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ゲームマーケット2019春が開催。人気デザイナーが参加するプロジェクト「KAIJU ON THE EARTH」など,企業系イベントを中心にレポート
今回の来場者数は,25日に1万4000人,25日に1万1000人の合計2万5000人と,前回よりも3000人ほど増加した。また初の使用となる青海展示棟A・Bは,前回まで使用していた東7ホールや西3・4ホールと比べて2倍のスペースとなっており,来場者数は増えていても全体的に歩きやすかった。
開催日は30度を超える真夏日となったが,室内は比較的涼しく,終日過ごしやすかった印象だ。心配されていた携帯電話の電波も,入りにくい場所や時間はあったものの「まったくつながらない」ということはなかった。新しい会場ということで,いろいろと心配していた人も多かったと思うが,概ね快適だったと言えるだろう。
前置きはこれくらいにして,本稿では,会期中に催されたステージイベントや,デザイナーへのインタビューを中心にお届けしよう。
すごろくやブース:「放課後さいころ倶楽部」アニメ化記念イベント
ステージには武笠美姫役の宮下早紀さん,高屋敷綾役の高野麻里佳さん,大野翠役の富田美憂さん,そして原作者の中道裕大氏が登壇。まずは声優陣がそれぞれ担当するキャラクターについて語った。
宮下さんは武笠美姫について,他人に対して寄り添うキャラでありながらとても傷つきやすいので,そのあたりの感情をうまく表現していきたい,とのこと。
高野さんは高屋敷綾のことを「とてもゲームが下手」と説明しつつも,むしろ視聴者は彼女に感情移入しやすいのではということで,そのあたりを注目してほしいそうだ。
「歩く校則,ザ・委員長!」の大野翠を演じる富田さんは,感情が高まると京都弁が出るという設定に奮闘中。埼玉出身なのでとにかく京都弁が難しい様子。
京都弁の指導者のから事前にセリフを吹き込んでもらい,それを聞きながら勉強したうえでアフレコに挑むそうだが,感情を乗せると違う音になってしまうこともあるという。奈良県出身の宮下さんも京都と奈良ではけっこう違うことに気付かされるらしい。
中道氏は,オーディションテープを聴いた段階で「この3人がいい」と,まさに今回登壇している3人を要望したという。中道氏が思い描くキャラクターのイメージのままだったそうで,3人はとても喜んでいた。……と,アフレコ時のいろんな話で盛り上がったところで,ステージでPVが初公開。このPVでゲームショップ「さいころ倶楽部」店長の声が黒田崇矢さんであることが判明した。
PVでは,ボードゲームをプレイしているシーンがあったが,いまのところ確認できたのは「マラケシュ」「ごきぶりポーカー」「インカの黄金 新版」の3作品。単行本でいうところの1〜2巻あたりだ。
PVを観た後,中道氏からアニメ版と漫画版でキャラクターの絵柄が違うことに関して説明があった。14巻まで出ている原作は,時期によって絵柄が変わっており,どの時期の絵柄に合せるかという問題をずっとスタッフと話し合ってきたとのこと。
だが,なかなか決めることができず,思い切って中道氏から「似せなくていいです!」と提案。キャラクターデザイナーが可愛いと思う絵柄で書いてくださいとお願いした結果,「こんなに可愛くなりました!」と中道氏も大満足の様子だった。
そしてここからはボードゲーム談義に。それぞれ好きなボードゲームの話題に移り,高野さんは「クアルト!」,宮下さんと高野さんは「ナンジャモンジャ」をあげた。中道氏は「麻雀」と答え,声優陣にさりげなく「すずめ雀」をオススメしていた。ちなみに「すずめ雀」とは麻雀のルールを極限まで削ぎ落として簡単にしたもので,すごろくやから発売されているボードゲームのひとつである。
1話のアフレコに入るまえ,実際に劇中で使われるボードゲームを3人で遊ぶことになったそうで,それまでほぼ初対面だった3人が,ボードゲームのおかげで一気に距離が縮まったという。まさに原作と同じようなことが実際に起こったのである。ちなみに,このときの様子が最新14巻のあとがきに描かれているので,ぜひチェックしてみよう。
「包容力」や「優しさ」「色気」「清潔感」はもちろん,「お金」「学歴」などがランキングに入ることは分かったので,あとは順位ごとに何が当てはまるのかを当てればいい。最初に4位の情報を無条件に公開,「優しさ」であることが判明すると,中道氏は「優しさだけではダメなのか……」と遠い目をする。
結果,1位は「ミステリアス」,2位が「色気」,3位が「包容力」という結果に。会場の宮下さんファンはみな熱心にメモっていたようだ。
