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[NDC21]同じようなゲームなのに,なぜセールスに差が出るのか。スキルネットワークを活用した戦闘デザイン分析を紹介するセッションレポート
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印刷2021/06/11 17:20

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[NDC21]同じようなゲームなのに,なぜセールスに差が出るのか。スキルネットワークを活用した戦闘デザイン分析を紹介するセッションレポート

 NEXON Koreaは,ゲーム開発者向けカンファレンス「Nexon Developers Conference 21」(NDC21)を2021年6月9日から11日の期間にオンラインで開催している。本稿では会期2日目の6月10日に実施された,NCSOFT Game Design LabのLee Donggyo氏による,「スキルネットワークを活用した戦闘デザインの分析に関するセッション」の模様をレポートしよう。

Lee Donggyo氏
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 Lee氏はまず,多くのゲームの中核を成しているのが戦闘であり,ゲームが成功するかどうかに大きな影響を与えると指摘。続けて,「戦闘とは本質的に,相手のキャラクターの体力をゼロにするためのキャラクター間の相互作用である」と定義し,「戦闘デザインの完成度は,キャラクター間の相互作用の完成度によって決定される」とした。

 キャラクター間の相互作用は,キャラクターが発動するスキルを媒介として発生する。その意味でスキルの価値は,相互作用の価値(関係の価値)と言い換えることが可能だ。したがって,スキルおよびキャラクター間の関係の価値を測定する手段があれば,戦闘デザインの完成度を客観的に評価することも可能になるのではないかとLee氏は語る。その手段が,このセッションで紹介された「スキルネットワーク分析」である。

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 Lee氏は,社会科学の分野でスタートしたソーシャルネットワーク分析がさまざまな分野に進出し,近年ではAIやビッグデータの活用により経営戦略にも応用されていることに言及。同様に,ゲームの戦闘デザインの分析にも応用できるのではないかと考えたという。

有名IT企業各社の企業文化をネットワーク分析した結果
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長く複雑なスピーチも,ネットワーク分析して単語間の関係を視覚化すると内容を把握しやすくなる
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 Lee氏によると,ゲームのキャラクターもスキルの効果に基づく形でネットワーク分析ができるという。と言うのも,キャラクターはスキルを持っており,またそれらのスキルはさまざまな効果で設計されているからだ。
 つまり,あるキャラクターが持っているダメージ,気絶,回復といったスキルの効果と,ほかのキャラクターが持っているスキルの効果との相互作用を書き出していけば,ネットワークとして表現することが可能になるというわけである。

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 Lee氏は,こうしたスキルのネットワークにより,キャラクター間における共通・排他関係を表すことができると説明。例えば同じスキル効果を持つキャラクター同士の戦闘は,プレイヤーの実力やキャラクターのレベルが勝敗を決定する。一方,異なるスキル効果を持つキャラクター同士の戦闘は,スキル効果の相性などを鑑みた選択が極めて重要になる。
 こうしたスキルネットワーク分析をすることにより,あるゲームの中にどのような戦闘を作り出せるか予測できるようになるとLee氏は語った。

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 またスキルネットワーク分析は,キャラクターデザイン(※このセッションでは主に性能面におけるキャラクターデザインを指す)の流れにも似ているという。一般的に,ゲームのキャラクターデザインをするときは,最初にそのゲームの中でもっともバランスの取れた標準的なキャラクターから設計する。その上で,性能的に特化した特殊なスキル効果を持つ個性的なキャラクターを設計していく。
 Lee氏によると,こうしたキャラクターデザインが当初意図したとおりにできているかどうかは,ゲームをプレイしなくともスキルネットワーク分析をすることで予測できるとのこと。

