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[GDC 2022]Devolver Digitalの設立者,マイク・ウィルソン氏の縦横無尽な経歴。そしてメンタルヘルス問題に取り組む新たな試みとは
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印刷2022/03/28 20:58

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[GDC 2022]Devolver Digitalの設立者,マイク・ウィルソン氏の縦横無尽な経歴。そしてメンタルヘルス問題に取り組む新たな試みとは

DeepWell DTxの代表を務めるマイク・ウィルソン氏。若い頃には肩まで伸びていた髪も,最近ではファンキーなオールバックに
画像集#002のサムネイル/[GDC 2022]Devolver Digitalの設立者,マイク・ウィルソン氏の縦横無尽な経歴。そしてメンタルヘルス問題に取り組む新たな試みとは
 GDC 2022において,Devolver Digitalの設立者であり,id Softwareの黎明期には販売担当として関わっていたマイク・ウィルソン(Mike Wilson)氏が登壇し,これまでの彼自身の活動と今後について語った。

 日本のゲーマーの中では,マイク・ウィルソンという名前を耳にしたことのある人は少ないかもしれない。インディーズゲームパブリッシャとして知られるDevolver Digitalの創設メンバーであり,スポークスマンとして活動していた人物である。
 ルイジアナ州北西部のシュレブポートという街で生まれ育ったが,まだティーンエイジャーの頃に父親を亡くしていたために貧困の中で育ち,毎日のようにMTVを見ながら,カッコ良い音楽業界の関係者になることを夢見ていたという。
 もっとも,音楽への道は早くから諦め,「成功者になるには,自分で経営者になることだ」と,友人とDaiquiri Delightという会社を起業する。
 その後,高校時代に一緒にテーブルトークRPGを遊んでいた友人が,なにやら近くの湖で仲間たちと一緒にゲーム作りをしていると聞きつける。この友人というのが,のちにid Softwareを立ち上げて「DOOM」のアートワークを手掛けた,エイドリアン・カーマック(Adrian Carmack)氏だった。

 id Software設立の経緯は,2年前のGDC Summerで行われたジョン・ロメロ(John Romero)氏のバーチャルセッション「[GDC Summer]ジョン・ロメロ氏が語る,id Software時代に培ったプログラマーの原則」関連記事)に詳しく書いているので,そちらも参照してほしい。


いよいよゲーム業界へ


 ご存じの通り,id Softwareの立ち上げにウィルソン氏は参加しておらず,同社に参加したのは1995年のこと。それまでは1994年にスタートアップしたばかりのDWANGOで開発担当副社長などを行っていた。
 ウィルソン氏が参加したときのid Softwareは,「Doom II: Hell on Earth」の成功によって,カーマック氏らは自分より良い暮らしを送っていたものの,ほとんどの収益が当時のパブリッシャだったGT Interactiveに持っていかれていた。そこで,ウィルソン氏がスーツにコンバットブーツといういで立ちでニューヨークの本社に赴き,契約を見直させたという。
 今では忘れられている話だが,「Doom II: Hell on Earth」の第1レベルを無料デモとして,ゲームショップから雑貨量販店,さらにはガソリンスタンドにまで配布しまくり,当時「10台に1台のパソコンにDOOM IIがインストールされている」という社会現象を起こした功績はウィルソン氏のものだ。

 1996年になると,ジョン・カーマック(John Carmack)氏と仲違いしたジョン・ロメロ(John Romero)氏,そしてそれ以前にid Softwareを離れていたトム・ホール(Tom Hall)氏とともにION Stormというゲーム会社を設立。ダラスで最も高いビルの最上階にオフィスを構え,MTVで見たロックスターたちのようなカッコ良さを追求したメーカーだったが,まだゲームの企画も上がっていない時点から多くの従業員を雇っていたために,開発が延期するにつれて経営状態は悪化する。ウィルソン氏は,他の経営メンバーから批判を受けて退任し,1998年にGathering of Developersを設立するに至る。

 ウィルソン氏によると,Gathering of Developersは「開発者を優先した,映画産業のユナイテッド・アーティストのようなイメージ」のコンセプト企業だった。3D RealmsやEpic Games,そしてRitual Entertainmentと協力し,パブリッシャに版権を渡さずに好きなゲームを作り,利益も多く得るという,時代を先取りしたものだった。Gathering of Developersは,そのイニシャルから「GoD Games」という短縮形で呼ばれることも多く,ウィルソン氏らしい大それた名称だったが,この頃から「ゲームビジネスにおける主役は経営者ではなく,ゲーム開発者たちだ」という思いを抱くようになっていた。

Devolver Digitalの設立は高く評価され,音楽業界のインディレーベルと比較されることが多かったが,これはまさにウィルソン氏が若い頃からやりたかったことだったようだ
画像集#005のサムネイル/[GDC 2022]Devolver Digitalの設立者,マイク・ウィルソン氏の縦横無尽な経歴。そしてメンタルヘルス問題に取り組む新たな試みとは


