レビュー
故きを温ねて新しきを知る――。クラシックな作品を愛するオトナのためのカートリッジ式ゲーム機「EVERCADE」体験記
USB接続で給電を行い,ゲームはどこでもセーブ可能。ただし,EVERCADEは日本国内で展開されていないため,メニュー画面に「日本語」の表記設定はないし,リリースされているゲームも英語版だ。カートリッジの中には日本でもリリースされているゲームを含む場合もあるが,それらも英語版を収録している。
今年(2024年),発表直後から気になっていたEVERCADEを購入してみたので体験記をお送りしたい。
ほかにはないタイトルを遊べる貴重な手段
筆者がEVERCADEを購入する決め手になったのは,「Duke Nukem Collection」の存在だった。「Duke Nukem Collection 1」「〜2」が2本同時にリリースされ,前者には「Duke Nukem: Remastered」「Duke Nukem II: Remastered」「Duke Nukem 3D: Total Meltdown」,後者には「Duke Nukem: Time to Kill」「Duke Nukem: Land of the Babes」「Duke Nukem Advance」がそれぞれ収録されている。
日本でもリリースされた「Duke Nukem」シリーズは,「Duke Nukem 3D: Total Meltdown」のPS1版 / PC版 / Xbox Live Arcade版,「デューク ニューケム フォーエバー」のPS3 / Xbox 360版だけ。そのほかの作品は海外のみの展開だった。
さて,「Duke Nukem Collection 1」の目玉となるのが,「Duke Nukem: Remastered」と「Duke Nukem II: Remastered」だ。シリーズの1,2作目であり,古いPC(いわゆるDOS/V機)で発売されたゲームなので,今からプレイ環境を用意するのは不可能に近い。そんなタイトルが遊べるというだけでもありがたいが,「Remastered」の名に恥じず,遊びやすく手が加えられているのも嬉しいところだ。
「Duke Nukem: Time to Kill」と「Duke Nukem: Land of the Babes」はPS1用ソフト(日本未発売)だ。当時は多く見られた3Dアクションになっている。
PS1時代はコントローラにスティックが標準装備ではなかったこともあり,視点変更の操作が定まっていない時期でもあった。やはりそのあたりの操作の煩雑さは気になるが,どこでもセーブ機能があるので,だいぶ遊びやすくなっている。
一方,「Duke Nukem Advance」はゲームボーイアドバンス用ソフトで,「Duke Nukem 3D」系のFPSに回帰している。携帯ゲーム機でありながら「Duke Nukem 3D」のテイストをほぼ再現しており,「ゲームボーイアドバンスで,ここまでできるのか!」と驚いてしまう。
「Duke Nukem」はFPSにおける3D空間の「探索の楽しさ」を筆者に教えてくれた作品なので,そこを踏襲している「Duke Nukem Advance」は取っ付きやすい。
「Duke Nukem Collection」の登場により,「Duke Nukem」シリーズの全作品を遊べるようになったわけではないが,初期の作品をひととおり収録しているのは大きい。
もちろん「Duke Nukem」シリーズはマニアックな存在であり,あらゆるゲーマーにおすすめするものではないが,興味のある人には有意義な選択肢が出現したことは重要だと思う。
さて,EVERCADEを購入した理由は「Duke Nukem」だけではない。ほかにもなかなか遊べないタイトルがいくつかあり,それらも筆者の背中を押した。
まずは「Team 17 COLLECTION」。これにはAmiga向けにリリースされたタイトルが収録されており,「Alien Breed」シリーズ3作品を含む。
「Alien Breed」は現在,あまり見られなくなったトップダウンシューターの名作だ。Steamでリメイク版が配信されている。