「ストリートファイターII」をスキルネットワーク分析した結果。標準的なスキル効果を持つキャラクターは中央に,排他的なスキル効果を持つキャラクターは外側に配置される。また似たようなスキル効果を持つキャラクターは隣り合って配置される
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実際にLee氏が行ったスキルネットワーク分析では,最小単位のスキル効果をキーワードとしてピックアップしたとのこと。これは,各キャラクターの戦闘時の特徴をスキル効果で表現できるからだ
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 それからいくつかのゲームをスキルネットワーク分析してみたというLee氏だが,当初は本当に意味のあることなのかどうか,半信半疑だったという。しかし,あるゲームのスキルネットワークは不規則な形だったり別のゲームはバランスの良い形だったりと,それぞれ固有の形になっているということだけでも,非常に興味深かったとのこと。Lee氏は「実際の戦闘デザインのバランスと,このスキルネットワーク分析の結果が一致した場合,スキルネットワークは戦闘デザインのDNAと呼ぶことができるのではないか」と考えたという。

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 そこでLee氏はTCG,MMORPG,モバイル対戦ゲームなど,主に対戦系のゲーム25タイトルをスキルネットワーク分析し,セールスと比較してみたとのこと。本セッションでは,そのうち2タイトルの事例が紹介された。これらタイトルの実名は明かせないが,両方とも有名なIPをベースにしたモバイルRPGで,5vs.5のオート対戦モードがあるという。
 しかしセールスの差は明白で,一方は3年でサービス終了しており,つまり失敗している。もう一方はサービス開始からすでに6年が経過し,現在もサービスは継続中で,アップデートがあるたびにセールスランキングが上昇するそうだ。こちらは成功と言って良いだろう。

 それでは両者のスキルネットワーク分析がどうだったかというと,失敗したゲームは中心部が広く,全体の密度が低かったという。一方,成功したゲームは中心部が狭く,全体の密度も高い。
 また失敗したゲームは外側に向かう突起が少ないのに対し,成功したゲームは外側に向かう突起が多く,かつ均等になっていたとのこと。
 Lee氏はこの結果から,成功したゲームはスキルネットワークの全体的なバランスが取れていることが読み取れるとした。

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 またスキルネットワーク上のスキル効果とキャラクターの位置を見ると,失敗したゲームは中央にキャラクターが集まり,その間にスキル効果があるのに対し,成功したゲームは中央に多くのスキルが集中し,その周辺にキャラクターが配置されているのが分かる。

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 さらにスキル効果の発動頻度を見ると,失敗したゲームは中央に位置する特定キャラクターのスキルばかりが頻繁に使われているが,成功したゲームはすべてのキャラクターが持っている共通スキルが圧倒的に多く使われていると判明。Lee氏は失敗したゲームでは数ある中の6種類のスキルばかりが使われているのに対し,成功したゲームでは一部の共通スキルが活用されている一方で,各キャラクター固有の効果を持つスキルが均等に使われていると分析した。

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 キャラクターの使用頻度でも両者の差は歴然としており,失敗したゲームは同じクラスのキャラクターが固まっているのに対し,成功したゲームはさまざまなクラスのキャラクターが散在している。Lee氏は,失敗したゲームのキャラクターがクラスの標準的な役割に基づいてデザインされているのに対し,成功したゲームはクラスの役割にとらわれることなく,スキルの取捨選択でプレイスタイルに合わせたキャラクターに育成できる仕様になっているのではないかと指摘した。

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 以上の結果からLee氏は,表面的には似たようなゲームであっても,設計の思想が異なっていれば,それをスキルネットワークから読み取ることが可能で,ひいてはセールスにもつながってくるとまとめた。

 セッションでは,25タイトルのゲームをスキルネットワーク分析した結果,判明したジャンルごとの特徴も紹介された。
 まずMMORPGのように,ロールベースで協力しながら戦闘を進めるゲームでは,ロールごとの役割が明確で,かつ均等なものほどセールスがよくサービス期間が長いという結果が出たという。

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 またモバイルTCGのようにキャラクターの個性が重要なゲームの場合には,セールスが良いほどキャラクターごとの個性が強調されており,スキルネットワークもバランスの良い円形を維持しているとのこと。

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 PvPコンテンツが重要なゲームでは,戦略・戦術的に遊べるかどうかがカギとなっており,実際に戦略・戦術的に運用できるキャラクターやスキル効果が多用されているほど,セールスも良くなる傾向にあるそうだ。

