴史シミュレーションゲームって……。

4Gamer:
 え,なんでコーエーの話に(笑)。

田畑氏:
 いや(笑),コーエーの歴史シミュレーションって,伝統的に0人でプレイできるんですが,私はそれが大好きで。「そっちから攻めるのか!」とか思いながら,ずっと見ちゃうんですよねあれ。人の引き抜きとかも仕掛けますし。
 あのAI君主の元で,プレイヤー達が戦うみたいなイメージなんです。

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松本氏:
 0人プレイが好きって,かなりレアですよね。

田畑氏:
いやもう大好きで,昔はゲームを買ってきたらまず最初にやってました。まあ,統一するまでは見ていられなくって,たいていは寝落ちしちゃうんですけど(笑)。

4Gamer:
 シブサワ・コウも確か0人プレイ好きだった気がしますよ。

田畑氏:
 おお,そうなんですね! 尊敬している人なので,同じものが好きというのは光栄です。ちなみに,ゲーム業界に入ってからしばらく,コーエーの襟川さんがシブサワ・コウだというのを知らなかったんです。尊敬しているので,業界人が集まるイベントなどで「シブサワ・コウ」という人を探すんですけど,どこにもいなくって……。
 業界に入ってけっこう経ってから,事実を知りました。

4Gamer:
 昔の読者みたいなこと言ってますね(笑)。

(一同笑)

田畑氏:
 コーエーの歴史シミュレーションだと,君主の下にさまざまな武将がいるわけですが,Gemina Gamesだと君主にあたるものが魔女でそれが個性的なAIで動き,その下にいる武将がプレイヤーになるわけです。

4Gamer:
 魔女のやり方が気に入らなかったら移籍もできるんですか?

田畑氏:
 移籍できるようにしたほうがいいのか,まだそこまで詰めて考えていないです。ただ,各国の運営はDAOにして,その上にいる魔女同士が戦うという構図にします。

※DAO(Decentralized Autonomous Organization)は日本語で「分散型自律組織」と呼ばれる,支配階層を持たない組織の形態。ちなみに,統治を持たないがゆえに巨大化しすぎると崩れかねないDAOを,小さい単位に分けてフラットに競合させ,機動的に動けるようにしたものがsubDAO。

4Gamer:
 なるほど。魔女に示された選択肢をDAO内で話し合うみたいな?

田畑氏:
 ええ,そういった二層構造にしないと,DAOで決まったことだけをやるだけのゲームになってしまうかなと思ったので。

4Gamer:
 ゲームに組みこまれたDAOの話をきくと,そこは危惧するポイントですよね。

田畑氏:
 もちろん実際に作ってみないと分からないことも多いですが,ゲームの新しい形が見えそうだなと。あと,ブロックチェーンの技術を使って各プレイヤーキャラクターの歴史を誰でも見られるというのは,ものすごくわくわくします。

4Gamer:
 PvPがメインのゲームだと,それこそ仇討ちみたいなシチュエーションも分かりますしね。

田畑氏:
 プレイヤーは自分のプレイ履歴を全部覚えきれませんが,キャラクターは覚えておけます。仕組みとしてゲームに用意しておけるわけです。○○さんと戦って腕を切られたとか,ピンチで回復してもらったとか,そういう情報をキャラクター同士が全部保持していたら,それはもうストーリーですよね。
 そして,このストーリーがあるとキャラクター同士の友情とか因縁とかがシステム的に発生して,ゲームの世界に深みと広がりがどんどん生まれて没入していく。


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4Gamer:
 運営が用意したシナリオではないですし,文字通り筋書きのないドラマが展開するわけです。

田畑氏:
 そうです。キャラクター同士のストーリーが勝手に生まれるんです。プレイヤーが体験したことから,キャラクター同士の関係性を生み出すっていうシステムになるわけです。

4Gamer:
 今あるWeb3.0/ブロックチェーンゲームとは全然違ったものになる感じがしますね。

田畑氏:
 おそらくそうですよね。まあ,私は既存のブロックチェーンゲームをちゃんと遊んだことがないので,実際には分からないんですけど……。

4Gamer:
 あぁ……(笑)。

松本氏:
 まぁ今あるものとは違うと思います。Gemina Gamesは,既存のブロックチェーンゲームとは一線を画すものにするので,待っていてください。本当のWeb3.0の仕組みが入ったゲームを作りますから。

