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[GDC 2014]いかにして「バーチャファイターRPG」は「シェンムー」になっていったのか。鈴木 裕氏が語る「シェンムー」開発秘話
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印刷2014/03/20 21:34

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[GDC 2014]いかにして「バーチャファイターRPG」は「シェンムー」になっていったのか。鈴木 裕氏が語る「シェンムー」開発秘話

画像集#003のサムネイル/[GDC 2014]いかにして「バーチャファイターRPG」は「シェンムー」になっていったのか。鈴木 裕氏が語る「シェンムー」開発秘話
 Game Developers Conference 2014の3日め(北米時間2014年3月19日),「Classic Game Postmortem: Shenmue」と題したレクチャーが行われた。1999年にセガからリリースされた「シェンムー」の開発を振り返るという内容で,「バーチャファイターRPG」がどのようにして「シェンムー」になっていったのかなど,当時のエピソードが本作の開発チームを率いた鈴木 裕氏から語られた。

 過去の名作タイトルに光を当てる「Postmortem」は,Game Developers Conferenceではすっかりおなじみのレクチャーになった。近年は発売からそんなに時間の経っていない作品も取り上げられることもあり,非常に人気の高い講演だ。そして,今年のPostmortemに登場したのが「シェンムー」だった。

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 「シェンムー」は,セガが1999年にリリースしたドリームキャスト用ソフト。ゲーム内に用意された広大なマップを探索して,好きな場所で好きなことができるという高い自由度を持った作品だ。現在のオープンワールドゲームの走りと言えるかもしれない。また,当時としては破格の70億円という膨大な開発費が投じられたことでも話題になった。
 シナリオは全11章の構成で,章ごとにリースされる予定だったが,1作めの「シェンムー 一章 横須賀」の売上は開発費に比べて芳しいと言えるものではなかった。3章から6章までを収録した「シェンムーII」が2001年にリリースされたものの,その後はナンバリングの続編は制作されず,未完の作品となっている。

鈴木 裕氏
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 「シェンムー」の開発チームを率いた鈴木氏は,1993年にアーケードシーンに登場すると,社会現象とも言えるほどのヒットを飛ばした「バーチャファイター」シリーズの制作で知られる人物。現在はセガを退職して,株式会社YS NETの代表取締役社長を務めている。
 1983年にセガに入社した鈴木氏は,「スペースハリアー」(1985年),「アウトラン」(1986年),「アフターバーナー」(1987年)といったアーケードゲームを重点的に手がけてきた。当時,アーケードの理想的なプレイ時間は3分間と考えられており,その中にゲームのエッセンスを凝縮しなければならなかった。そこで次の作品として,プレイ時間の制限がないコンシューマ向けの新作を考え始めたという。

 新作のジャンルを「RPG」に決めたはいいが,鈴木氏個人は1980年代のアドベンチャーゲームを遊んだ経験しかなく,そのため,まずは1990年代のRPGのリサーチを始めたそうだ。しかし,調べてみると,キャラクターが壁にスタックしても歩くモーションを止めなかったり,NPCの方向を向かないと会話ができなかったりと,すぐに不満や疑問が出てきたという。
 こうした点の改善を目標に掲げながら,コンセプトやストーリーを固めると,1995年にはセガサターンを使った基礎研究に入っている。「桃のじいさん」と名付けられたプロトタイプを使い,フル3D描画や衝突判定などの負荷テスト,さらにキャラクターのコントロール,カメラ,イベント,会話システムの実験を行ったとのこと。
 鈴木氏によれば,この「桃のじいさん」は中国拳法をテーマにしたもので,主人公が老師を探すというストーリーだったそうだ。これが「シェンムー」の大元の基礎研究になっている。

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 1996年,この基礎研究を元に具体的な企画構成の段階に入った鈴木氏。ゲームの特徴として定めたのは,「バーチャファイター」のゲームエンジンを採用したフル3DのRPGであり,一人対多数のマルチバトルが可能であること。また,フルボイスでキャラクターのリアリティを表現し,シネマチックな演出でプレイヤーの感情移入度を高めること。そして,「バーチャファイター」のデータを利用して,格闘のシステムとモーションを活用することなどだった。
 この段階では,まだそれほど規模の大きなゲームという印象はなく,当時の仮タイトル「バーチャファイターRPG」のイメージどおりだ。主人公は「バーチャファイター」に登場する結城 晶,舞台は中国となっている。

