インタビュー
[E3 2014]EA幹部ピーター・ムーア氏単独インタビュー。プレスカンファレンスの総括から業界のトレンド,そして“あのスポーツ”の行方までを聞いてきた
Moore氏は,SEGAやMicrosoftを渡り歩いた後,2007年からEAに在籍している人物で,現在はEA Sportsのブランド強化から,会社の経営の立て直しまで邁進中。そしてもちろん,今回のE3 2014でも,プレスカンファレンスに取材にと大忙しの様子だ。
……「誰?」という人は,gamescom 2013開催時のインタビューを参照してほしい。
PlayStation 4とXbox Oneの発売,「Battlefield 4」(PC / PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360。邦題 バトルフィールド 4)や「Titanfall」(PC / Xbox One / Xbox 360。邦題 タイタンフォール)の発売,若きAndrew Wilson(アンドリュー・ウィルソン)氏のCEO就任と,ここ最近でEAは複数のマイルストーンを経ている。
今回は,ゲーム業界に絶大な影響力つそんなEAの現在と今後について,Moore氏にしっかりと話を聞いてきた。EAプレスカンファレンスの総括,業界のトレンドを聞きつつ,さらに今回はMoore氏に「3つの予言」をもらっているので,ぜひチェックしてほしい。
なお以下のインタビュー中,PlayStationはすべて「PS」と略記する。
EAプレスカンファレンスを総括
年末までに発売されないタイトルを披露する挑戦
4Gamer:
ここ1年で2回めのインタビューとなりますが,よろしくお願いします。
ではまず,EAのE3 2014プレスカンファレンスを総括していただけますか?
Peter Moore氏(以下,Moore氏):
そうですね。
日本語の表現を使うなら,プレスカンファレンスは「風呂敷を広げる」といった意味合いが強かったと思います。早い時期にゲームを見せてしまうことを開発者の多くは嫌がるものなのですが,今回は「Star Wars: Battlefront」や「Mirror's Edge 2」(PC / PS4 / Xbox One),Criterion Gamesの新作レースゲーム,そして「Mass Effect」の第4作と,まだ名前さえないような新作を含めた4本を,我々の未来のプロジェクトとしてみなさんに見ていただきました。
ゲームデザインやテクノロジに関する開発者達のメッセージの中には,やや難しいものもあったかもしれませんが,我々がみなさんに伝えたかったのは,そうした「ゲーム作りの情熱」だったのです。情熱がなければ,良いものなんて作れませんからね。
Star Wars: Battlefront |
Mirror's Edge 2 |
Criterion Gamesの新作レースゲーム |
Mass Effect第4作 |
4Gamer:
確かにここ数年は,「年末に発売されないものはE3で紹介しない」という風潮があったかもしれません。
Moore氏:
ええ。その観点でいうと,最後に「Battlefield: Hardline」(PC / PS4 / PS3 / Xbox One / Xbox 360。邦題 バトルフィールド ハードライン)の正式発表とβテストの開始発表を持ってきたというのは,非常に実験的だったと思います。
もちろん,事前に一部の情報がリークされてしまったのは不幸なことでしたが,この規模のタイトルではしようのないことかもしれせん。
ともかく,結果として多くの人が熱狂し,現時点で何十万人という人がβをプレイしているというのは,我々にとっても非常にエキサイティングなことですね。全体的には,関係者は良い仕事をしてくれたと思っています。
Battlefield: Hardline |
4Gamer:
Star Wars: Battlefrontはまだ先のプロジェクトだと思っていましたが,あれだけ見れたのには正直に驚きました。
Moore氏:
考えてみてください。
映画「Star Wars」が初めて劇場公開されたのが1977年ですよ? プレスカンファレンスでStar Wars: Battlefrontの映像を見て熱狂していた参加者は,まだ生まれてなかった人も多かったんじゃないですかね(笑)。私はStar Trekで育った世代なんですが,それでもStar Warsでブランド作りの大切さを強く感じさせられましたよ。
4Gamer:
いや,本当に,今年は情報が多くてありがたかったです。
少し,前回のインタビューから今に至るまでの話を聞かせてください。EAのフラッグシップとしてリリースされたBattlefield 4とTitanfallの話から,といったところでどうでしょう。
Moore氏:
ご存じのように,Battlefield 4はとても困難なスタートになりました。ネットコードが完全な形でないまま発売し,ゲーマーのみなさんに数か月にわたって迷惑をかけることになったことを,とても申し訳なく思っています。予想以上のアクセスがあったことと,64人でのマルチプレイモードが技術面で挑戦的だったことを除外しても,決して良いローンチだったとは言えません。