4Gamer:
 真・Web3.0ゲームみたいな。

田畑氏:
 そう,これまでに私たちが培ってきたゲーム開発のノウハウに,Web3.0の面白さを組み合わせて,これまでにない新しいゲームを作ろうとしているんです。

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4Gamer:
 ゲーム業界のど真ん中を歩いてきた人達が作るWeb3.0ゲームとなると,否が応でも期待値が上がります。

田畑氏:
 今世の中に出ている“それ系”のゲームの多くが,基本的にはその世界にある土地とかアイテムを売って高騰させて,高騰するから買えない人が続出して,続出するから新しい土地を用意してまた買わせる,みたいなビジネスモデルじゃないですか。

4Gamer:
 ビジネスモデルというかなんと言いますか。

田畑氏:
 これでは長続きしないですよね。

4Gamer:
 Play To Earnをうたって人を最初に集め,その人達が買った土地代の売上を少しプレイヤーに還元して利益が出ているように見せて……というお約束のやつ。

田畑氏:
 まあ,いわゆるポンジ・スキームですよね。ただ,そういうのが成り立っていた地域もあるのは確かで,それはそのメタバースなりゲームが好きというよりは,経済的状況の中で,その地域の必然として存在できたといいますか。

※ポンジ・スキーム(Ponzi scheme):投資詐欺の一種。実際には資金運用を行わず,後から参加する出資者から新たに集めたお金を,以前からの出資者に向けて分配する手法。

4Gamer:
 リアルに比重が置かれてしまっているんですよね。

田畑氏:
 そうなんです,リアル経済に比重が置かれすぎている。ですから,私たちが作るものはプレイに比重が置かれる仕組みにしたいと思います。儲けるために,先にアセットを買って売り抜けてというものではなく,あくまでもゲームの遊びに軸足を置くべきです。

4Gamer:
 「伝説のあいつが使っていたロングソード」には,ゲーム内で大きな価値がつくかもしれません。


コミュニティの面白さで超えさせるゲーム内のハードル


4Gamer:
 先ほどDAOの話がでてきましたが,現状,プレイヤー同士のやり取りはDiscordというのが一般的だと思いますが,そうなると使用言語は英語ですかね?

松本氏:
 英語になると思います。

4Gamer:
 ご存じのとおり,日本人はその……人のことは言えませんが,一般的にはあまり英語が得意ではないと言いますか。言語のサポートみたいなことは考えていますか? Gemina Gamesの場合は,国の存亡を懸けた話し合いが行われるわけですし。

松本氏:
 ゲーム内にAI翻訳機能を入れるみたいなことはできると思います。ただ,それがDiscordなどの外部サービスを使われてしまうとサポートしきれないです。

田畑氏:
 Discord内でコミュニケーションを英語でとることになると,厳しいイメージがあるわけですね?

4Gamer:
 決して少なくない日本人プレイヤーにとっては難しいのではないかという気がしています。とくにDAOとなったらなおさら。

田畑氏:
 乗り越えなければいけないハードルとしては,確かに少し厳しいかもしれませんね。

松本氏:
 私は英語も中国語もいけますが,必要に迫られないと,なかなかできるようにはならないですよね。

田畑氏:
 だから自分で頑張れ?(笑)

松本氏:
 いえ,違います。最初はAI翻訳とか使ってでもいいのでそのコミュニティに飛び込んでもらって,そこから徐々に実戦で英語を覚えていくのがいいのでは,といいますか。

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田畑氏:
 なるほど,英語でコミュニケーションをとるのはハードル高いなって思う人たちが,AI翻訳を使って参加したくなるぐらい楽しいコミュニティを作りましょうと。

松本氏:
 コミュニティが面白ければ,英語をもっと覚えようとなってくるはずです。

4Gamer:
 あぁでも言われてみれば,僕が実践的(?)英語を最初に学んだのは,確かに初代DiabloとUltima Online,そしてEverQuestでした。

田畑氏:
 私もオンラインゲームを通じて,テキストでのやり取りはけっこうできるようになりました。スラングもマネしたりしてね。

松本氏:
 ええ。なのでコミュニティが面白そうとなれば,飛び込んでくる人は一定数いると思うんです。なんなら,目指すところは「英語を学ぶためにGemina Gamesを始めました」みたいな人が出てくるところかもしれません。