オリジナル版はGOG.comでも配信されているが,筆者の環境では動作がどうにも怪しい。ゲームを中断するときに画面が暗転したままデスクトップに戻れず,仕方なくPCを再起動するハメになったことも……。EVERCADEであればコントローラで遊べるうえ,説明書もあるので最低限の操作が分かるといったメリットがある。
次は「Intellivision Collection 2」。Intellivisionはファミコン以前の家庭用ゲーム機だ。日本でも販売されたらしいが,当時の筆者はまだ赤ん坊だったので,さすがに知らないし,現物を見たこともない。そんなハードのゲームを12タイトル収録している。
そんな時代の産物なので,さすがにグラフィックスは超ウルトラクラシック。「昔のゲームが好き」という人の中でも,さらに人を選ぶだろう。
筆者が購入した理由は,「TOWER OF DOOM」というゲームが気になったから。どうやらローグ系の雰囲気があり,実際にやってみないとよく分からないので買ってみた。
幸い,EVERCADE公式サイトにも少し解説があり,それによると中級レベル以降のダンジョンにはランダム要素が入ってくるようだ。
Intellivisionのコントローラは変わった形をしていることもあり,最初は意味が分からない点も多かった。当然,ネットで攻略情報を探すのも難しいし,当時はどんな感じでプレイしていたのかを想像しながら遊んでみたが,いまだに全容はよく分かっていない。
また,EVERCADEには本体の2つのスロットに特定のカートリッジを挿したり,本体のメニュー画面からシークレットコードを入力したりと,特定の条件でアンロックできるゲームもある。
その中で気になっていたのが「Rogue 64」だ。Commodore 64向けに移植されたバージョンで,これが遊べる環境はなかなか用意できないだろう。
2024年は早々に「不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録」が登場したが,7月には「Epyx Rogue」(Nintendo Switch)が配信され,ローグ系大好きっ子のあいだで話題となった。
「Epyx Rogue」はAmiga向けに移植されたバージョンで,Steamで配信されている「Rogue」とはまた一味違う。コントローラ操作に対応するため,画面にバーチャルパッドを表示し,スティックを倒した方向で文字入力に対応させるなど,なかなかの力技を行使したアレンジも見どころだ。
少々脱線したが「ローグと名の付くものは片っ端からやりたいぜ」という人は,EVERCADEの「Rogue 64」も気になることだろう。
本体を購入してからまだ日が浅いため,筆者が所有しているカートリッジは「Duke Nukem Collection」の2本,「Team 17 COLLECTION」「Intellivision Collection 2」。そして,本体に付属していた「TECHNOS ARCADE 1」「DATA EAST ARCADE 1」を加えた計6本となる。
2025年以降はSNK作品のリリースも決定しており,ソフトラインナップは今後も楽しみだ。
レトロゲームカートリッジ「EVERCADE」のBlaze Entertainment,SNKとパートナーシップを発表。NEOGEOライセンス製品を2025年に発売
レトロゲームやインディーゲームをカートリッジ化する「EVERCADE」を展開しているBlaze Entertainmentは,SNKとのパートナーシップを締結したと発表した。これにより,「NEOGEO」の歴史から公式ライセンスを受けたさまざまな製品を,2025年〜2026年にかけてリリースするとしている。
クラシックなタイトルの復活は,
懐古ではなく歴史の伝承だ
クラシックなタイトルと言えば,今年10月に「Killing Time: Resurrected」がリリースされた。原作の3DO用ソフト「Killing Time」(邦題は「閉ざされた館」)は,戦闘手段として「撃つ」ことはできるが,「探索」と「謎解き」が主体の一風変わったFPSだ。
筆者は3DOに思い入れがあるわけではないので,完全に新規タイトルとして楽しんでいる。どうにもマニアックなタイトルらしく,ネットの攻略情報は乏しい。海外のサイトを漁っては翻訳しながら進めているのだが,この過程がEVERCADEのゲームを遊ぶときに似て,「よく分からんゲームを積極的に遊ぼうとする楽しさ」がある。
