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[CEDEC 2022]日本から遠いラテンアメリカのゲーム市場とは? 「中南米のゲーム産業・市場を深掘りする」聴講レポート
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印刷2022/08/24 17:59

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[CEDEC 2022]日本から遠いラテンアメリカのゲーム市場とは? 「中南米のゲーム産業・市場を深掘りする」聴講レポート

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」初日の2022年8月23日,「中南米のゲーム産業・市場を深掘りする」というセッションが行われた。
 地球上で日本の反対側,中南米(ラテンアメリカ)のゲーム市場は,市場規模の大きさと重要性に関わらず,情報収集が困難な地域の1つだ。このセッションでは,これまでCEDECで中東や東南アジア,インドのゲーム市場を紹介してきた佐藤 翔氏が,中南米についてさまざまな角度から語った。

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LUDiMUS代表取締役社長 佐藤 翔氏。2020年に設立されたLUDiMUSは,コンテンツビジネスの海外進出をサポートする会社で,ブラジルのゲーム開発者向けイベントなどでも登壇しているという
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 まずは中南米市場の基本的な知識から。人口は2022年時点で6.6億人,だいたい東南アジアと同程度となる。中でも人口が多いのは2.1億人のブラジルと,1.29億人のメキシコだ。
 人口の半分が25歳以下であり,若い世代の多い地域でもある。かといって,アフリカのような尖った人口ピラミッドではなく,安定して若い世代が生まれているという。

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 中南米全体のGDPは,2021年時点で5兆ドルだ。日本一国と同程度で,東南アジアの3.4兆ドルよりも大きい。国によって開きは大きいが,1人当たりGDPは5000ドルを超える国が多く,チリなど一部の国は1万ドルを超えている。
 佐藤氏によると,この5000ドル,1万ドルというタイミングは,消費財のマーケティングにおいて重要で,これらを超えるタイミングで売れる商品の幅が一気に広がるそうだ。そういった点からも,一定程度の所得の高さを持った国が複数あり,大きな市場であることが分かる。近年,東南アジアの市場が伸びていることは知っている人も多いと思うが,ざっくり言えば,それと同じぐらいの人口を持ち,より大きな経済規模を持つのが,中南米となるわけだ。

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 現在の中南米は経済的に厳しそうなイメージがあるかもしれないが,戦前のアルゼンチンは1人当たりGDPが世界でもトップ5に入る国だったそうだ。また,ハイパーインフレに見舞われているベネズエラも,1970年代は日本より1人当たりGDPが高い時期がある。昔は豊かだった国が多いということは,文化産業が栄えた時期,文化に投資しなければならないという意識が根付いた時期があったということ。つまり,その土台から現在も政府の文化支援が盛んであり,その中にゲーム産業も含まれているのだと佐藤氏は説明する。

 言語の分布は,東南アジアよりも分かりやすい。ブラジルで使われているのは「ブラジル・ポルトガル語」で,ポルトガル語とは若干異なる。それ以外の国々で多いのはスペイン語となり,地域によって方言がある。
 だからといって,すべての方言に対応したローカライズが必要かというと,佐藤氏は否定しており,現地で話している限り「違う方言だと思われても,一応通じる」そうだ。また,メキシコで放映されたアニメがアルゼンチンで見られたり,アルゼンチンで出版された漫画がペルーで読まれるといったケースもある。方言を気にして何も出さないよりは,中南米スペイン語ということで出してしまったほうが,より良い結果を生むだろうと佐藤氏は予想していた。

黄色の吹き出しがスペイン語圏。地域によって方言がある
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 続いては,ゲームプレイのためのインフラについて。一般的に,世界の国々において,通信キャリアはだいたい3,4つ存在する。たいていの場合,国営の通信キャリアが1つか2つあり,そこに外資系や民間系が加わるイメージだ。
 しかし,中南米の場合はアメリカ・モビルとテレフォニカの2大通信キャリアがどこの国でも非常に強い影響力を持っているという。そのため,この2社ががんばってくれないと,通信速度は改善しないという状況だ。都市部の通信インフラの整備は,東南アジアに比べるとワンテンポ遅いという感触だが,最近は少しずつ良くなってきているとのこと。
 クレジットカードの保有率は多くの国で2割未満と低いが,ブラジルだけは例外で4割となっている。
 SNSで人気が高いのはYouTube,WhatsApp,Facebook,Instagramだ。