 ここで,鈴木氏は「ストーリーに大きな影響を与えた」こととして,1996年の中国旅行で撮影した写真を紹介した。八極拳の呉老師を訪ねたものの,老師は歓迎の席で酒を飲み過ぎて,八極拳のはずが“酔拳”になってしまったこと,寸止めのはずがしっかり入ってしまったことなど,当時のエピソードが楽しそうに語られた。

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 日本に帰国した鈴木氏は,この中国旅行の印象を元に「シェンムー」のプロットを考えたという。物語は起承転結に沿って展開し,「悲しみ」「旅立ち」「戦い」,そして「新たなる旅立ち」へと続く。「悲しみ」は父を失った主人公の挫折,「旅立ち」は悲しみを乗り越えて中国に向かう主人公,「戦い」は仇である藍帝(らんてい)との決戦と勝利,「新たなる旅立ち」は目的をなくした主人公,そして友との旅立ち,といった内容である。

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 ユニークだったのは,このプロットの完成後,同じ構成で4楽章の組曲を制作したことだろう。あまり前例はないと思うが,制作した曲をシナリオライターに聞いてもらい,ライターの自由な発想に任せてストーリーを発注したそうだ。
 また,ストーリーの制作にあたって,ゲーム開発者だけでは常識の壁を乗り越えられないと思った鈴木氏は,映画監督や演出家などを交えたシナリオチームの体制を構築し,毎週のように逗子マリーナで合宿ミーティングを行ったという。これはかなり豪華な話だ。

 その結果として,全11章のシナリオが完成する。しかし,これにサブストーリーやイベントを加えると,メインストーリーの見通しが悪くなったため,ストーリーを小説形式にして世界観とドラマ性の確認を行ったそうだ。さらに,11章に対応した11枚のイメージ画も制作しており,開発スタッフとのイメージの共有を図ったという。
 今回のレクチャーでは当時のイメージ画が紹介されたが,鈴木氏によれば,おそらく初公開とのことだった。

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 時間を追うごとにゲームの規模がどんどん大きくなっていくことが分かるが,これはおそらく,セガがこの作品を同社の次世代コンシューマ機のキラータイトルとして考えていたからだろう。鈴木氏は,1997年に開発ターゲットが「次世代サターン」に変更されたと述べている。ただ,当時はまだ「ドリームキャスト」の名称はおろか,スペックさえも決まっていなかったそうで,こんな感じだろうという予想を立てて開発を進められていた。

 また,プレイ時間の制限がないコンシューマ向けのタイトルなので,ゆったり遊ぶための時間配分が重要だと考えられ,公開された企画書には「ムービーが5時間」「対戦が4時間」「探索が8時間」などといった具合で,総プレイ時間が45時間に上ることが記載されていた。
 鈴木氏は,ムービーが5時間というボリュームについて,「我ながら,よほど映画的な表現をしたかったのだと思います」と振り返っている。

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 1998年には,タイトルが「バーチャファイターRPG アキラの章」から「シェンムー 一章 横須賀」に変更されている。当初の予定では,全11章を上下巻に分けてリリースするはずだったそうだが,オープンワールドに関わる部分のボリュームが予想以上に増えたため,章ごとのリリースに切り替えたとのことだ。ドリームキャストのキラータイトルに据えるには,シリーズ展開のほうが有利になるだろうとの判断も働いたという。

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 対応ハードの変更,タイトルの変更に伴い,企画の見直しも行われた。「ゆったり,たっぷり,しっとり」というコンセプトを掲げると,メインフィーチャーには「オープンワールド」「シネマティック」「QTE」,そして「フリーバトル」の4つが設定されている。これらをあらためて説明すると,以下のとおりだ。

  • オープンワールド
  •  鈴木氏は,プレイヤーにはオープンワールドを舞台に自由に遊びを選択してほしいと思っていたそうだ。街の中にはショップや店員,通行人などを配置して,さらに十分な会話も用意した。好きな場所に好きなだけいても飽きないことを目標にしていたため,広大な街とサブストーリー,サブクエスト,ミニゲームなどのリソースが必要になったという。

  • シネマティック
  •  メッセージ性と感情移入度を高めるためには,映画的な表現を多用した。ムービーシーンはリアルタイムCGを使うことで,チューニングや変更を容易にしているとのこと。

