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[CEDEC+KYUSHU]「モーションキャプチャー最前線」聴講レポート。3Dプリンタによる小道具作成やモーションアクターの常駐化など,7つの取り組みで対応力を向上
3Dプリンタによる小道具制作やユニフォームの制定など,Cygamesが大阪に設立した専用スタジオの事例が語られた講演の模様をお伝えしよう。
3Dプリンタによる小道具作成やモーションアクターの常駐化など,7つの取り組みで対応力を向上
ゲームで目にする機会が増えたモーションキャプチャは,人間の演技をデータとして取り込み,これをゲームのキャラクターの動きに置き換える技術として,いまやゲーム開発には欠かせないものとなった。
Cygamesは東京と大阪にモーションキャプチャ専用のスタジオを立ち上げたが,今回の講演では,大阪Mocap(モーションキャプチャ)スタジオのテクニカルエンジニアである佐藤義久氏と,コーディネーターの嶋田健太氏が登壇し,大阪Mocapスタジオにおける改善事例を紹介した。
モーションキャプチャ技術は,エンターテインメントはもちろん,スポーツや伝統技能の継承など,さまざまな分野で使われている。Cygamesもゲーム制作にモーションキャプチャを組み込んでおり,高品質データの迅速な制作が求められている。そこで同社は,収録日の融通が効き,専任スタッフによる柔軟な対応が行え,データを手軽にやり取りできるといったメリットを享受するために,自社スタジオを設立したという。
現在,同社のMocapスタジオは東京と大阪の2か所にあるが,中でも大阪Mocapスタジオは,多人数収録やワイヤーアクションにも対応したダイナミックなアクションの収録が可能な広大なスペースが用意されている。それまでは経験者が中心だったが,現在の大阪Mocapスタジオには異業種の出身者も多く,スタッフの男女比は半々で,年代は20代が中心。各自の得意分野を生かして,フェイシャル(表情)キャプチャ用のヘッドセットを制作するなど,成果が挙がっているそうだ。
同スタジオでは小道具,大道具,撮影,メンバーの連携,演技のミーティング,スタジオイメージの統一,そしてモーションキャプチャを気軽に行える環境構築という7つの環境改善が行われ,対応力がさらに向上した。
1:小道具を扱いやすくしたい
モーションキャプチャでは,モーションアクターが剣や銃などの小道具を手に演技を行うことが多い。以前の小道具は,ホームセンターで買った材料でシルエットだけを再現したもので,一応収録はできるが,完成度は制作者によってまちまちで,ギミックの再現や壊れたときの修理が難しいという欠点が存在した。アクターやプロジェクトから「小道具の重量や材質を変更したい」「キャラクターが手にするものと同じデザインでないと,イメージしにくい」といった声も挙がっていた。
そこで大阪Mocapスタジオでは,小道具制作のために3Dプリンタを導入した。ゲームと同じデザインのものが作れるのはもちろん,ギミックも仕込め,「形は同じで,材質や重量バランスを変えてほしい」といったオーダーへの対応が可能になった。
例えば,小道具の拳銃では,弾倉の脱着やスライドなどのギミックを再現でき,弾倉をはめ込んでスライドを引くという演技がスムーズにできるようになった。またナイフは,刃の部分を柔らかな素材で作ることで,相手に突き刺す演技がリアルに再現できる,といった成果が挙がっている。アクターのテンションも上がり,「リアルな小道具で感情移入ができるので,細かな演技にも差が出る」と,現場では好評だという。
2:大道具で抱える問題を解決したい
収録では,階段などの大道具が必要になることもある。これまでは木製の大道具が使われていたが,組み立てには舞台美術などの知識が必要で,人間が乗ったりするため,安全性も重視しなければならない。そのため,補強や撤収に時間がかかっていた。また,こうした木製の大道具がアクターが装着した反射マーカーとカメラの間を遮るなど,収録の邪魔になることもあり,データの精度が落ちてしまったという。
そこで,大道具をアルミフレームに変更した。ボルトとナットで簡単に組み立てられるうえ,フレームなので木製の大道具よりもカメラを遮る面積が少なく,専用ソフトで事前に強度計算を行うことで,より安全性も確保できるようになった。
3:撮影をより効率化したい
モーションキャプチャを行うには,アクターとセットの位置関係を正確に合わせる必要がある。そのため,舞台演劇と同様,メジャーを使った目印の作成や,テーピングによる動線指示が行われていたが,準備が大変なうえ,人数が多い場合,配置を変更したときに混乱が起こりがちだった。
そのため,床面に情報を投影するエリアプロジェクションを導入して,設営の効率化を図ったという。これにより,セットを設営して多人数でさまざまな動きを収録する場合でも,情報が床に混在しなくなったのだ。さらに,アクターの位置を簡単に記録できるため,次回収録への引き継ぎも容易になった。
