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[GDC 2013]NASAは本気でゲームを作ります。6本足の大型ロボットを遠隔操作するというデモも公開されたNASAの講演をレポート
演壇に立ったのは,NASAのジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)でTask Leadを務めるVictor Luo氏と,同じくジェット推進研究所でManager of Mission Planning and Executionを務めるJeff Norris氏だ。
まず,宇宙開発とゲームの歴史が語られた。ソ連(当時)のYuri Alekseyevich Gagarin(ユーリイ・ガガーリン)少佐が人類初の宇宙飛行を行ったのが1961年。同じ年,世界初のシューティングゲームといわれる「Spacewar!」が登場している(Spacewar!の初登場を1962年とする資料も多いが,それはそれとして)。そして,1980年のスペースシャトルのミッションコントロールセンターで管制官が見ているモニター画像は,1979年にリリースされた「Space Invaders」や,1979年の「Lunar Lander」を連想させる。
NASAの制作したゲームと聞いて思い浮かぶのが,2010年に公開された無料のPC向けソフト「Moonbase Alpha」だろう。プレイヤーが月の基地でミッションをこなすというシリアスゲームだ。YouTubeで検索すると多数のムービーが見つかるが,そのほとんどがマシニマ風の愉快な内容になっており,今のところ,NASAの意図がうまく伝わっているとは言い難い,というのはNASAの2人も思っていることらしい。
というわけで,予算が少なく多くの人々がコンシューマ機に向かっている現在,NASAとしてはゲーム業界の力を借りて,自分たちの活動を知らしめたいというわけなのだ。
しかし,PCに比べて,コンシューマ機という美しい庭にはなかなか入りづらい。なぜなら,戦闘ヘリコプターや戦車,モンスターやクリーチャー,そして忍者までもがその庭を守っているからだ。半端なゲームを低予算で作っても,見向きもされないだろう。
Victor Luo氏 |
ローバーを搭載した宇宙機は,火星の大気圏に入ると大きなパラシュート開いて減速し,所定の速度になったところでパラシュートを切り離して,ジェット噴射による減速を開始,さらにローバーをワイヤーでつるして着陸地点に降ろし,宇宙機自身はローバーにぶつからないよう,最後のジェット噴射をして遠くへ飛んでいく……という複雑なシーケンスが採用されているが,そのいくつかの段階を,Kinectを使ってうまくやってみるというのが,このゲームの内容だそうだ。
そんなMars Rover Landingは,ローバーが着陸する前の7月に公開されたが,これはマーズ・サイエンス・ラボラトリーに劣らず危険なミッションだったとLuo氏は語る。着陸予定日はすでに決まっているので「リリースは3か月延期されました,てへぺろ」ということは許されないし,万が一マーズ・サイエンス・ラボラトリーが飛行中に事故を起こしてミッションが中止になれば,せっかく作ったゲームが無駄になってしまうからだ。
とはいえ,結果的にそういったことは起きず,ローバー着陸を中継するNASAのテレビ番組中,会見室にゲームが持ち込まれ,祖父が宇宙飛行士だったという若い女性がMars Rover Landingをデモプレイした。ただし彼女は,最初着陸に失敗してローバーを大破させ,会見室は微妙な空気に包まれたという。
Norris氏が興味深いと思ったのが,ゲームメディアと一般メディアの反応の違いだ。一般メディアはローバーの火星着陸を大々的に取り上げ,ついでという感じでMars Rover Landingを紹介していたが,ゲームメディアはその逆だったというのだ。4Gamerの記者として,気持ちは分かる。
しかし,強敵は思わぬところに潜んでいた。それがアメリカ議会であり,NASAのゲーム開発計画は残念ながら否決され,「2012年のゴミ箱入りリスト」(Wastebook 2012)に掲載されることになってしまったのだ。というわけで,今回の講演はそういう過去と現実を踏まえたうえで,集まったゲーム開発者の力を借りたいというわけだったのだ。
ローバーの火星着陸を伝える報道。左がゲームメディア |
ゲーム開発のための予算はゴミ箱入り |
現在,NASAではさまざまな宇宙開発計画が進められており,多数のロボット探査機が開発の途上にある。そこでは,スイッチやノブといった古典的なものだけでなく,もっと直感的なユーザーインタフェースが求められる場合もある。例えばある計画では,探査機が小惑星に取り付き,複数の足を動かして移動し,サンプルを回収するというミッションがある。その場合,どのような操作方法が最適なのかについては,さらなる研究が必要だろう。
ここでNASAの2人は,カリフォルニア州パサデナのジェット推進研究所にある6本足のロボットを,サンフランシスコのGDC会場から遠隔操作するという,大がかりな実演を見せてくれた。ここで使われているのもKinectで,Luo氏がKinectに手をかざすと,パサデナのロボットがそれを関知して動くというものだ。動きは非常に遅く,反応もかなり鈍かったので,改良の余地はかなりありそうだったが,デモが終了すると,割れるような拍手が起きた。
最後にNorris氏は「我々はどこへ行くのか?」と来場者に問いかけた。「人類は巨大な望遠鏡を作って天空を眺めていますが,なんのために? それは人類が宇宙へ出ていくときのためです。いずれ,小さなスクリーンを飛び出すことになるでしょう。現実に,NASAの宇宙計画は進んでおり,月や火星を超えて小惑星帯に,そして土星の惑星に生命の兆候を探しに行きます。さらに遠くに,人類はどこまでも行くはずです。ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた,ほんの小さな何もなさそうな場所にさえ無数の銀河があり,そこにそれぞれの世界があります。人類は止まることはないでしょう。我々はどこに行くのか? それはあらゆる場所です」と語って講演を締めくくった。
Game Developers Conference公式サイト
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