企画記事
「GUITAR LIFE -LESSON1-」は思っていたよりしっかりギターだった。HORIのSwitch用ギター練習ソフト&コントローラの“試奏”をレポート
ギター型の専用コントローラでギターの弾き方を学べるという商品で,2月21日に配信された任天堂の新作情報番組「Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ 2024.2.21」で発表され(関連記事),どのような商品か気になっていた人も多いはず。かくいう筆者もそのひとりだ。
そして「面白そうだな」と思ったと同時に疑問もわいていた。
それは「本当にこれでギターが弾けるようになるのかな?」ということ。筆者は10代のころにパンクバンドを結成するという親不孝(?)を働いて以来,20年以上ギターに触れてきているが,「ボタンを押す的な操作のコントローラだとしたら,コードを覚えるだけならまだしも,弦を押さえてそれをピックや指で鳴らすという動作の力加減やコツを掴むのは難しいのでは?」と思ったのだ。
実際のところどうなの? それを知るには試すのが一番だ。ということでHORIの事務所にお邪魔し,楽器屋でギターの試奏をするかのごとくギターライフを体験してきた。
「GUITAR LIFE -LESSON1-」公式サイト
思っていたよりけっこうしっかりギターだ。コントローラの仕上がりは経験者ほど「ほほぅ」となるかも
ぱっと見変わった形状をしているギター型コントローラだが,実際に抱えてみると「あっ,なるほど。そういう意味か」というのが分かった。
これは持ち込んだギター(Fender テレキャスター)と比較してみると一目りょう然だが,まさにボディの作りが,足に乗せる部分になるくびれ,指やピックで弦を弾くとき右腕の支えや軸になる部分という,座りで弾くとき身体に触れるところを残しつつほかを簡略化/軽量化されたデザインだというのが分かる。
そして筆者が一番気になっていた部分である“弾いたときのギター感”について確認してみることに。冒頭でも少し触れたが,ギターは「フレットで弦を押さえる」「指やピックで弦を弾く」という動作で音を鳴らす楽器であり,その両方の力加減やコツを掴まなければならない。
本物のギターの弦はけっこう硬く,フレットを押さえるにはそれなりの力が必要で,ピックの持ち方や弦への当て方次第では弦を弾いたとき逆に弾かれてしまう。ボタン操作的にただ押す/当てるだけでは,コードの押さえ方を覚えられてもギターを弾く感覚は得られないのではないか? そこのところ,どうなのでしょう?
なんて鼻息を荒げてクンクンになりつつあらためてギター型コントローラ持ち,コードを押さえてみると……おやっ。これまたけっこう,ギターの弦を押さえている感があるぞ?
そしてピックでジャラーンと音を鳴らしてみる。おおっ。弦を弾いていた感覚と,その力がピックに反動している感覚がある。フレット(コードを押さえるほう)とボディ(ピックで弾く方)のどちらもほどよく柔らかくも芯がある材質で,弦を押さえるときに必要な力と押さえたときのちょっと痛い感じ,ピックが弦に当たったからではなく“弾いてから音が鳴る”感じが再現されているのを感じる。
わざと変なピックの持ち方をしてストロークしようとすると,きれいに全部の弦を鳴らすのは難しいし,逆にピックが弾かれそうにもなった。太さは6弦とも均一なので実際のギターとは違うものの,なかなかにギターをかき鳴らしている感がある。
ここからはレッスンに挑戦。レッスンの基本は,リズムゲームのようにノートに合わせて指定されたコードを押さえて音を鳴らすというもので,レッスンを重ねるごとに課題曲の難度が上がり,使用するコードが増えていく。
レッスンで「なるほど」と思ったのが,ひとつめのレッスンがコードを押さえる“だけ”だったことだ。確かにギターに慣れていない人にとって,今までやったことがない動作を右手と左手別々でするというだけで難しいことだ。まずはフレットを押さえる感覚,コードを押さえる感覚から掴もうというのはとても優しいと思った。
ちゃんと押さえられているかは画面上に表示されるので,画面で押さえ方を見て,それがちゃんとできているか自分の手元を見る……ということを極力減らせられるのも,レッスンの仕組みとしてとてもいい感じだ。
最初に覚えるコード自体も優しい。中指1本で押さえられるEm7/Bと中指+人差し指の2本で押さえられるAm7という,使う指は全部で2本かつ指の移動も簡単なふたつで,これを交互に鳴らしながらコードチェンジやストロークの基本を繰り返し練習できる。
そこからダウンストローク(上から下に弦を鳴らす),アップストローク(下から上に弦を鳴らす),オルタネイト(ダウンとアップを交互に行う)と段階的にストロークの練習が増えていき,コードも新しいものが加わる。といってもEm7/BとAm7の次はE7(これまたEm7/BとAm7のそばにある,中指と人差し指で押さえられるコード)というように,いっぺんに複雑なコードが増えることはない。
ギター初心者の難関として立ちはだかるものにFコードがあるが,このFを代表とするバレーコード(人差し指1本で複数の弦を押さえるコード)にいきなり出会って打ちひしがれることがないというわけである。
ミスしてもそのまま曲が流れていかずに止まってくれるのが,これまた優しい作りだと感じた。ミスしては曲が終わるまで待ち,ミスしたところをうまくできるようまたアタマからやり直す……というのはモチベーションが続かないはず。全体的に,上手にできることを強制されない,音を鳴らす楽しさや,できたときに得られる達成感が大事にされているという印象だ。
初めての人より再挑戦したい人にこそオススメできそう。ミニギター感覚でそばに置いておくのもアリ?
