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「エメラルドドラゴン」30周年記念イベントをレポート。木村明広氏が開発秘話を明かしたインタビューもお届け
「エメラルドドラゴン」は,1989年にPC-8801mkIISR(以下,PC-8801SR)用ソフトとして発売され,ビジュアルシーン(カットシーン)を強化したPCエンジン版や,オリジナルのサブシナリオを収録したスーパーファミコン版といった家庭用ゲーム機への展開も行われたRPG。主人公であるブルードラゴンの少年・アトルシャンが,幼馴染みの少女・タムリンの危機を救うため,人間に姿を変えて魔王との戦いに挑む。木村明広氏の描いたキャラクター達が,アニメ的なビジュアルシーンで活躍することで話題となった。
また,パーティの面々が織りなす人間ドラマも魅力的で,勇敢な王子ハスラム,身分の違いを超えて惹かれる侍女のファルナ,戦いの中で悲劇的な最期を遂げる青年・ヤマン,悲しい犠牲の末に力を取り戻す伝説の弓使い・サオシュヤントといった人々の生き様がプレイヤーの感動を呼んだ。2015年には,その後の物語を描く「エレメンタルドラグーン-2つの光-」プロジェクトがスタートし,クラウドファンディングで資金を集めてドラマCDが発売されるなど,今もなお愛され続けている。
名作「エメラルドドラゴン」の続編プロジェクトが始動。まずはドラマCD製作へ向けたクラウドファンディングが実施へ
1989年にPC-8801/PC-9801用タイトルとして発売された,RPG「エメラルドドラゴン」。その後,X68000やコンシューマゲーム機にも移植されたエメラルドドラゴンだが,その続編に関するドラマCD製作プロジェクトの資金集めが,クラウドファンディングサイト「FUNDIY」で始まるようだ。
「エメドラ」のオリジナルであるPC-8801SR版 |
こちらはX68000版 |
木村氏が携わった「エメドラ」と「サバッシュ」。なおPC-8801SR版「エメドラ」のパッケージには,他機種版と違って木村氏のイラストが使われていない |
人気が爆発的に拡がるきっかけとなったPCエンジン版。写真左のPCエンジンDUO-Rは木村氏の私物。写真中央の「エメラルドドラゴン ガイドブック」は,筆者である青山雄一氏が攻略を執筆すると共に挿絵も描いている |
会場では木村氏によるサイン会も行われ,イベントのポスターやスーパーファミコン版「エメドラ」のカートリッジなど,ファンが持参した様々な品に木村氏がサインを入れていた。
サイン会に訪れたファンと歓談する木村氏 |
スーパーファミコン版のカートリッジにサインしてもらう人も |
イベント終了後に木村氏にインタビューを行ったので,その様子をお伝えして本稿の締めくくりとしたい。
4Gamer:
よろしくお願いします。本日のイベントの感想はいかがでしょうか。
木村明広氏(以下,木村氏):
来てくれた皆さんの“熱さ”を直に感じられて嬉しかったですね。
4Gamer:
当時の貴重な原画や資料がしっかりと保存されていて驚きました。昔のゲームとなると,関連資料が散逸することも珍しくないと聞きますから。
木村氏:
あの頃は会社に所属していたわけでなく,契約社員のような立場だったので,自分で作ったものを自宅に保存できました。ただ,イラストボードに描いたものはともかく,紙のものは経年劣化が進んでしまっていますね。
4Gamer:
木村さんにとっても,やはり「エメラルドドラゴン」のお仕事は印象深いものだったのでしょうか?
木村氏:
そうですね。スタッフの1人として携わることができた初めてのゲームでしたから,思い入れも強いです。こだわりでビジュアルシーンを描き直すようなこともしましたね。例えば,タムリンとアトルシャンが再会するシーンですが,当初はタムリンがいつもの青い服を着ていたんです。しかし「青い服は戦いの時に着るものなんだから,再会するときは私服でないとおかしいだろう」ということで描き直して,皆さんがご存じのピンク色の私服にしました。
4Gamer:
描き直しは自発的にされたことなのでしょうか?