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右下の画像は,通信キャリアが提供している,eスポーツの観戦やクラウドゲームをウリにしたサービス
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日本のコンテンツでは,「聖闘士星矢」が絶大な人気を誇っているという。地元のゲームを見ても,明らかに影響を受けているタイトルがあるほどだそうだ

 基本的な中南米の情報が分かったところで,各国のゲーム市場の特性に話題は移った。家庭用ゲームで人気なのは「FIFA」シリーズだ。サッカーが強い国が多いことから,これはイメージしやすいだろう。
 PCで人気があるのは「リーグ・オブ・レジェンド」,モバイルで人気なのは「Garena Free Fire」となる。Garena Free Fireは,バトルロワイヤル系のタイトルで,中南米では億の規模で遊ばれているほどだという。ただ,あまりに人気が高いため,メキシコではマフィアが若者をリクルートする場になっているという問題も発生しているのだそう。

「Fall Guys」が無料化によって注目された後,そのフォロワーであるモバイルゲームの「Stumble Guys」が,PCを持っていないユーザーから急激に人気になったという。「Roblox」は,地域によっては人気が落ちてきているところもあるが,中南米では相変わらず人気があるそうだ
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 中南米最大であるブラジルのゲーム市場は,2021年時点で3072億円となる。人口の74.5%が何らかのゲームをプレイしており,そのうち51%は女性なのだそうだ。プラットフォームの比率は,女性はスマホの比率が高く,男性は家庭用ゲーム機やPCを好む傾向にある。
 佐藤氏によれば,世界の新興国のゲーム市場を見ると,モバイルが圧倒的に大きく,次にPC,だいぶ遅れて家庭用ゲーム機が来る構造になっていることが多い。しかし,ブラジルも含めた中南米では,ゲーム機とPCの立ち位置は国によって違っており,ブラジルは家庭用ゲーム機が普及している印象だという。

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 ただ,普及しているからといって,正規で売れるかというと別の問題が浮上する。ブラジルで売られているゲームは,お隣のパラグアイからの非正規のものが非常に多いというのだ。パラグアイは,中南米のゲーム業界を理解するには絶対に知らなければならない国だと佐藤氏。ブラジルとの国境近くにシウダ・デル・エステという街があり,ここにたくさんのゲームショップがある。ゲームショップと言っても,小さな個人商店ではなく,卸の大きなショップで,そこがゲームの注文をたくさん受けて,ブラジル側に流しているそうだ。

画像の左上がブラジルの正規のショップ。右上はエミュレータの工場(もちろん非正規)で,どこで売れているのか佐藤氏が聞いたところ,個人のゲーマーが購入することが多いと言われたらしい
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 中南米のスペイン語圏で,最も大きなゲーム市場を持つのは,2020年時点で約2100億円の規模を持つメキシコだ。全人口の57.4%がゲームユーザーと推測され,その数は7000万人を超えるという。そのうち75%がモバイルゲームユーザー。家庭用ゲーム機ユーザーは20%で,PCゲームユーザーの6%を大きく上回る。
 ほかの新興国では,家庭用ゲーム機はPlayStationプラットフォームが人気なことが多いが,メキシコはXboxプラットフォームのほうが上だという。

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 中南米はeスポーツが盛んであり,「Counter-Strike: Global Offensive」や「FIFA」など,複数のジャンルで有力な選手が活躍している。2017年の「ストリートファイターV」の世界大会では,日本のトッププレイヤー達を次々に破り,ドミニカ共和国の選手が優勝して話題になったので,覚えている4Gamer読者もいるだろう(関連記事)。佐藤氏は,ドミニカ共和国のeスポーツイベントで主催者と話したことがあり,「俺達の国は小さいかもしれないけど,ストリートファイターでは中米で俺達が最強!」と言っていたそうだ。

写真の右下は「Garena Free Fire」のイベントの写真。これはブラジルのスラムに住むプレイヤーに向けたイベントで,層の厚いターゲットに向けてこうした施策を行うのも本作の特徴だという
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 お次は中南米のゲーム開発について。中南米の開発者は,膨大な数のタイトルに関わっていてキリがないので,講演では一部をピックアップして紹介された。
 とくにブラジルは,4,5年前に佐藤氏がゲームスタジオの数を調査したときは300程度だったが,現在は1000以上に増えているそうだ。ブラジルに限らず,中南米のゲーム開発はこれから間違いなく伸びてくるので,インディーズゲーム好きはぜひ注目してほしいと話していた。

