ニュース
[GDC 2021]オンラインゲームは孤独を和らげる。コロナ禍における“孤独感”をテーマにした2つのトークセッションをレポート
GDCは,例年ならば3月にカリフォルニア州サンフランシスコに約2万7000人というゲーム業界関係者を集めて,ゲームデザイン,プログラミング,ビジュアルアーツ,グラフィックステクノロジー,AIなどから,キャリア育成,法律,コミュニティ運営,ユーザー・エクスペリエンス,教育,ダイバーシティまで,さまざまなトークセッションやパネルディスカッション,さらにはチュートリアル講座,ラウンドテーブルなどの形式で開催される,業界では最古にして世界最大のイベントだ。
昨年は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がアメリカでも蔓延し,その2月に1回目の緊急事態宣言が発令されたことを受けてやむなく中止となってしまい,一部の講義がパイロット的にオンライン上で無料公開されるに留まっていた。そうした経験も踏まえてか,今年で35回目を迎えるGDC 2021は,早くからオンラインへの移行をアナウンスするとともに,開催時期を例年から4か月ずらすことで周到に準備を行い,しっかりとしたイベントへと昇華させたといった印象だ。
また,GDCは普段あまり顔を合わせることのないゲーム開発者たちが,夜になるとスポンサーが主催するイベントやバーの飲み会に繰り出すなどして親交を深めるといった,業界のコネクション作りの場という大きな意味合いも持っている。GDC 2021では,そうしたネットワーク作りも専用サイトで行えるようになっており,ビジネスミーティングも開催される。
もちろん,IGDA(International Game Developers Associations)が主催するIndependent Games Festival,およびゲーム開発者が投票によって優秀作品を選ぶGame Developers Choice Awardsといった恒例イベントも行われる予定で,この期間中に収まり切れなかったオンラインセッションは,8月中に不定期に公開されていくという。
巣ごもり需要でわくゲーム業界の光と影
さて,初日となった本日に公開されたセッションから,現在のゲーム業界のトレンドを占うのは難しいものの,Community Managementサミットの講義として,ミシガン州のローレンス・テクノロジカル大学でゲームデザインの助教授を務めるMars Ashton(マーズ・アシュトン)氏が講演した「パンデミック下のオンラインゲームにおける社会構造の描写」(The Draw of Social Structures in Online Games during a Pandemic)は,1つの指標となりそうだ。
実はCOVI-19発生のはるか以前から,アシュトン氏は家庭環境が悪く高校を中退したことで孤独になり,「ラグナロクオンライン」や「ファンタシースターオンライン」「ファイナルファンタジーXI」「World of Warcraft」といったオンラインゲームを熱狂的にプレイすることで,社会とのつながりを保っていたという過去を持つ。
ギルドのリーダーとなって,新参者にゲームの面白さやルールを紐解くという経験が,ゲームの面白さの理解を育み,やがては人を教えるという職業に魅力を持つきっかけになったという。
すでに大学で講義を行って9年になるというアシュトン氏は,「パンデミックに関わらず,人の孤独さはエピデミックのレベルに達している」と,自己紹介のあとに語り始める。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)が2018年に,2万人に及ぶアメリカの成人を対象に調査したところ,大多数の人(当該調査報告では20歳から80歳までの成人のうち54%)が,「自分は孤独である」と感じているとのことだ。
カイザー・ファミリー財団が行った2020年のCOVID-19による調査においては,不眠や摂食障害など自宅待機のストレスによる悪影響と思われる,精神的な健康面での障害が確認され,12%の人やアルコールや麻薬に依存するという傾向がみられたという結果も明らかにされた。
巣ごもり需要でゲーム業界は大きな利益を得る結果となったが,その理由として「オンラインゲームは孤独を和らげるから」ではないかとアシュトン氏は推測している。