田畑氏:
 まさにピュアゲーミフィケーション。

4Gamer:
 大航海時代で世界地図を覚えるみたいな。なんなら,特産品まで全部覚えますからね。

田畑氏:
 信長の野望で日本の歴史も覚えましたし,やっぱりシブサワ・コウは偉大だ。

4Gamer:
 話が戻ってしまった(笑)。
 まあでも,ゲーム内のDAOを機能させようと思うと,何かを考えなければいけないですよね。分散型自律組織といっても,運営側が何もせずに放置していたら面白くはならないでしょうし。

松本氏:
 おっしゃるとおりです。DAOとかNFTとか,いわゆるWeb3.0的なキーワードはでてきますが,ただ単にそれを実装すればいいというわけではないです。ゲームとプレイヤーがつながって,その情報を誰でも見られ,そのなかでコミュニティを作る。そういうフィロソフィーみたいなものが大切だと考えています。

4Gamer:
 機能をウリにしているうちは,まだまだだと。

松本氏:
 技術的な話も大切ですが,いかにゲーム内のコミュニティを面白くするかなど,そういった根本的な部分が一番重要です。その基盤の上に,Web3.0的な機能が乗ってくる,みたいな。とりあえずNFTを導入しましたでは,本当の意味でのWeb3.0ゲームではありませんから。

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田畑氏:
 まさにその通りです。それにしても,開発が本格的に始まる前に,こんなに内容を話してしまったのは初めてです。少しプレッシャーですね……。

4Gamer:
 ここまでのお話を聞くかぎり,それなりに規模も大きそうです。リリースの目標はいつでしたっけ?

田畑氏:
 ピッチコンテストでは「1年」と答えてます。審査員からは「アグレッシブですね」と言われましたが(笑)。

4Gamer:
 い,一年?

田畑氏:
 先ほども言いましたが,基本のシステムはPEGASUS WORLD KITに実装していて検証も済んでいるので,開発期間はかなり短縮できると思います。ただ,期間だけにこだわらず,面白さはきちんと磨きたいなと。そうなると1年では難しいかもしれませんが,長期開発を前提にするのも違うと思うので、まずは1年程度で開発できる規模で考えています。形になったらいったん市場に出して遊んでもらって,プレイヤーコミュニティとともに成長させていくイメージです。

4Gamer:
 なるほど。絶対に面白くなることを期待しています。本日はありがとうございました。

 ところでこのインタビュー実施時,こちらの段取りが悪くて,田畑氏を始めとするJP GAMESの方々を,IVS Crypto 2023 KYOTO会場内を文字通りあちこちへと移動させてしまうという,失態をおかしてしまった。
 怒って帰られても仕方ないし,そこまではいかなくても,気分を害して雰囲気の悪いインタビューになっても仕方のないレベルのミスである。だが,田畑氏は怒るどころか,「RPGのクエストみたいで楽しかったよ」と冗談を言い,場の雰囲気を明るいものとしてくれた。それにしても薄暗いパーティ会場のようなところでのインタビューだったので,写真がどれもイマイチなのはご容赦いただきたい。

 また,インタビュー内にもある通り,プロデューサーである松本氏とも深夜というか早朝に連絡をとりあったり,半ば勢いでピッチコンテストに出場したりと,その他のスタッフも含め,コミュニケーションが取りやすい組織にしていることもうかがい知れる。
 
 「コミュニティを面白いものにする」という発言もあったが,正直,ギスギスした関係の組織にその実現は難しい。そもそも「コミュニティ」は,かねてより多くのゲーム運営者がかかげる目標でもあり,一朝一夕にできることではない。だが,田畑氏に率いられるJP GAMESであれば,そんな難問をクリアできるのではないか,と感じられる取材だった。

 もちろん,まだ始まったばかりのプロジェクトであり,今回のインタビューで話した通りの内容にならない部分も出てくるだろう。しかしそんな細かいことは置いておいて,面白いものを作ってくれそう,面白いものを運営してくれそう,そういった雰囲気を十分に感じた。
 なんだかんだで,いまだに「怪しい」イメージが払拭しきれないWeb3.0/ブロックチェーンゲーム界隈だが,そんな悪いイメージも吹き飛ばし,日本のWeb3.0ゲームをリードする,そんな作品の誕生を期待せずにはいられない。


画像集 No.024のサムネイル画像 / [インタビュー]田畑 端氏率いるJP GAMESが目指す,本当のWeb3.0ゲームとは。ピッチコンテストで最優秀賞となった「Gemina Games」の構想を聞く


――2023年6月29日収録
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