もちろん本物のギターに比べればだいぶ扱いやすい作りになっており,またミュート(コードに不要な弦に軽く指などを当てて音を鳴らさないようにする技術)のようにこのコントローラでは学べないものがある点も気になるが,コードを覚えるだけのツールにはならず,本物のギターに触れる前の慣らしとしては機能してくれそうだ。
“ギター感”があるという話で言えば,まったく触ったことがない人より,一度は挑戦したことがある人や挫折した人の再挑戦にこそオススメできそう。かつてギターを弾いたことが感覚として残っていれば,けっこうすんなりとギター型コントローラを受け入れられるはず。
また,軽くてコンパクトな作りかつ安全にギターの基本が学べるので,子どもにギターを楽しんでほしいという保護者の人にもよさそうだ。
というのも筆者がまさにその保護者のひとりで,ときおり5歳の子どもとギターを弾いて遊ぶのだが,ギターはそのもの自体が重くて硬く,そして弦で指を切ったり切れた弦でケガをしたりする可能性もあるためけっこう気を遣う。ギターを気軽に楽しんでもらうその導入として,ギターライフを投入するのもアリだと感じたのだ。
どちらかと言うと,今までギターに触れたことがないという人より再チャレンジしたい人や「しばらく触れてないなあ」という人のほうが刺さると思った。
ギターのコードを覚えている人であれば,音ゲー感覚でレッスンや課題曲を楽しみながら再練習をしたり自分のクセを直したりといった使い方もできるだろう。指が触れているところが画面上に赤いマークで表示されるところがなかなかのもので,いろいろコードを押さえてみると「なんでこんなとこに指当たってるんだ?」「ピッキングが安定してないなと思ったら,雑なピックの持ち方しちゃってたな……」みたいな自分の手クセの発見があっていい(これ,周りで見られているとけっこうハズカシイ)。
そして個人的に「いいな」と思ったのが,ミニギター感覚でそばに置いておけそうというところだ。ギターライフには「フリー演奏」というモードがある。その名のとおり自由気ままにギターを鳴らして遊べるのだが,これで自由にジャカジャカ弾いているだけでもけっこう楽しい。
ギターを好きになると,常に手に届くところに置いておき,気分でサッとコードを鳴らしたり,なんとなく抱えてテラテラと弾いたりしたくなるもの。だがしかし,家の状況や環境などでなかなかそうもいかないという人もいるだろう。軽くてコンパクトなコントローラ&Switch本体だけで持ち運びが容易かつ気軽に鳴らせるギターライフは,そういった“ギターをそばに置きたい”という欲求にそれ相応に応えてくれそうだ。
では肝心の「ギターを弾けるようになるか?」だが,これについては1時間ほどのお試しでは正直分からないし,今回体験したLESSON1以降がどう展開するかにもよるので判断はできない。そもそもギターと言ってもアコースティック,クラシック,エレキなど種類はいろいろあり,どれでなにを弾きたいのか/なにを表現したいのかみたいなところも人それぞれでまったく異なるからだ。
ただこれだけは言えるのが,「ギターが身近にあることの良さや楽しさを知る入口になるだろう」と感じたということ。
ギターは,知っているコードいくつかを鳴らしているだけでもメチャクチャに弾いても,それがへたくそでもとにかく楽しいものだ。手元にあってちょっと音を鳴らすだけでも,なんだったら抱えているだけでも充足した気持ちやこの世界に対峙する力を与えてくれる。
それだけに難しそう/難しかったで終わってしまうのがもったいない。ギターが近くにあることの良さを多くの人に知ってほしいギター好きの端くれとしては,ギターライフが持つ“ギターを弾く楽しみ”を広く伝えてくれるツールとしての可能性に期待したいと思った。
ギターライフ開発者インタビュー
……なーんて,なんだか堅苦しい締めになってしまいましたが,ギターライフ,シンプルにおもちゃ的な感覚でもすごく楽しいです。実際に触ってみないと分からないものではあるので,いろいろな場所(家電量販店はもちろん楽器屋でも!)で試遊会を開いてもらえるといいな※と思いました。
※2024年3月29日19:05追記
「ぜひ試遊会を!」と書いて記事を掲載した矢先,3月にホリのゲーミングラウンジにて行われていた体験会(関連記事)の追加開催の発表があったことを知りました。期間は2024年4月1日〜2024年4月14日。詳細や応募方法は[こちら]を確認してください
では実際,HORIはどのような考えでギターライフを開発したのか? 本プロジェクトの担当者である第一開発部の村松洋明氏と遠藤将城氏に話を聞きました。
4Gamer:
そもそもなぜギター練習ソフトとコントローラを開発しようと思ったのですか?