しかし,我々の「自分達がリリースしたゲームをそのままにしない」という誠意は,その後しっかりと行動でお見せできたと思っています。今では安定してゲームを楽しめるようになりましたし,今も多くのプレイヤーに楽しんでもらっていることを嬉しく思います。
Battlefield 4 |
4Gamer:
Tatanfallはどうですか。
Moore氏:
Titanfallは,メディアやコアなゲーマーから「最初の新世代ゲーム」と評価してもらえましたし,Respawn Entertainmentは前評判どおりの作品を作り上げてくれました。彼らと組めたのは本当に光栄ですね。
また,Microsoftからも,「Titanfallがハードウェアを売っている」といういい知らせも届いています。私自身,長い間ハードウェアビジネスの世界に身を置いていたわけですが,キラーソフトに恵まれるのは希なことです。パブリッシャとしても,PS4やXbox Oneといった新世代ゲーム機が発売して間もない時期に,キラーソフトを手に入れられたことには,感謝してもしきれませんよ。
Titanfall |
4Gamer:
Titanfallつながりでいえば「『Titanfall 2』はマルチプラットフォームで」なんて噂もありますが。
Moore氏:
噂には回答しません(笑)。
というか,マルチプラットフォームでは,「Plants vs. Zombies Garden Warfare」(PC / Xbox One / Xbox 360。邦題 プラント vs. ゾンビ ガーデンウォーフェア)※のPS4版とPS3版が今夏のリリースなので,忘れないでくださいね。あれは本当に楽しいゲームなんですから。
4Gamer:
いやいや忘れてませんよ(笑)。
Plants vs. Zombies Garden Warfare |
業界のトレンドは「タイトルの少数精鋭化」
4Gamer:
しかしこうやって2014年前半に出たタイトルを思い返すと,ラインナップは非常にバラエティに富んだものだったんですね。
その一方で,今年のEAブースはどこか寂しい気もするのですが……。
Moore氏:
バラエティという意味では,昨年と変わりませんけどね。Battlefield: Hardlineに,「Dragon Age: Inquisition」(PC / PS4 / PS3 / Xbox One / Xbox 360),「The Sims 4」(PC / Mac),新しいゲームモードが遊べるTitanfall,さらにEA Sportsのタイトルと,今年リリースされる予定の作品はどれもジャンルが違いますよ。
Dragon Age: Inquisition |
The Sims 4 |
4Gamer:
ただ,レースゲームがありません。例年だと,ブースの中央あたりにNeed for Speedシリーズがあるのに,今年はない。どこかブースにぽっかりと穴があるような雰囲気なんです。あのシリーズは,1年に3作リリースされたこともあるのに……という。
Moore氏:
なんというか,むしろNeed for Speedを2013年まで16年も連続でリリースできていたことのほうが異常だったのかもしれません。
開発チームも,どこかの時点でプロジェクトを客観視して,方向性を見つめ直さなければいけない。その時期がたまたま今であり,その空白を埋めるのがプレスカンファレンスで発表したCriterionの新作であると考えられないでしょうか。
4Gamer:
言われてみれば確かに……。しかしそう聞くと,ますますCriterionの新作が楽しみになってきました。
ラインナップの話を続けると,今回のプレスカンファレンスで発表されたのは確か12タイトルだったと記憶しています。先ほど話題に出た“未来の4作”を除くと,2014年内のプロジェクトが少ないとはお感じになりませんか。
Moore氏:
私がEAにやってきた2007年に,この会社がリリースしたタイトルがいくつあったかご存知ですか? なんと67作です。そして,このうち60作は平たく言えば失敗作です。EAのような(巨大な)パブリッシャであっても,67本もの新作ゲームに費やすリソースなんてあるわけがないんですよ。
こんな状態は,会社にとっても消費者にとっても決して良いことではありません。そのため,「運用するプロジェクトを少なくする代わりに,個々の作品の開発と広報に多くのリソースを割り当てる」というのが,我々だけでなくほかパブリッシャにも共通した,今日(こんにち)のゲーム業界における主流になっています。
我々のライブラリでいえば,こうした戦略変更の結果としてブランド化したのがBattlefieldであり,The Simsであり,BioWareのタイトルなのです。
4Gamer:
それはとても腑に落ちる説明です。
Moore氏:
初代XboxやPS2の頃は,毎年500本近いタイトルがリリースされていましたが,最近のE3に出展される新作ソフトは減っています。そのせいもあって,フロアを見渡すとどこか寂しい感じになっているのは確かでしょう。
でもそれは,必ずしもマイナスというわけではないのです。
Moore氏による「3つの予言」。E3は,EAは,そして世間を賑わせているアレはどうなる?
