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Zen 5世代のミドルクラスCPU「Ryzen 5 9600X」は,6コア級で最高のゲーム性能と電力効率が見どころだ【レビュー】
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印刷2024/08/07 22:00

レビュー

6コア級で最高のゲーム性能と電力効率が見どころだ

AMD Ryzen 5 9600X

Text by 米田 聡


 新CPUアーキテクチャ「Zen 5」を採用するデスクトップPC向けCPU「Ryzen 9000」シリーズの第1弾として,8コア16スレッド対応の「Ryzen 7 9700X」と6コア12スレッド対応の「Ryzen 5 9600X」の2製品が8月10日に発売となる。もともとは,上位モデルと一緒に7月末に発売となる予定だったが,「品質基準を満たさなかった」という理由によって遅れていたものだ。

 本稿では,第1弾のうち,エントリー市場向けのRyzen 5 9600Xを,前世代や主要な競合と比較した結果をまとめていく。解像度3840×2160ドットや2560×1440ドットでゲームをプレイするなら,6コアクラスCPUでもボトルネックになることはほとんどない。物価高の昨今,「なるべくGPUにコストをかけたい」というゲーマーにとって,6コアクラスは価格対性能比に優れた選択肢となる。

Ryzen 5 9600X
メーカー:AMD
税込メーカー想定売価:5万4800円(※2024年8月7日現在)
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 今回はテスト期間の都合もあり,Ryzen 5 9600Xのゲーム性能のみをテストしてみた。はたしてRyzen 5 9600Xはゲーマーにとって良い選択肢になるだろうか。


UEFIさえ対応していれば従来と同様に使えるRyzen 5 9600X


 Ryzen 9000シリーズとは,既存のRyzen 7000シリーズと同じSocket AM5プラットフォームを採用しつつ,新しいZen 5アーキテクチャを採用することで,クロックあたりの命令実行数(Instruction Per Clock,IPC)を従来比で16%も引き上げたCPUだ。Zen 5における改良点の詳細は,西川善司氏の記事を参照してほしい。

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 AMDの新世代デスクトップPC向けCPU「Ryzen 9000」シリーズが,7月31日に発売となる。本稿では,米国で行われた技術説明会の内容をもとに,Zen 5マイクロアーキテクチャの解説と,Ryzen 9000シリーズの注目ポイントを紹介していこう。

[2024/07/23 08:00]

 Ryzen 5 9600Xと今回のテストで比較対象とするCPUの主なスペックは,表1のとおりだ。

※1:Core i5-14600KはP-Coreの動作クロックを示す
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CPU-ZでRyzen 5 9600Xのスペックを確認したところ
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 前世代である「Ryzen 5 7600X」との違いは,まずベースクロックが4.7GHzから3.9GHzに引き下げられた。その一方で,ブースト最大クロックは5.3GHzから5.4GHzに引き上げられている。TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は,105Wから65Wへと大幅に引き下げられており,「Default Socket Power」(略号はProcessor Power Tracking:PPT)は142Wから88Wへ,CPUに供給する最大電力を意味する「Max Socket Power」も288Wから230Wへと,それぞれ大幅に引き下げられているのが目立つ点だ。
 ベースクロックの引き下げは,TDPを始めとする消費電力の引き下げにともなうものと考えられる。Ryzen 5 7600Xに比べると,Ryzen 5 9600Xは電源ユニットの選択や冷却システム面で,かなり扱いやすくなったと見ていいだろう。

 それ以外の表面的なスペックには,それほど大差がなかったりもするのだが,アーキテクチャ上の改良が行われているので,内部はだいぶ変わっているくらいの理解でいいだろうと思う。

 Ryzen 9000シリーズは,Socket AM5向けの既存のチップセットである「AMD 600」シリーズに対応している。AMDは,Ryzen 9000シリーズに合わせて新チップセット「AMD 870」シリーズを発表しているが,本稿を執筆している時点では,新チップセットを搭載するマザーボードは出回っていない。