次は「キャプテン・リノ 巨大版」をプレイ開始。カードで高層マンションを築いていくバランスゲームで,積み上げると最大3メートルにも及ぶ。こちらは難度の高い上級者モードでプレイしたら,4段目を建てたところで中道氏がバランスを崩してしまってゲームオーバー。
最後はジャンケン大会で,勝ち残った人には,この日登壇した方全員のサインが入ったボードゲームがプレゼントされるとあって,みんな真剣に挑んでいた。
JELLY JELLY CAFEブース:新作「ATEKKO」インタビュー
ボードゲームカフェとして有名なJELLY JELLY CAFEは,プレイスペースだけでなく自社ブランドによるボードゲームの制作もしている。そこで,今回先行発売された「ATEKKO」について,代表の白坂 翔氏に話をうかがった。
「ATEKKO」は,サークル「スヲさんち」による同人ボードゲーム「あてっこついたて」をリメイクしたもの。2015年の発売以来,ずっと店内で遊ばれており,根強いファンも多かったという。
これだけ遊ばれているなら我々でもっと遊びやすくしたものを作るのはどうだろう……ということで,サークル「スヲさんち」に相談して昨年秋ごろから制作がスタートし,ゲームマーケット2019年春で先行発売となったとのこと。
ゲームの内容はいたって簡単。「くだもの」「お菓子」などのお題が与えられるので,思いついたものを各自のボードに書く。次にサイコロを振り,出た目のぶんだけボードを隣の人に移動させて,ほかのプレイヤーに見せるように立てる(自分には見えない)。プレイヤーは自分の目の前にあるボードに何が書かれているかを当てる,というゲームだ。
ゲームの進行は,手番プレイヤーがイエスかノーで答えられるヒントを,周りのプレイヤーに聞いていくのが基本となる。たとえば「このくだものは赤い色ですか?」「このお菓子を食べたことはありますか?」といった質問を投げかけていき,それを全員が一斉にイエスかノーで答えていく。
イエスかノーかは人によって異なる場合があるので,そのあたりもこのゲームのユニークな点で楽しいところ。勝者は一番最初に言い当てた人となる。
せっかくなので,白坂氏にJELLY JELLY CAFEそのものの今後についても聞いてみた。まず,新規店舗として大阪心斎橋店が6月にオープン。現在の店舗は,都内に7店,神奈川県に2店,名古屋と福岡に1店ずつで,大阪心斎橋店で12店舗目となる。
大阪にはすでにたくさんのプレイスペースがあるので,物件は慎重に選んでいたという。まだ具体的には動いていないが,札幌と大宮にも興味があるそうで,今後の出店情報が楽しみだ。
伝統ゲームコーナー「ごいた」
ゲームマーケットおなじみの伝統ゲームコーナー。今回はボードゲーム界隈でも比較的有名な「ごいた」を扱っていた。
「ごいた」自体は,2008年と2015年にも伝統ゲームコーナーに登場しているので,今回で3回目となる。そのあたりの経緯を,能登ごいた保存会東京支部 支部長の草場 純氏と,第13回ごいた名人の大内康行氏に聞いてみた。
「ごいた」は,能登半島に伝わる伝統的なゲームで,将棋の駒に似たものを使う。4人専用のゲームで,対面に座ったプレイヤーとタッグを組む2対2のペア戦となっている。ルールはこちらを参照してもらうとして,遊ぶだけなら極めて簡単。ただし,言葉を交わさずコマの打ち筋で仲間のプレイヤーに意図を伝える……というのが奥深くも難しい要素となっている。
すでにボードゲームファンのあいだで「ごいた」は有名な印象もあり,ゲームマーケットにくる人達なら経験済みの人も多いだろうと,スタッフ側は思っていたそうだ。ただ,「今回の参加者は初心者がほとんどです」(草場氏)とのことで,名前は聞いたことあるけど,どんなゲームかは知らなかったという層もかなりいたようだ。
今回の出展では,名人の大内氏による「ごいた講義」が大きな目玉となっていた。「ごいた」はルールこそ簡単だが,ペア戦としての勘どころに慣れるまでが難しい。自分がどんなコマを持っているのか,仲間はどんなコマを持っているのか。そんな情報を,出すコマによって伝えていく。この伝え方が分かってくると途端に面白さが広がって,奥深さを感じることができる。
1日3回ほど行われた講座は,大内氏の基本的な考え方を教えるという内容だったが,どの回も好評だった様子だ。参加者は「ごいた」への理解度が深まったであろう。
せっかくなので,両者に「ごいた」の魅力をあらためて語っていただいた。
「テクニックや手札の善し悪しだけがすべてではなく,ペアでどう戦っていくかという独特なスタイルが一番の魅力です」(大内氏)
