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[Unite 2019]女性がゲーム開発に加わることのメリットとは。セッション「ゲーム開発業界におけるジェンダーの多様性」聴講レポート
このセッションでは,ゲーム業界で活躍している女性クリエイターや,それをサポートする取り組み,そしてゲーム開発に女性の視点を採り入れることの重要性などが紹介された。
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女性クリエイターの活躍と,それをサポートする取り組み
セッションの前半では,Unity TechnologiesのプロジェクトマネージャーSara Young氏が,ゲーム業界で活躍する4人の女性クリエイターと,女性がゲーム開発に携わることをサポートする取り組みを紹介した。
Young氏が最初に紹介したのは,Robin Hunicke氏だ。Hunicke氏はElectronic Artsでエグゼクティブプロデューサーを務めた人物で,「ぼくとシムのまち」や「ザ・シムズ2」などの人気タイトルを世に送り出した。その後,彼女はゲーム開発スタジオFunomenaを立ち上げ,「風ノ旅ビト」やVRゲーム「Luna」をリリースし,高い評価を得た。
そんなHunicke氏は,2009年にMicrosoftからWomen in Gaming Award for Designを授与されており,また「風ノ旅ビト」は2012年の主要なゲームアワードでゲームオブザイヤーを獲得している。
2人めのKim Swift氏は,Airtight GamesのクリエイティブディレクターやAmazonのゲームスタジオでシニアディレクターを務めた人物で,代表作には「Half-Life 2」「Portal」「Left 4 Dead」「Star Wars Battlefront II」などがある。
「Portal」は,2007年の数々のゲームオブザイヤーを獲得し,発売から2010年にかけて400万本のセールスを記録したとのこと。また,「Left 4 Dead」は2008年に180万本,「Half-Life 2」はリリースから2年で400万本,「Star Wars Battlefront II」は2017年10月から12月までで900万本のセールスを記録している。
3人めに紹介されたJang Ng氏は,アーティストとして長らくゲーム業界に携わってきた人物で,現在はValveでシニア3Dエンバイロメントアーティストを務めている。代表作は,リリースから3年で550万ドルの収益を上げたという「The Lord of the Rings: The Return of the King」,250万本のセールスを達成した「Firewatch」,そして現在は高校生くらいまでを対象とする生物学の教材として使われている「Spore」などだ。
最後のJade Raymond氏は,大学卒業後にソニーでプログラマーとしてキャリアをスタートし,Electronic ArtsやUbisoftを経て,現在はGoogleの提供するクラウドゲームサービス「Google Stadia」のバイスプレジデントを務めている。代表作は「アサシン クリード」シリーズや,「Google Stadia」などである。
続いてYoung氏は,アメリカにおいて,そうした女性クリエイターをサポートする組織や団体を紹介した。まず「Girls Who Code」は,アメリカでプログラミングができる女性を増やすことを目的にしたNPO法人で,アメリカ議会とも連携しているという。
統計によると,アメリカのコンピュータサイエンス業界で働く女性は,現在の24%から2025年までに22%に落ちると予測されているが,Girls Who Codeではその割合を,2025年に39%に引き上げることを目指しているそうだ。
また「IGDA Women in Games」は,国際ゲーム開発者協会(IGDA)の1部門で,性別や人種,社会的背景,性癖嗜好,年齢などを問わず,多くの人を支援していくことを目的としている。この協会は非営利団体で,参加意志のある希望者には奨学金やリーダーシップ教育を提供している。
ヨーロッパや中東にも同様の組織や団体がある。「Code Coven」は,主にヨーロッパの女性を対象として,ゲーム開発に関するオンライン学習コースを提供している。また「Code To Inspire」は,プログラミングやテクノロジーベンチャーを開始する方法などを教えることにより,発展途上国における個性の,経済的および社会的進歩を促進することを支援するアフガニスタンのプログラミングスクールだ。そして「Women in Games Conference」はセッションやパネルディスカッション,ワークショップなどで構成される女性のゲーム開発者向けイベントである。