彼は,2020年3月にローンチした「あつまれ どうぶつの森」が,その月だけで3263万本というグローバルヒットになったことについて,グラスゴー・カレドニア大学の講師であるRamona Razman(ラモーナ・ラズマン)氏の論説を引用し,「酷い言い争いもない。暴力描写もない。現実世界が引き起こすまどろっこしさを体験することなく,人々は普段の生活で行うようなことに没頭している。まるで実際にはずっと欲しくても叶わなかった,パラレルワールドにいるかのようにプレイしている」と紹介する。
COVID-19によって人とのつながりが希薄になってしまったため,ゲーム内でより良い行いをするという選択を行うことで,プレイヤー自身にとって精神面でポジティブな作用に働いているという分析だ。
自分の心のうちを手紙にしたためるゲームは,トロールさえ孤独にする
この「あつまれ どうぶつの森」が巻き起こした社会現象は,他のゲーム作品において少なからず見られたようだ。
2019年に「Kind Words (lo fi chill beats to write to)」というオンライン専用PCゲームをリリースしたPopcannibalのZiba Scott(ジバ・スコット)氏は,「開発者が与えるインパクト」(The Developer’s Impact)と題されたメインステージの特別セッションに登壇し,「自分たちのゲームはなぜ“トロールたち”の被害を受けていないのか」について語った。
トロールとは,インターネットやゲームが実名でないことを利用し,他人に酷いことを言うとか,嫌がらせを目的にするためにアクセスする人たちのことを意味するスラングの1つで,公共の橋を自分の物であるかのように扱う「三びきのやぎのがらがらどん」のトロール(がらがらどん)のことを連想すると良いだろう。
「Kind Words」は不思議なゲームであり,オンラインでつながった見ず知らずのプレイヤーに,「良い手紙」を出すのが目的というゲームだ。「何故だか分からないけど,ときどき泣きたくなってくる」などと書いた人に対して,「泣くことは悪いことじゃないよ」などと返信することにより,良い返事と思えば感謝の意味を込めてステッカーを送り,そのステッカーを集めていくというのが唯一のゲーム要素と言えるだろう。
手紙の送り主も,返事をする人も,実際にそのハンドル名さえ使わないので身元が割れる心配はなく,自分の心の内をさらけ出しても追跡される心配はない。ゲームというよりはソーシャルメディアに近いが,特定のメッセージに対して“良いね”を押すことも,それぞれのプレイヤーをレビューしたりすることもない。孤独感はKind Wordsでもっとも大きなテーマであるようで,オンラインフレンズを募るDiscordに招待し合う人も多いらしいが,それを強要するゲームではないのだ。
もちろん,中には嫌がらせを試みようとトロールが参入してくることもあるとスコット氏は言う。サントラ担当の外部デベロッパを除いて2人しかいないというPopcannibalは,「自分たちで作った世界の独裁者」と冗談めかして語るほど,すべての苦情を自分たちの裁量で処理していくという“品質管理”を行っているそうだ。ただ,特定の卑語や慣用句が書かれたメッセージは自動削除されるが,スコット氏は「Fuck」の文字だけなら何もしないというほど,言葉狩りには慎重であるらしい。
この「Kind Words」については,Steamのレビューセクションに「このゲームでは嫌なヤツになれる? お前ら,オレの行く道を塞ごうなんて思うなよ」という犯行予告も書かれたりすることもあったという。しかし,嫌なことを手紙に書いて送り返しても,相手に無視されることがほとんどだ。しかも,嫌なことを書いて送れるプレイヤーは,一回の作業に1人のみ。スコット氏も,「トロールたちは,特定のゲームからBANされたことを勲章のように誇るが,Kind Wordsではトロールしても何の反応もないのです」と語り,その人物の悪行については取り立てて何もしなかった。
結局,他のゲーマーが反応しなかったことで,このトロールも2時間後には「つまらないゲームだ」と捨て台詞を残して,以降は何もしなくなった。別のトロールは,「誰も何も返答してくれない。オレはいつだって孤独で,誰も好きになってくれたりしない」と書き込んだという。スコット氏は,「(トロールの書き込みや皮肉を賞賛できる)FacebookやTwitter,Redditは,ソーシャルインタラクションの在り方を履き違えている。我々ゲーム開発者は,もっと良いものを開発できる」と締めくくっていた。
- この記事のURL: