インタビュー
[インタビュー]現代的な恋愛模様を描くから,若手の力に頼る。誰かのなにか深い性癖に刺したい「制服カノジョ」の挑戦
[インタビュー]ゲームで彼女を作る最先端「制服カノジョ」。前田佳織里さん,橘 杏咲さん,小坂井祐莉絵さんがSNS恋愛を演じる
エンターグラムが発表した恋愛アドベンチャーゲーム「制服カノジョ」は,“今どきの恋愛模様”を描く新作だ。その内容は,作中のSNSで3人の制服女子と仲良くなり,舞台の福岡でデートする,新時代の青春スタイルである。
本作は「制服女子」と「学校生活」や「スマホのSNS」を通じて,福岡の町でデートを楽しむ恋愛ADVだ。作品にかける意気込みも,往年の恋愛ゲームが宿していた魅力を今また届けたいといったものらしい。
これについて,同社で「アイキス」シリーズや「あくありうむ。」を手がけたプロデューサーの平山氏,ディレクターの杉本氏,同じくディレクターの岩崎氏に話を聞いた。
セイカノでは現代的な恋愛模様を描き出すため,“今どきの20代若手の感性”に頼ったとのことだが。その方向性やいかに。
「制服カノジョ」公式サイト
誰かのなにか深い性癖に刺したい
4Gamer:
まずはお三方,自己紹介をお願いします。
平山氏:
エンターグラムの開発部でプロデューサーをしております,平山です。私は弊社で「アイキス」シリーズや,ホロライブの湊あくあさんを主題にした「あくありうむ。」などを手がけてきました。
今回のセイカノでもプロデュース業務を任されています。
杉本氏:
ディレクターの杉本です。私も「アイキス」シリーズに参加していて,今回のセイカノも“アイキス3とほぼ同じメンバー”で制作していることから,平山と岩崎と3人で企画立案から担当してきました。
岩崎氏:
同じくディレクターの岩崎です。僕も杉本と同じような経歴で参加しましたが,このなかでは一番若手です。
4Gamer:
まず,今の市場でなぜ,新規IPの恋愛ゲームで挑むのでしょう。
平山氏:
一昔前は恋愛ゲームに勢いがあって,まだ“俺の嫁の文化”も盛り上がっていましたよね?
4Gamer:
恋愛ADVがもっと身近だった気はしますね。
平山氏:
端的に,ああしたムーブメントをまた起こしたいと思っているんです。現代の恋愛ゲームの主流は,アニメIPなどを恋愛ADV形式に落とし込んだタイトルです。オリジナル作品となるとインディーゲーム界隈をのぞき,フルプライスのカテゴリではほぼ見なくなりました。
それに,会社として専門学校の学生さんたちと話す機会があったのですが,そこで恋愛ゲームや美少女ゲームをやったことがあるかと聞くと,「ブルーアカイブなら」(配信:Yostar)と返されたりもして。
4Gamer:
その場面が想像できる。ジャンルの縮小化は事実でしょうが,要素自体はそうしてあらゆるジャンルに溶け込んでいますしね。
平山氏:
ゲーム市場がこうしたコンテンツ事情になった理由はいくつもあるでしょうし,この状況下でリリースしたからと信頼を勝ち取れるようなものでもありませんが,今だから真面目に向き合いたいんですよね。
だからセイカノでは,過去の名作たちが宿していたような魅力を踏襲して,またジャンルを盛り上げたいと意気込んでいます。
4Gamer:
なら,本作はどんなコンセプトの恋愛ADVなのでしょう。
岩崎氏:
セイカノは“新世代のガールフレンド”を表現するべく,「制服」×「SNS」×「リアルな恋愛」をコンセプトに掲げました。
まずは制服ですが,昨今は「制服ディズニー」や「制服プリ」など,学生服を着ていろいろなところにお出かけする概念があります。
そのため本作でも,3人の制服女子と福岡のいろんなデートスポットにお出かけする,という体験をしてもらいたいと考えました。
4Gamer:
なかなか練られているんですね。いや制服って,そのワードだけでも戦える力強さですし。次のSNSに関してはどうでしょう。
岩崎氏:
SNSは今どき,Instagramのアカウント交換から誰かと仲良くなったり,LINEでデートのお誘いをしたりも当たり前です。これも応用し,ヒロインたちとも作中のSNSでコミュニケーションを取ってもらい,実際の若い子たちのありふれた“青春のドキドキ”を感じてもらいます。
この制服とSNSをかけて,現代の若者らしいリアルな恋愛を楽しんでもらうことが目的ですが,もっと簡単に言うと,かわいい制服女子といろんなスポットでイチャイチャできるゲームです!