ゲーム開発に女性の視点を採り入れることの重要性
セッションの後半は,Unity Technologiesのインストラクショナル・デザイナーであるMegan O'Connor氏より,ゲーム開発に女性の視点を採り入れることの重要性が語られた。
O'Connor氏によると,アメリカでは現在STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育,すなわち科学・技術・工学・数学分野における教育が非常に重視されているが,それは2025年にSTEM分野での人材不足が予測されていることが理由だという。
とくに,以前は女性のSTEM分野への参加があまり奨励されていなかったこともあり,女性のエンジニアは少なかったが,Unityの登場によって,その状況や認識は大きく変わったとO'Connor氏は言う。中でも,若い女性がUnityを入り口としてSTEM分野の職に就いたり,男女問わず学生達がゲームやコンテンツの開発に取り組んだりするケースが増えているそうだ。
そうした状況を踏まえ,Unityではゲームを作りながらコンピュータプログラミングを学べる教育コンテンツ「Create with Code」を学生や教育者向けに提供していることも紹介された。
O'Connor氏はゲーム開発で生じるさまざまな課題について,より良い解決を図るために多様性のあるチームが必要であると話す。ここで言う多様性とは,異なる社会的背景や人生経験,性別を含めたアイデンティティなどだ。こうした多様性のあるチームは,さまざまな立場や視点から課題を捉えて解決を図るため,優れた結果を導き出すことができるというわけである。
O'Connor氏は,ゲームを含めたテクノロジーの分野で女性が働くことを「新鮮な視点の提供」「嗜好の多様性の提供」と表現し,問題解決能力の向上につながるとする。さらに問題をより速く問題を解決できることにより,そのチームの生産性が上がり,コスト削減にもつながるとメリットを挙げた。
続いてO'Connor氏は,ゲームをプレイする女性の割合について言及した。それによると,アメリカではゲームをプレイする人の46%が女性であり,また2018年には13〜17歳の女性の59%がゲームを楽しんでいる。ただし若い女性だけがゲームに親しんでいるわけではなく,50才以上では男性よりも女性のほうがゲームをプレイしているという調査結果もあるそうだ。
またアメリカのモバイルゲーマー全体の49%が女性で,10〜65歳のアメリカ人女性の65%がモバイルゲームをプレイしているという。その中には,O'Connor氏だけでなく,彼女の母親も含まれているとのこと。
そうした状況の中,女性の視点でゲーム開発に取り組むことは極めて重要であるとO'Connor氏は強調する。「より多くのプレイヤーを獲得しようと考えるのであれば,より多くの女性にリーチすることを考えなければならない」と語った。
それでは,どうやればゲームをより深く女性とつなげることができるのか。O'Connor氏は例として,ゲームの主要なキャラクターに女性を起用することを挙げ,「Portal」の主人公Chellなどを紹介しつつ,「ただ強いだけでなく,生い立ちが人々の関心を引く,会話がスマートといったような魅力がある」と説明した。
また,女性がどのようなゲームを好むのかという分析も重要である。とある調査によると,アメリカの55〜64歳の女性はカードゲームやパズル,バーチャルボードゲームを好む傾向があるとのこと。また35〜54歳の女性はパズルなどのカジュアルゲームやクラシックなアーケードゲーム,13〜34歳の女性はカジュアルゲームやアクションゲームを好む傾向にある。
さらにO'Connor氏は女性の購買力にも言及し,アメリカではゲーム購入を含めた購買支出の70〜80%を女性がコントロールしていることを指摘。またモバイルゲームでは,女性のほうがゲーム内課金の額が大きいという,ゲーム開発者の報告を紹介した。
最後にO'Connor氏は,本セッション全体を総括するとともに,日本における女性ゲーム開発者をサポートする団体やイベントとして「XR女子部」と「DevFest Women Tokyo 2019」,そして「Unity Women in Gaming」を紹介し,セッションを締めくくった。
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