4:メンバーの連携をスムーズにしたい
大阪Mocapスタジオでは,データを確認するうえでの手間の増大も取り組むべき課題だったという。収録されるモーションデータは膨大な量になるため,どれが納品データなのか分かりにくく,担当者でさえ把握が困難だったという。また,ゲームの開発作業には,モーションキャプチャの収録に立ち会わない人も加わるため,その場合,収録現場の動画を見て状況を把握してもらっていた。
こうした手間を解決するために,収録進行確認ツールやデータベース,動画編集ツールなどが独自に開発された。収録の進行がリアルタイムで確認でき,作業優先度の共有も容易になったため,ヒューマンエラーは大幅に減少したという。
5:演技について早めに相談したい
開発サイドからは,アクターと早めに相談して意見を聞きたいという声が挙がっていた。事前の準備に追われ,アクターの決定などは収録の直前になることが多かったため,大阪Mocapスタジオでは,アクターの常駐を決定した。
これにより,常にスタジオにいるため相談もしやすく,急ぎの収録も可能になったほか,アクター視点のアイデアを取り入れやすくなった。また,ワイヤーアクションチームなど,収録内容に合わせた人材の手配が可能になり,社内での対応速度がアップし,社外との協力もやりやすくなったという。
6:スタジオイメージを統一したい
大阪Mocapスタジオのスタッフは,黒を基調としたモノトーンのユニフォームを着ており,スタッフであることがすぐに分かる。これは,スタジオマネージャーから出た「スタジオのイメージを統一するアイテムが欲しい」という意見を受けての施策だ。
社内の衣裳室と連携して作られたこのユニフォームは,耐久性の高いストレッチ素材でできており,たくさんのポケットに小道具を入れられる。また,襟を立ててフォーマルなイメージを演出できるのも面白いところで,この仕様は,利用者に対して「自分たちはモーションキャプチャのコンシェルジュ(顧客にサポートを提供するプロスタッフ)である」という意識を持たせるために付けられたそうだ。「ユニフォームであり,作業着にもなる」という雰囲気で,同じ制服を着て作業することで,スタッフ間に一体感や団結力も醸成されたという。
7:モーションキャプチャを気軽に試したい
モーションキャプチャを収録するには,日程調整などの準備期間が必要になる。アイデア段階の仮収録でもスタジオまで出かけなければならないし,ときには順番待ちもあり,手元にデータが届くまでにはどうしても時間がかかる。そのため,開発現場からは,アイデアを思いついたら,即座にモーションキャプチャを試したいという希望が挙がっていた。
対応の難しい希望だが,Cygamesではオフィス内のアニメーター席に簡易スタジオを作り,その場で気軽にモーションキャプチャができるようにした。バーチャルカメラにも対応しているため,アングルを試しつつの収録も可能で,簡易スタジオとはいえ精度は高いという。モーションキャプチャ用スーツを着て演技することで自分のアイデアを試し,使えそうなら,大阪Mocapスタジオで実収録を行えば良いという流れだ。収録レベルの異なるスタジオを目的に応じて使い分ける体制を整えたことで,スピードアップや,幅広い収録方法のノウハウ蓄積といった効果もあった。
Cygamesは現在,「世界をリードするモーションキャプチャスタジオを目指す」という目標を掲げており,研究機関であるCygames Researchとの協力で新たなモーションキャプチャ技術の確立を目指しているとのこと。国際カンファレンスでの成果発表を予定しているそうで,今後どのような新技術が登場するのか楽しみだ。
大阪Mocapスタジオは全方位の対応力を謳っているが,最初からこうした体制が整っていたわけではなく,関係者の声を受けてのアップデートによると嶋田氏は語った。
組織の取り組みとして個人的に印象深かったのが,アクターの常駐化と簡易スタジオの設置だ。モーションアクターを常駐させるには,より多くの予算が必要なはずで,会社としては削りたがるところだろう。簡易スタジオの設置は,スタジオ側から自分たちの仕事が減ることを危惧する声が挙がりそうだ。予算とセクト意識,どちらも難しくデリケートな問題なのだが,トリッキーな手腕を用いることなく解決してるところに,Cygamesの社風が現れているように感じられる。
ゲーム会社に衣裳室があり,さらに自分たちで使う小道具やフェイシャルキャプチャ用ヘッドセットも作ってしまうのも面白い話で,こうした職業上の裏話は興味深く,取り上げられている話題は共同作業における普遍的なものも多く,聞き応えのある講演だった。
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