「誰でも入りやすいんですよ。囲碁や将棋だとルールや定石を覚えるまでが大変だし,初めて遊んでいきなり勝てることはまずありません。でも『ごいた』は初心者でも勝てることがあるんです。それでいて,ペア戦ならではの奥深さがあるので,夢中になる方が多いんです」(草場氏)
「ごいた」はアークライトからカード版も発売されているので,興味のある人はこちらを購入してみるのも良いだろう。能登ごいた保存会の公式サイトでは,定例会の情報も確認できるので,本来のごいたで遊んでみたいという人は,そちらをチェックしてほしい。
能登ごいた保存会
アークライト×ドロッセルマイヤーズ 新プロジェクト発表
アークライトとドロッセルマイヤーズは5月25日,新たなボードゲームプロジェクトの発表を行った。この発表会は,ネットやカタログで告知されていたものの,2社が合同で発表するということ以外は一切不明で,一体何が発表されるのかと,熱心なボードゲームファンがアークライトブースに集まった。
そして発表されたのが,「KAIJU ON THE EARTH」(カイジュウ・オン・ジ・アース)だ。これは,共通の世界観を持ちながらも,ゲームシステムの異なるボードゲームを,異なる作家が定期的にリリースしていく,連作のボードゲームシリーズとなっている。
最初にステージに登壇したのは,本プロジェクトの中心人物であるドロッセルマイヤーズ代表取締役の渡辺範明氏。どういう流れでこのプロジェクトをスタートさせたのか,その経緯を説明した。
氏は最初に,日本から世界へ発信するオリジナルIPの大作ボードゲームシリーズを成立させることが,プロジェクトの目的であると語る。ではなぜこういうプロジェクトを始動させようとしたのか。
日本のボードゲーム市場は,この10年で爆発的に広がっている中,いくつかの課題もあると指摘する。それが,「輸出より輸入タイトルが多い」「ほかのメディアへの広がりが弱い」「同人作品の割合が高く,作品傾向に偏りがある」「ヒットがあっても単発で終わりがち」ということだ。
とくに「ヒットがあっても単発」なのは,日本に限らず多くの国の作家が抱えている問題である。ボードゲームは1作ごとにアイデア勝負の部分も大きいので,ほかのコンテンツと比べてもシリーズとして継続しにくい面がある。
そこで渡辺氏は,アークライトと共にこの課題を解決すべく,「日本から世界へ発信するオリジナルIPの新作ボードゲームシリーズ」テーマに基づいて,「KAIJU ON THE EARTH」を発表したわけだ。
「怪獣」という題材を選んだ理由は「強くてかっこいい」のはもちろん,世界発信を目指すのであれば「日本が海外に誇るべき文化」である点も大きい。怪獣そのものが「作品世界を支配するルールの象徴」になるため,ボードゲームとの相性も良い。
どのような特徴を持つ怪獣を登場させるのかという点も,ゲームデザイナーの個性を発揮しやすい題材でもある。
ステージが盛り上がってきたところで,いよいよ参加ゲームデザイナーの発表に移る。まずは「ダンジョンオブマンダム」シリーズや,「ペーパーテイルズ」を生み出したI was gameの上杉真人氏。
非常にロジカルなゲームを作るデザイナーで,本シリーズの第1弾は上杉氏によるものとなる。この「KAIJU ON THE EARTH」というシリーズがどういうものなのかを知ってもらう作品でもあり,それでいてがっつり楽しめる重量級だというから楽しみだ。作品は,ゲームマーケット2019秋でリリース予定となっている。
第2弾を担当するのは,かぼへるの金子裕司氏。自身は「ほかのふたりと比べると私は……」と謙遜するが,同氏が手がけた「ヴァンパイアレーダー」や「バハムートゲート」は同人ボードゲーム市場で間違いなく圧倒的な存在感を示している。「KAIJU ON THE EARTH」は大作シリーズになる予定ではあるが,その中でも比較的エントリー向けのコンパクトなものを制作中とのこと。こちらはゲームマーケット2020春での発売を予定している。
そして3作目は,OKAZU Brandの林 尚志氏が手がける。重量級の「横濱神商伝」をはじめ,「トレインズ」や「ひも電」は海外でも人気が高い。ゲームマーケットでは,毎回のように複数の新作タイトルをリリースし,精力的に活動しているデザイナーだ。
シーズン1の最終作でもあるので,重量級として行けるところまで行くべく,現在構想中だという。リリースはゲームマーケット2020秋に予定されている。
今後もさまざまなゲームデザイナーに参加してもらい,シーズン2,3と続けていく予定だそうだ。もちろん,シーズン1がどれだけ支持されるかで,継続されるかどうかの判断もあるだろうが,いちファンとしてはぜひ続いてほしいところ。ゲームデザイナーの発表後,シリーズ全体のスタッフが発表された。
