テストレポート
新型PS Vita「PCH-2000」分解レポート。コストダウンと薄型軽量化に向けた努力の跡が窺える
となると当然,次にチェックすべきは,「PCH-2000はなぜ薄く軽くなったのか」である。今回は,入手したカーキ/ブラックモデルの分解を行って中身を細かくチェックし,それから見えてくるもの,そしてそこから推測できるものを語ってみたいと思う。
※注意
ゲーム機の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
薄く軽く,カラフルに,
そして少しだけ高級感が下がった本体
PCH-2000を製品ボックスから取り出して,手に持ってすぐに感じるのは,当たり前だが薄くて軽いということだ。手に持った状態を基準にすると,サイズは183.6(W)×15.0(D)×85.1(H)mm(※突起部除く)。有機ELパネル搭載の従来モデル「PCH-1000」シリーズだと同182.0(W)×18.6(D)×83.5(H)mmなので,その差は歴然である。とくに厚みが3.6mmも薄くなったのはインパクトが大きい。
薄くなったことで気になるPCH-2000の重量は約219g。PCH-1000シリーズにはWi-FiモデルのPCH-1000と,3G&Wi-FiモデルであるPCH-1100が用意されているが,PCH-1000とネットワーク仕様が同じPCH-2000は219g,PCH-2000の発売後も併売されるPCH-1100は279gなので,60gもの軽量化を実現した計算になる(※PCH-1000は約260gだったので,それと比較しても41g軽い)。たった60gと思うかもしれないが,200g台の60gは,言うまでもなく大きな割合だ。
タッチパネルが用意される背面も,PCH-1000と触り比べてみると,PCH-2000のそれはやや薄く,柔らかい感覚が指先に伝わってくる。悪く言えば貧弱な印象だ。
ただ,以上の変更によって多少の高級感は失われたものの,「安っぽい」という状態にまでは堕していない。薄さと軽さは,見た目の高級感が減ったことを十分以上にカバーできていると思う。
また,仕様変更によって,使い勝手が向上した部分もある。とくにありがたいのは,PS Vitaを充電したり,PlayStation 3やPCと接続したりするのに使うケーブルが,従来の専用品ではなく,一般的なUSB Micro-Bに変わった点だ。スマートフォンやタブレットで多用されているケーブルなので,代替が効くようになったのは何かと便利である。
もう1つ,後段でも触れるが,PCH-2000には,専用「メモリーカード」として使える容量1GBのフラッシュメモリが内蔵されている。1GBではゲームの1本もインストールできない可能性が高いので,実用性には疑問も残るが,ないよりはマシである。これもPCH-2000における大きなアップデートと述べていいのではなかろうか。
ただ,PCH-1000では小さく,やや押しづらかった[START]ボタンと[SELECT]ボタンが大型化され,面からほんのわずかだが盛り上がっていたりもするため,少し押しやすくなった感はある。
内部はシンプルで分解も楽
製造コストは低下か
というわけで分解だが,最初は,タッチパネルが採用されている裏蓋を外すことから始まる。4隅に見える計4本と,USB Micro-B端子の両サイドにある2本,そしてVitaカードスロット脇に用意された1本,計7本のビスを外すわけだ。
裏蓋は本体を持ったときに下側となる側面の2か所と,左右両側面の1か所ずつ,計4か所にある爪で固定されていた。そこに薄い金属製の箆(へら)を差し込んで爪を外していき,すべての爪が外れたところで上方向へ裏蓋をズラすようにすればOKだ。今回はこのタイミングでタッチパネル用のフラットケーブルも取り外している。
3.7V,2210mAhという容量は,PCH-1000とまったく同じだ(関連記事)。ただ,バッテリーパックは明らかに小型化している。PCH-1000が発売になった2011年12月から今日(こんにち)に至る,バッテリーの地味ながら着実な進化を反映したものになっているわけだ。