 AMD 600シリーズにおいては,UEFI(BIOS)に含まれているCPUのファームウェア「AGESA」のバージョン「1.1.7.0」で,Ryzen 9000シリーズに対応したとのこと。AGESA 1.1.7.0は2024年4月にリリースされているので,UEFIをアップデートすれば,ほとんどすべてのAM5マザーボードが,Ryzen 9000シリーズを少なくとも起動できると考えていいだろう。
 また,PCパーツショップなどで売られているAMD 600シリーズ搭載マザーボードも,古い在庫品でない限り,Ryzen 9000シリーズを取り付ければ少なくとも起動するレベルにあることが期待できそうだ。新たにマザーボードを購入する計画ならば,Ryzen 9000シリーズ対応済みかを確認しよう。
 AMDは,4月のリリース以降もファームウェアの最適化による性能向上を進めており,本稿を執筆している時点では,「AGESA 1.2.0.0a Patch A」というバージョンの使用を推奨している。新規にAM5マザーボードを購入するのならば,このバージョン以降のAGESAを含むUEFIアップデートが,マザーボードメーカーから提供されているかどうかもチェックしておくといいだろう。

 なお,チップセットドライバおよび統合型GPU用ドライバは,Ryzen 9000シリーズ対応のものが必要だ。筆者は,AMDがレビューワー向けに提供したドライバを使用しているが,発売に合わせて,正式版がリリースされるだろう。


Ryzen 5 9600Xのオーバークロック状態を含めてライバルと比較


 テストの説明に移ろう。
 本稿では,Ryzen 5 9600Xの比較対象として,前世代のRyzen 5 7600Xと,Intelの第14世代Coreプロセッサにおける6コアクラス「Core i5-14600K」を用意した。
 Ryzen 5 9600Xでは,オーバークロック設定も試している。Ryzen 9000シリーズでは,従来型の手動および自動オーバークロック,そしてマザーボードの電力リミットを引き上げるオーバークロック機能「Precision Boost Overdrive」(以下,PBO)に加えて,新たに「Curve Shaper」と呼ばれる新しい機能も加わった。
 Curve Shaperは,Ryzen 7000X3Dシリーズに搭載されていた「Curve Optimizer」を進化させたもので,温度と負荷の領域に対して電圧オフセットを設定できる。たとえるなら,エンジン制御ユニット(ECU)における3次元マップチューニングみたいなものか。ECUにおける燃料噴射量が,電圧オフセットというイメージだ。

 Curve Shaperを使えば,高度かつマニアックなオーバークロックが可能になる。ただ,今回はそこまで試す時間がなかったことに加えて,ゲーマーが時間をかけて取り組むべきオーバークロックとは思えないので,Curve Shaperは試していない。
 代わりというわけではないが,従来からあり,ゲーマーでも比較的気軽に試せるオーバークロック機能であるPBOでテストしてみた。電力リミットをマザーボードの上限まで引き上げて,かつEXPOメモリプロファイルを適用するというPBO設定を今回は採用している。

AMD純正オーバークロックツール「Ryzen Master」による今回のPBO設定
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 テストに使用した機材は表2のとおり。

※クリックすると詳細版を表示します
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X670E AORUS PRO X
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 マザーボードには,AMDからリファレンス機材として提供を受けたGIGA-BYTE TECHNOLOGY製のAMD X670E搭載マザーボード「X670E AORUS PRO X」を使用している。
 メインメモリの設定は,メモリモジュールのEXPOプロファイルで統一。また,CPUクーラーには,いつもどおり,360mmの大型ラジエーターを備える液冷クーラー「ROG RYUJIN II 360」を使用したうえ,今回は積極的に冷却を行う「Turbo」プリセットで統一した。

 実行するベンチマークテストは,4Gamerベンチマークレギュレーション29に順じるが,今回はCPUのレビューであるため3DMarkと各ゲームタイトルにおける画質設定を変更している。

 3DMarkでは,次期レギュレーションを先取りする形で,新しいDirectX 12向けベンチマーク「Steel Nomad」と,描画負荷が軽いためにCPUの性能差が出やすい「Steel Nomad Lite」を加えた,その代わり,旧世代のDirectX 12テストである「Time Spy」は今回省略し,Time Spyの「CPU test」に変えて,「CPU Profile」テストを採用している。これは3DMarkの開発元であるUL Benchmarksが推奨している方法だ。
 また,ベンチマークテストとしてはかなり古く,CPUの性能を反映しづらい「Fire Strike」に関しては,Fire Strike“無印”のみをテストして,Fire Strike ExtremeおよびFire Strike Ultraは割愛した。