制作/プロデュース:アークライト
総合ディレクション:ドロッセルマイヤーズ
グラフィックデザイン:宇佐美詠子
怪獣デザイン/アートワーク:中北晃二
フィギュア製作:ジャイアントホビー
イメージビジュアル:開田裕治
またアークライトの刈谷圭司氏は,「ずっとドロッセルマイヤーズ渡辺さんと組んで仕事がしたいと思っていました。このプロジェクトはすべて渡辺さんにお任せしているので,完成するのがとても楽しみです」とコメントした。
発表会後半は,上杉氏,金子氏,林氏,そして渡辺氏の4人のトークコ―ナーへ。最初にこの話を聞いたとき,どんな印象を持ったか,といった話題を渡辺氏から振られる形でトークがスタートした。
上杉氏は,「ドロッセルマイヤーズさんは"ゆるゲー"(パーティーゲームのような軽いタイプ)をリリースされている印象があったので,連絡があったときはゆるいゲームを作る話だと思っていました。でも話を聞いたら本格をやりたい!ということで嬉しかったです。声をかけていただき光栄でした」とのこと。
金子氏は,「最初,自分以外のふたり(上杉氏,林氏)の名前を聞いて,その中に自分が入っていいのかなって(笑)。普通の同人作家でしかないので。逆に自分はほかのふたりと土俵が違うので,そういう部分を評価していただいて今回声をかけていただけたのだと思っています」と,オファーされたときの気持ちを振り返った。
林氏は,「重たいゲームを個人で作るのはなかなか大変なんですが,好きに作っていいと言われたので,だったら全力で作ろうかなと。非常にありがたいお話ですね」と,プロジェクトへの意気込みを語った。
渡辺氏からは,スケジュールに関してシビアな話も飛び出した。プロジェクト自体は,全員同時にスタートしており,2020年秋に発売が予定されている最重量級タイトルを担当する林氏はまだ1年以上の猶予がある。その一方で,エントリー向けのコンパクトなゲームを作る金子氏のタイトルは1年後のリリースを予定している。本プロジェクト1作目で,かつ重量級でなければならない上杉氏のタイトルが,どうやら一番大変そうな雰囲気だ。
しかし上杉氏は,「まだ完成はしていませんが,だいぶ出来上がっています。今日もこのあとテストプレイがあります」と,制作は順調であることをアピール。
金子氏のタイトルもすでにテストプレイできる段階まではできており,「2〜3人でのテストプレイは行っているんですが,4〜5人で遊べるようにしたいので,そのあたりを今後調整していきたいです」と発売は1年先ながらもだいぶ形はまとまっているようだ。
最重量級担当の林氏のタイトルは,「まだ頭の中にあります」と具体的な形にはなっていないが,その頭の中である程度ルールは固まっているような雰囲気だった。
トークは進み,怪獣というテーマについての感想をそれぞれ述べた。上杉氏は怪獣イコール破壊の象徴でもあるので,これをどうボードゲームのシステムに落とし込むか悩んだという。
金子氏は,1体のモンスターを全員で倒す「バハムートゲート」というゲームを作っており,「そういうタイプのゲームを求められているのかな」ということで,協力プレイのゲームを制作中のようだ。
林氏は「怪獣と人間のドラマを描く……となると,協力ゲームがやりやすいと思いますが,自分はそれとは違うものを考えています」と構想中タイトルのヒントを明かしてくれた。
上杉氏が「この発表会で,アークライトさんとドロッセルマイヤーズさんが非常に本気であることが伝わったと思います」と述べたとおり,「KAIJU ON THE EARTH」は,日本のボードゲーム業界を次のステージへ持ち上げるべくスタートしたプロジェクトだ。
シリーズ名が発表されただけで,個別のゲームタイトルや詳細な内容は今後の発表を待たなければならないが,トップバッターとなる上杉氏のゲームがどんなものになるか注目が集まるだろう。
さて,その「KAIJU ON THE EARTH」第1弾が発売される次回ゲームマーケット2019秋は,今回と同じく東ビッグサイト青海展示棟にて,11月23日と24日の2日間にわたってに行われる。
2020年春の開催は4月25日・26日と例年より早めになったので,こちらも注意しておきたい。開催以来ずっと来場者数が右肩上がりのゲームマーケットだが,来年は3万人を超える規模になりそうな予感もするので,そのあたりも楽しみにしておきたいところだ。
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