同時期には「PO'ed: Definitive Edition」がセール対象になっていた。「そういや,PS1でやったな〜」と懐かしくなり,こちらも購入。当時,大人気だったわけでもないタイトルなのに「よく復刻させたなあ」と思っていたら,「Killing Time: Resurrected」と同じパブリッシャ(Nightdive Studios)と知り,筆者と波長が合うというかなんというか……苦笑いしてしまった。
各ステージをクリアするには,さまざまなギミックを解く必要があり,その解法はノーヒント。「Killing Time: Resurrected」と同様,探索と謎解きが主体だ。特定の壁の前でボタンを押すと隠し扉が開くなど,何も知らない状態だと根気を要する。こちらもマニアックなタイトルなので,手探り感がたまらない。
ちなみに「PO'ed」は,宇宙船に侵入してきたエイリアンを退治するべく,宇宙船のコックがフライパンや包丁で戦うという設定のFPSだ。リアルな「ケツだけ星人」みたいな敵が強烈に記憶に残っていたが,微妙に解像度が高くなって元気に登場してくれたので安心した。
2024年もリマスター作品やリメイク作品が多数リリースされた。
大規模なリメイクプロジェクトの第2弾「FINAL FANTASY VII REBIRTH」。見事に復活を遂げた「ロリポップチェーンソー RePOP」。現代の映像で美しく,恐ろしく蘇った「サイレントヒル2」。変えるべきところは変え,それでいて“らしさ”はまったく失われていない「ロマンシングサガ2 リベンジオブザセブン」。29年ぶり,初の復刻となる「クロックタワー・リワインド」。そして,直撃世代が待ちに待った「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…(HD-2D版)」。筆者が今年購入したものだけでも,こんなにある。
近年,リマスター作品やリメイク作品が増えてきているが,「リマスター/リメイク商法」などと言われていた数年前とは状況が変わっていると感じる。一時代を築いたハードが次々と寿命を迎えつつあり,リマスターやリメイクが行われなければ,遊ぶ手段がどんどん消えてきているからだ。
ROMカートリッジ機は比較的,経年劣化に強いものの,CD/DVD機はディスクを読み取れなくことが多い。筆者が所有するPS1,PS2,初代Xbox,ゲームキューブは寿命を迎えてしまった。
先に挙げたものでは,「ロリポップチェーンソー」はPS3とXbox 360でしか遊べないタイトルだった。PS3とXbox 360なんて大昔というほどではないが,それぞれ発売から18年と19年が経過している。立派なクラシックハードだ。
筆者はリマスター/リメイクを「どんどんやってほしい派」だ。無数のゲームが発売される中,「当時は遊ばなかったタイトル」は誰しも多くあると思うが,後年になってプレイしようにも,その手段がなくなりつつある。
多くの「もし出会えていれば,好きになったかもしれないゲーム」が存在したのに,気づかないうちに通り過ぎてしまったことだろう。リマスター作品やリメイク作品,そして復刻タイトルはそうしたゲームと出会えるセカンドチャンスでもある。筆者が子供のときに「Duke Nukem」と出会っても,興味を持たなかったと思う。年齢を重ねると好みは変わるものだ。
こういう話をすると,昔のゲームにしか興味を持たない懐古主義者だと思われることもある。それは大きな間違いだ。昔のゲームが好きな人は,その大半が現代のゲームもプレイしている。しているからこそ,昔のゲームをプレイして比較してみたり,それによって「やっぱ,現代のゲームって進化してるんだな……」と再認識したりする。
今年は「ELDEN RING」のDLCに悶絶しながらラスボスに心をブチ折られたり,「ステラーブレイド」のフォトモードに夢中になったりしていた。振り返ってみると,古いタイトルも新しいタイトルもまんべんなく楽しめた1年だったと感じる。
クラシックタイトルは,未プレイの人にとっては新作と同じだ。故きを温ねて新しきを知る。EVERCADEは,ゲーマーの温故知新の旅の一助となるだろう。
「EVERCADE」公式サイト
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