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2023秋の注目作「六華」をプレイ。“上下”があるドミノ牌を使って3種類の役の成立を目指す,麻雀風モダン伝統ゲーム
アークライトゲームズ「六華」製品ページ
欲望が連鎖する,シンプルかつジレンマたっぷりの新世代麻雀
独自のドミノ牌を用いて遊ぶ「六華」は,麻雀のゲーム体験をシンプルに圧縮しつつ再構築したという作品だ。ゲームデザインを担当したのは「タイガー&ドラゴン」を手掛けた橋本淳志氏で,最大5人でのプレイに対応している。
基本的な手順は麻雀と同じで,手番が来たら共有の場から牌を引き,手牌の中で役が揃っていれば“完成”を宣言して点数を獲得できる。ただ点数を取り合う要素はなく,誰よりも先に10点以上に達したプレイヤーが勝者となる。
最大の特徴は,ドミノ牌の形状を活かした役の作り方だ。本作の牌には1〜6までの数字を示すアイコンが,1つの牌に2つずつ描かれており,いずれの役にも“数字の上下”が条件に含まれている。
例えば,最高得点となる役「六華」を達成するためには,下の数字を1種類に揃えつつ,上の数字を1〜6までの連番に並べる必要がある。手牌の上下や並びはいつでも自由に変えられるので,手牌がどの役に近いのかを考えつつ,ゲームを進める必要がある。
名称 | 点数 | 条件 |
---|---|---|
一色 | 1点 | 手牌の下の数を1種類に揃える。上の数は参照しない。 |
三連 | 3点 | 「上の数が連番,下の数が1種類」の条件を満たした3枚のセットを2つ揃える。 |
六華 | 6点 | 手牌の下の数を1種類に揃え,上の数を1〜6までの連番に並べる。 |
特殊ルール | ||
ボーナス | 1点 | ★マークが描かれた牌,1枚につき1点。ボーナスは役ではないためアガれない。 |
役はわずか3種類だが,遊んでみるとこの条件設定の絶妙さに驚かされる。それぞれの役の条件が少しずつ重なり合っているため,手牌のちょっとした変化で射程範囲に入る役が移り変わっていく。
例えば「一色」を狙って“下3”を5枚まで揃えたとしよう。手牌は手番開始時に1枚引いた時点で全6枚なので,その中には3以外の数字が7個あることになる。その残った7個の中に“同じ数字”が2枚以上あるなら,組み合わせ次第で「三連」も十分に狙える手牌だ。わずか1点だった手が,一気に3点を狙える手に化けるわけだ。
もし6枚目の3を引いてきたとしてても,すぐに完成を宣言する必要はない。「六華」と「一色」は“下の数字を揃える”という条件が共通しているので,上の数字の並び次第では欲張ってより高得点を狙うこともできる。この構造が,ついつい欲張ってしまう感覚をうまく演出しているように感じられた。
こうした欲望をさらに加速させるのが,共通の場から牌を引くときのルールだ。本作では場に無造作に伏せて並べられた牌から,好きなものを自由に選んで引けるのだが,重要なのは捨牌の処理にある。
本作では,捨牌は共有の場(いわゆる“河”)に表向きに置くルールだが,牌を引くときはこの“河”の牌も選択の対象となる。つまり,誰かが捨てた牌であれば,特定の数字の牌を狙って拾ってこれるのだ。
3つの役はいずれもそれなりに条件が厳しいが,このルールの存在によって,一気に役が成立しやすくなる。先の例で言えば,手牌を強力な役に組み替えるにあたって必要な牌が場にあるなら“欲張る”動機にもなりえる。
1つの牌が持つ情報量がけっこう多いので,成立する役を探す感覚はパズルゲームにも近い。手牌と場を眺めて「もっと強い役いけるかも!」という組み合わせを見つけられると,ついつい嬉しくてこの“ひらめき”に引っ張られてしまう。
一方で,捨牌を拾うということは,どんな牌を集めているのかを相手に知らせることにもつながる。今回の試遊ではそこまで考えが至らなかったが,強い役を狙っていそうな人がいたら素早く「一色」でアガったり,相手が必要そうな牌を先回りして取ったり,といった戦略も重要になるだろう。
また,本作には「ついでに完成」と呼ばれる珍しいルールも用意されている。これは,自分以外の誰かが“完成”を宣言したとき,手牌と場の牌を使って役を成立させられる場合,自分も同時に“完成”を宣言できるというもの。試遊でこのルールが発動することはなかったが,慣れてきたらこれを使って保険をかけつつ,手を伸ばすこともできそうだった。
今回の試遊時間は短かったが,ルールの量がかなり少なく,すべての要素が直感的に理解できる範囲に収まっていることもあってか,短時間でも想像以上に深い読み合いを楽しめた。また個人的には,麻雀のハードルの高さを取り除いただけでなく,牌の上下入れ替えによるパズル的な要素をはじめとして,しっかり新しい体験を味わえるゲームになっていたのも面白い。
そのうえで,きちんと麻雀的な読み合いもキッチリと織り込まれているので,麻雀を知らない人にとっては「新作ゲーム」として,麻雀好きにとっては「新感覚シンプル麻雀」として,幅広いプレイヤーに受け入れられる作品になりそうだ。
なお本作を手掛けた橋本淳志氏は,「ごいた」の再構築を目指した「タイガー&ドラゴン」のゲームデザイナーということで,本作もまた“伝統ゲームの再構築”というアプローチから生まれた作品かと思ったのが,取材に応じてくれたアークライトの野沢邦仁氏によると,そうではないようだった。
氏の話よると,本作の企画はふらっとゲームスの尾根ギア氏との雑談が発端だったという。当時はリゴレがドミノ関連のゲームを発売していた時期で,そこから着想を得たのが六華だったとのこと。
ただ,当初はシリーズ化を想定していなかったそうだが,野沢氏は「タイガー&ドラゴン」や「六華」の流れを“モダン伝統ゲームシリーズ”と位置付けているとのこと。新たな展開を続けていく意思はあるようで,本作の評判が良ければ,モダン伝統ゲームシリーズのラインナップが増えていくとも十分あり得そうだった。
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