 ゲームテストの解像度は3840×2160ドット,2560×1440ドット,1920×1080ドットの3種類で行い,画質は高負荷よりの設定を採用する。ただ,すべてのタイトルで超解像技術を用いて,描画負荷を低減させていることに注意してほしい。描画負荷が低いほどCPUがボトルネックになるので,CPUの性能差が出やすいためだ。それぞれの設定については,各タイトルで触れたい。


ゲーム性能は前世代よりわずかに高く競合を上回る


 以下で示すグラフ内では,Ryzen 5シリーズはそれぞれ「R5」,Core i5-14600Kは「Core」を省略していることをお断りしておく。
 「3DMark」(Version 2.29.8282)から見ていくことにしよう。今回から初登場となるCPU Profileテストでは,CPUによる物理シミュレーションが実行される。「Max threads」から「1 thread」まで6パターンで行うもので,Max threadsは,CPUが同時実行可能な最大スレッド数で実行するものだ。つまり,Ryzen 5 9600XとRyzen 5 7600Xは12スレッド,Core i5-14600Kでは20スレッドとなる。
 16 threadsでは,6コア12スレッドのRyzen 5 9600XとRyzen 5 7600Xで同時実行可能なスレッド数を超えてしまうので,スコアにはOS側スケジューラのオーバーヘッドが上乗せされていると理解していい。つまり,Ryzen 5 9600XとRyzen 5 7600Xにおける16 threadsの結果は参考値で,CPU性能が正しく反映されるのは,8 threads以下のテストとなる。

 CPU Profileテストの結果をまとめたのがグラフ1だ。

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 以上を踏まえて結果を見ていくと,まずRyzen 5 9600Xは,前世代のRyzen 5 7600Xに比べて,着実に性能を上げてきたことが見て取れる。Ryzen 5 9600Xのスコアは,Ryzen 5 7600Xに対して約11〜19%程度の向上しており,Ryzen 5 9600X(PBO)になると,約12〜18%向上という結果になった。AMDが主張するIPC向上率は16%で,ブースト最大クロックの差は100MHzしかないと考えれば,妥当なところと言えるだろう。
 PBOの効果は,あまりはっきりしない。Max threadsや16 threadsでは多少の上乗せできているようだが,それ以外ではむしろ,足を引っ張っているのではと思える。従来のRyzenでも,PBOによるオーバークロックは目覚ましい性能向上が得られるというものではなかったので,その点は変わっていないようだ。

 Max threadsや16 threadsでCore i5-14600Kが圧倒するのは,コア数および実行可能スレッド数がまったく違うので予想どおり。面白いのは,2 threads以下だとRyzen 5 9600XがCore i5-14600Kを逆転している点だ。1 threadsではCore i5-14600Kに対して約13%も高いスコアを記録している。
 Core i5-14600KのP-coreにおけるブースト最大クロックは,Ryzen 5 9600Xと100MHzしか変わらないので,シングルスレッドの性能は,Ryzen 5 9600XのほうがCore i5-14600KのP-coreに比べて,有意に高いと結論していいだろう。

 スレッド数が増えるとCore i5-14600Kに及ばなくなる理由は,今回詳細な調査が出てきていないので何とも言えない。スレッド数を増やすとクロック周波数が押さえられてしまうとか,あるいはRyzen 5 9600Xのマルチチップ構成によるオーバーヘッドなど,さまざまな可能性が考えられる。
 以上の結果から,Ryzen 5 9600Xは,前世代のRyzen 5 7600Xに対して1割を超える性能の向上をはたしているようで,AMDが主張するIPC 16%向上は,おおむね妥当そうだと言える。その結果,シングルスレッドでは第14世代CoreプロセッサのP-coreを超える性能を実現しているようだが,スレッド数が増えるとCore i5-14600Kに及ばないようだ。

 続くグラフ2は,Fire Strikeの総合スコアとGraphicsおよびPhysics scoreである。

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 CPU性能を測るPhysics scoreに注目すると,Ryzen 5 9600Xのスコアは,前世代のRyzen 5 7600Xに対して約12%,Ryzen 5 9600X(PBO)は約13%の向上と,CPU Profileの結果から見てもおおむね妥当な向上を示している。
 ただ,Physics scoreは,実行可能スレッド数が20に達するCore i5-14600Kが最も高いスコアを記録した。結果として,総合スコアでもCore i5-14600Kが比較対象に比べてやや高い結果になったわけだ。

