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SCEとPlayStationにとって,「パラッパラッパー」とはどんな存在だったのか。SCE創立メンバーと松浦雅也氏をゲストに招いた「黒川塾(二十)」をレポート
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印刷2014/07/26 15:41

業界動向

SCEとPlayStationにとって,「パラッパラッパー」とはどんな存在だったのか。SCE創立メンバーと松浦雅也氏をゲストに招いた「黒川塾(二十)」をレポート

 2014年7月24日,トークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(二十)」が,東京都内で開催された。定期的に行われるこのイベントは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏がゲストを招き,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというもので,今回で20回めを迎える。

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メディアコンテンツ研究家 黒川文雄氏
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 記念すべき20回目の開催となった今回は,「コンテンツプロデュースと丸山茂雄の『大往生』」と題して行われ,ゲストにソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の創立メンバーで,PlayStationの立ち上げに大きく関わった丸山茂雄氏佐藤 明氏,そしてPlayStationの音楽ゲーム「パラッパラッパー」を手がけたミュージシャン/ゲームクリエイターの松浦雅也氏の3名が招かれて,トークを繰り広げた。

 トークは,もともとミュージシャンだった松浦氏が,なぜゲーム開発に携わるようになったかという話からスタートした。松浦氏は,それまでアナログレコードや映像など,合わせて27のプラットフォームに自身の作品を提供していたが,その背景には「音楽だけやっていたのでは,いつか行き詰まってしまう」という強い危機意識があったという。

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丸山茂雄氏。レコード会社,エピック・ソニーの設立者。ソニー・コンピュータエンタテインメント 取締役会長,ソニー・ミュージックエンタテインメント 代表取締役社長などを歴任。現在は247Music 取締役会長
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佐藤 明氏。ソニー・コンピュータエンタテインメント 代表取締役会長,ソニー・ミュージックエンタテインメント取締役を歴任。現在は,エピックス 代表取締役会長

 とくに1980年代後半,SCEの創立メンバーの一人である高橋裕二氏(当時はエピック・ソニーに在籍)がネットを駆使して海外の音楽情報を入手していたことに,大きな衝撃を受けたとのこと。今では想像できないかもしれないが,その頃はソニーグループの中でさえ,ビジネスツールとしてPCやネットを使う人はほんの一握りだったからだ。

松浦雅也氏。ミュージシャン,ゲームデザイナー,プロデューサー。打ち込み音楽ユニット「PSY・S(サイズ)」の活動や,「パラッパラッパー」「ビブリボン」といった音楽ゲームなどを手がけている
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 高橋氏のケースはほんの一例で,同じような衝撃に遭遇することは日常茶飯事だったと松浦氏は語る。そして,自身が作る音楽の制作過程もデータとして残しているのだから,「最終的な商品は,楽曲作りの試行錯誤もリスナーが体験できるようなコンテンツになっていないとおかしい」と考えるようになった。

 その結果,上記のように松浦氏はさまざまなプラットフォームを舞台にした表現に挑戦したわけだが,それについて佐藤氏は,当時はデジタルからアナログへの転換期であり,何が主流になるのか分からないという事情があったことを補足した。
 また丸山氏は,「技術が変わると音楽の表現が変わり,さらにそれを追いかけて技術が進歩する」とし,「そうなると,純粋な音楽とは異なる新しいエンターテイメントが生まれる」と,音楽と技術の関係,ひいては松浦氏が純粋な音楽以外の表現に向かった過程を分析した。

 さて,そうした自身の考えや時代背景のもと,松浦氏は,音楽を軸とするエンターテイメントに,どのように周辺の要素を盛り込んでいくかをさらに深く追求することになった。
 その一つとして取り組んだのが「パラッパラッパー」の開発であり,松浦氏は,上記のとおり,ときにはグダグダになることもある自身の音楽作りの過程など,従来の商品化された音源には表れない部分も表現し,かつエンターテイメントとしての魅力を損なわないことを目的としてゲームを企画した。

