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[SIGGRAPH]まるで「着るKinect」なロングTシャツ型モーショントラッカー「e-skin」
ただ,光学式の場合,マーカーが何かで遮蔽されると,その瞬間の動きを検出できないといった問題があり,こうした問題が起きない手法を開発しようと,さまざまな企業や研究機関が取り組んでいるところだ。磁気センサーを備えたスーツを利用する磁気式のモーションキャプチャシステムは,そうした事例の1つといえよう。
日本のベンチャー企業であるXenoma(ゼノマ)は,独自の技術で体の動きを取得できるスーツの開発と販売に取り組んでいる。そのXenomaが開発したジェスチャートラッキング用スーツ「e-skin」が,SIGGRAPH 2017の一般展示セクション「Exhibition」に展示されており,来場者の注目を集めていた。既存のモーションキャプチャシステムと,いったい何が違うのかを見てみよう。
導電性のある布素材で作られた回路でモーションをキャプチャ
Xenomaが開発したe-skinは,もともと東京大学で研究されていたテーマを商品化したもので,基本的には,導電性のある布素材でできた電気回路を衣服に組み込んでいる。
e-skinの見た目は,表面に左右対称形状の模様が描かれた黒いロングTシャツのようだ。なんとなく,SF映画「トロン」の登場人物が着ていた光るスーツに似ていなくもない。この模様が電気回路になっているわけだが,スーツ自体の肌触りや重さは,普通のロングTシャツと変わらないように感じた。
回路は,腕を動かしたり曲げたりといった要素だけでなく,胸筋や背筋の動きも検出できるようにパターンを最適化しているとのこと。検出したい動きに応じて,回路を増したり減らしたりしたe-skinを製造することも可能という。
今回展示されていたe-skinのスーツは長袖の上半身のみだったが,半袖版や下半身を覆うスーツも作れる。用途に応じて製造すればいいわけだ。
e-skinは,スーツ自体が着ている人間の動きを検出するので,光学式モーションキャプチャのように,マーカーが遮蔽されたことによるデータの取りこぼしは起こらない。外部カメラを使うこともないので,カメラで捉えたマーカーの動きを画像処理で認識するコンピュータビジョン的な処理も必要ないわけだ。
スーツの胸元には,「e-skin Hub」というバッテリー内蔵のコントロールユニットが取り付けられている。これは回路のデータを取得するだけでなく,加速度センサーとジャイロセンサーも内蔵しており,スーツ着用者の前後左右上下の移動や傾きも検出できるそうだ。
スーツに張り巡らせた14個の回路と慣性計測装置によるモーションデータは,
余談気味だが,SIGGRAPH展示会場のように2.4GHz帯の電波が混雑した環境用に,5GHz帯の電波を使うWi-Fiや,60GHz帯を使うWiGig,900MHz帯をLoRaといった通信技術を利用するようにも作れるとのこと。
取得した生のデータから人体の動きをどのように取得するかは,コンテンツ開発者のノウハウが必要となる難しい部分だが,そこはXenomaが提供する開発キットを用いることで解決するそうだ。
さらに,スーツ自体は,洗濯と乾燥試験に関する規格である「ISO 6330 4N-A」に準拠した洗濯耐久テストで,100回以上洗っても性能に問題なしという結果が出ているという。回路部分を最大1.5倍まで引き延ばす負荷テストを,1万回行っても性能に問題がなかったそうで,耐久性は相当高いようだ。
体の動きでゲームをプレイ。まさに「着るKinect」だ
Xenomaブースでは,このe-skinスーツをKinect的なモーション入力コントローラとして活用するデモが披露されていた。
デモ自体はシンプルな障害物競走風のゲームで,走るときのように両手を振ると,画面内のキャラクターが走り出し,パンチを繰り出すと眼前の障害物を破壊できる。しゃがんで障害物の下をくぐり抜けたり,ジャンプして上を飛び越えたりすることも可能だ。確かにKinectでできることは,あらかた実現できているように見えた。
デモの様子をビデオ撮影したので,確認してほしい。
ところで,e-skinの価格だが,最も基本的な上半身のみのe-skinスーツで479ドル(税別,約5万2718円)とのこと。現在販売中の製品は開発者向けということもあり,スーツ上の回路をやや多めにレイアウトしているためオーバースペックな面があるそうで,やや高価になってしまっているという。事業が始まったばかりということもあり,価格を下げていくのは,まだ先の話だろう。
ウェラブルIoTやヘルスケア用途への応用も想定
いかにもモーションキャプチャ用途に適するイメージのe-skinだが,Xenomaは,モーションキャプチャに特化してビジネスを検討しているわけではない。「ウェラブルIoTデバイス」や,VR HMDと組み合わせて使う無線モーションコントローラ的な用途を,主軸に考えているそうである。
e-skinを赤ちゃんに着せておくことで,たとえば,親が見逃してしまうことも多いという成長過程の「初ハイハイ」や「初歩行」といった瞬間を自動認識して記録したり,目を離している隙に歩き回っていないかを検知したりといった用途にも使えるのではないか,と網盛氏は説明していた。
いずれにしても当面は,B to Bのプロジェクトや業務用施設向けの導入に注力していくそうだ。
今回のデモやムービーにあるデモは,いずれも1人で行うものばかりだったが,e-skinの仕組みなら,1つの空間で同時に複数ユーザーの動きを取得することも可能なはず。この利点を生かして,多人数同時参加が可能なVRアトラクションに応用するのも面白そうだ。日本発のベンチャー企業,Xenomaの活躍に期待したい。Kickstarterでは,クラウドファンディングプロジェクトも進行中なので,興味のある人は覗いてみてほしい。
e-skinのKickstarterプロジェクトページ
Xenoma 公式Webサイト
4GamerのSIGGRAPH 2017レポート記事
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