村松洋明氏(以下,村松氏):
HORIが周辺機器を開発するときのビジョンとして「ゲームをもっと楽しく」というのがあるんですね。レースゲームであればこんなステアリングコントローラはどうか,格闘ゲームであればこういうスティックはいいのではないかといった,ゲームに向けたデバイスの提案をしてきました。ギターライフはある意味それと逆と言える考えで誕生したものです。
4Gamer:
ある意味で逆ですか。それはどのような考えでしょう。
村松氏:
「こういうコントローラを作りました。これで面白いことができませんか?」という,ゲーム業界への提案をしてみようというコンセプトで動きました。
技術的な話でいうと,SwitchのJoy-Conの拡張機能が,いろいろな可能性を秘めたものなのにあまり使われていないというのがあったんです。著名なものに「リングフィット アドベンチャー」のリングコンがありますが,ほかは本当にわずかしかありません。この機能を使った遊びをもって広めることはできないかと考えたんです。
遠藤将城氏(以下,遠藤氏):
このギターコントローラ自体,とくに複雑な部品を載せたりはないんですよ。Joy-Conでワイヤレス化できるので,とてもエコな作りなんです。
4Gamer:
なるほど。リングコンは「Joy-Conってこういう力加減や動作を伝える機能があるんだ」と驚くものでしたが,確かにああいった使い方のコントローラやデバイスを使ったゲームってあまり出てきていませんね。
それにチャレンジしたということですが,ではなぜギターだったんですか?
村松氏:
まず,HORIがJoy-Conを使ったなにかしらのデバイスを打ち出すというとき,真面目路線といいますか,突飛なものではなく皆さんが親しみのあるものや求めているであろうものを考えるべきだと思ったんですね。
そういった考えでたどり着いたのが,楽器を弾けるようになりたいという人は多いだろうということでした。
遠藤氏:
一番がピアノでその次が弦楽器系でとくにギターは多くて。しかし一方で,ギターを始めた人のおよそ9割が1年くらいで挫折するっていう衝撃の数字もあるんです。
4Gamer:
ああ,それは聞いたことがあります。確かフェンダー社の調査結果ですね。
遠藤氏:
はい。弾けるようになりたいという人がこれだけいるのに,そのほとんどが諦めてしまう。この挫折した人たちを救えるのではないかというのが,ギターに決めた大きな理由のひとつでした。
4Gamer:
開発メンバーはどれくらいギターの経験者がいたんですか?
