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[CEDEC 2019]いたずらに新規顧客を求めるのではなく,今いるファンの満足度を高めることが成長につながる。講演「ファンベース 〜これからの時代になぜファンベースが重要か」をレポート
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印刷2019/09/05 18:17

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[CEDEC 2019]いたずらに新規顧客を求めるのではなく,今いるファンの満足度を高めることが成長につながる。講演「ファンベース 〜これからの時代になぜファンベースが重要か」をレポート

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2019」の初日である2019年9月4日に,「ファンベース 〜これからの時代になぜファンベースが重要か」と題された講演が行われた。
 壇上では,事業のうえではとかく新規顧客の獲得を目指しがちになるが,実は既存のファンを大事にすることが重要で,機能の差別化だけではなく,情緒のつながりを作り出していくこともポイントになる,といった話が行われた。

 講演を行った佐藤尚之氏は,かつて電通でコピーライターやCMディレクターを経たのち,キャンペーン全体を構築するコミュニケーション・ディレクターを務めた人物だ。著書「ファンベース」では,既存顧客の中にいるファンを重視して,中長期的に価値や売上を伸ばす「ファンベース」という考え方を提唱している。
 今回の講演は,佐藤氏がファンベースの概念についてゲーム業界人に説明するというもので,ゲームの企画・販売や運営において,皆が囚われがちな「新規獲得が大事である」という固定概念を打ち砕く内容となっていた。

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ツナグ代表の佐藤尚之氏

 企業の活動において重視されることが多いのが,新規顧客の獲得だろう。既に自社の商品を買ってくれた少数の人より,そうでない大多数にアピールしたい……,と考えるのが一般的だ。
 しかし,新規顧客にアピールするには膨大な労力が掛かるのが現在の情勢である。世にある情報は膨大な量になっており,さらに人は興味のない情報を継続してチェックしたりはしない。そのため,新規の顧客候補への情報発信は以前ほど効率がよくないのだという。

 また,商品の機能を高めて差別化を図ろうとしても,そう簡単にはいかない。機能というものは後続のライバルに研究されてコモディティ化してしまうものであり,ゲームソフトも例外とはならないからだ。これに加え,日本の人口は年々減少している。こうした状況で新規顧客の獲得と機能の差別化のみに注力して競争するのは修羅の道である,と佐藤氏は警告する。
 では,どうやれば良いのかという疑問に答えを提示するのが,次から述べていくファンベースである。

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 ファンベースとは,ファンを支持母体(ベース)とし,彼らを大切にすることで,中長期的にブランド価値と売上の成長を見込むという考え方のこと。
 一口にファンといっても,浮動票からマニアまでその度合いはさまざまだ。佐藤氏による野球の例えでは,「球団が強いときに好きになってくれるが,弱くなると離れていくような人々ではなく,球団の選手育成方針や地域貢献といった考え方を理解したうえで支持してくれる人」が本当のファンであるとのこと。
 つまり「企業やブランドが大切にする価値や背景にある考え方を支持してくれる人」であり,ディープな支持者というニュアンスである。

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 少数のファンに注力するのは危うげに見えるが,実はそうではない。「パレートの法則」に示されているように,顧客全体からみて20%でしかないファンたちが,売上の80%を生み出していることが,さまざまな業界において経験則として語られている。
 また,既存の顧客を維持するコストは,新規の顧客を獲得するのに必要なコストのわずか5分の1で済むし(1:5の法則),顧客離れを5%改善するだけで,利益率は25%改善される(5:25の法則)という法則もあるため,既存のファンを大事にするほうが中長期的に成長できるとのこと。

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ファンの大事さを示すのがカゴメの取り組みだ。同社では2.5%のコアファンからの売上が30〜40%を占めており,その重要性から彼らの離脱を防ぐためのコミュニティ「&KAGOME」を用意しているのだという

 しかし,企業によっては20%という数の少なさに惑わされてしまい「ファンは黙っていてもウチの商品を買ってくれる」「少ないファンに訴求するより,新規顧客を手に入れた方がよい」とファン軽視してしまうこともあるようだ。こうした姿勢は大変に危険なようで,佐藤氏は企業とファンの関係を,バーと常連のようなものだと例えながら説明を続けた。

 年配の常連(ファン)が通うバーが,「若年層や女性にアピールしたい」と色気を出したが最後,一時的に客は増えるものの,もともと持っていた魅力が失われたことにより,常連が離れたうえ,新たな客も居着いてくれなくなることもあるという。
 一方,店の持ち味をいじることなく常連を大切にすれば,常連が新メンバーを連れてきてくれることもある。新メンバーが常連に成長する確率も高く,趣味の領域では年齢に関係ない付き合いもあるため,結果として若返りも期待できる。
 飲食店などでは実際に良く見る光景だが,この例えならファンを軽視することの簡単さと恐ろしさ,そしてファンの大切さが理解できるだろう。

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 前述したように現代は情報と娯楽に溢れる時代であり,そうしたスピード感の中では悪い点を直すような時間はない,と佐藤氏は指摘する。ここで必要となるのは,いいところを伸ばすという姿勢なのだという。

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 それでは,ファンを大事にするというのはどういうことなのだろうか? 先述した機能の差別化に価値を持たせるよりも,メーカーやブランドに関連する情緒・愛着に価値を持たせることが重要なのだという。なぜなら,新機能は後発メーカーがコピーできるものの,愛着についてはそうはいかないからだ。

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 そのための取り組みとして,佐藤氏は「ブランドの価値を上げる(共感を強くする)」「価値を他に代えがたいものとする(愛着を強くする)」「価値の提供元の評価/評判をアップさせる(信頼を強くする)」の3ポイントを挙げた。それぞれのポイントについて,3つずつの施策があるが,そのうちの1つをピックアップして説明している。

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●「ブランドの価値を上げる(共感を強くする)」
 ファンの言葉を傾聴することが有効。傾聴にはアンケートやヒアリングが用いられることが多いが,ファン自身がブランドの長所を言語化できていることが少ないため,あまり良い手段ではないという。
 予算は少なくてもいいのでファンミーティングという形でファン同士を引き合わせると,話が盛り上がる中で長所の言語化が進むそうだ。よって,その様子を傾聴するほうが効果的とのこと。なお,会社が考える長所とファンが語る長所は必ずズレているのだという。

●「価値を他に代えがたいものとする(愛着を強くする)」
 商品にストーリーやドラマを関連づけると,愛着が強くなるという。
 「プロジェクトX」や「カンブリア宮殿」といったドキュメンタリー番組を見ると,取り上げられている商品に愛着が湧くことも多い。これが「商品にストーリーやドラマをまとわせる」ということだそうだ。つまりは商品についての内幕を明かすということで,開発や宣伝の担当者をファンに会わせるのが効果的とのこと。
 自動車メーカーのMAZDAは,新車を初披露する際にファンを集めているが,これはブランドへの愛着を強くすると同時に,ほかのファンが熱狂する姿を見せることにより,ファン度を上げているのだという。

●「価値の提供元の評価・評判をアップさせる(信頼を強くする)」
 社内や開発現場を見学してもらうなどして,ファンにブランドを深く知ってもらうことが有効でもあるそうだ。特別な案内役を用意するより,実際の社員のほうがファンには喜ばれるという。

 こうして共感・愛着・信頼を強めたファンは,他の人たちに向け,ブランドの良さを熱っぽく語ってくれるようになる。情報過多の現代,企業から普通に情報を発信してもスルーされてしまいがちなのは前述した通りだが,知人からオススメされたとなると話は別だ。
 「類は友を呼ぶ」のことわざ通り,人間は似たもの同士で集まる傾向がある。知人であるということは嗜好が近いということでもあり,そこから得られた情報は価値が高い。
 こうしてファンは新規顧客を呼び込み,新たなファンとしてくれる。そしてファンはコアファンとなり,LTV(ライフタイムバリュー,顧客生涯価値。顧客が取引期間中に企業にもたらす価値のこと)とブランドイメージはさらにアップし,中長期的な成長につながる。
 ブランド側で施策として新規獲得を行う場合も,こうしたファンを大切にした形で行うのが良いという。

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 今回の講演はゲームに限った話ではないが,ファンベースという考え方はゲーム業界にも適用できるものであると感じられた。これを機に「自分がブランドから離れた・ファンになったのは何がきっかけなのか」と問い直してみるのも面白いのではないだろうか。

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