  • QTE
  •  「シェンムー」の目標の一つは,映画とゲームとの融合であり,QTEはコアゲーマーだけでなく,映画を観るように誰でも遊べることを目指して編み出されたものだ。タイミングゲームが苦手な人でも分かりやすいシステムになっており,失敗した回数をカウントして,難度を調整する仕組みだという。

  • フリーバトル
  •  1対1の戦いが基本だった「バーチャファイター」に対して,「シェンムー」は広いフィールドで1対多数の戦いが楽しめることを目指したそうだ。

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 オープンワールドを選択したことでデータ量が増え,そのままではCD-ROM50枚組で発売せざるを得なくなりそうだったので,樹木や岩,草木の自動生成が行われたそうだ。また,九龍地区の建物内部にある部屋の内装なども,AIで自動生成するという技術が使われている。

 天候をプログラマブルに変化させる技術も,データ量を圧縮するために開発されたものだという。近年,さまざまなゲームエンジンに採用されているフィーチャーだが,ゲームで天候や時間の変化を再現したのは,「シェンムー」が初めてではないかと鈴木氏は語った。こうしたさまざまな技術によって,大幅なデータ圧縮が可能になったわけだ。
 また,「シェンムー」は1986年の横須賀が舞台になっているが,1986年から3年分の気象データを気象台から取り寄せており,これにより天候の変化を再現しているという。

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 こちらも最近のゲームエンジンでは採用されている要素だが,「シェンムー」ではNPCの行動をスクリプトとAIによって制御している。朝に目を覚ますと,バスで会社へ行き,昼休みには外に出て食事をする。こうした行動パターンが,それぞれのキャラクターに用意されているという。もちろん,平日と休日では別のスクリプトになっている。

 NPCの行動制御についても,ゲーム史上初の試みと言えそうだが,やはり失敗もあったという。例えば,ある日,倉庫街からNPCがいなくなってしまった。その原因はコンビニエンスストア。なんと出勤途中のNPCがコンビニに寄って朝食を買おうとするため,店内で渋滞が発生。コンビニから出られないNPCが,大量にスタックしていたとのこと。コンビニの自動ドアを大きくしたり,入店制限をかけたりして,対応したことをよく覚えていると,鈴木氏は語っていた。

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 また,NPCのモーションにもデータ圧縮の工夫があり,同じ骨格のキャラクターであればモーションを共有できるにようにしたそうだ。しかし,間違えてモンローウォークをするマッチョな男が出現したり,猫が二足歩行していたりと,苦労は絶えなかったようである。

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 1999年はプレイチェックとデバッグに明け暮れたそうだ。これは専用のチームを設置して24時間体制で行われ,デバッガはスタートからエンディングまで2週間かけてプレイ。これを何回も繰り返した。バグリストには,1日で300以上も追加されたことがあるという。また,ゲームプレイの様子を録画して,そのデータでデバッグするということも行われていた。

 ちなみに,実在のメーカーとのタイアップも,「シェンムー」がゲームでは初の試みであった。タイアップ先の日本コカ・コーラにチェックを受けたところ,「自動販売機が道路にはみ出していてはいけない」という指示を受けたそうだ。そのため,該当する自動販売機の位置をすべて移動させたのこと。

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 鈴木氏は当時の開発について,プロダクトマネージメントが最も大変だったと振り返っている。スタッフ数は延べ300人を超え,鈴木氏にとって未体験の大型プロジェクトになったことがその理由だが,現在のように充実した管理ツールがなかったことも挙げられるだろう。せいぜい「Excel」でシートを作成してオーダーを出す程度のことしかできず,この規模のプロジェクトを紙で管理していたことを考えると,今でも恐ろしくなるそうだ。

 鈴木氏は,さまざまな紆余曲折を経て,1999年冬にようやく「シェンムー」は発売されたことを述べて,レクチャーを締めくくった。

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 ご存じのように,日本では必ずしも評価されているとは言えない「シェンムー」。だが,オープンワールド,QTE,環境の自動生成,タイアップ広告など,その後に当たり前のようになっている,さまざまな試みに挑戦していたことがあらためて分かった。
 海外では,こうした革新性を高く評価する声は少なくないようで,今回のレクチャーも開場前から長い列ができていた。質疑応答では,来場者から「『シェンムーIII』は発売されるのか」と聞かれ,苦笑しながらも,機会があればやってみたいと答えていた鈴木氏。「III」の構想だけでなく,今回語られなかったテーマについても,さらに話を聞いてみたいと思わせるレクチャーだった。

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