木村氏:
そうです。プログラムが完成する前でしたから,自発的に描き直して差し替えをしました。当時はまだスキャナというものがなく,タブレットの先祖であるデジタイザという機器を使い,ドットを打ってグラフィックスを描いていました。このデジタイザに対応していたのが,小学館さんのパソコン雑誌「月刊ポプコム」が,ポプコムソフトのレーベルで出した「ダ・ビンチ」というグラフィックツールです。当時の僕は,ポプコム編集部でアルバイトをしていて,デジタイザを使ってCGを描くお仕事をしていました。このご縁があって,ポプコムソフトで「サバッシュ」のオープニングをお手伝いし,その後「エメラルドドラゴン」に携わることになったんです。
4Gamer:
なるほど。「エメラルドドラゴン」のキャラクターデザインを担当されたのは,そういう流れがあったのですね。
木村氏:
「エメラルドドラゴン」のプロジェクトに入った時には,キャラクター原案が存在していました。改めてデザインしたうえで,現在の形になったんです。
4Gamer:
当時はどのようにお仕事をされていたのでしょうか。
木村氏:
オフィスというものがなく,みんな自宅で仕事をしていました。プログラマーさんのところに週に一度集まり,成果物を見せ合いつつミーティングをしていましたね。僕は借りた車に乗ってミーティングに参加していたんですが,ある日,駐車違反でレッカー移動されてしまったのが辛かったです(笑)。あのころは罰金を払えるだけのお金を持っていなかったので,プログラマーさんが「これ持っていけ!」ってお札を出してくれて(笑)。当時は仕事の大変さこそが楽しいというような感覚がありましたね。ゲームを作れることが嬉しくて仕方なかった。
4Gamer:
「エメラルドドラゴン」では,アニメーションするビジュアルシーンも印象的でした。
木村氏:
いろいろとアニメーションさせたかったので,グラフィックスの画面を小さめにしています。当時は画面をアニメーションさせる場合,画面上に目や口など動かすもののパーツを置いておき,そこをテキストで隠すという手法が使われていました。「エメラルドドラゴン」ではいろいろな部分をアニメーションさせようということになって,そのため多くのパーツを画面に置く必要があり,その分だけ絵を小さくせざるを得なかった……という事情があります。本当は全画面に絵を表示させたうえでアニメーションさせたかったんですが,あえてそうしなかったことでパーツを置くスペースを確保でき,キャラクターが振り向くようなシーンも作れたんです。
4Gamer:
絵の面積を広くすると,その分だけアニメーション用のパーツを置く場所が狭くなるため,動かせるものが限られてしまうということですね。
木村氏:
より多くのパーツを画面上に置くため,当時の主流であった網目状のタイルではなく,ドットを縦に並べたタイルを使うという工夫もしていました。網目状のタイルだとドットを4つ使いますが,縦なら2つで済むので効率がいいんです(笑)。
4Gamer:
まさに職人芸ですね。
木村氏:
プログラマーさんが大変優秀な方だったので,色々な職人芸が使われていますよ。例えばホスロウというキャラクターは白い部分が多いんですが,白は圧縮率が良くないため,ディスクにデータが入りきらない……ということが起こりました。困っていると,プログラマーさんから「圧縮率の高い緑色で描いておいてくれ。プログラム側で白に変えるから」という指示がきて,その通りにするとなんとかデータの容量がディスク1枚に収まったというようなこともありました。
4Gamer:
白を緑色にすると,その分データ圧縮の効率が高くなるのですか。
木村氏:
もちろんです。当時のパソコンではR(赤)・G(緑)・B(青)という光の三原色のプレーンを重ね合わせることで画面を作っていました。白は全てのプレーンを点灯させないと作れないので,その分データ圧縮の効率が良くありません。
しかし,ホスロウの白い部分を緑にすると1/3になるんですよ。その上で,画面に出る瞬間に緑を白に切り替えれば,効率よくデータ圧縮しつつ,ホスロウの白い部分もちゃんと白で描写される。こうした切り替えに差し障らないよう,ホスロウのデザインには緑色が使われていないんです。プログラマーさんが天才だったんですよ。あの方のおかげで「エメラルドドラゴン」ができたといっても過言ではありませんから。
4Gamer:
本当にギリギリの容量だったんですね。
木村氏:
ビジュアルシーンの途中でディスクを差し替えるようなことが許されれば,ここまでしなくて良かったのかも知れませんが。
マップの部品も,通常よりも小さいサイズで作られているので,あれだけスムーズなスクロールができて,さらに圧縮率も高いんです。同じマップシステムを使っている「サバッシュ」では,マップの部品を組み合わせることにより,画面の横に出る道具屋などの顔グラフィックスを描くような試みもされていました。僕には真似できないテクニックですね。
4Gamer:
本当に凄い人々が「エメラルドドラゴン」を作られていたわけですね。では,作品の今後の展望について教えてください。
木村氏:
「エメラルドドラゴン」という作品が持つ種火を,もっと大きくなるように努力していきたいです。
4Gamer:
最後に読者へのメッセージをお願いします。
木村氏:
長い間ファンでいてくれてありがとうございます。「エメラルドドラゴン」を待っていて下さる方がおられることは分かっていますので,生きている限りは何とか続けられるように努力していきます。
4Gamer:
ありがとうございました。
「エメラルドドラゴン」30周年記念イベント“ヴァリアスモア”公式サイト
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