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 佐藤氏はここで,1990年代後半,世界におけるゲームの供給元の多くが日本のメーカーであったことに言及した。任天堂やセガがRPGやアクションといったジャンルで世界をリードしている中,PlayStationがどう戦っていくのかを考えたとき,音楽を軸にしたゲームを打ち出すという方向性にたどりついた。そこで,松浦氏の企画に白羽の矢が立ったというわけだ。

 しかし,それまでゲーム開発の経験がなかった丸山氏と佐藤氏,そして松浦氏は,多くの戸惑いを覚えることになった。とくに佐藤氏は,音楽制作と比較にならないくらいの費用がゲーム開発において必要であることに驚き,「グラフィックスのコストだけでマンションが買えるじゃないか!」と思ったという。
 さらに,「パラッパラッパー」には仕様書もなければ,α版,β版といった概念もないに等しかったとのこと。丸山氏はそれを,「ある意味で音楽的な作り方。音楽のアルバムを作るときには,仕様書なんて作らないから」と表現した。

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 さまざまな困難を乗り越えたのち,「パラッパラッパー」は完成したが,SCEの上層部は「これはゲームではない」という評価を下したそうだ。松浦氏によれば「ゲームだと判断したのは,実際にプレイしてくれたお客さん」とし,「最初は全然売れず,100万本のヒットに到達するまでには時間がかかった」と振り返った。

 松浦氏の構想やSCEの思惑,その他諸々の要因が功を奏し,最終的に「パラッパラッパー」は,国内累計出荷本数140万本以上のヒットとなる。当然,SCEはさまざまなミュージシャンと組んで音楽ゲームを広く展開しようと試みたのだが,残念ながらそちらはあまりうまくいかなかったそうだ。

 その理由について丸山氏は,ゲーム開発と音楽制作の期間の違いを挙げた。音楽のシングルなら3か月,アルバムなら(長くても)1年ほどで完成するが,ゲームは企画のスタートから完成まで3年近くかかってしまう。丸山氏は,ミュージシャンが一つの作品の制作に3年もかかりきりになると,世間にその存在を忘れられてしまうとし,松浦氏も自身がそうなってしまいかけたという実体験を述べた。

 そういったことから,SCEの音楽ゲーム展開は頓挫してしまったが,佐藤氏は「DanceDanceRevolution」が登場したとき,「ゲームメーカーが音楽ゲームを作ると,こうなるのか」と感心し,たとえ自分達のものではなくとも,新たな音楽ゲームが登場したことに喜びを感じたという。
 ここまでのトークを踏まえて黒川氏が,丸山氏の著書「往生際」の中に書かれている「素人集団の発想のすごさ」に言及した。これは,その道のプロではない素人が,意外な発想からものすごいコンテンツを生み出すことがあり,そこから新しいマーケットが生まれることさえあるという意味だが,SCEおよびPlayStationの立ち上げにも,そういったものが存在したのではないかと質問した。

丸山氏の著書「往生際」。自身の闘病記や,音楽プロデューサー時代のエピソードをベースに,人生との折り合いの付け方が綴られている
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 その問いに対して佐藤氏は,SCEがキャッチーな部分を捕まえることに長けていたことや,「怖いもの見たさ」的に前に進むような雰囲気があったことを述べ,さらに,先行する任天堂やセガのおかげで,SCEの立ち位置が鮮明になり,ソニーのブランドイメージを使うことで,大人を含めた幅広い層にアプローチしていくという方向が明確になったという。
 これは丸山氏の言う「素人集団の発想」とは意味合いが異なるようだが,「前例のないことにチャレンジするのは,非常に楽しい経験だった」と佐藤氏はまとめた。

 トークの最後では丸山氏が,コンテンツを提供する場が次々に変化していく状況に言及した。一つの技術は登場してから約20年間,さまざまな人の手によって限界までポテンシャルが引き出され,やがて新しい技術に場を譲り,そこに新しいコンテンツが生まれていくという。
 そして丸山氏は,自分自身が新しい技術とコンテンツの生まれる場に立ち会えたことを振り返り,願わくば,今後また,新しい技術やコンテンツを作り出すクリエイターとめぐり会いたいとして,トークを締めくくった。

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