4Gamer:
では少しE3にフォーカスして……。
広報活動やビジネス戦略の変化とともに,各パブリッシャは独自のプレミアイベントを開催したり,ソーシャルネットワークを利用した発表を行うようになっていますよね。相対的に,E3の重要度は低下していると考えていいのでしょうか。
Moore氏:
一理あると思いますが,プラットフォームホルダーが肩を並べて新作や戦略を発表する場として,E3は今も非常に重要な役目を担っているとも思います。
一時期,E3をサンタモニカに移して各社がバラバラに発表したことがありましたが,どうもうまくいかなかったのは覚えてらっしゃるでしょう。ゲーム業界の勢いや現状をメディアやゲーマーに良い形で見せる手立ては,今のところE3以外にないのです。
4Gamer:
分かりました。E3は現状維持で今後も続くというのをMooreさんの1つ目の予言として覚えておきます。
一方で,たとえば「5年後のEA」はどうなると考えていますか。
Moore氏:
経営の手の内を公言しちゃうほど甘くないよ(笑)。
まあ,今回のインタビューのテーマのようになっていますが,よりタイトなライブラリで,品質の良いゲームとサービスを提供するというのは,今後の我々の目標であるのは間違いありません。
4Gamer:
そこは今年の方向性を維持する,と。第2の予言ですね。
では3つめ,ワールドカップはどこが優勝するでしょうか?
Moore氏:
ははは!(笑)。僕自身は,ブラジルに勝ってほしいと思ってます。
4Gamer:
それで良いんですか!? 「FIFA 14」のシミュレーションではドイツが勝つことになってるはずでは……(笑)。
Moore氏:
ええ,ドイツが勝ちました。しかし我々のゲームには重要なファクターが欠けているんです。
それは,過去に南米で開催されたワールドカップにおいて,ヨーロッパの出場国が勝ったことがないというデータです!(笑)。
開催地までの距離や,その風土,気候などの影響なんでしょうか。ドイツは若い選手が多くてエネルギッシュかつ賢いプレイをするし,なにより見ていて本当に面白くて今の私のお気に入りのチームです。でも,勝つのはブラジルでしょう。
日本でも,「FIFA 14 ワールドクラス サッカー」を使用した“予想イベント”が開催された(関連記事) |
4Gamer:
Mooreさんの出身地である英国は?
Moore氏:
(首を横に振りながら)可能性はないね。あの監督ではダメだし,ドイツのようなチームの若返りに完全に失敗したままワールドカップを迎えてしまった。再生するのは時間がかかるかもしれないよ。
4Gamer:
実は私,ドイツのブンデスリーガを見るのが好きなんです。日本人のプレイヤーも増えたし。
Moore氏:
その意見には賛成できないですね。
確かにイギリス人プレイヤーはイギリス以外での経験がもっと必要だという意見もあるけれど,ブンデスリーガのサッカーは好きになれない。とくにバイエルン・ミュンヘンがいけない。リーグサッカーはプレミアリーグに限る。リヴァプールが一番さ。
4Gamer:
結局故郷のリヴァプールじゃないですか(笑)。
まあ,昨季はもう一歩でリーグ制覇を逃したのは残念でしたけど,とりあえずワールドカップと夏の移籍市場を楽しみにしていましょう。
……と最後に大きく脱線したところで,本日はありがとうございました。
Electronic Arts公式サイト
「E3 2014」4Gamer特設サイト
- この記事のURL: