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「障害者e-Sportsワークショップ in LFS」レポート。eスポーツが産業として成長するために,障害者の参加は欠かせない
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印刷2019/09/20 12:00

イベント

「障害者e-Sportsワークショップ in LFS」レポート。eスポーツが産業として成長するために,障害者の参加は欠かせない

 障害者へのeスポーツ普及を目的とするイベント「障害者e-Sportsワークショップin LFS」が2019年9月13日に東京都豊島区のLFS池袋 esports Arenaでが開催された。
 eスポーツ周辺事業者や障害者雇用に取り組む企業など15社から約30人が参加し,障害者eスポーツに関する国内最新事例の紹介や,現状における問題点の確認などが行われたイベントの模様をレポートしよう。

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 登壇したのは,本イベントを主催したソーシャルインクルージョン世田谷の代表理事である望月雅之氏。氏は会社員時代に障害者採用を担当した経験があることに加えて,子供に障害があり親の目線から障害者の就業などに関して何かできることがあるのではないかと感じていたという。
 さらに,望月氏自身がゲーマーで,約20年前にはPC向けFPSで世界ランク1位のチームに所属していたことに触れ,「私にとっては,障害者支援活動とeスポーツが結びつくのは自然なことだったと思っています」と,イベント開催の背景を明かした。
 eスポーツはPCや家庭用ゲーム機で自宅からでも参加でき,障害者であってもキーボードやゲームパッドが使用できれば健常者と対等に競えるため,「障害者に向いている」と語る望月氏は,今後拡大するeスポーツ関連産業で障害者が働く機会も増えると見込んでいるという。

ソーシャルインクルージョン世田谷 代表理事 望月雅之氏
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 そんな望月氏によるプレゼンテーションでは,まず障害者とeスポーツの現状説明が行われた。

 2018年における興行としての国内eスポーツ市場規模は約48億円で,前年比13倍と大きく成長した。さらに2022年までに約100億円まで拡大する見込みだという。現在、国内のプロレス市場が約120億円と言われているので,4年後にはそれに匹敵する規模になる……と表現すると分かりやすいだろうか。
 また,会場で試合を観戦したりインターネットでの動画配信を視聴したりする国内のeスポーツファン数は,2018年が約380万人で,2022年は約780万人まで増加するという。

 なお,全世界のeスポーツ市場は約1000億円という規模になる。ゲーム市場全体になると全世界で15兆円,うちアジアは8兆円で,国内は1兆5000億円だ。ゲーム市場全体の数字を考慮すると,国内,全世界を問わずeスポーツ市場は,まだまだ発展途上と言える。

 2018年の国内eスポーツ市場規模とされた48億円の内訳を見ると、スポンサー収入が約75%を占めている。野球やサッカーといったほかのスポーツ興行では入場料やグッズ,放映権といったものが主な収入源であり,その先にはプレイせずに応援を楽しむ多くのファン(サポーター)がいるわけだが,国内eスポーツは一部のトッププレイヤーや有名な大会などに偏った形でスポンサードされているのが現状というわけだ。

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 今後eスポーツがスポーツ産業として健全に成長するためには,会場で観戦したり動画配信を視聴したりする層や一般層を取り込み,裾野を拡大することが重要になる。望月氏はその点で,eスポーツが障害者の役に立っているという事実を啓蒙していくことが,今後の発展の一助になると語った。

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 続いては障害者に関する説明が行われた。日本では国民の約7.4%にあたる937万人が何らかの障害を抱えている。特に近年は精神障害者が急増しており,1999年から2014年までの15年間で約170万人から約360万人と2倍以上になった。
 その大きな要因の1つが,国民の高齢化に伴う認知症患者の増加と,診断技術の進歩だ。以前は極端に落ち着きがない子供が病気と見なされることは少なかったが,現在は発達障害と診断されるケースが多く見られる。
 また,かつては精神病院で受診することに対して大きなハードルがあったが,今はメンタルクリニックをはじめとして心療内科を設ける病院が増えており,軽度のうつ病と診断される人も増加している。

 障害者の就労率を見ると,身体障害者の約59%,知的障害者の約53%に対して,精神障害者は約17%にとどまっている。
 2015年に施行された障害者総合支援法は,従来の本人やその家族が克服すべきとする医学モデルから,社会全体で克服しようする社会モデルを採用した。こうした流れの中で,企業の障害者雇用に対する考え方にも変化が求められている。それは,障害者雇用が単に企業の社会的責任の一環ではなく,企業に多様性をもたらすというものだ。

 多様性はイノベーションが起こる確率を高めることにつながる。また,障害者が自分の特性に応じて働き方を選択するというのは,まさに現在日本が目指している働き方改革そのものと言える。望月氏は「イノベーションを起こしたい,働き方改革に取りみたいという企業にとって,障害者雇用は福祉でも施しでもなく経営戦略に合致した課題です」と主張した。

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 こういった状況を踏まえたうえで,障害者eスポーツの国内事例が紹介された。最初の事例は,北海道にある国立病院機構八雲病院だ。
 ここは筋ジストロフィー症やALS(筋萎縮性側索硬化症)といった神経筋疾患の専門病院で,特別支援学校が併設されており,病院であると同時に生活の場にもなっている。
 同院は作業療法にeスポーツを導入しており,個々の障害に応じて入力デバイスを改造するといったことも行っている。

 現状では,重度障害者が一般的なeスポーツ大会に参加するには,改造デバイスの使用問題や会場のバリアフリー面,本人の体調,時間の制約など,数々のハードルがある。障害者がプロプレイヤーになることも難しいと思われるが,海外では筋ジストロフィー症患者のプロeスポーツプレイヤーが存在しているので,不可能というわけではない。
 八雲病院の入院患者で障害者eスポーツの第一人者と言われている吉成健太朗氏は,「すぐにプロは無理でも,後進のために道を切り開きたい。そのためには,障害者eスポーツへの理解促進が必要」と語っているという。

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 2件めの事例は,群馬県を中心に障害福祉サービスを展開している企業,ワンライフだ。
 2014年設立ながら県内に16か所の支援施設を運営している同社の通所型生活介護施設「iba-sho」では「e-スポーツコース」を設置。日本初の障害者プロゲームチームを結成し,世界最高峰の舞台で活躍する選手達の姿を伝えることで,世界中の障害者にインフルエンサーが生まれることを目標にしている。専属のeスポーツコーチが在籍しており,通所者の中にはプロを目指して鹿児島から転居してきた人もいるそうだ。

 同社は群馬県eスポーツ協会の母体にもなっており,2019年8月31日には日本初の障害者eスポーツ大会を開催した。使用タイトルは「League of Legends」で,優勝賞金は100万円。優勝チームのリーダーであるGreenBirdさんは京都在住の24歳で,ASD(自閉症スペクトラム)と診断されている。SNSを通じて大会を知り,優勝とほかのプレイヤーとの交流を目的として参加したそうで,将来はeスポーツ業界への就職を希望しているという。
 なお,チームのメンバーには難聴やADHD(注意欠如・多動症)といった障害を抱える人がいるそうだ。

 ワンライフ社長の市村均弥氏は,重度障害者は働けないという偏見を排除し,障害者の経済圏の確立を目指していて,障害者eスポーツの認知度向上のために今大会を開催したという。ただしeスポーツだけにこだわるのではなく,多くの選択肢を用意したいと考えているそうだ。

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 最後の事例として,新しい動きが2件紹介された。1つは,青山学院大学総合研究所が2018年に始めた「『eスポーツ』のスポーツ化に関する探索的研究」(代表:総合文化政策学部 川又啓子教授)という研究ユニットだ。eスポーツを学術的な見地から捉え直そうとする取り組みで,2019年9月5日には公開講座として研究会を実施した。
 もう1つは,広島県にあるアニメやイラスト,声優といったサブカルに特化した就労継続支援B型事業所のサブカルビジネスセンター。就労継続支援B型事業所では,雇用契約に基づく就労が困難な障害者に対して,労働による社会参加の場の提供と能力向上訓練を行っている。同センター内には広島eスポーツ協会もあり,eスポーツ業界への就労を目指す障害者とのパイプ役になることが期待されている。

 プレゼンテーションのまとめでは,障害者のeスポーツへの取り組みが,経済的自立や自己実現につながり,障害者の可能性を広げる選択肢の1つになっていることが強調された。また,障害者に対するeスポーツコーチなどの職種開発は,介護人材不足とeスポーツキャリア開発の双方に有効な対策の1つになるという。

 しかし,国内では障害者eスポーツの有効性の訴求ができていないことに加えて,eスポーツの効用が高いと思われる精神障害者の事例はまだ少ない。
 こうした背景を踏まえて,ソーシャルインクルージョン世田谷では,障害者eスポーツコミュニティ構想を掲げている。まず,地域の誰でも利用可能な公民館的性格を持ち,障害者が運営に参加するeスポーツコミュニティセンターを開設。eスポーツ教室や障害者プロチーム運営、障害者eスポーツの情報を発信するイベントの開催,eスポーツ業界への就労支援などを行い,障害者eスポーツの普及に努めたいとした。

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 最後に望月氏は「今回のようなイベントは継続していく意味があるのではないかと実感しています。共感していただける方を増やし,eスポーツコミュニティセンターの実現に向けて取り組んでいきたいです」と今後の展望を語った。障害者とeスポーツをつなげる国内の取り組みは,まだ始まったばかり。その親和性を実感できるイベントの開催例もほとんどないが,その第一歩として障害者eスポーツの大きな可能性を感じさせるイベントだったといえる。

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