4Gamer:
分かりやすい。SNSはゲーム進行にも関わるんですか。
岩崎氏:
セイカノは画面内に選択肢が浮かんでそれを選ぶ,といった従来型のシステムは撤廃して,作中のSNS「コンスタグラム」と「LIME」で“どの子に返信するか”でルートが分岐していきます。
うまく会話できればデートにこぎつけますし,変な返信をしてしまったら予定はご破算になります。とはいえ,ヒロインとの関係がマイナス方向に振れることはないので,安心して進めてもらえます。
ゲーム全体のサイクルとしても,共通ルートでヒロイン3人のいずれかと密に仲良くなると,個別ルートに突入し,そこからデートの日々を繰り返してエンディングにたどり着くといった設計です。
4Gamer:
いわゆるハーレムルートは?
岩崎氏:
ありません。
4Gamer:
では,共通ルートで平等に手出ししたら?
岩崎氏:
テーマが純愛なので,複数人を同時攻略しようとする軽い感じのプレイでは誰とも付き合えずじまいで,痛い目を見ます(笑)。
4Gamer:
純愛派も安心ですね。それと聞くほかないのですが,資料のイラストを見る感じ,年齢のレーティング的なものは,つまりどうでしょう。
杉本氏:
……だいぶギリなほうですね(笑)。
ただ,ビジュアル表現は元アイキスチームがこだわってきた部分ですので,お叱りを受けないギリギリのラインを攻めようとしているのはそのとおりです。あまりに攻めたシーンなどは,最初にAパターンとBターンを用意して,怒られたらリビルドしようという魂胆で……。
4Gamer:
企画屋のやり口ですね。
続いて,3人のヒロインについて教えてください。
岩崎氏:
同級生の「許斐ゆい」は,元気で明るい女の子です。趣味がゲームや釣りなど,どちらかというと男の子っぽいことを好いています。
彼女は無意識に愛想を振りまくタイプというか,「コイツ,俺のこと好きなんじゃ……?」って勘違いさせてしまう系の女子と言えます。
平山氏:
すごく分かりやすい説明だな(笑)。
岩崎氏:
下級生の「玉依ひまり」は,マイペースな女の子です。SNSに自撮りをあげまくる現代っ子であり,変なマスコットなどが好きな不思議ちゃんの一面もあります。主人公に懐く理由も“推し”だからです。
それと彼女は謎解きが好きで,一緒にいると唐突にクイズを出してきます。これらの問題は,謎解きクリエイターさんに依頼して制作してもらった本格的なものですので,そういうのが好きな人はぜひ。
4Gamer:
キャスト陣もみんな「変な子です」って言ってました。
岩崎氏:
最後に,上級生の「八尋実桜」は,福岡で活動中のモデルさんです。けれど,気取ったオーラを放っているわけでもなく,主人公には積極的にグイグイきてくれる女神みたいな女の子です。
というのも,彼女はコスプレ趣味を隠しているのですが,関係の始まりが“コスプレ写真を主人公に誤爆した”ところからなので。
それと,サイズも一番大きいです。
4Gamer:
審査の最難関ですかね。
杉本氏:
ひまりも意外と怖いんですけどね……(笑)。
岩崎氏:
その話だと,次の特徴がまさに今後の大仕事なのですが,ヒロインたちには「推しシーン」というイベントがあります。
そこでは男心を揺さぶるフェチなシーンをたくさん用意するつもりで,例えば「肩車で太もも」「汗の臭いを気にする」や,僕が推した「歯磨きをしてあげる」など,ただ女の子と触れるだけじゃない,誰かのなにか深いところに刺さるようなシチュエーションをそろえていきます。
4Gamer:
深くは反応しませんが,なるほど。絶妙な。
岩崎氏:
セイカノは全年齢向けとしていろいろな層の方々に遊んでもらいたいと思っているものの,正直,それと同じくらい「この作品で性癖を歪めてほしい……!」といった気持ちも強いです。だから推しシーンをなるべく充実させて,なにかしら刺さってくれればなあと。
4Gamer:
正直でいいと思います(笑)。
平山氏:
それとセイカノにはタッチ要素「スキンシップタイム」があります。この時間中は,なにかに困っている女の子に触れるなどして,助けたときのリアクションを楽しんでもらえます。
虫刺されに薬を塗ってあげる,両手が空いていないから支えてあげるなど,いかがわしくはないけど色っぽい状況を目指しました。
4Gamer:
プラットフォーム的に,基本装備で該当するのはSwitchだけかなと思いますが,スクリーンタッチによる操作への対応は?