インディーズゲーム黎明期に力を注いだ風雲児


 ところが,経営パートナーだったダグ・マイヤー(Doug Myer)氏が,喘息発作で2001年の5月に36歳の若さで急逝。ようやく経営者としての自覚を持ち始めていたウィルソン氏は,30歳の自分に本当のビジネス経営を伝授してくれていたマイヤー氏の死に際して,ショックのあまりに同社を運営していくことに興味を失い,ゲームの版権をTake-Two Interactiveに売却する。
 その後はRitual Entertainmentのハリー・ミラー(Harry Miller)氏とともに,SubstantTVというDVDを使ったインタラクティブ雑誌を始めるものの長続きせず,ウィルソン氏はTake-Two Interactiveが新たに立ち上げた,映画や音楽のアーティスト管理部門に再就職。ここで5年ほど腰を落ち着け,映画業界との関わりを深めたことで,2007年に再びミラー氏と共にGamecock Media Groupを立ち上げ,独立系映画のノウハウを使って,独立系ゲームデベロッパのサポートを行う。

 この頃は,Xbox 360の人気とともに「Xbox Live Arcade」が成功し,Steamでもサードパーティを盛んに受け入れられ始めたり,Facebookやスマートフォンでのゲーム販売も軌道に乗り始めたりと,インディーズゲームシーンにとってはマイルストーン的な時期だった。
 その先見性は中々のものだったが,ウィルソン氏は2008年春にミラー氏とともにDevolver Digitalを設立し,その秋にはGamecock Media Groupを他企業に売却。おそらく,自分たちの経営権をより強固なものにするためであると思われるが,当初から「Serious Sam 3: BFE」(2011年)を開発中だったクロアチアのCroteamとの販売契約を獲得したり,「Hotline Miami」(2012年)を発掘したりと,インディーズゲーム専門のパブリッシャとして開花する一方,自主製作映画のディストリビューターとしても手堅いビジネスモデルを構築した。

 もっとも,ここも長続きせず,2012年に再びミラー氏とタッグを組んで設立したのがGood Shepherd Entertainmentだ。ここでも,ミュージシャンのスティングさんを声優に起用した「Where the Water Tastes Like Wine」(2018年)や,人気アクション映画シリーズをライセンスした「John Wick Hex」(2019年)など,ウィルソン氏の手腕を活かした気になるインディーズ作品がリリースされている。こうしてウィルソン氏が四半世紀の間に世に送り出したゲームは100作を超えるという。

画像集#003のサムネイル/[GDC 2022]Devolver Digitalの設立者,マイク・ウィルソン氏の縦横無尽な経歴。そしてメンタルヘルス問題に取り組む新たな試みとは


メンタルヘルス問題と格闘する新しい姿


 以上が,マイク・ウィルソン氏の経歴だ。かなり縦横無尽に,ともすれば自分勝手にも見えるほどゲーム業界を渡り歩いてきたウィルソン氏だが,実際にはダグ・マイヤー氏の死で大きく落ち込んだ時期があり,さらには娘もメンタルヘルスの問題を抱えるなど,表のイメージと裏の顔は違ったようだ。2018年に大学研究者やジャーナリストが立ち上げた,ゲームのメンタルヘルスへの影響を調査する非営利団体Take Thisの顧問として活動することになるが,これがウィルソン氏がゲームというエンターテイメントについて改めて考える大きなきっかけとなった。

 GDC 2022が始まる1週間前の3月15日,ウィルソン氏は医療技術研究者であるライアン・ダグラス(Ryan Douglas)氏とともに,新たな企業「DeepWell DTx」(DeepWell Digital Therapeutics)を立ち上げたことをアナウンスした。これは,鬱などの心の病を,ゲームの力でヒーリングやケアを図っていくことを促進するため,そうしたゲーム作品の開発を科学的にサポートし,パブリッシングを手掛けるという初の試みである。2023年には最初の作品(群)を販売する予定であるという。

共同設立者である,ライアン・ダグラス氏(右)は,元々は商業パイロットだったが医療研究分野に転身し,この15年ほどは医療デバイスメーカーにアドバイスを行うNexternという企業の重役だったという人物
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 また,GDC 2022の壇上では,第1回「May Day Mental Health Game Jam」をアナウンスしている。5月1日から22日までの3週間にわたり,メンタルヘルスをテーマにしたゲームジャム(即興でゲームを作るゲーム開発者向けイベント)を主宰するという。Global Game Jamとの協賛により,治療を手助けするゲームメカニズムを開拓した作品や,メンタルヘルスについて表立って語れない社会的風潮に一石を投じるような作品,さらにストレスや不安,鬱を抱える人々に手を差し伸べるコミュニティ形成を促すような作品に期待しているとのこと。
 提出された作品の中から1作もしくは2作に,パブリッシング契約を含めた何らかの報酬を用意しているとのことで,すでに参加申込書(関連リンク)も公開されている。もし,メンタルヘルスの問題に立ち向かいたいというプロやアマチュア,学生のゲームデベロッパがいるなら,このグローバルイベントに参加してみるのも良いかもしれない。

「DeepWell DTx」公式サイト

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