 GPU性能を測定するGraphics scoreだと,なぜかRyzen 5 7600Xが他に比べて有意に高く,Ryzen 5 9600Xをも上回っている。理由は不明だが,以前からFire StrikeのGraphics scoreはPhysics scoreと逆相関が見られ,それが今回も出ているのかなという印象がある。

 グラフ3は,DirectX 12ベンチマークであるSteel Nomadの結果をまとめたものだ。

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 描画負荷が高いSteel Nomadは,ほとんど横並び。GPUのスループットがスコアを制約しているためだ。一方,描画負荷が軽いSteel Nomad Liteでは,若干だが有意な差がついており,トップはRyzen 5 9600X(PBO)で,ついでRyzen 5 9600Xと順当な結果になった。UL Benchmarksによると,Steel NomadではCPUによるGPUへのコマンド発行スループットがスコアに反映されるとのことなので,Ryzen 5 9600Xが前世代や競合よりも高い性能を発揮したわけだ。これは,ゲームにおいてRyzen 5 9600Xの性能が期待できるということでもある。

 グラフ4は,DirectX 12 Ultimateの性能を測る「Speed Way」の結果だ。

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 Speed Wayは,レイトレーシングを含む極めて重いグラフィックスを描画するので,GPUがフレームレートを左右する。CPUはほとんどボトルネックにならないので,ほぼ横並びという順当な結果だ。強いて言えば,Core i5-14600Kがほかよりやや低いが,誤差範囲のようなものだろう。

 というわけで,3DMarkの結果を見る限り,Ryzen 5 9600Xは,AMDが主張するとおり前世代からの性能向上をはたしているうえ,Core i5-14600Kに比べてSteel Nomad Liteで有意に高いスコアを記録したことから,ゲーム性能を期待できそうだとまとめていいだろう。これを踏まえたうえで,ゲームの性能を見ていきたい。

 グラフ5〜7には,「Call of Duty: Modern Warfare III」(以下,CoD:MW3)の結果をまとめている。CoD:MW3では,
グラフィックス品質を「極限」に設定したうえで,「アップスケール/シャープニング」で「DLSS」を選択し,「NVIDIA DLSSプリセット」設定を描画不可が軽い「パフォーマンス」としてテストを実行した。

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 平均フレームレートを見ると,3840×2160ドットではCore i5-14600Kが有意に低い以外,2fps以内で横並びだが,2560×1440ドットや1920×1080ドットでは,Ryzen 5 9600X(PBO)がやや高い傾向が見られるようだ。Ryzen 5 9600XとRyzen 5 7600Xの差はごくわずかである。
 ただ,CoD:MW3ではベンチマーク終了後に,CPUのレンダリング性能がフレームレートで表示される。それによると,Ryzen 5 9600X(PBO)が330fps前後で,Ryzen 5 9600Xが320fps前後,Core i5-14600Kが300fps前後と,はっきり違いが現れていた。表面的なフレームレートには大きく反映されないものの,Ryzen 5 9600Xは,CoD:MW3において競合よりも高い性能を示し,PBOにも効果があることが確認できている。Ryzen 5 9600Xでは,競合や前世代に比べて数%程度のフレームレート向上が期待できるわけだ。

 次の「バイオハザード RE:4」は,グラフィックス品質を「限界突破」としたうえで,GPUを用いた超解像技術「FidelityFX Super Resolution 2」を「Performance(速度重視)」に設定して描画負荷を下げる設定を採用した。結果はグラフ8〜10のとおり。

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 3840×2160ドットの平均フレームレートは,強いて言えばRyzen 5 9600Xが,ほかより2fps以上高いといえる程度。2560×1440ドットや1920×1080ドットになると,Ryzen 5 9600Xがほかより平均10fps以上の有意差をつけて,トップとなっている。また,1920×1080ドットでは,PBOの効果もはっきりと出ているのが目立つところだろう。

 「Fortnite」では,グラフィックス品質として「最高」プリセットを選択したうえで,「アンチエイリアス&スーパー解像度」に「DLSS」を選択。さらに「NVIDIA DLSS」設定で,最も描画負荷が軽い「パフォーマンス」を選択した。結果をグラフ11〜13にまとめよう。

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 3840×2160ドットの平均フレームレートは,Core i5-14600Kがほかより有意に低く,Ryzen 5 7600XがトップながらRyzen 5 9600Xとの差は2fps程度だ。2560×1440ドットと1920×1080ドットになると,Ryzen 5 9600X(PBO)がトップで時点がRyzen 5 9600Xという傾向が見られる。解像度が下がるほど,この傾向が顕著に現れるので,Ryzen 5 9600Xが競合に比べると有利と言えるだろう。