そんなバッテリーパックを外すと,その下には「MXT224S」とシルク印刷されたチップが見えるが,これは米Atmelのタッチパネルコントローラだ。液晶パネルモジュール内のフレキシブル基板上に実装されており,意味ありげだが,おそらくは,チップ取り付けの都合で,モジュールを構成する樹脂に窓を開けてあるだけだろう。
メイン基板は3本のビスで留められた樹脂製フレームの下にある。樹脂製フレームは少し複雑な形をしているが,これはプレイヤーがゲームプレイに熱くなって本体を握りしめるなどした場合でも,基板に無理な力が加わらないよう,応力を分散させるような働きがあるものと推察される。
メイン基板にはさらに,カメラモジュールを固定している樹脂が2本のビスで固定されている。分解にあたってはこれも取り外す必要があった。
ちなみにこのカメラモジュールを固定している樹脂には,薄い金属のようなものが埋め込まれている。正確には確認できていないが,ひょっとすると,これがWi-Fiのアンテナかもしれない。PCH-1000ではアンテナケーブルが内部に走っていたが(関連記事),PCH-2000でアンテナらしいケーブルはない。その代わりに,カメラモジュールを固定する樹脂がWi-Fiモジュール部のパターンに接触しているような印象なのだ。
あとは,いくつかの爪を外すだけで基板がとれてくる。基板はPCH-1000のそれと比べると小型化していた。
ボタン類のモジュールも外す。両脇の爪で嵌めこまれているだけなので,外すのは簡単だ。個々のボタンはモジュールと一体になっており,組み立て(や分解)を楽にしようという配慮が見て取れる |
爪を外すとメイン基板を取り出せる |
主要LSIは3チップ構成で変わらないが
型番にはアップデートの気配が感じられる
PCH-1000シリーズは3つの大型LSI(≒チップ)で構成され,すべてのLSIが金属シールドで覆われているという,分解にあたってはなかなか厄介な構造になっていた(関連記事)。それに対し,PCH-2000では3つあるLSIのうち,EMI(Electro Magnetic Interference,電磁干渉)対策などの目的で採用されると思われる金属シールドで覆われているのは2つになり,残る1つは筐体内で剥き出しの格好になっている。
2つのチップを覆う金属シールドは破壊しないと取れないかもしれないと案じていたのだが,これは杞憂だった。上から填め込まれているだけなので,金属製の箆を差し込んで抉る(こじる)だけでパカっと外れてくる。
型番は「CXD5316GG」。PCH-1000では「CXD5315GG」だったので,型番に含まれる4桁数字の末尾が5から6へと1つ上がったことになる。
もっとも,この末尾1の違いが何を意味するかは分からない。というのも,SCEJAは原則としてこの手の情報を公開していないからだ。
チップのサイズが変わっていない以上,半導体の製造プロセス技術世代の進化は考えられない。可能性として考えられるのは,半導体フォトマスクの改善によって,低消費電力化を果たした――PCH-2000ではPCH-1000と比べ,ゲームプレイにおける公称のバッテリー駆動時間が4〜6時間と,PCH-1000の3〜5時間から向上している――可能性だが,それも断言はできない。シルク印刷には「2012」という刻印もあるので,ひょっとするとPCH-1000の後期モデルではこのチップに入れ替わっていた可能性もゼロではないからだ。
現時点で断言できるのは,型番がPCH-1000(の初期モデル)と1だけ異なることと,チップのパッケージサイズが変わっていないことの2点のみである。
重要なのは,MB44C026Aと比べ,MB44C032のパッケージサイズはやや小さくなり,金属製ヒートスプレッダがなくなっていること。要は発熱が減ったのだと思われ,プロセスシュリンクされている可能性もありそうだ。
実際,先の動作検証時にも,PCH-1000と比べてPCH-2000のほうが“秒オーダー”でゲームの起動速度が速いことがあった(※何度かテストすると,速かったり変わらなかったりした)ので,ゲームがe-MMCをワークエリアに使っている場合,ストレージの起動が速くなることが生じても不思議ではない。
