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[CEDEC 2023]「全国に拡大中! ゲームによる地方創生の最新事例とゲーム開発者ができること」聴講レポート。大切なのは知ることと広げること
登壇者は,NPO法人 国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)理事の蛭田健司氏。全国に広がり,大きな効果を上げる事例も出てきた,ゲームによる地方創生について,基礎知識から最新事例などを交えつつ解説を行った。
まず蛭田氏は,現在の日本社会の問題と,ゲーム業界について説明した。日本社会の問題点として挙げられるのは,やはり“少子高齢化”。日本の人口は年々減少し,世界でも例のない速さで高齢化率は上昇しており,危機的状況であるとも言える。そして,この状況はゲーム業界にも大きな影響を及ぼしてきている。それが人材不足だ。
ゲーム業界は,業界そのものとしては伸びていると言えるが,そこを支える人材という面で見ると,どんどん不足してきている。そのため,少子高齢化は決して他人事ではないことを,身をもって感じている企業も多いのではないだろうか。
さらに,地方の若年層が東京などの都市部に流出していることも問題だ。その理由は賃金や安定性,やりがいなどで地方より都市部のほうが魅力的に見える点が大部分を占める。地方でもそうした産業を立ち上げる,または誘致する必要があるのだ。
そこで蛭田氏は,第一生命が毎年実施している「大人になったらなりたいもの」というアンケート結果を提示した。アンケートは高校生の男女によるもので,「ITエンジニア/プログラマー」や「ゲームクリエイター」といった職業も入っている。ものづくりに関わる産業を地方に広めていくことが重要だとした。
ゲーム業界は長期的に拡大を続けているが,それゆえに他人事ではなく,ゲーム業界としてどういった社会貢献が可能なのかが問われてきている。
では,ゲーム業界はどういったことが可能なのか? 蛭田氏はゲームによる地方創生として2パターンを挙げた。1つは「ゲームイベントによる経済活性化」で,eスポーツのような大会を開催することによる経済の活性化だ。これはゲーム大会の開催期間だけという点から,短期的な経済活性化につなげられる。
もう1つの「ゲーム産業の立ち上げ、誘致」は,日本各地にゲーム会社を作っていくことで,長期的な経済の活性化に加え,雇用の促進にもつなげられるとした。
また,蛭田氏はこの2パターンには“大規模な投資が不要”“若者が中心になれる産業”“新たな職種(雇用)が生まれる”といった共通の特徴があると述べた。
確かに,ゼロから大規模な工場を建てるような産業の場合は,広い敷地,周辺の環境,排水問題などさまざまな問題もあり,投資も増大になりやすい。一方,ゲーム大会や会社の立ち上げなどであれば,もちろんそれなりの投資は必要となるが,場所や敷地などの問題はほぼないと言える。また,それぞれで必要な職種も生まれており,それらは若者が中心となって活躍できる場でもある。こうした点がゲームによる地方創生のメリットでもあるようだ。
では,ゲーム産業を育成していくためには,どうしたらいいのだろうか? 蛭田氏によると,何をおいても“地方創生のカギは人材育成にある”と強調した。
自治体は,「創業支援」や「企業誘致」に対する補助金を用意することが多いが,そこではないと指摘する。人材育成とそれによる地元での活躍がなければ,その地に会社を作ろうとは思わないと意見し,まずはその前段階である「人材育成」と「人材の活躍」に向けて取り組んでいってほしいと述べた。加えて,「人材育成」の取り組みは,その住民の理解や応援が不可欠となるため,取り組みの意義の周知はとても大事だと続けた。
ここで蛭田氏は,地方創生の最新事例を紹介。まずはセガ エックスディーによる「首里城復興AR謎解きラリー」を挙げた。本施策は,文化財への興味を喚起させること,保護意識の醸成を目的とした取り組みとして行われたものだ。首里城公園内の指定スポットを巡り,スマホをとおしてキャラクターと一緒に謎を解きながら,首里城や首里城の復興について学んでいくという内容になっている。
2つ目の事例は,複数の都市をまたいで実施されたARスタンプラリー「ハタチの龍馬スマホでつながり旅」。東京都品川区と高知県,福井県坂井市で実施された観光プロモーションだが,すべて周る必要はなく,いずれか1都市でも完結できるようになっていた。このスタンプラリーはARやGPSの技術を応用した内容で,各自治体のご当地キャラクターたちが動画やスタンプラリー内に登場。また,条件クリアで豪華景品に応募が可能であった。