 グラフ14〜16にまとめた「Starfield」は,やや様相が異なる結果になった。Starfieldでは,グラフィックス品質のプリセットに「高」を選択して,「アップスケーリング」に「DLSS」,「アップスケーリング品質のプリセット」に「パフォーマンス」を設定したうえで,「フレーム生成」は「オフ」で計測した。

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 グラフから分かるように,StarfieldでDLSSを利用すると,解像度によるフレームレートの差がほとんどなくなってしまう。3840×2160ドットや2560×1440ドットでは,Core i5-14600Kが大きな差をつけてトップとなり,Ryzen 5 7600Xが続く。1920×1080ドットも,PBOの効果が有意に見られることを除いて,ほかの解像度と傾向は変わらないと見ていいだろう。
 というわけで,StarfieldではCore i5-14600Kが有利で,Ryzen 5 9600Xはなぜか性能が出ないという結果になった。理由は不明だが,Ryzen 5 7600X以下というのは奇妙なので,今後はドライバソフトのアップデートなどで,傾向が変わる可能性があると見ておいたほうがいいだろう。

 「ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシー ベンチマーク」(以下,FFXVI黄金のレガシー ベンチ)では,グラフィックス品質のプリセットを「最高品質」に設定したうえで,「グラフィックスアップスケールタイプ」として「NVIDIA DLSS」を選択。さらに「適用するフレームレートのしきい値」として,「常に適用」を選択することでGPU負荷を下げる設定を採用した。
 グラフ17は,FFXVI黄金のレガシー ベンチの総合スコアとなる。

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 3840×2160ドットでは,強いて言えばRyzen 5 7600Xがやや低い,という程度の横並びだが,2560×1440ドットと1920×1080ドットでは,Ryzen 5 9600Xがはっきりと差をつけてトップになった。次点のRyzen 5 7600Xとの差は約5%前後となっていて十分に有意な差だ。また,PBOの効果は大きくはないが,多少はあるようだ。

 グラフ18〜20に,FFXVI黄金のレガシー ベンチにおける平均および最小フレームレートをまとめている。

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 平均フレームレートは,おおむね総合スコアどおり。だが気になるのは,Ryzen 5 9600Xの最小フレームレートが全体に低いことだろう。原因として考えられるのは,Ryzen 5 9600Xのベースクロックが,前世代に比べて低く抑えられられている点だ。動作クロックの変動幅が大きいため,フレームレートの変動幅も大きくなった可能性はあろう。なお,PBOの効果はほとんど見られず,解像度1920×1080ドットで少し上回る程度だ。

 「F1 23」では,グラフィックス品質のプリセットに「超高」を選択。「アンチエイリアス」には「NVIDIA DLSS」を,「アンチエイリアシングモード」は「パフォーマンス」というGPU負荷を軽減する設定を採用した。
 F1 23の平均および最小フレームレートはグラフ21〜23のとおり。

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 平均フレームレートの傾向は,FFXVI黄金のレガシー ベンチなどと共通で,とくに1920×1080ドットでは。次点のRyzen 5 7600Xに対して平均10fps以上の差をつけている。PBOの効果もほとんどない。Ryzen 5 9600Xで最小フレームレートが有意に落ち込むという現象は,F1 23ではとくに見られなかった。

 ゲームテストの最後となる「Cities: Skylines II」では,グラフィックス品質のプリセットとして「中」を選択するととともに,「アップスケーラー」として「NVIDIA DLSS Super Resolution」の「最大パフォーマンス」を選択して,GPU負荷を下げている。
 平均および最小フレームレートは,グラフ24〜26となる。

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 Cities: Skylines IIも,Starfieldと同様に解像度によるフレームレートの差がほぼない。スコア傾向も,Starfieldと同様で,Ryzen 5 9600Xの成績は振るわない。ほかのタイトルと比べると,奇妙な結果なので,ゲーム側,あるいはドライバソフトのアップデートなどで変わる可能性があると見ておいて構わないだろう。

 以上の結果をざっくりとまとめると,StarfieldやCities: Skylines IIという例外を除けば,Ryzen 5 9600Xのゲーム性能は,おおむね優秀と言っていい。前世代にあたるRyzen 5 7600Xを上回るのはもちろん,競合のCore i5-14600Kに対しても,十分に高いゲーム性能を持つ。前宣伝どおりといったところだろうか。


消費電力は前世代と大差なしか?