戦隊モノをモチーフにしたタクティカルRPG「Chroma Squad」や,横スクロールアクション「Blazing Chrome」,SFコズミックホラーをベースにしたアクションRPG「Dolmen」,錬金術をテーマにしたアクションRPG「Alchemist Adventure」などはブラジルで開発されたタイトルだが,日本語にも対応している
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日本でも評価の高い「VA-11 HALL-A」の続編「N1RV Ann-A」は,ベネズエラのSukeban Gamesが手掛けている。「Fallout Shelter」は,カナダのBehavior Interactiveが開発したが,その支社がチリにあり,チリの開発者が多く関わっていたという
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中南米はアートにお金を出す歴史があるため,芸術大学のレベルが高く,ゲームでもアートの幅が広いと佐藤氏は語る
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自国の通貨が不安定なアルゼンチンでは,NFTやブロックチェーン技術を使ったゲームが増えているという。同時に,そうしたゲームに向けて,苦言を呈するゲーム開発者も存在するようだ
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中南米の主なゲームイベント。ブラジルで行われる「BIG Festival」は,中南米のゲーム開発者が集まるインディーズゲームイベントで,どこか1つイベントを押さえるのならココだと佐藤氏。次いで見るべきなのが,アルゼンチンで行われる「Expo Eva」。中南米のスペイン語圏で行われる最大のイベントだ
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ブラジル政府は「BRAZILIAN GAME WEEK」というイベントを毎年実施し,海外のゲーム開発者やパブリッシャ向けに,ブラジルのゲーム市場やビジネスを伝えている。日本語のサイトもあり,駐日ブラジル大使館のTwitterなどからリンクがあるので,中南米のゲーム市場を知るにはここから始めるのがオススメとのこと
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 域外企業の中南米市場での活動についても紹介された。日本の企業については,中南米では今一つ安定しておらず,進出と撤退を繰り返しており,長期間続いていないという。成功例はあまり挙げられないが,しいて言えば,中南米で良いクリエイターが出てきている理由の1つに,ソニー・インタラクティブエンタテインメントが過去に実施していた,PlayStationのクリエイターを育てるプログラムの効果があるのではないかと,佐藤氏は分析している。

 アメリカのゲーム関連企業の中には,アメリカのラティンクス市場をメキシコなど中南米と一体と見なし,統合したマーケティングを行っているところもあるという。ラティンクスは,中南米にルーツを持つ米国在住者のことだ。ヒスパニックという言葉は,スペイン語話者という意味なので,ブラジル・ポルトガル語の話者などは含まない。そうした人を含めた言葉として使われているのがラティンクスである。佐藤氏は,今回の講演でいろいろな話をしたが,このラティンクスは重要なワードなので,ぜひ覚えてほしいと述べる。

 中国企業は,モバイルゲームで複数の成功例が出ている。韓国企業も,PCのMMORPGで一定の存在感を保っているそうだ。

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 さて,ラティンクスがなぜ重要なのかというと,このキーワードをもとに,ゲームのユーザーコミュニティや,開発者コミュニティができたり,イベントが行われるようになってきているからだ。
 また,アメリカの家庭用ゲーム機の保有率は,今や白人家庭よりもヒスパニック(ここでは,参照したデータからあえてヒスパニックという単語を使っていた)の家庭のほうが多いという。つまり,家庭用ゲーム機の最大のマーケットであるアメリカにおいて,主要なターゲットがヒスパニックに移ってきているわけで,その延長線上にある中南米も見ていく必要があるのだ。

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 最後にまとめとして,中南米は非正規輸入があるため市場の秩序は成り立っていないものの,ゲーム市場規模は新興国の中では大きく,オンラインゲーム市場の成長に期待ができるという。

 これまでは,中南米の現地スタジオは成功すると渡米してしまい,現地にノウハウが蓄積されにくかったが,最近は直接投資のケースも増え,人材の層の厚さもあり,さまざまな分野で注目すべきタイトルが出てきている。そして,これからもその数は増えていくあろうと,佐藤氏は予測している。

 さらに,中南米の出身者は,アメリカにおいても新しい市場セクターを形成しており,例え中南米に進出しなくても,アメリカ市場のユーザー動態をよりはっきりと理解するために,中南米市場の理解が必要だと述べ,佐藤氏は講演を締めくくった。

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「CEDEC 2022」公式サイト

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