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 これまでの結果から,スキルネットワーク分析の結果として確認されたゲームの特徴と,セールスにはある程度相関関係があることが判明したわけだが,Lee氏はそれをさらに突き詰めて検証したとのこと。
 セッションの前半で論じたとおり,共通スキルを多く持ちスキルネットワークの中心に位置するようなキャラクターは,どんな相手とも安定した戦い方ができる。一方,排他的なスキルを持ちスキルネットワークの外側に位置するようなキャラクターは戦略・戦術的な戦い方をするよう設計されている。

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 つまりスキルネットワークの中心に位置するキャラクターは,どんな相手にも同様の勝率を持っており,とくにオート戦闘に置いては勝率の変化が小さくなる。
 逆にスキルネットワークの外側に位置するキャラクターは相手に応じて勝率が変化するので,オート戦闘においてもそのぶん勝率の変化が大きくなる。
 Lee氏はこうした勝率の変化を,実際の戦闘の結果から確認できれば,スキルネットワーク分析の結果とセールスの因果関係を検証できるとした。

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 条件を整えて検証したところ,セールス的に失敗したゲームではキャラクター間の相性の良し悪しがあまり感じられない戦闘経験を得た一方,成功したゲームは相手に応じて勝率が変化したときの差が大きい,すなわちキャラクター間の相性がきちんと機能していることが判明した。

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 また戦況の変化についても,失敗したゲームは戦闘の序盤で優劣が付いてしまうと,最後までほぼそのまま進行するのに対し,成功したゲームでは何度か逆転が発生して最後までどちらが勝つか分からなかったという。

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 キャラクターの選択においても,失敗したゲームでは特定のキャラクターを選んだほうが高い勝率を記録し,成功したゲームではどのキャラクターを選んでも勝率は大きく変わらないという結果となった。すなわち成功したゲームは,プレイヤーの好みやプレイスタイルに応じたキャラクター選択ができるというわけである。
 これらの結果からLee氏は,スキルネットワークのバランスの良し悪しが,セールスの良し悪しにつながっていると考えられるとした。

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 Lee氏はこうしたスキルネットワークで示された戦闘体験の差について,最終的にゲームで提供されるキャラクターの特徴と多様性に関連があるとする。つまりバランスの悪いスキルネットワークのゲームは,特定のキャラクターやスキルばかりが使われがちなので,同じような戦闘ばかりを体験することになる。それに対して,バランスの良いスキルネットワークのゲームは,さまざまなキャラクターとスキルが使われるので,バリエーションに富んだ戦闘体験を得られる。

 またLee氏は,スキルネットワーク分析によって確認できるキャラクターの種類とバランスが,長期的なサービスを維持するうえで大きな差異を生むとする。例えばバランスの悪いスキルネットワークのゲームだと,新しいキャラクターやスキルを開発するにあたり,それらが戦闘体験にどのような変化をもたらすのかを予測するのが非常に難しくなる。
 一方,バランスの取れたスキルネットワークのゲームであれば,もともとの戦闘体験が多彩なので,新しいキャラクターやスキルによる体験の変化も予測しやすくなる。また全体の戦闘体験を維持しつつ,多様性を拡大することが容易になるので,長期的なコンテンツのアップデートでゲームの完成度を維持しやすくなるというメリットもある。

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バランスの良いスキルネットワークを形成するポイントとして,キャラクターとスキル効果の割合と配置に配慮することが挙げられた
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ヒットしたゲームでは,キャラクターの種類に対する全体のスキル数が最低でも1.8倍必要で,そのうち70%がキャラクター固有のものであるということなども検証から判明したという。つまりキャラクターが20体なら,スキルは全体で最低36種類必要で,そのうち26種類以上がキャラクター固有のものいうことになる
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 最後にLee氏は,「成功した戦闘デザインは,多様性のバランスが取れている。この多様性のバランスこそが,成功するゲームが持つ戦闘デザインの重要なDNAと言うことができる」とし,「スキルネットワークはすでに作られたゲームの戦闘デザインを分析するだけでなく,新しいゲームを作るためのデザインツールとしても活用できる。これまでの手法とは異なる,新しい戦闘デザインができるのではないか」と展望を述べた。

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「2021 Nexon Developers Conference」公式サイト

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