 最後に,各ベンチマーク実行中の消費電力を見ていこう。
 ベンチマークレギュレーション29に準拠した方法で,アプリケーション実行中におけるCPU単体の最大消費電力をまとめたのがグラフ27だ。

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 Ryzen 5 9600Xでは,111W台が最大となった。一方,PBOを設定すると,ばらつきはありながらもピーク時の消費電力はやや大きくなる傾向で,Starfield実行時に122W台を記録している。Ryzen 5 9600Xのピーク消費電力は,全体的にやや前世代のRyzen 5 7600Xを超えており,性能が高くなった分だけピーク時消費電力が大きくなっているとも言えなくはない結果だ。
 先述のとおり,Ryzen 5 9600Xは,TDPを始めとする電力スペックが前世代より抑えられているはずなので,少し残念といったところだろうか。
 もっとも,最大で200Wを突破してしまうCore i5-14600Kに比べれば,Ryzen 5 9600Xの電力あたり性能は圧倒的という点に変わりはない。

 次のグラフ28は,アプリ実行中の典型的な消費電力を示す消費電力中央値である。

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 Ryzen 5 9600Xの消費電力中央値は,Cities: Skylines II実行時に記録した89W台が最大になった。消費電力中央値はTDP枠内に収まるのが理想ではある。残念ながらアプリケーション実行時になると,Ryzen 5 9600Xの消費電力中央値は,前世代と大差はないようだ。
 Ryzen 5 7600Xは,Starfield実行時に96W弱という例外的に高い中央値を記録しているものの,ほかのタイトルでは70〜80W台に収まっている。全体の傾向としては,Ryzen 5 9600Xのほうが前世代の消費電力中央値を上回っているので,やはり性能が上がった分だけやや消費電力は大きくなったと見ることができそうだ。
 もちろん,Core i5-14600Kに比べばRyzen勢の電力性能比は圧倒的という点は,中央値でも変わらない。

 参考までに,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テストの実行時におけるシステムの最大消費電力をグラフ29にまとめておこう。

画像集 No.036のサムネイル画像 / Zen 5世代のミドルクラスCPU「Ryzen 5 9600X」は,6コア級で最高のゲーム性能と電力効率が見どころだ【レビュー】

 システムの消費電力だと,電力モンスターのGeForce RTX 4090が支配的になってしまうので,CPUの影響はごく小さい。それでもRyzen 5 9600Xは,Ryzen 5 7600Xに比べて,やや高めのシステム消費電力を記録しており,CPU単体の測定結果とおおむね整合性のある結果が出ている。
 とはいえ,最大で約666Wを叩き出したCore i5-14600Kに比べると,Ryzen勢の電力性能はまさに圧倒的だ。Ryzen 5 9600Xは,前世代よりわずかに高くなったとはいえ,Ryzen系の電力性能の高さを維持していると評価できるだろう。


順当に進化したRyzen 5 9600X


 以上,グラフィックスとゲームを中心に,駆け足でテスト結果を見てきたが,性能に関しては,おおむねAMDのアピールどおりと言っていいだろう。16%ほど向上したIPCに見合うゲーム性能の向上が見られている。

Ryzen 5 9600Xの製品ボックス
画像集 No.037のサムネイル画像 / Zen 5世代のミドルクラスCPU「Ryzen 5 9600X」は,6コア級で最高のゲーム性能と電力効率が見どころだ【レビュー】
 少々残念だったのは,消費電力は前世代と大差ないか,やや大きくなっているという点だ。スペックどおりに電力性能比の大幅向上を期待したのだが,期待ほどではなかったようだ。ざっくり1割の性能向上に対して,それほど消費電力は上がっていないので,電力性能比は向上しているかもしれないが,特筆するほどでもなさそう,と言ったところか。

 性能や消費電力を見る限り,すでにRyzen 5 7600Xを利用しているゲーマーが買い替える対象にはならないだろう。だが,新規にPCを導入したり自作するのであれば,現時点で最高の6コアクラスCPUとまとめておきたい。

AMDのRyzen 5 9600X製品情報ページ

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    Ryzen(Zen 5)

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