ギター型のコントローラとそれを使った練習ソフトを作るとなったとき,やはりギターを知らないと分からないことやできないことはあるかと思います。
遠藤氏:
私はまったく触ったことがなく,本当にいちからのスタートでした。
村松氏:
私は学生時代にバンドをやっていたこともありギターは弾いていたのですが,20年以上ほとんど弾いてなくて。ほかのプロジェクトのメンバーも人それぞれですね。私のようにブランクがあるとか,ギターは弾くけどコードはあまり覚えなかったとか,経験があるとしてもどのように触れていたかは人によって違いました。
4Gamer:
ギターをやっているとひとことで言っても,それがエレキなのかクラシックなのかで大きく違いますし,エレキひとつとってもどのジャンルの音楽をやっているかでぜんぜん違いますものね。
遠藤氏:
ええ。そこがギターライフを制作するうえで苦労したポイントでもありますね。コントローラの制作もレッスンの内容も,とにかく事前にひととおり研究したうえで開発をスタートさせようというところから始めました。
村松氏:
ギターコントローラの開発で言えば,とにかくギターをいっぱい買いました。いろいろなギターで弦を押さえるときの押し圧を測ったり,ボディを切断して断面や構造を確認したりしましたね。
4Gamer:
なるほど。実際に触れたときまず驚いたのが,座りで弾く姿勢で足に乗せたときに感じた,ボディのくびれや右腕に触れる部分の“ギター感”だったんですね。そこであらためて本体を見て,そのふたつの箇所を残してほかを削ったデザインなんだなと感じました。
村松氏:
ありがとうございます。ここはギターライフの監修を担当していただいた瀧澤克成さんもこだわっていた部分ですね。少しでも演奏しやすい姿勢や実際にギターを弾いている感覚が掴めるものにするため,しっかりと研究してこの形になりました。
4Gamer:
あとは弦を再現した入力部分ですよね。ただ当てるだけ,ボタンを押すだけでは本当のギターとのギャップがあるので,一体どうなっているのかと思いきや,弾性と戻りのあるギターの弦っぽさのあるものでした。
村松氏:
ここもかなり研究した箇所ですね。素材としてTPUを採用しているのですが,ピックで弾いた感触がしっかり出せたかと思います。
フレットを押さえるところもですね。力加減はもちろんですが,弦を押さえたとき感じる弦の硬さや痛さみたいな部分も出せました。繰り返しテストをしていたら,しっかりと指が固くなりました(笑)。
遠藤氏:
今日は試作品も用意しました。当初からギターの弦を押さえたときの痛さは出そうと考えていて,先端をシャープにして作ったりはしていたんですが,ちょっとそれでは違うなと。シンプルに押しにくかったですし,痛さの質もギターの弦とは違ったんです。
村松氏:
あとは,弦のどのあたりを押さえているかが分かりにくいのもありました。製品版を見ていただくとよく分かるのですが,押さえたときに触感的にフレットが分かるようポコっとふくらみをつけています。
そのほかもいろいろと工夫はありますね。Joy-Conはギターのヘッドみたいに付けると面白いんじゃないかと考えたけど,バランスや重みの観点から邪魔にならないボディ上部になったとか(笑)。
4Gamer:
そういった実際のギターを研究して“ギターらしさ”のあるコントローラを作り上げていったわけですね。ちなみにギター型の電子楽器は研究されたんですか?
有名なものだとInstaChordがありますが,昨今は高い性能を誇るいろいろなギター型の電子機器やMIDIコントローラが出ています。このあたりは参考にされたのかなと。
村松氏:
いえ,今聞いて「そんなにそういうのがあるんですか?」と思ったくらいで(笑)。あくまで実際のギターを研究し,それをどのようにコントローラとして落とし込むかでしたね。
4Gamer:
あとはソフト面で,レッスンがとても丁寧なところも印象的でした。
レッスンの内容こそ,ある程度弾けると初心者がどこでつまづくか理解できないかもしれないし,ギター経験がないとそもそも何を教えるのか分からないという難しさがあったと思います。これはどのように考えたのでしょう。
遠藤氏:
監修の瀧澤さんのアドバイスはもちろん重要でしたが,私たち自身でギター教室に通ってカリキュラムを研究したこともまた大きかったですね。初心者がまず教わることはどこか,どこでつまずくのか。そもそもどういうきっかけでギターを始めたのかまで研究しました。
村松氏:
これは個人差もありますが,レッスンはだいたい90時間ですべてを終わる想定で課題を用意しています。1日1時間課題に取り組めば,3か月で基本的なギターの弾き方を覚えられるというイメージですね。
4Gamer:
最後に,拡張性という部分ではいかがでしょう。今回触ってみた感じだと,今はあくまでコード弾きを練習するためバランスで設定されていますよね。仕組み的には単音で鳴らす調整にしたり,アンプシミュレーターやエフェクターなどで好きな音作りや演奏が楽しめたりすると楽しそうだと思いました。ワウペダルみたいな追加のツールで音を制御したいとか,妄想が膨らみます。
村松氏:
ああ,それは面白いですね。最初にお伝えしたとおり,このコントローラはゲーム業界にSwitchのさまざまな遊びを提案したいという考えで作ったものです。本商品はあくまでギターを練習するための教育ツールですが,コントローラ自体はいろいろな使い方を考案できる作りになっています。
私たち自身でもいろいろとやってみたいことはありますが,でもまずはギター練習ソフトとしてしっかりとしたものをユーザーの皆さんに届けることが重要ですね。
4Gamer:
ギターを嗜むものとして,ギターライフを通じてギターが生活の一部になるようなギター好きが増えると嬉しいです。今後の展開に注目しています。本日はありがとうございました。
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