3つ目の事例は,行政への理解促進を目的に,山形県で実施された「町ちがいさがし」。現在の町の様子と未来の町の様子(20年後)をビジュアルとして見せ,町がどのように変わっているのかを間違い探しのように比較していた。そこで,住民が納めた税金がどのように活用され,町が変化しているのかを知ってもらったのだという。この施策は,若い世代の関心を引くことにも大きな成果をあげていたとのこと。
4つ目は,大阪府で実施された「エンタメ避難訓練」。これは防災意識が低く,地域での避難訓練への参加率も低い若者をターゲットとした防災活動だ。体験型ゲーム形式となっており,友だちと行きたくなる避難訓練として行われた取り組みとのこと。津波をゾンビに,避難所をシェルターに見立て,ゾンビが苦手な高台のシェルターを見つけて避難するという内容になっている。
地域での災害時におけるリスクや,その際必要となる対処法や避難場所,避難経路など,ゲーム感覚で巡ることで,それらを“知る”きっかけにもなっている。その結果,防災意識が高まったと参加者の実に9割から好評を得たという。
5つ目は,愛知県で実施された「デジタルスタンプラリー」。紙やペンなどを使い回す必要がなく,自身のスマホでスタンプラリーが行えるため,コロナ禍でも安全に集客訴求ができる形となっていた。通常のスタンプラリーにミニゲームやビンゴなどのゲーム要素をプラスし,スタンプラリーをより楽しめるようにしたものだ。
続いて,JNN系列局のゲームによる地域活性化の取り組みが紹介された。
アナウンサーのeスポーツ大会への派遣はもちろん,ゲームを盛り上げるための独自番組の制作や,eスポーツ番組の放送,eスポーツ大会の開催なども行っている。ここで挙げられたものは一部なので,ほかにも大小関わらずさまざまな取り組みを行っているとのことだ。ほかの系列局でも,こうした取り組みは行われているという。
自治体の取り組み例も紹介された。
富山県魚津市は,ゲームのまちを作ることを目指した“ゲームのまち推進事業”として,ゲームクリエイター育成プロジェクト「つくるUOZU」を実施。岡山県岡山市は,企業誘致や人材育成,IT・デジタルコンテンツ産業への立地支援に取り組んでいる。
最近では熊本県天草市が,「デジタルアートの島創造事業」を進めており,すでにゲーム会社,アニメ制作会社などの誘致にも成功しているとのこと。今後は都市部からのクリエイター誘致などにも取り組んでいくようだ。
もちろんここに挙がっているもの以外にも,自治体として取り組んでいる地域は多く存在する。
蛭田氏は,こうした取り組みで活用できる助成や補助は多く存在するとして,そのなかから代表的なものを3つ挙げた。
1つは,蛭田氏も任命されている「地域力創造アドバイザー制度」。市町村が地域力創造アドバイザーを招へいし,取り組みを行う場合,最大3年間はその費用(年間560万円まで)を100%補助するという取り組みだ。こういった補助はだいたい50%程度が通例のようだが,本制度は100%なので,市町村での活用は大いに魅力的なものになっている。
自治体以外でも活用できる制度として,次に蛭田氏が挙げたのが「ローカル10000プロジェクト」だ。これは,例えば自身が出身地に戻ってeスポーツ関連の会社を創業するなどというときに活用できるという。ここで注目すべきは,自己資金が0円でも可能という部分。本プロジェクトは民間事業者が起業する際,初期投資費用の50%を自治体による助成でまかない,残りの50%を地域の金融機関への融資でまかなえる。
3つめは「ふるさと起業家支援プロジェクト」。これはいわゆるクラウドファンディング型のふるさと納税を活用したものになっているため,賛同者,共感者が必要となる。しかし,自身が活用せずとも,知識として知っていることで友人・知人などが起業する際にアドバイスを送ることもできる。蛭田氏が講演中,再三口にしていたが,実施する取り組みはもちろん,助成・補助などの制度もやはり自身で“知り”“周知する”ことが大事だ。
ここまで地方創生に関わる事例や取り組みを見てきたが,ではゲーム開発者にできる地域貢献はなんなのか。というと,蛭田氏はそこへ至る前にはいくつかのステップが存在するとし,そのステップを解説した。
それによると,まずは関わりのあるコミュニティへ参加し,さまざまな情報を知ることから始め,その情報を広めることで周知させていく。そしてセミナーや懇親会などへの参加で,すでに活動している人たちとつながり,その人たちを手伝うことが次のステップだ。それから実際に,人材の育成やeスポーツ大会の運営など,活動を広げていくことが大事だとした。
現在多くの企業・団体・自治体がゲームによる地方創生に取り組み,大きな成果を上げている。最後に蛭田氏は,ゲーム業界としてもさまざまな形で社会に貢献していくことが大事であり,それがゲーム業界の発展にもつながるため,その第一歩として“関心を持つ”ことから始めてほしいと話し,セッションを締めくくった。
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