東芝製チップの横に見える小さなICには米Texas Instruments(以下,TI)のメーカー略語がシルク印刷されているが,型番からデータシートは得られなかった。
ただ,TIはARMコアを使用するSoC(System-on-a-Chip)の電源管理ICで大きなシェアを持っている。ICの横にインダクタ(≒コイル)が見えることからも,これは電源管理ICと見て間違いない。
※11:50頃追記
初出時,フラッシュメモリチップの型番を「THGBMAG5A1J8A1R」としていましたが,読者から「THGBMAG5A1JBAIR」ではないかという指摘を受け,確認したところ確かにそうだったため,記事をアップデートしました。
脇を固めるチップ群も細かく刷新
無線LANモジュールの小型化が軽量化に大きく寄与か
以上が主要部品だが,メイン基板の裏側にあるチップ類も見ておこう。
もちろん,容量1GBの「メモリーカード」機能を持つチップという可能性もあるのだが,型番不明のSCEIロゴ入りLSIはPCH-1000にも載っていること,そして,チップの近くに水晶発振子か何かのセンサーと思しき部品が見えることから,フラッシュメモリ的機能を持つ可能性はほぼないと筆者は見ている。いずれにしても,2013年のシルク印刷があるので,かなり新しいものとは言えるだろう。
となると,「メイン基板の裏側にもフラッシュメモリチップはない。ではどこにあるのか?」という話になるが,可能性があるのは,先ほど紹介した東芝製のフラッシュメモリチップの“中”だ。「そもそもファームウェアが4GBをフルで使っておらず,1GB程度の余剰があった」のだとすれば,eMMCの高速化に合わせて,その余剰分をユーザー領域としたというのは考えられる線だと思う。もっとも,これはあくまで推測に過ぎず,最終的な結論は,今後の課題として残しておくしかないのだが。
このことから,今後,PCH-2000シリーズで3Gモデルが登場する可能性が低そうだということも読み取れる。
第2世代モデルにおけるコストダウンの努力が窺えるPCH-2000。さらなる値下げ圧力にも対応可能か
以上,本体の外と内を見てきたが,ざっくりまとめるなら,第2世代モデルらしく,カットできるコストはカットしてきたという印象が強い。
やや複雑で基板の数も多かったPCH-1000と比べると,PCH-2000では無線LANモジュールがオンボード化されて基板数が減り,機構部品もよくモジュール化されている。たとえば無線LANのアンテナのケーブルが消えているのが典型的な例で,上でも述べたように,おそらくはカメラモジュール固定用の部品とアンテナが一体化されていたりするのだろう。そのため製造工程では部品を組み付けるだけで済み,アンテナ線を取り付ける手間が1つ減るわけだ。このような「組み立て工数を減らす工夫」がPCH-2000ではいくつか見られた。こういった,地味ながら確実な改善によって,少しずつコストを減らし,同時に薄型軽量化を実現したのだと思われる。
複雑な作りだったPCH-1000シリーズは,2月28日の価格改定で1万9980円(税込)となった。おそらくこの改定により,利益率は相当に削られたはずである。
その点,有機ELから液晶へとディスプレイパネルを切り替え,内部をシンプルにして組み立て工程を簡素化してきたことで,PCH-2000は1万9929円(税込)という価格でも利益が望める製造コストになっている可能性が高い。さらに言えば,今後の競争激化に応じて,さらなる価格改定圧力にさらされたとしてもそれに対応できる,“筋肉質”なポータブルゲーム機を目指して設計されたとも推測できそうだ。
ポータブルゲーム機,というかモバイルデバイス全般において,薄くて軽いことは常に正義であり,これだけでもPCH-2000は評価できよう。あくまでも有機ELにこだわるか,薄さと軽さを取るか。ゲーマーは悩ましい選択肢を提示されたといえそうである。
新型PS Vita「PCH-2000」の液晶パネルは結局のところアリなのか。従来モデル「PCH-1000」の有機ELパネルと比較レポート
SCEJAのPS Vita公式Webページ
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