平山氏:
一部機種はできるようにするつもりです。
岩崎氏:
このほかサブキャラクターとして,都会で主人公をこっぴどく振った張本人にして,「でも実は……」といった女子など,サブキャラクターもいますね。こちらはタイトル発表後に随時公開していきます。
4Gamer:
ではもう一点,舞台を「福岡」にした理由はなんですか。
岩崎氏:
まず前提として,リアルな恋愛模様を描くなら,架空の場所よりも実在の場所のほうが現実味を帯びるだろうと考えてのことです。
それと平山やシナリオライターさんなど,九州に縁のあるメンバーが多かったので,細部まで作り込みやすかったのも一因です。
平山氏:
都会とも田舎とも近く,かつそれほど移動せずとも光景が様変わりするコンパクトシティという点でも,福岡にしたのはゲーム的に最善でした。私やライターがよく知る場所ということで,ロケーションのみならず,名物の食べ物などもふんだんに取り入れられましたし。
岩崎氏:
ストーリーの大筋も,高校2年生の主人公が都会で失恋をし,とあるきっかけで福岡に引っ越すと,そこで博多美人などと呼ばれる福岡のかわいい女の子たちと出会い,恋愛に発展するといった流れです。
ただし,作品としてはシナリオ重視で感動してもらうといった類いではありません。あくまで“女の子とデートする”ことに焦点を当てているので,舞台背景はあくまでスポット的な役割となります。
4Gamer:
そうなると,多くの恋愛ゲームファンが想起するのはやはり,KONAMIの「ラブプラス」。会話や触れ合いの操作システムを主軸とした体験になると思うのですが,ゲームプレイはどんな感じになりますか。
平山氏:
実のところ,デート中はあまりシステムチックにはしていません。そういうのが今でも受け入れられる可能性はありますが,現代の若い層に刺さるかというとなんとも言いがたく。あと,凝り方次第では作業ゲーな印象を生みかねませんので。それがここ3人の見解です。
なので「どこにデートに行くか」の予定をLIMEで組むシステムから先,デート中は女の子との会話や素顔を眺めることに重きを置きました。それとこだわりとしては,電車での移動中,「この駅でこんな話をした」といった情報が視覚的に分かるタイムラインを用意しており,目的地に到着するまでのワクワク感を味わえることです。
4Gamer:
なら,デート中はそんなに考えることもなしで?
平山氏:
いえ。ゲーム攻略的な要素として,お出かけ中のミッション次第で,デート後にさらなる「アフターデート」に行けるようになります。
こちらは別れ際にもっとイチャイチャしたいときの心情をくんだご褒美的な内容で,“ちょっと大人な感じ”に仕上げました。
それと,デート後にSNS経由で女の子からの連絡がくるので,「今日は楽しかったね」「今度はどこ行こっか」などの交流も楽しめます。
4Gamer:
デートは,個別ルートに入ってから何回くらい行けるのでしょう。
岩崎氏:
まだ調整中ではありますが,今のところは“6回くらい”を想定しています。一応,お付き合いする前もデートに誘えますが。
4Gamer:
「また同じ場所ぉ?」ってな行き先のかぶり問題などは。
岩崎氏:
毎回違う場所に行けるくらい,たくさんのスポットを用意しています。それに,同じ行き先でも女の子ごとに反応は違いますし,「付き合う前に行った場所に,付き合ったあとに行くと,当時の思い出を語ってくる」など,そうした意図で同じ場所に行く意味がありますね。
4Gamer:
1周クリア時点で,個別ルートは網羅できますか。
杉本氏:
古典的なやり方ですが,選択肢ごとにセーブ&ロードで確かめていけば可能です。逆に,普通の通しプレイではすべてのイベントを見るのが難しいので,1人の女の子と何周も付き合ってもらいたいです。
4Gamer:
おおむね全体像が見えてきました。さて,そのうえで。
セイカノは,過去にあった名作群のような魅力を蘇らせ,新たな盛り上がりを築きたいとのことですが,それが刺さるのは30代〜40代の男性層なのかなと思います。しかし話を聞いている限り,若い層へのターゲティングも意識していますよね? そのへんはどうでしょう。
岩崎氏:
僕としては,メイン層はやっぱり恋愛ADVの経験者ではありますので,まずはその人たちが満足できるクオリティを目指してきました。
そのうえでですが,僕と近い年代の人たちにも手に取ってもらえるような作品作りを意識しているのは事実です。
4Gamer:
というと,失礼ですがご年齢は?
