業界動向
Appleによる支配の構図に綻びか。Apple vs. ヤフー報道を読み解く
私(黒川文雄)にしてみれば,「あれから1年経った今になってか……」というのが正直な感想だ。
少々飛躍したが,まずは8月16日の報道内容から振り返ってみよう。
日本経済新聞電子版によると,ヤフーのゲーム配信事業に対し,Appleが圧力をかけて取引を妨げた疑いがあるとして,公正取引委員会が調査を進めているという。これは,ヤフーが2017年7月18日に発表した,ゲーム配信プラットホーム「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」(以下,ゲームプラス)に対して,危機感をもったAppleが,「ゲームプラス」にゲームを提供する予定のパブリッシャに対して圧力をかけ,顧客誘導や投資の縮小を迫った疑いがあるという事案だ。調査は2017年秋,ヤフーから経済産業省と公取委に報告が入り始まったという。そして,その状況を日経側が推測も交えて報道したものが8月16日の記事だ。
「ゲームプラス」は,HTML5とクラウドゲームという手法を利用したサービスだ。つまりAppleが提供するApp Storeなどのようにアプリをダウンロードさせる方式ではなく,ブラウザ上で負荷なくゲームがプレイできる。ゲームプラスにコンテンツを提供するパブリッシャには基本的にエントリーフィーはかからない(App Storeの場合は30%の手数料徴収が行われている)ビジネスモデルだ。
「ゲームプラス」は,スクウェア・エニックスなど,パブリッシャ52社がコンテンツを提供するという前提の発表だったが,ローンチ後のコンテンツの集まり具合は芳しくなかった。
ちなみに,発表会にはスクウェア・エニックス 代表取締役社長 松田洋祐氏自らが登壇し,独占配信コンテンツの新作「アンティーク カルネヴァーレ」を発表したが,2018年4月26日にサービスは終了している。
「ゲームプラス」の発表の動きを察知したAppleは,ゲームの提供を予定している大手パブリッシャに対して警告めいた案内したというウワサがあった。私自身もゲーム会社5社の代表取締役,経営幹部達にその旨を確認したが,回答は得られなかった。もちろん,警告があったとしても,そうと言えるわけはないだろうが……。
Appleもメールや書面など形が残るもので案内するはずもなく,おそらくは現場の折衝レベルで「ゲームプラスのサービスには乗らないでほしい。もし乗った場合はAppleにも考えがある。最悪のケースとしては提供しているアプリの配信停止もありうる」と伝えたのではないだろうか。
さらにAppleはヤフーに対しても,「ヤフーが提供するアプリを,App Storeから削除する」という旨の打診を行ったのだろう。なぜなら,7月18日の発表会終了後から増え続けた登録会員と,ヤフーが本来目論んでいた潜在顧客へのリーチは,あれよあれよという間に及び腰になってしまったからだ。明らかに不自然な形でサービスやプロモーション規模が縮小してしまったのを覚えている。
日経は「公取委はアップルが,独占禁止法が禁じる『取引妨害』をしたとみて,情報収集を続けている。だが調査は難航しているもようだ。」と伝えている。結果はこのままうやむやになる可能性もある。
今回のようなケースでは,書類の有無,証言の有無,双方による情報開示などが揃わない限り立証が難しい。また日本のゲームパブリッシャにとってAppleは大きな得意先でもある。
とはいえ,中国のゲームショウ「ChinaJoy 2018」で見たTencentなどの中国大手ゲームパブリッシャは,HTML5ゲームに大きく舵を切っていた。
また日本でも「ゲームプラス」のサービスが継続して行われているだけでなく,LINEによるHTML5のゲームポータル「LINE QUICK GAME」導入が今夏に予定されているなど,HTML5への流れは確実に進んでいる。私は,HTML5のポータルやコンテンツが日本のみならず,アジア市場での大きな転換点となり,Appleを始めとした海外ポータルの集中支配から抜け出すことを期待している。
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