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ゲーマーのためのブックガイド:第1回“ゲーム好きに刺さりそう”な本屋大賞2022のノミネート作品「残月記」「硝子の塔の殺人」「同志少女よ、敵を撃て」
今週から始まる新コーナー「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。
そんな「ゲーマーのためのブックガイド」の第1回のテーマは「本屋大賞2022」。2022年4月に受賞作が発表された同賞のノミネート作品10冊の中から,ゲーム好きに刺さりそうな3冊をピックアップして紹介しよう。
同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬/早川書房)
逢坂冬馬さんのデビュー作となる,本屋大賞2022受賞作「同志少女よ、敵を撃て」。第二次世界大戦の独ソ戦を舞台に,史実に基づいた赤軍の女性スナイパーの物語を描いた作品だ。現在の世界情勢にリンクしている部分もあって注目され,もはや説明不要なくらいの話題作ではあるが「やはりこれは触れないわけにはいかないな」というものがある。
とある凄惨な出来事によって,女性だけの狙撃兵訓練学校に入り,同じような境遇で集まった仲間たちと訓練を重ねる主人公・セラフィマ。訓練を終えた彼女たちは,女性のみの特別部隊として,激戦地スターリングラードへと送られることになる。
注目してほしいのが,狙撃兵である彼女たちだけではなく,看護師として従軍する女性,自分たちが暮らす街が戦地となった住人,そして“敵”といったさまざまな立場の人たちをとおして,戦争の悲惨さや不条理が描かれているところ。とくに戦いに巻き込まれた人たちの描写は痛切に感じられるものがある。ゲームにも,第二次大戦時のチェコの出来事を描く「Attentat 1942」(Steamリンク)や,敵軍に占領された架空の都市が舞台の「This War of Mine」(Steamリンク)といった戦時下の街で暮らす人たちをテーマにした作品があるが,“描こうとされているもの”はそれらの作品と近いものがあるかもしれない。
その題材自体はもちろん,戦場での戦闘やスナイパー同士の駆け引きなどの生々しく圧倒的な描写,こだわりを感じる兵器の説明など,ゲーマーに刺さる要素はたくさんある。“本筋”とも言える女性スナイパーたちの戦う理由や信念,絆。そして,彼女たちの戦いの終わりに待っている衝撃の結末は,ゲームでさまざまな“戦争の描かれ方”を見てきたゲーマーたちにも“目撃”してほしい。
「同志少女よ、敵を撃て」
著者:逢坂冬馬
版元:早川書房
発行:2021年11月17日
価格:1900円(税別)
ISBN:9784152100641
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ハヤカワオンライン(早川書房公式サイト)の「同志少女よ、敵を撃て」詳細ページ
硝子の塔の殺人(知念実希人/実業之日本社)
知念実希人さんの「硝子の塔の殺人」は,人里離れた雪山に佇む円錐形の巨大な館で巻き起こる密室殺人を描いた,いわゆるクローズド・サークルのミステリー小説だ。“新本格”という推理小説のムーブメントに向き合ったミステリー愛のあふれる作品で,日ごろ推理ゲームを楽しむが小説はあまり読まない,あるいは最近のミステリー小説を読めていないといったゲーマーにオススメしたい1冊である。
いかにも怪しい構造の館。刑事,屋敷の使用人,ミステリ作家に霊能者,そして探偵といった登場人物たち。連続して発生する凄惨な事件。断たれた外部への連絡手段。雪崩による孤立。事件解決に動く探偵と助手(相棒)……と,「これでもか」というほどの“本格ミステリ”な要素が盛りだくさんで,それらには,新本格の名作のオマージュや挑戦的な仕掛けもたっぷり含まれている。
その文体は軽やかで読みやすく,基本設定がゲームでも“定番”のクローズド・サークルとなっているので,それらのオマージュや仕掛けを抜きにしても純粋に楽しめるはず。また,ミステリマニアな登場人物たちによる(ちょっとクセありな)ミステリ談義が,新本格の“ほどよい解説”にもなっており,「なんだったら,ミステリの入門書的な勧め方もできる」というくらい間口の広い作品だ。
これも新本格の特徴の一つだが,事件を解き明かす行程は,登場人物のそれぞれの背景にあるものなどを気にせずに読者自身が推理に没頭できるようにもなっているので,「純粋にトリックに向き合い,推理ゲームとして楽しみたい!」という人にもピッタリな作品だと思う。
もちろん,ただ新本格をなぞっている作品ではなく,事件の真相やラストに向かう展開には本作ならではの仕掛けと驚きがある。読み進めていて感じたちょっとした違和感,どこか腑に落ちないトリックが「実は……」ということもあるので,自分の感じるままに,最後まで読んでみるといいだろう。
「硝子の塔の殺人」
著者:知念実希人
版元:実業之日本社
発行:2021年7月30日
価格:1800円(税別)
ISBN:9784408537870
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残月記(小田雅久仁/双葉社)
「月」をテーマとした3編を収録した,小田雅久仁さんの「残月記」。表題作である残月記は,全体主義国家となった近未来の日本を舞台に,「月昂(げっこう)」という感染症に侵された男の物語をつづった作品だ。
多くの雑誌や新聞で取り上げられ,第43回吉川英治文学新人賞を受賞し,本屋大賞にノミネートされている作品に対してこう言うのもいろいろ失礼なのだが……実は個人的に「もっと多くの人に知ってほしい!」と思う,2021年に刊行された小説の中でトップの作品だったりする。
世界を震撼させている感染症「月昂」に感染し,“保護”の名目で強制的に施設に隔離収容された主人公の宇野冬芽(うのとうが)。生き延びるための選択の余地がない冬芽は,独裁者が興じる“とある催し”に身を投じる。そんな冬芽の周囲の出来事と内面を繊細に描きながら物語は進んでいくのだが,その表現や文体が独特だ。全体的には淡々として落ち着いた純文学的な雰囲気あるものながら,場面によっては迫力のアクション描写が印象的なエンターテインメントや重厚感ある史劇となり,また違う場面ではそれらの現実的なものから一転して幻想的な展開になるなど,なんとも言い表せない不思議な感覚を与えてくれる。
世界観がとても深く緻密に築かれながらも,決して語り過ぎない,読者側の想像力を掻き立ててる“余地”のある表現になっているところもたまらない。満月の夜に肉体と精神が高揚し,優れた身体能力と創造性を発揮するが,新月には死に至るリスクが高まるという感染症・月昂。物語の重要な要素として,その感染者である月昂者たちが“生きて残したもの”があるが,それらの圧倒的な描写にも心を打たれる。
ディストピアとパンデミック。そのどちらもゲーマーにはなじみのある題材だと思うが,残月記で描かれる世界観と物語にはこれまで体験したことがないものがあるはずだ。
「残月記」
著者:小田雅久仁
版元:双葉社
発行:2021年11月30日
価格:1650円(税別)
ISBN:9784575244649
購入ページ:
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※Amazonアソシエイト
双葉社公式サイトの「残月記」詳細ページ
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■■Junpoco(4Gamer編集部)■■
本企画の担当で,書店の文芸書担当,DTPデザイン,雑誌編集と,かつて本を売る人&作る人の両方をしていたことがある4Gamerスタッフ。本もゲームも,気になったものはジャンルや主義主張問わず,流行のものからニッチなものまでわりと何でも手を出すが,自身の“attitude(姿勢)”にあった作品へのこだわりもけっこう強かったりもする。
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