岩崎氏:
21歳です。あっ,来月で22歳です。
4Gamer:
お若い。失礼を重ねますが,なぜエンターグラムに?
岩崎氏:
18歳のころ「リプキス」にハマったからです。それまでは恋愛ゲーム自体やったことがなくて,そういうのがめちゃくちゃ好きな友達に勧められた結果,18歳でどハマりし,そのまま弊社を志望しました(笑)。
4Gamer:
正しい沼への入浴方法ですね。なら社内的にも若い側ですか?
岩崎氏:
僕が入社したときは,同期と合わせて2人で一番下の世代でした。ですが,入社翌年にさらに若い子が2人,3人と入ってきて,会社全体が一気に若くなってきたというか,平均年齢も下がった気がします。
4Gamer:
会社としてはいい風ですね。上の世代の考えはどうでしょう。
平山氏:
まず私自身,「若い子向けの市場のことは分かりますか?」と言われたら,知識で答えられても,もはや実感として分からなくなってきています。ですからこのゲームも,会社の若い子たちに話を聞いたり,彼らの知り合いにヒアリングしてもらったりして,“現代の恋愛模様”を取り上げるならなにを取り入れるべきかを精査してきました。
もっとも,私は今回,岩崎のような若手が活躍するための土台を組み,最終的な確認と責任を持つのが仕事です。セイカノを制作する以上,上の世代はこうした役割に終始するべきだろうとの考えで。
4Gamer:
それもまたいいことだと思います。ちなみに,最近は若者の恋愛離れ的なニュースも多いですが,そのあたりの考えなどは。
平山氏:
昨今はニュースなどで「恋愛にはリスクがある」といった考えをよく目にするようになりました。それだけで恋愛離れを断じるつもりはありませんが,今の時勢で送り出す以上,「セイカノならリスクなく,プラスしかない恋愛体験ができます!」と推したいと考えています。
本作で誰かに「恋愛っていいな」と思ってもらえたら本望です。
4Gamer:
この作品を若者に届けるための広報戦略もあるんですか。
平山氏:
弊社の広報体制はこれまでTwitter(現X)くらいでしたが,今回からInstagramやTikTokでも情報を発信していきます。
同時に,ヒロインの3Dモデルをモーションセンサー方式で踊らせるダンス動画など,今どきの伝え方もしていく予定です。
それと,例えばゲーム配信ですが,「恋愛ADVはネタバレになるから配信NG」などと制限するのではなく,より多くの人たちに気軽に見て楽しんでもらえるような仕組みを模索しているところです。
4Gamer:
直近だと,東京ゲームショウ2023の出展はいかがでしょう。
平山氏:
弊社ブースは主に3作品の出展します。セイカノは「学校の教室」をイメージしたセットで,作中の制服を着たコンパニオンの方々に“各ヒロインのラブレター”を手渡ししてもらう予定です。それを写真で撮ってSNSにあげてくれた人にはさらに特典も用意します。
ほかのタイトルだと,「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき」のTGS版の実機プレイと,さらなる新作タイトルの映像をお披露目します。こちらはこれまでと毛色が違う作品ですが,“おそらくビックリするスタッフさんが制作中の作品”ですので,ご期待ください。
4Gamer:
それでは最後にあらためて,セイカノにかける意気込みを一言。
平山氏:
恋愛ゲームの存在は時代に関わらず,不朽の鉄板ネタだと思います。世の中のコンテンツ事情がソーシャルゲームやVTuberにシフトして,もう恋愛ADVではドキドキできなくなる,なんてことは絶対ないです。
数々の名作が私たちに大きな影響を与えてくれたように,今度は私たちが次の世代に届けたい。そんな思いが芯にあります。
今の恋愛ADVは市場におけるシェアが薄くなっていますが,それゆえに台頭できるかもしれない。私たちは「アイキス」や「あくありうむ。」の流れがあったから,会社としてコンシューマでフルプライスの恋愛ゲームを作れていますが,今もまだチャレンジです。でも,チャレンジ権を得たからには勝ちにいきたい。それくらいの意気込みでいます。
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